ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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恥ずかしながら、今まで推薦文というシステムを知らず、昨日この作品にいただいた推薦文を読ませていただきました。
とても嬉しかったです。
素敵な推薦文をありがとうございます!





第72局 至上の喜び

 

「どっせえええええええい!!!!」

 

 

姫松高校控室の扉が、勢いよく開いた。

 

扉の前で右足を大きく前に蹴りだして、ドアを開いたのは愛宕洋榎。

中堅戦を見事トップにまとめての凱旋である。

 

 

「洋榎先輩!お疲れ様です!流石ですね!」

 

「洋榎おつおつ~。めちゃくちゃ良い内容だったんじゃない?」

 

漫は目を輝かせて、多恵も笑顔で洋榎を迎え入れる。

 

 

「せやろ~流石やろ~?」

 

満足気にその場をくるくると回る洋榎はとてもご機嫌だった。

 

由子と恭子も、洋榎の素晴らしい打ちまわしに、賞賛しきり。

 

 

そんな会話と感想戦もひと段落して、由子が席を立つ。

 

 

 

「洋榎ちゃんのリードは必ず守るのよ~」

 

「ゆっこ、頼むで~?」

 

よしっ、と気合を入れる副将の由子に、洋榎がハイタッチする。

頼もしい中堅から、頼もしい副将へのリレー。

 

多恵が、にこやかにその様子を眺めた。

 

 

(ここまで頼もしいバトンタッチは、他にないかもなあ……)

 

 

麻雀と言う競技である以上、どうしても成績にブレが出るはずの競技で、この2人に関してはブレが少なく、強い。

多恵はそう感じている。

 

その理由の一端に、この2人は「運が悪い時や、相手に運がある時の立ち回り」が他よりも圧倒的に上手いからだと感じていた。

 

 

 

「由子。副将戦は原村和と、晩成の強気娘、それに手を塞ぐ臼沢塞。油断ならん相手や、気張ってき」

 

「もちろんなのよ~。ウチも、強気加減では負けへんのよ~?」

 

恭子の注意喚起に対して、またもワン、ツーと拳を繰り出す由子。

その様子を多恵は微笑ましくも思いながらも、「いや、由子そういう麻雀じゃないよね?」というツッコミが頭に浮かぶ。

 

由子が、対局室に向かうために扉の前まで辿り着き、そしてまたこちらへと振り返った。

 

不意にこちらを振り返るその姿は、とても可憐で。

 

 

 

 

「……恭子ちゃんのためにも~たくさん稼いでくるのよ~!」

 

「……!」

 

 

 

バタン、と扉が閉まる。

 

思いがけない由子からの言葉に、恭子が面食らっていた。

 

驚いたように固まる恭子の肩に、多恵が手を置く。

 

 

「……由子も、恭子が今日の大将戦かなり不安に思ってること、わかってるんだよ」

 

「……こら、大将失格やな……」

 

 

頼もしい、同級生からの激励の言葉。それも今から戦いに行く由子にもらってしまった。

 

気合が入らない、わけがない。

 

 

「……気張りや、由子。由子やって今日の相手は、手強いんやから」

 

 

そう呟いた恭子の顔は、しっかりと前を見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今、4人の選手が卓に着きます。お待たせしました!副将戦、スタートです!』

 

 

針生アナの声とほぼ同時、対局室に荘厳な音楽が鳴り響く。

 

準決勝副将前半戦のスタートだ。

 

 

 

 

副将戦前半戦 開始

 

東家 清澄 原村和

南家 宮守 臼沢塞

西家 晩成 岡橋初瀬

北家 姫松 真瀬由子

 

 

 

 

 

 

 

 

東1局 親 和 ドラ{三}

 

自動卓から配牌が上がってきた。

ついに準決勝第二試合も副将戦。残り後4半荘で決勝に残る2校が決まる。

 

点数状況は中堅戦が終わって姫松が抜け出して残りの3校が横ばいの形。

3校は、姫松を抜くことまで考えれば、もうこのあたりから差を詰めないと間に合わない可能性が高い。

 

 

南家に座る臼沢塞は、ゆっくりと息を吐くと、自身のモノクルを、一度かけなおした。

 

 

(さあ~て……誰を塞げばいいのかな……)

 

2回戦は、絶対に塞がなければいけない相手がいた。

体力の消耗は激しかったが、結果的に幾度となく、北九州最強のエース白水哩の和了りを阻止することができた。

宮守にとっては、彼女の活躍無くしてこの準決勝に残ることはなかっただろう。

 

彼女のモノクルは、麻雀に対して特殊な力を持っている者に反応し、その者が力を行使しようとすると曇る。

塞はその気配を察知して、止めに行くか行かないかを決めることができるのだ。

 

しかし、この力は諸刃の剣。

2回戦では哩の力に対して、1度止めにいっただけでとてつもない疲労感を覚えた。

 

 

この卓ではそんなことはないといいなあ、と思いつつも、それは楽観的な考えであると塞は自身の甘い考えを切り捨てる。

 

 

(まずはやっぱり……インターミドルチャンピオンかな……)

 

極めて冷静に、第一打の{中}を切り出した和を見やる。

たまに、頬が上気して熱のような症状が出る彼女だが、今はその傾向は見られない。

彼女を見ても塞のモノクルが曇ることはなかった。

 

 

塞が、違和感を覚えながらもツモ牌へと手を伸ばす。

 

 

(原村のアレは、『力』ってわけでもなさそうだしな……じゃあ、こっちか)

 

ならば次に警戒すべきは、対面。

常勝軍団姫松の副将を務める、頭にお団子を2つ乗せた少女、真瀬由子。

彼女の局回しのセンスは圧倒的で、宮守の監督である熊倉からも「姫松には常に注意を払うように」と言われている。

 

あれだけの立ち回りを演じるのだ。それこそ何かしらの『力』を行使していてもおかしくない。

真剣な表情で、モノクル越しに由子を見やる。

 

しかし。

 

 

(あれ……?)

 

またしてもモノクルに反応はない。

いくら見てみても、にこやかに微笑みながら手牌を眺める呑気な少女が映るだけ。

 

あれだけの芸当をなんらかの『力』もなくやっていると思うとそれはそれで手がつけられないのだが、ひとまずそういった類の打ち手ではないことを確認できた。

塞が、打牌をした後、少しだけ顎に手を当てて思案する。

 

 

もちろん、これから先どこかのタイミングでモノクルが曇る可能性はある。

しかし、このモノクルは打ち手の本質を見抜くような性質があり、『力』を持っている打ち手にはその『力』が今発動していなくても少しは曇るはずなのだ。

 

が、2人ともそれがない。

 

 

 

そんな塞の不思議な感覚をよそに、局は進んでいく。

 

6巡目の出来事だった。

 

 

「リーチ」

 

とてつもない速度でツモってから切る動作を繰り返していた和から、わずか6巡でリーチがかかる。

 

 

(親……早い……!)

 

思わず塞も顔をしかめる。

東発であるからこそ、親のリーチに打ち込みたくはない。

12000の放銃など論外だ。

 

控えめに手を進めていた塞は、安牌である字牌を河に並べる。

 

次のツモ番は、初瀬だ。

 

初瀬は持ってきた牌を手牌の上に少し乗せるが、さほど考えずに、すぐにその牌を河へと打った。

 

 

塞が、初瀬の切った牌を眺める。

 

 

({⑥}ね…………{⑥}?!)

 

圧倒的二度見である。

 

対面を見てみれば由子も目を丸くしていた。

 

 

{⑥}は和に全く通っていない牌。

所謂ダブル無スジ。

それをこの少女は親のリーチに対して平然と切っていったのだ。

 

 

(この晩成の1年、2回戦もこんな感じだった……!無スジを通すと手が進むとかカウンター系の『力』……?!)

 

塞が慌ててモノクルをかけなおす。

 

油断していた。晩成のこの1年生も2回戦で臨海のメガンを相手に殴り合いを演じていたのだ。

なんらかの『力』を持っていることは容易に想像ができる。

 

 

覚悟を決めて、モノクル越しに初瀬を見る塞。

 

 

 

(え……?)

 

しかしまたしても、塞のモノクルに反応はない。

 

次巡、初瀬は持ってきた牌をまた手牌の上に重ねると、またすぐに河へと放つ。

 

今度は{3}。また無スジだ。

 

 

余りの驚きに、一度モノクルを外して隣に置いておいた眼鏡拭きでモノクルを磨く塞。

それはもう、必死に拭いた。

 

 

(いやいやいやいや!ありえないって!じゃあなに!?なんの『力』も無くこの1年は無スジをバカみたいに押してるってわけ?!)

 

 

残念ながら、その通りである。

 

初瀬という打ち手は、そういう打ち手だ。

 

そんな塞の気持ちが伝わったのか、初瀬がバツが悪そうに自分の手牌を眺める。

 

 

 

初瀬 手牌

{③③④赤567一二三赤五五七八}

 

 

(いや……でも……これオリないし……)

 

 

初瀬の理屈は間違ってはいない。

まだ通っているスジも少ない親のリーチ。自身は赤赤ドラの勝負手の一向聴。

 

どうせ中途半端にオリて安牌に困るくらいなら、全力で真っすぐにいってやろうという気持ちはわかる。

 

しかしこの大舞台、それも東1局にそれができる1年生が今年一体どれほどいるだろうか。

 

岡橋初瀬という打ち手は、このとてつもない強心臓が売りなのだ。

 

初瀬が、ツモ山に手を伸ばす。

 

 

「リーチ!」

 

またも無スジの{④}を切り飛ばして、初瀬からリーチがかかる。

 

 

しっかりと丁寧に拭いたモノクルをかけて、もう一度初瀬を見直す塞。

 

しかしやはりモノクルは反応を示さない。

 

 

 

 

(え……まさか……)

 

 

 

塞の脳内に、1つの結論が生まれる。

それは、いつか1度でいいからやってみたいと夢見た結論。

 

 

塞の全国大会は、これまで熾烈なものだった。

 

1回戦だって、2回戦だって辛かった。

 

自分に当てられた役割と分かっていても、体力的にも精神的にも辛いものは辛い。

 

 

だからこそ、塞には1度でいいから、やってみたいと願ったケースがあった。

 

トーナメントで勝ち上がれば勝ち上がるほど、難しい願いであるというのは分かっているのだが、どうしてもやってみたいと願ったこと。

 

 

そこまで考えが至って、もう一度大きく左右に首を振る。

 

 

(まだ、わからない。最後に、もう1回確認しよう。油断は禁物。もしかしたら私が見逃しただけかもしれない……!)

 

愛用のモノクルをかけなおす。

最終チェックだ。

 

 

 

2家リーチとなっても全く意に介することなくツモ切りを続ける親の和。反応はない。

何度も強気に打ってでて、見事リーチまでたどり着いた下家の初瀬。反応はない。

そんな2家リーチを受けているというのに、笑顔で危なげなくオリ打ちを続ける対面の由子。もちろん反応はない。

 

 

 

最後までしっかりと確認をして。

 

塞が、モノクルを外した。

 

 

 

 

拳を、強く握りしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やった……!やった……!やった!!)

 

 

 

 

 

歓喜……!圧倒的歓喜っ……!

今塞を支配する感情!それは喜び!至上の喜び!!

 

誰も塞がなくて良いという、この上ない喜び!!圧倒的感謝っ……!

 

もう疲れる必要はない!理不尽に体力を奪われることはない!!

今日、この卓に限り!塞は許されたのだ!!普通の麻雀を打つことを……!

 

 

 

 

 

 

 

 

(嬉しいっ……!嬉しい!私は……麻雀を打って良いんだ……!)

 

 

 

この上ない喜びに涙を流しながら感謝する塞。

こころなしか、目がバツ印のようになって、体を震わせている。

 

 

 

 

突如として訪れた最高の展開にダバダバと涙を流す塞に、声がかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの、2000点もらえます?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

満貫をツモった初瀬が、塞の様子にドン引きしながら点棒を要求していた。

 

 

 

 

 

 




※タグにキャラ崩壊をつけるべきか否か




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