ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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プロリーグが佳境だったこともあり、投稿が少し遅れてしまいました。
もう終わったので、またしっかり執筆していこうと思います。

かなり好きなチームが勝ったので、とても良い気持ちで執筆活動に戻れますね!







第61局 歪み

次鋒戦が始まる少し前のこと。

熱戦を終えた先鋒の4人が、控室への帰路を辿っていた。

 

その中でも一段とゆっくりと歩を進める少女の元に、声。

 

 

「シロ!」

 

足取りも重く、疲弊した体を何とか動かす白望のもとに、少女が駆け寄った。

 

放送用の画面が先鋒戦のハイライトを終えて、対局室へとカメラが戻ってきた時のこと。

そのタイミングで、エイスリンは対局室からシロがいなくなっていることに気付き、慌てて控室から出てきていた。

 

いつもなら、そのまま対局室の椅子に座り続けるシロにエイスリンが交代を告げに行くだけでよかったのだが、今日はシロが対局室から消えていたのだから、慌てるのも無理はない。

 

 

「エイスリン……」

 

「エイちゃんだけじゃないよー?」

 

胡桃が後ろからひょい、と顔を出した。

 

エイスリンの後に続き、宮守の面々が姿を見せる。

全員で、白望のお迎えだ。

 

 

「シロお疲れ様!すごい頑張ったじゃない!」

 

「あんなすごい人達を相手に、ちょーすごいよ!」

 

トップとの点差は、ついてしまった。

しかし、あのような異常な場で一歩も引かずに戦いきった白望に、賞賛こそあれ、文句を言うメンバーなど、宮守には一人もいなかった。

 

それを意外に思いながらも、白望はいつものペースを乱さない。

 

 

「……褒めるくらいなら……背負って……」

 

あくまでいつも通りの感じな白望に、宮守の面々に笑顔が浮かぶ。

 

 

「いつもならふざけんな、って言うところだけど~、今日は許す!豊音!お願いできる?」

 

「もちろんだよ~!」

 

一番身長の高い豊音が、ひょいと白望を持ち上げた。

 

白望もまさか要望が通るとは思っていなかったようで、少し目を丸くする。

 

しかし更に驚いたのは。

 

 

「え。ええ?」

 

視界が急に広くなり、高々と持ち上げられる白望。

 

豊音が選んだのは、おんぶでも、ましてやお姫様抱っこなんかでもなく、「担ぐ」という手段だった。

 

豊音の肩に担がれた白望は、最初は微妙な表情をしていたが。

 

 

「まあ……これも悪くないか」

 

これは、彼女が最後まで努力した結果。

 

確かに最良の結果、とは行かなかったが。

信じてもらった仲間たちに、恥じない闘牌はできたのかもしれない。

 

そう思える彼女だからこそ、今だけは、仲間に運んでもらえるなら、なんでもいいようだ。

 

 

「シロ!」

 

そんな白望に、声がかかる。

対局室に向かうエイスリンの声に、今の白望は顔を向けることができないので、豊音が振り返ることでエイスリンと目を合わせる。

 

そのキラキラと輝く瞳は、まっすぐと白望を見ていて。

 

 

「アリガトウ!」

 

「……?どう、いたしまして?」

 

はっきりと伝えられた感謝の言葉。

 

しかし白望からすれば何に感謝されているのかわからない。

 

そのまま笑顔で対局室へ向かうエイスリンを、白望ははてなマークを頭に浮かべながら見送った。

 

しばらく何に向けての感謝だったのか考えてみたが、わからなかったので白望は考えることをやめた。

 

 

「まあ、エイスリンなら、大丈夫か」

 

白望を担ぐ豊音も、その豊音を挟むように歩いている塞と胡桃も、笑顔。

 

豊音が足を踏み出されるたびに揺れる感覚を楽しみながら、白望は目を閉じる。

 

 

 

(あとは皆が、なんとかしてくれるか……)

 

 

宮守の固い絆で結ばれたバトンは、確かにエイスリンへと託された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次鋒戦の幕は、静かに開いた。

 

 

 

 

「ツモ」

 

東1局 親 漫

 

まこ 手牌 ドラ {発}

{45678五五六七八} {横123} ツモ{9}

 

 

「300、500じゃあ」

 

 

『清澄高校、染谷まこ選手!まずは1000点のツモ和了りで次鋒戦が始まりました!……しかし変な手順でしたね?』

 

『そうだねい……タンピン一盃口の一向聴を鳴き一気通貫に決め打ち……普通なら、ありえないよねえ?』

 

 

まこの不自然な鳴きに、実況の針生アナも困惑している。

 

次鋒戦が始まった。

席順は、東家に姫松の漫、南家に清澄のまこ、西家に宮守のエイスリン、北家に晩成の紀子となっている。

 

開かれたまこの手牌を見て、漫が顔をしかめた。

 

 

(これか……末原先輩が言ってた和了り……)

 

明らかに不自然な手牌。西家に座るエイスリンも、北家に座る紀子の頭にも疑問符が浮かんでいる。

 

 

(……why?)

 

(変な鳴き……この清澄の次鋒、2回戦もこんな感じだったのよね……)

 

紀子は2回戦を経験している分、一度見た光景ではあったが。

到底納得できるような理由は見つかっていない。

 

 

(こんな感じで、私のリーチもかわされた……やえ先輩にも言われたけど、少し、攻め方を変えなくちゃいけないかもね)

 

前回の次鋒戦を見て、やえは紀子に簡単なアドバイスをしていた。

まっすぐ打てる時は打っていいが、あまり配牌が良くない時は、変化を加えてみろ、と。

 

 

まこ以外の3者が驚くなか、漫は手牌を伏せながら思考にふける。

 

 

(末原先輩の助言を、思い出すんや……)

 

漫が思い出すのは、準決勝を明日に控えたミーティングでのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次に次鋒戦。ここでマークするんは、清澄の2年生……染谷まこや」

 

「ええ?ウィッシュアートやなくてですか?」

 

恭子の背に映るスクリーンに映ったのは、緑がかった髪に眼鏡をかけた、清澄の2年生、染谷まこだった。

 

漫としては、2回戦でいいようにやられ続けたエイスリンへのリベンジに燃えていたので、なんだか肩透かしを食らったような気分。

 

そんな複雑な表情を知ってか、多恵が漫へと振り返る。

 

「漫ちゃん、2回戦は宮守の子にかなりやられちゃったもんね……」

 

「うっ……ですから、明日は負けられへんのです!!」

 

漫は気合十分。2回戦はエイスリンの圧倒的な速度に対してなす術がなかったが、しっかりと対策も考えている。

 

だからこそ、恭子が示す要注意人物がエイスリンでないことが不思議であった。

 

 

「……このわかめ……普通の麻雀を打つようで、実は普通の麻雀を打ってません」

 

「……どういうことや?」

 

恭子の発言に、洋榎が意図を掴みかねている。洋榎だけではない。恭子以外の誰もが、「普通の麻雀を打たない」という意味を理解できていなかった。

 

 

「まず、不可解な鳴きが多いです。そしてその多くは、他家の和了りをつぶしている……変なんは、他が和了りそうなのを感じ取って、流れを捻じ曲げているように見えること」

 

「……少し言い方が曖昧なのは、能力っぽくは無い……ってことかな?」

 

「……何かしら、常識では測れない力は持っていそうです。が……全容はつかめていません。ただ、牌譜に起こしてみると、彼女が不可解な鳴きをしたときは、高確率で本来のツモで他家が和了ってます」

 

多恵の質問は、恭子も頭を悩ませる一因だった。

そこまで明確な力が働いているようにも見えないが、明らかに何かを感じ取って鳴きを駆使している。

 

それだけは確実にわかっているのだ。

 

 

「だから漫ちゃん、エイスリンに闘志燃やすんはかまへんけど、このわかめに対しても、警戒を怠ったらあかんで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭子の言葉に、真剣に頷いたのを思い出す。

 

 

(幸い、ウチはこの清澄の上家や。……やれるだけやったる)

 

 

東2局 親 まこ ドラ{3}

 

5巡目 漫 手牌

{②④123568一三四五六} ツモ{④}

 

 

(素直に行くなら、{8}か……でも、宮守の捨て牌……)

 

漫の手牌は5巡目にしては悪くない。

 

しかし、漫の対面に座るエイスリンの河が濃い。

エイスリンは基本的に真っすぐ打ち抜いてくる打ち手なので、河読みはしやすい方。

 

ただ、聴牌速度が異常に速く、すぐにリーチがかかり、そのままツモられることが多い。

 

2回戦で体験したからこそわかる、速度感。

 

 

(ウィッシュアートに和了られるんも嫌やけど、今の親は清澄……なら)

 

逡巡して漫が手牌から選んだ牌は、{三}だった。

 

 

ピクり、とまこの肩が跳ねる。

 

 

『上重選手、一向聴に取らず、カンチャンターツを外しました。それに、萬子の連続形も崩しましたよ?』

 

『いやーわっかんねー!……この打牌には、他の意図がありそうな気もするけどねえ~!』

 

 

 

同巡 まこ 手牌

{①②③④234赤567五六六} ツモ {白}

 

(……留学生が和了りそうに見える……早めに流れを変えておきたいんじゃが……)

 

少しの違和感を感じながら、まこがそのまま {白} をツモ切る。

幸い手牌はタンヤオ系。鳴ける牌が出ればどこからでも仕掛けようと思っていたまこだが、漫から鳴ける牌が出てこない。

 

すこし焦れた展開のまま、8巡目に差し掛かる。

 

時間がかかればどうなるか。

 

 

「リーチ!」

 

牌を曲げたのは、やはりエイスリンだった。

 

まこが、少し眼鏡に手をかける。

 

 

(嫌な流れじゃ……姫松が、少し牌を手狭に打っているように見える……)

 

まこから見た河が、少し歪んでいる。

 

河全体を顔のように認識するまこだからこそわかる、違和感。

 

実際、漫は安牌を抱えての進行にシフトチェンジしていた。

鳴かれる牌を極力避け、安牌を手の中で持つ進行。

 

リードしている姫松が今一番嫌うべきは、親の連荘。

 

 

エイスリンを放置すれば、必ず彼女は理想の牌譜を卓上に描き出す。

 

 

 

「ツモ!」

 

 

エイスリン 手牌

{⑤⑥⑦⑧⑨234五六七九九} ツモ{④}

 

 

 

 

「1300、2600、デス!」

 

 

 

まこが、目を細めて漫を見やった。

 

漫と、目が合う。

 

 

(行ける時は行く……せやけど、簡単には、思い通りに鳴かせへん)

 

 

 

まこは一息ついて、手牌を伏せた。

 

 

(一筋縄じゃあ……いかんようじゃのう……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まこが、研究されてる……?」

 

清澄の控室。

東2局の姫松の動きを見て、部長の久は若干の違和感を感じていた。

 

普通に打つなら、もう少し手を広めに打っても良かった場面、姫松の漫は、まこに対しての現物を切り出した。

 

まるで、もう聴牌を警戒しているかのように。

 

久が顎に手をやって、少しだけ思案する。

前半戦終わりに、何を伝えるべきか。

 

もちろんだが元々弱小校の清澄に、データ班などいるはずがない。

自分たちの目で見て、それを伝えるしかないのだ。

 

 

(今まで、そこまで派手な麻雀ではないおかげもあって、まこが警戒されることは少なかった……けど、ここに来て研究されてきたか……流石は常勝軍団。隙がない。誰の入れ知恵かしら?)

 

久が思い浮かべるのは、姫松の司令塔であり、大将の選手。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうそういい思いはさせたらん。苦しんでもらおか」

 

件の恭子は、漫が上手く局を消化しているのを見て、ニヤリと口角を歪めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次鋒戦は、各校の戦略が早くも卓上で火花を散らしている。

 

 

 




感想返しも遅れてしまっていて、申し訳ありません!

しっかりと読ませていただいています。
いつもありがとうございます!


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