ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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一昨日、作者の好きな雀士が役満を和了りました。
勝手に、運命を感じました(?)。





第59局 また、決勝で (挿絵アリ)

先鋒戦が終わった。

 

しかし会場を包み込むこの大歓声が、止むことはない。

 

まだ午前中だというのに嫌というほど照りつける太陽の元。

劇的な幕切れを迎えた先鋒戦の余韻に、誰もが浸っている。

 

 

あまりの歓声の大きさに驚きながらも、針生アナは必死に実況を続けていた。

 

 

『せ、先鋒戦大決着……!!!感じ取れますでしょうか、この会場の大歓声……!誰が……誰がこの結果を予想できたでしょうか……!!オーラス、倉橋選手の役満ツモで、逆転……!トップは姫松高校です……!』

 

『いやあ……ちょっと、解説できなくてごめんねえ~……流石に私も、見入っちゃったよ。いや、本当に、今日この対局を見れた人は、幸せだねえ』

 

『我々も、言葉を失ってしまいました……!最後の最後、力を振り絞るように一打一打切る姿は、本当に美しかったですね……!……あれ、三尋木プロ?』

 

 

針生アナは感動を隠しきれていない、興奮しきった声で実況をしていた。

そこで、ふと、少しモニターから目線を外し、物思いに耽る咏が目に入る。

 

とても満足そうな表情の咏が、目を閉じながら、お気に入りの扇子を静かに閉じた。

 

 

『いやあ……私ももうちょっと、麻雀勉強するかな』

 

『それはちゃんとしてください』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ、手が震えている。

 

動悸もどうやら収まらない。

 

初めて和了った役満。

 

今もその牌姿が目の前に開かれている。自分自身がその手を成し遂げたとは、未だに信じられない。

 

そんな感覚に陥りながら、多恵はただただ卓を見つめていた。

 

 

照明が点き、退出可能となってから、30秒ほどが経過していた。

 

各々が、なにかできることはなかったか、これが精いっぱいだったのか、と手牌を見つめる。

 

そんな中で、多恵の対面に座っていた優希が、最初に立ち上がった。

 

右手で左手を強く握り、悔しそうに歯噛みしながら、それでも優希は前を向く。

 

「次は……次は負けないじぇ」

 

その目は、潤んでいて。それでもしっかりと多恵を見つめている。

 

 

「……うん、また、打とうね」

 

優希はそれだけ言い残すと、卓を去る。

勢いよく階段を下りていくその後ろ姿、目を強めにこすっていたのは気のせいだろうか。

 

 

 

「……ダル……」

 

白望も、席を立った。

そのことを少し珍しく思い、多恵が声をかける。

 

 

「あれ、珍しいね。次鋒の子が来るの、待たないの?」

 

いつもの、ダルそうな表情のまま少し固まる白望。

 

しかし、はあ、と一つため息をついて、また外の方へ歩き出す。

 

 

「……まぁ……自分の足でみんなのトコ行くのも、悪くないよ……」

 

「……そっか」

 

ひらひらと手を振る白望。

決して、その顔に絶望はない。後ろには仲間がいるから。応援してくれていたのがわかるから。

 

今度は、自分が応援する番だ。

 

白望も、対局室を後にする。

 

 

 

 

 

 

残ったのは、2人だけだ。

 

 

視線が、交差する。

 

 

 

 

「あんたね……役満和了ったこと無いって言ってなかった?」

 

ため息をつきながら、片目を閉じてやえが言う。

その目は、確かに卓上を見つめている。

 

 

「そうだね。だから、今日が初めて」

 

「何それ……全く。絶対勝てると思ったのにい~!!一回くらい勝たせなさいよ!!」

 

足をバタバタと子供のように動かすやえ。

 

それを見て、多恵がにこやかに笑う。

この光景は、何度も見た。

 

場所は違うはずなのに。とても既視感のある光景。

 

卓を挟んでやえがいて。

ムキになってまたもう一度勝負を挑んでくるやえの姿は、記憶に新しい。

 

そうか、と多恵は再確認することができた。

 

今ここに、あの時夢見た世界が広がっている、ということ。

 

 

わかりきってはいる問いを、多恵が投げかけた。

 

 

「2回戦の時みたいな、悔しさじゃなさそうだね?」

 

「……当たり前でしょ?」

 

多恵の言葉に、やえが、足を動かすのをやめた。

ついで、ぐーっと上に伸びをして、脱力したように卓に突っ伏す。

 

 

「最高に楽しかったわ。……ここに連れてきてくれた後輩達に感謝してるし……その後輩達を信じてる。悪いけど、今日トータルで勝つのは私達よ?」

 

表情は見えないが……本気でそう思っていることは間違いなさそうな、やえの声音。

 

ふと、多恵は去年のことを思い出した。

 

やえの言っていた言葉。

 

 

 

『頼りがいがある子はいるのよ。けど、少なくとも、あなたたちと戦って勝てるとは思えない』

 

 

 

去年、勝てそうにないと言っていた。

でも、今の言葉は、それに矛盾していて。

 

思わず少し、笑みがこぼれる。

 

 

(本当に、よかったね。仲間が、後輩が育って。それは、やえの頑張りが実った結果だよ)

 

もう孤独な王者と揶揄する人はいない。

その強い意志の元、心強い家臣たちが、王のもとに集まった。

 

多恵からすれば、強敵となった晩成高校。

それでも、負けるとは到底思っていない。

 

「へぇ……まだ本気で勝てると思ってるんだ。でも……姫松(わたしたち)は……強いよ?」

 

「知ってるわよ。そんなこと」

 

やえが、立ち上がった。

そろそろ次鋒戦の準備の時間。この卓を、後にしなければいけない。

多恵も、ゆっくりと、名残惜しそうに席を立つ。

 

やえが、多恵の正面に立った。

 

 

「また、やるわよ。必ず。決勝の舞台では、私が勝つわ」

 

「強気だね。でも、いいよ。受けてたとう。……でも次は本当に……」

 

 

そう、これを言わなくちゃあ、今日の試合は終われない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニワカは相手にならんよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どや顔で、なのに少し恥ずかしそうにはにかむ多恵に対して。

 

 

 

全くしつこいわね、と。

 

笑顔ながら、呆れた表情を浮かべるやえ。

 

そして、

 

ニワカはとっくに卒業したわよ、とやえが多恵の胸を軽く小突いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対局室から、トボトボと歩く影が一つ。

自慢のマントは、今は力なく背中にくっつき、覇気がない。

 

清澄の先鋒、片岡優希は、とても落ち込んでいた。

 

もう少しで清澄の控室に着くのだが、何と言って入ればいいのか、優希にはわからなかった。

 

 

うつむきながら歩くその姿に、声がかかる。

 

 

「優希……!」

 

「……のどちゃん……」

 

親友の姿を見とめる。

 

和はすぐに優希の近くまで行くと、少し乱れた息を整えながら、優希の目の前に立つ。

 

 

「ごめんだじょ……クラリン倒すって約束したのに……ほとんど良いところ無しだったじぇ……」

 

後半戦が始まる前。相手が和の師匠ということがわかってもなお、和と咲は優希を応援すると言ってくれた。

 

だからこそ、期待に応えたかった。

 

しかし結果は、惨敗。東1局に奇跡とも言える天和を和了った後は、良いところが全くなかった。

それだけ相手が、強かったのだ。

 

しょぼくれる優希に対し、和は首を横に振る。

 

 

「……そんなことないですよ。集中力が切れるはずの南場でも、必死に頑張る優希の姿。ちゃんと見てましたから」

 

その言葉に、嘘偽りはない。

普段なら、すぐに集中力が切れ、力を無くしてしまう南場。

それでも、優希は戦おうとした。結果は伴わなかったかもしれないが、1年生の優希にとって、高校最強クラスの打ち手を相手に戦う意志を見せたことは、確実に収穫だった。

 

だから、今度は私達が頑張る番。

 

 

「あとは、私達が必ず勝ちますから、優希は自分を責めないで」

 

「……ありがとうだじぇ」

 

優希と共に、控室に戻る。

 

 

皆が優希を励まし、優希も気持ちを切り替えて、まこに想いを託しているのを見届けた後。

 

 

 

和は対局室の方へと走った。

 

 

 

 

真実を、確認するために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「多恵せんぱーーーい!!!!!」

 

多恵が対局室をやえと共に出た直後。

 

完全に泣きはらした様子の漫が、多恵のもとに飛び込んできた。

 

2回戦の時は上手く回避したが、この勢いは流石に殺せない。

拒否する間も無く多恵は漫に抱き着かれる。

 

 

「多恵先輩~~~!!!感動じまじだ~~~!!!」

 

「漫ちゃん……ありがとね」

 

ポンポンと、漫の頭を撫でる。

こうして応援してくれる皆がいるからこそ、自分は頑張れる。

 

よく、「応援があるから頑張れます」というスポーツ選手を見て、建前かなと思っていた時期もあったが、多恵はこうして大会に出て切に感じていた。

応援は、本当に力になる、と。

 

 

「漫ちゃんに情けない点数でバトン渡すことにならなくてよかったよ。次鋒戦、頑張ってね」

 

「もちろんです……!多恵先輩が増やした点棒……大事にしますね……!」

 

漫は気合十分だ。多恵の気持ちのこもった闘牌を見た直後なのだ。気合が入らない理由はないだろう。

 

多恵は、グッと腰のあたりで両手を力強く握る漫の頭を撫でた。

 

 

 

 

そんな時だった。

 

駆け足で、こちらに向かってくる、足音。

 

 

 

 

「クラリン先生!!!」

 

 

 

聞きなれない、声がした。

 

 

多恵がビクりと肩を震わせるが、この「呼称」にすぐに振り向いて良いはずはない。

しかし、この場所には自分と漫しかいない。

 

 

一瞬の静寂。

 

漫が、あわあわと両手を右往左往させている。漫の方からは、相手の顔が見えているから当然かもしれない。

 

ゆっくりと、多恵が後ろを振り向く。

 

 

 

 

「クラリン先生……なんですね」

 

 

その瑠璃色の双眸は、確かに多恵を捉えていた。

 

 

 

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