ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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祝!!!お気に入り件数3000件突破!!!


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さて、連載開始から3ヶ月で、ついにお気に入り件数3000件を突破しました。
気付けば総合評価も10000pt弱と、まさかここまで来れるとは、といった感覚です。

いつも読んでくださる皆さま、本当にありがとうございます。

初期から感想を書き続けてくださる方、たまに感想を書いてくださる方、新しく一気読みしたよ!と報告を感想で書いてくださる方。

全ての感想が、作者の執筆意欲につながっています。


作者的には、この「ニワカは相手にならんよ(ガチ)」は、そろそろ折り返しかな、といったぐらいなので、まだまだ続きます!

ですので、これからも引き続き、応援よろしくお願いしますね!
沢山の感想、評価お待ちしております!

ニワカは相手にならんよ!





第74局 のどっちは笑う

南1局 親 和 ドラ{八}

 

 

副将戦は南場に突入した。

ここまでの対局で、点数に大きな開きは出ていない。

 

和は、ゆっくりと手牌を上げる。

慣れた手つきで理牌をしてから、はあ、と一つため息をついた。

 

 

(心の整理が、足りていませんね)

 

和にとって、今日という1日は感情の浮き沈みが非常に激しい1日といえる。

 

ここ数年、師と仰いでいた存在が同じ高校生であるということを知り、そしてその存在が自分の知らない打ち方をしていることも知った。

 

そしてその理由は和の想像の遥か上を行く答えで。

 

和の心を揺さぶるのは、多恵のあの言葉と、強い意志を感じる、表情。

 

 

 

『「力」をも、デジタルに組み込んでみよう。いつの時代だって、そうやって麻雀戦略は日進月歩を繰り返してきたんだから』

 

 

 

 

 

 

(私にはまだまだ、わからないことが多いですね)

 

 

眩しいとすら思った。私も、こんな強い人間になりたい、と。

 

 

和にしては珍しく、対局中に雑念が混じっている。

しかしこのことを自分の中に落とし込まなければ、これ以降も対局には集中できないだろう。

 

 

(……わからないことに、背伸びはしません。今の私にできる、最大限の努力をしましょう)

 

 

クラリン先生も良く言っていた。

自分にできる最大の努力ができたなら、結果が実らなくても、それは次につながる一打だと。

 

 

 

ゆっくりと、目を閉じた和。

 

大きく息を吐いて、上がってきた手牌を開くのと同時に、目を開ける。

 

和の手が、第一打を選び抜く。

 

 

 

その眼は、体は、デジタルの世界へと入り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2巡目。

 

親の和から放たれた{発}に、塞から声がかかる。

 

 

 

「ポン!」

 

塞が手牌から2枚の{発}を晒すと、右端へと牌を持っていった。

 

 

 

塞 手牌

{13489一二白白中} {横発発発}

 

 

チャンタか、索子に寄せるか、といった手牌の塞。

{中}さえ重なれば、大三元まで見える手牌だ。

 

大三元は嬉しいが、塞の狙いは実は別にあった。

 

 

 

(白……白が出れば有利に立ち回れる)

 

 

大三元は役満の中でも難易度が比較的低い役満であり、その特性上、2種類の三元牌を鳴いた時に、他家が最後の三元牌を切り辛くなるという効果がある。

インターハイのルールに、大三元のパオ(3つ目の三元牌を鳴かせた人の責任払い)のルールはないが、それでも切り辛いのは間違いない。

 

 

塞の眼が鋭く光る。

 

 

(……手の塞ぎ方は、別に力に頼る方法だけじゃないんだから)

 

明確な力を持った打ち手がいないからといって、油断はしない。

そして塞が慣れているのは、相手を上手く止めた後に、出てくる牌で仕留めるプレイング。

 

有利な展開への持っていき方は、慣れているのだ。

 

 

 

塞の狙いは、早い段階で成就することとなる。

 

 

 

「ポン!」

 

初瀬から出た{白}を鳴いた塞。

 

卓に緊張が走る。

塞の対面に座る由子も、少しだけ困ったような顔をした。

 

 

(大三元は……困るのよ~……)

 

役満だけは勘弁願いたい。

初巡に1枚{中}が切れているだけなので、由子の目からは最悪の場合、塞に{中}が暗刻で入っていることもあり得るのだ。

 

もし仮に暗刻で入っているとしたら、もう大三元の聴牌でもおかしくない。

薄い確率とはわかっていても、最悪のケースが存在するだけで怖くなるのが麻雀と言う競技。

現在トップ目に立つ姫松なら尚更だろう。

 

 

 

と、由子が思っていた矢先のこと。

 

 

(……)

 

初瀬が、少しだけ持ってきた牌を見つめる。

時間にして2秒ほどその牌を目を細めて睨みつけると、意を決したように勢いよく切り出した。

 

 

 

 

その牌は、{中}だった。

 

 

 

 

またもや、卓内に衝撃が走る。

 

 

(す!ご!い!の!よ~!!)

 

 

(晩成……!!私の大三元なんかこわくないってか……!)

 

初瀬を睨みつける塞だが、初瀬は知らぬ顔。

 

 

(1巡目の{中}鳴いてないし、そこからのツモは1度だけ。最初っから全部対子なら1枚目を鳴かない理由がないでしょ)

 

ロジックは、わかる。

初巡に切られている{中}を鳴いていないのだから、切るなら今しかないというロジック。

タンピン系の手牌である初瀬は確かに和了るなら切るしかない。

 

だが、2鳴きでもう聴牌が入っていてもおかしくない状況。

それを目の前にしてすぐに切れる人間は、そういないだろう。

単騎で小三元に当たったっておかしくないのだから。

 

 

強靭なメンタル。

 

初瀬はそれを武器にして戦ってきた。

 

 

 

(憧に追い付きたくて見出した、私の長所を活かした打ち方。やえ先輩にだって、認めてもらったんだ!)

 

 

 

 

初瀬が、勢いよく牌をツモる。

 

 

 

 

 

「ツモ!」

 

 

12巡目 初瀬 手牌

{②③④678二二三三五六七} ツモ{二}

 

 

 

 

「2000、4000!!」

 

 

 

 

 

 

 

『晩成の岡橋初瀬選手!!ここも満貫のツモ和了り!勢いが止まりませんね!』

 

『きもったまが強いねい!1年生でここまで強気に出れるんだから、今後が楽しみな選手だよねえ!』

 

 

初瀬の強気な打ち回しに、会場からも歓声が上がる。

 

結局塞の2鳴きに目もくれず、自らリーチに打って出て、ツモりあげる。

 

塞が悔しそうに手牌を伏せた。

 

 

(……この……!)

 

わかってはいたが、対処が難しい。

ちょっとやそっとのことでは止まってくれないのだ、この強気なルーキーは。

 

 

 

初瀬が意気揚々と点棒を受け取っている時。

 

 

 

(……ッ!?)

 

少しだけ寒気がして、初瀬は顔を対面へと向ける。

 

 

初瀬の和了形と、捨て牌を舐めるように見つめ続ける人物が一人。

 

 

(……)

 

和が、いつもの心ここにあらずといった表情ではない、確かな目で初瀬の手元を見つめている。

 

嫌な感じが、初瀬の体を駆け抜けた。

 

 

 

(原村和……なんかベストな状態の時は熱が出る……みたいなこと言ってたけど、そんな感じしない……)

 

点棒を点箱にしまいながら、初瀬は和の視線から逃れるように、手牌を崩すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南2局 親 塞 ドラ{三}

 

 

先ほどまで流れるように打牌を繰り返していた和の変化に、卓に座る3人は気付いていた。

 

 

(きょーこちゃんが言うてたんは、発熱すると強くなる……やったけど、違う感じなのよ~?)

 

(インターミドルチャンピオン……随分と余裕そうな表情じゃないか)

 

 

由子と初瀬がそれぞれ、和を見つめる。

 

件の和はそんな視線は目もくれず、自身の配牌の理牌を進めていた。

 

 

(……もし仮に、対面の晩成が「押しが強い打ち手」だとするならば。打ち方を変える必要がありますね)

 

 

この前半戦の東1局。

和の先制リーチは愚形リーチだった。

 

セオリー通りの手組と、セオリー通りのリーチ判断をしたが、そのリーチは初瀬によってかわされた。

 

そして、先ほどの塞の大三元ブラフへの打ち回し。

総合的に和は「岡橋初瀬」という選手へ「人読み」を入れる。

 

 

(押しが強い人に対しては……あれですよね、クラリン先生)

 

集中力を高める和。

 

塞が、一瞬表情を歪める。

 

 

第一打を切り出す瞬間に、和の後ろには、羽の生えた天使が舞い降りていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間を、クラリンこと多恵は見届ける。

 

 

「へえ……」

 

多恵が見つめるその目は、優しくモニター内の和を捉えていた。

 

そんな様子を見て、ふと、隣にいた漫が気になったことを多恵に聞いてみる。

 

 

「多恵先輩、原村に助言なんかしてよかったんです?」

 

先鋒戦が終わったタイミング。

突如として駆けつけた和に対して、多恵は助言ともとれる発言を、和にしていた。

 

対戦相手であるのだから、普通はあしらうなり、そうでないとしても助言としては何も言わないべきではないか。

漫は少しだけそう思う部分があったのだ。

 

多恵は、うーん、とうなってから、漫の方へ振り返る。

 

 

「……原村さんに、私が聞いたこと、覚えてる?」

 

「……『麻雀が好き』かどうかってやつですかね?」

 

和への質問。

多恵は和に1つの考え方を授ける前、和に麻雀が好きかどうかを聞いていたこと。

 

 

 

「……実はね、わかりきってはいたんだ。この子は、麻雀がすごく好きなんだろうって。じゃなきゃあんなとこまで来てマナー違反すれすれのことなんかしてこないしね」

 

多恵は単純に、前世からずっと、麻雀を愛する人が好きだった。

憧れる人は皆すべからく麻雀を愛していたし、そして強かった。

 

多恵は苦笑いを浮かべながら、漫に話を続ける。

 

 

「……インターハイに出ている子の中で、本当に麻雀が好きな人って意外と少ないと思うんだよね」

 

「ええ……こんな大きな大会に出てるのに、ですか?」

 

漫の疑問は当然だった。

好きでもないのに、こんな大会に出ることができるのか、と。

 

多恵が少し遠くを見つめる。

 

 

「意外と、ね。でも原村さんは違った。たくさんの勉強をして、更に強くなりたいと言っていた。……1人の麻雀好きとして、それはとっても素晴らしいことだな、って」

 

「多恵先輩はお人よしすぎますよ~!」

 

「そうかもね!まあ、大丈夫、その程度でうちの由子が負けるとは思ってないよ」

 

あっけらかんと笑う多恵。

確かにその目は、1ミリも由子の勝利を疑っていない。

 

しかし、それとはまた別に、多恵は楽しそうな表情で和を見つめていた。

 

もー、と未だ不満そうな漫をなだめて、もう一度2人はモニターへと視線を戻す。

 

 

 

多恵のつぶやきは、漫にも聞こえるか聞こえないかというほど小さな声で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたの答え、見せてみて。『のどっち』さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南2局は11巡目のこと。

 

 

和が牌を切る直前に、点箱を開いた。

 

 

 

「リーチ」

 

その発声と、河へ牌を曲げる手さばきは流れるよう。

 

3人に緊張感が走るのには十分すぎる動作だった。

 

 

 

塞は安牌を切り、初瀬にツモ番が回ってくる。

 

 

 

 

初瀬 手牌

{1235688②③④二三四} ツモ{八}

 

 

 

 

初瀬の手は、既に平和系の聴牌。一手替わりでタンヤオと三色がつくため、初瀬はこの手をダマに構えていた。

 

 

(……原村の捨て牌……)

 

初瀬が、和の捨て牌を眺める。

 

 

 

和 河

{西七①発中⑧}

{②一7⑨横2}

 

 

(2巡目に、ツモ切りで{七}……この{八}は比較的通りやすい。現物に私の当たり牌、{7}もある)

 

 

初瀬も、しっかりと手出しツモ切りは確認していた。

その上で、2巡目に切られた{七}がツモ切りであること。

これはこの持ってきた{八}が非常に安全度が高くなることを示している。

 

リーチの現物に、自分の当たり牌があることも考慮して、ここはダマ聴牌続行が吉と見た。

 

考えなしに突っ込んでいると思われがちな初瀬だが、自身の打点が低い時は、しっかりと押し引きを考えているのだ。

 

総合的な判断で、初瀬が、{八}を河に並べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3本の()が、初瀬の体を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

「ロン」

 

 

 

 

和 手牌 裏ドラ{4}

{④赤⑤⑥23466三四五六七}  ロン{八}

 

 

 

「12000」

 

 

 

(ぐっ……!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『決まった!勢いに乗っていた晩成から一閃!インターミドルチャンピオン原村和!跳満の和了りです!』

 

『珍しく早い三面張固定だったねい!晩成のコもこの{八}は仕方ないね!姫松の守りの化身ちゃんくらいしか止まんねえよこんなの!知らんけど!』

 

 

対局前から注目を浴びていた和の和了に、会場も盛り上がりを見せる。

 

牌効率を重んじる和が選んだのは、早めの三面張固定だった。

 

 

和の後ろに、凛々しく槍を構えた天使が輝く。

 

 

 

(多面張等の良形リーチ。勝てる待ちでリーチをかける。そうですよね。先生)

 

 

正攻法の中に、罠を混ぜる。

 

押してくるタイプの打ち手に、一番効果的な対策法。

今回はドラが{三}ということもあり、三面張固定は割としやすかったこともあるが。

 

 

和がゆっくりと、息を整える。

 

頬は上気していない。

和はその確かで冷静な視線で、点棒状況を確認し、息をつく。

 

 

 

(……まだ、『強烈な偶然』を、必然と思うことは私にはできません。……ですが、打ち方が「読み」につながるというのは、あなたから学びましたから)

 

 

思い返すのは、たくさんの勉強をしてきたクラリンの動画の数々。

 

牌効率が全てだと思っていた和にとって、その動画たちは新しい考え方の連続だった。

 

 

和の目に、初めて意志が宿る。

 

 

 

(私が何十万回と繰り返してきたネット麻雀の知識と経験、そして、あなたから学んだ全てをぶつけます)

 

 

 

 

和の後ろに立つ天使は、もう無表情で牌効率をはじき出す機械ではない。

 

 

僅かに微笑むその姿は、誰よりも麻雀を楽しんでいるように見えた。

 

 

 

 


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