東発親で4000オールを和了って、「さす(がに)トップだわww」と言っていたら1本場に7巡目で国士を放銃しました。
バイーン。
『……私達は、夢でも見ているのでしょうか』
『いやあ、夢だったらどれだけ良かっただろうねい』
1度ならず2度までも。それも2局連続にして、奇跡は起こされた。
今日この瞬間起こったことを、確率で計算してしまったらそれこそ天文学的数値になるのは間違いない。
どれだけ麻雀の歴史が紡がれていこうとも、この半荘だけは後世まで語り継がれる。そんな記録。
東1局天和からの次局地和。今が自動卓の時代でなければ、それこそ積み込みを疑われていてもおかしくない。
もうここで行われていることは、人の域に無いのだ。
(ちょっとこれは……想定外すぎるな……)
多恵の表情が固くなる。
優希が東場で暴れるであろうことは想定できていたし、多少の失点は仕方ないと思っていた。
しかし、多少では済まされない、奇跡の和了り。
それだけで飽き足らず、やえまで役満和了ときた。
流石の多恵も、ここまでは想定していない。
点数状況
清澄 120000
宮守 68300
姫松 84400
晩成 127300
東2局 親 白望 ドラ{三}
それでも無慈悲に、局は進む。
どんな天災が起ころうとも、点棒がある限り、麻雀は進むのだ。
白望が、無感情にサイコロを回す。
(ダル……どうせこの親も2人はすぐに手が入る。あー……本当に、ダルい)
配牌を受け取る白望の手は、重い。
それはそうだ。白望とて、この奇跡が大安売りされてしまっている状況にあって、この現実をただの偶然とは思っていない。
それは、チームメイトにも偶然を操作する人間がいるから、というのもある。
心底ダルそうにしながらも、白望は一打目を切った。
1巡目 優希 配牌
{②③④⑤⑥⑦⑧⑨45689} ツモ{9}
(晩成の王者ヤバすぎるじぇ……でも……まだ私の、東場は終わってない、終わってないんだじぇ……!)
優希は自分が押されていることは感じていた。
普通なら確実に和了れる流れも、上から抑えつけられるように封じ込められる。
親役満をツモって完全に流れが傾いたに見えたが、それすらも捻じ曲げられた。
圧倒的力量差。おそらく、100回やったら99回は勝てない。
が、それでもいい。
100回の1回を、今欲しい。
「リーチ……!」
優希がダブル立直を打つ。
この身果てるまで。千点棒が尽きるまで。この勢いだけは殺さない。
『天和、地和、そしてまたダブルリーチ……!三尋木プロ、実況がまったく追い付いていませんが、今の状況、どう思いますか』
『他の2校にとっては悪夢そのものだよねい。どうやったって止められないんだから。……でも、これだけの運量を振りかざされても、まだ、誰の目も死んじゃいない。たいしたもんだよ。ここにいるのが凡人なら、もうとっくに勝負は諦めてる。でも、諦めていない以上、勝ちはどこに転がるかわからないのが、麻雀なんだよねい』
今回のダブルリーチは、やえに咎められることはなかった。
ツモ番が、白望に回ってくる。
白望 手牌
{③⑥9一二三三五八九白白中} ツモ{八}
(選べる権利があるだけ、まだマシか……)
左手を額に当てながら、少考に入る白望。
手牌は悪くない。が、真っすぐに行けるのか。
これだけの目に遭うと、冷静な判断ができなくなる人も多いのだが、白望は至って冷静だった。
「……進もう」
小さく呟いた白望の声は、卓の誰の耳にも入らないほど小さく。
白望は手牌から1枚の牌を選んだ。
ダブルリーチ。その一発目。
白望が選んだ牌は、{⑥}だった。
キィン、 と波紋ともまた違う、甲高い音が卓に響く。
卓に置かれた{⑥}は、不気味な存在感を放つ。
ダブルリーチを意にも介さないかのような白望の打牌に、優希も流石に面食らう。
(一発目にそんなキツイ牌……!ダブルリーチが怖くないのか?!)
確かにダブルリーチなど、手牌が読めるはずもなく、真っすぐ手牌を進めようと思う人もいるだろう。
しかしこの牌はいわゆるダブル無スジ。他の危険牌よりも当たる確率の高い牌だ。
一旦ここは{中}辺りを切って、進めば{⑥}を切るのがセオリー。
しかし白望は、それをしなかった。
多恵も、雰囲気が変わった白望の様子を、怪訝そうに見つめる。
(なんだ……さっきまでの小瀬川さんとはまた違う……これは一発消しの合図じゃない。和了りに行ってるのか……それにしても……とても
多恵は白望の目から、凍るように冷たい冷気を感じていた。
先ほどまでの白望なら、こちらが鳴ける牌を探し、切っていただろう。
それをやらないと一発でツモられてしまうくらいには、今の
今回も無スジの中頃の牌だが、捨て牌の性質は180度違う。これはアシストではない。自らが和了りに行くための打牌だ。
ツモってきた牌を手中に収め、多恵も合わせて{⑥}を切る。
やえのツモ番だ。
やえ 手牌
{⑦⑧134赤567西西北北北} ツモ{⑨}
(追い付いた……宣言牌には間に合わなかったけど、十分ね。この手で潰す)
良形3面張。優希の{8}を狙っていただけに、宣言牌には間に合わなかったが、速度と打点は十分。
やえが牌を横に曲げた。
「リーチ」
『またもやこの2校がぶつかります!!3面張対決は、どちらに軍配が上がるのか!』
『この流れのままなら相当早い巡目で決着はつきそうだねい』
咏の言葉は正しかった。
東場で勢いのある優希と、それに合わせてきたやえ。この2人を放っておけば、早期決着になるのは避けられない。
そう、
(追い付かれた……けどもう遅いじぇ……!このツモで……!)
優希が山に手を伸ばす。
万感の思いで持ってきた牌は、
{南}だった。
(あ……れ……?)
自身の和了り牌ではないので、河に捨てる。
やえからロン発声が無かったことにひとまず安堵する優希だったが、まだ一発ツモできるくらい流れは自身にあると思っていただけに、少し拍子抜けだった。
白望のツモ番。今度はさほど悩まずに、{③}を切った。
また、波紋とは違う甲高い音。
これも、優希にはスジになったが、やえには通っていない牌。
やえが少し、眉根を寄せる。
宮守高校控室。
苦しみ、ひたすらに迷いながらも、自分の打牌を続ける白望の姿に、宮守のメンバーは全員が立ち上がって応援していた。
「シロ……!」
「シロが、シロがやる気を出してる……!」
「うん。まあ、ここしかないわねえ……周りについていくには、今しかない」
エイスリンと塞の後ろで、監督の熊倉が冷静にその様子を見つめる。
白望の「迷い家」は未完成。その迷う道のりが長ければ長いほど、多大な財宝をもたらす。
「とんでもな人たちばかりだけど~、負けてないよね!」
豊音の言葉に、胡桃もうんうんと頷いている。
「そんなふざけた人たち……やっつけちゃえ!」
控室だって、会場の異様な雰囲気にのまれていない。
あれだけのことがあった今も、まだ、白望の勝ちを信じている。
だからこそ、白望も戦える。
迷う道中は寒く、冷たい雪が降りしきる。
それでも旅人は進むことをやめない。
……道中で、何回「ダルい」と言ったかはわからないが。
((ツモれない……!))
嫌な雰囲気は確かにあった。
早い巡目で2家リーチとなったこの局。早期決着が訪れるかに思えたリーチ合戦だったが、膠着状態のまま局は進んでいた。
気付けばもう14巡目。ひたすらにツモっては切るが続いている。
卓に吹き荒れていた東の風は、いつのまにか冷たい冷気をまとっている。
風は立ち込める吹雪のように、2人の行く手を阻む。
(嫌な感じ……どこか、知らない北の方に迷い込んだかのような感じね……)
やえも、3面張リーチが和了れないことに不信感を抱いていた。
そして、この卓内に立ち込める吹雪のような冷たさにも。
迷い家は、財宝を求めて一直線に探しに来るものを拒む。
その門が開かれることはない。
「……やっとかあ……」
しかし、長い旅路に出て、その道中、迷った者にのみ、入ることが許される。
今回は、ずいぶんと時間がかかってしまった。
「ツモ」
冷たい風とともに、嫌な予感が、対局者3人を襲う。
白望 手牌
{一二三三四四五五七八九白白} ツモ{六}
「8000オール」
(((親倍……!!)))
『親の倍満ツモ!!今度は宮守女子の小瀬川白望の手から飛び出しました!2家リーチをかいくぐって、大きな和了りを手にしました……!!』
『へえ……一打目から危険牌切っていってるのを見た時は自暴自棄にでもなったのかと思ったけど……そんなことはなかったみたいだねい』
あまりにも大きな和了りに、熱狂していた観客が落ち着きを取り戻す。
まだ勝負は終わってはいない。役満を和了ったチームの勝ちなゲームではないのだ。
なにより、戦っている2人の瞳に諦めはない。
点数状況
清澄 112000
宮守 92300
姫松 76400
晩成 119500
一撃で、追う2校との点差を詰めた。
白望が、自身の右手を見つめる。
(うん、悪くない。私に奇跡を起こす力はないけど……誰も「負けた」とは言ってない……)
このメンツの中で、一段劣ると言われた。
自分でもそう思っていた。だからなんとか点棒のこして、次につなげられれば良い、と思っていた。
……でも、信じてくれる仲間がいた。笑顔で「勝ってこい」と送り出してくれた。
なら、やろう。
不思議とそれは、「ダル」くないから。
(天和のツモ。-16000点。地和のツモ。-8100点。親倍ツモ。-8000点。後半戦トータル、-32100点。今、東2局1本場。ふむふむ)
目を閉じて、多恵は頭の中を整理した。
後半戦が始まって、まだ3局しか経っていない。
事実確認。終了。
多恵は、目を開いて点棒表示を見る。どうやら夢じゃない。
「……は?」
多恵の中でプッツンと