祝!総合評価10000pt突破!!
ついに『ニワカは相手にならんよ(ガチ)』通称ニワカは、総合評価10000ptを突破しました!
いつも読んでくださる皆様のおかげです!
最近は書いてもらった感想をニヤニヤしながら読むのが仕事後の楽しみとなってます。いつも感想を書いてくださる方々、本当にありがとうございます!
これからもバシバシ書いていくので、応援よろしくお願いしますね!
準決勝第二試合の前日。
ミーティングルームに集まった宮守女子の面々は、熊倉監督より明日の戦い方について作戦を授けられていた。
副将戦までが終わり、残るは大将戦。
「さて……大将戦についてだけど……」
モノクルをかけた熊倉が一つ間を開けたことで、豊音をはじめとした宮守のメンバーに緊張感が走る。
言わずもがな、明日の山場はまず、先鋒戦。
超高校級の打ち手が2人もいることによって、メディアからの注目度も高い。
そして、次に鬼門となるのは、大将戦だった。
「豊音。明日は『仏滅』は禁止だよ」
「え?」
熊倉のその言葉に、反応したのは当事者である豊音ではなく、塞だった。
仏滅。
豊音の能力は暦である六曜に強く影響を受けている。その能力の中で、『仏滅』は豊音にとって切り札となりえる強力な力。
自分の手牌を一面子崩した上で、赤やドラが一切来なくなるという代償と引き換えに、卓に座る自分以外の全員に対して有効牌をほとんどシャットアウトすることのできる強力な力。
それを熊倉監督は使うな、と言ったのだ。
豊音以外のメンバーにも動揺が走るのは当然のことといえた。
その困惑を払拭するべく、熊倉が理由を説明する。
「……2回戦。豊音の仏滅に対して唯一、最初から抵抗することができていたのは誰だと思う?」
「……!」
豊音が、合点がいったように目を見開いた。
そう。2回戦で『仏滅』を使った時。新道寺と有珠山の2校は、有効牌をまったく引けずに苦しんでいた。
しかし一人だけ。
即座に抵抗の意志を見せ、果敢に仕掛けることで有効牌を引き入れていた打ち手がいる。
「……そう。姫松の末原さんだね。私も2回戦を見ていて、何故この子が優勝候補の高校の大将をやっているのか、よく理解できたわ」
恭子が大将をやっている理由の一つに、『未知の力に対する対応力』が優れているという点がある。
インターハイに出てくる高校でありがちなのは、大将に圧倒的エースを据えて、それまではなんとかトバずにつなごうというスタイル。
そういった高校の大将を相手取る時、必ずしも情報があるとは限らない。
強い高校であれば、県予選では本来の実力を見せずに上がってくることだってある。
そういった事態に備えて、大将には臨機応変な打ち方が求められるのだ。
もちろん、力でねじ伏せるタイプも多くいるが、恭子はそういったタイプではない。
確実に勝てる道を辿り、正解を導き出す。
「仏滅を使えば、おそらくあの子の独壇場になる。また姫松が1チーム抜けた形になってしまうと、ウチの決勝進出は厳しくなるからねえ……」
故の仏滅の封印。
そこまでは理解できたが、今度は違った疑問が塞の頭に浮かぶ。
「で、でも、その子以外の2人はおかしな人たちなんでしょ?そっちは放っておいていいの?」
塞の言うことももっともだ。
恭子を止めるために仏滅を温存すれば、自然と他2校は動きやすくなる。
他2校の大将も、宮守のメンバーはしっかりと確認したが、あれは間違いなくバケモノの類。
ひたすら嶺上開花をしまくる1年生と、平均打点14000点という脅威の面前派。
そんなバケモノをそのまま放置して殴り合いになるのは、危険すぎる賭けではないか?と塞は思ったのだ。
しかし、熊倉はにっこりとほほ笑む。
「豊音なら、同じ土俵で戦えるのよ。バケモノ相手でも……ね」
むしろそれは好都合なのだ。
殴り合いを制することこそ、宮守が残された決勝進出への道。
熊倉の言葉を聞いて、エイスリンがホワイトボードに、4人の人間が殴り合う様子を描いてドヤ顔で全員に見せる。
その絵を見て、その場にいた全員が笑みをこぼす。
絵に描かれた4人のシルエット。
その中で1番背の高い人物が、他を圧倒していた。
『こんなことを、誰が予想できたでしょうか……!』
『いやあ……視聴者の皆的には、面白くなってきたんじゃねえの?知らんけど!』
異様な空気に包み込まれる会場。
その全員の視線は、モニターに映る点棒表示に集まっている。
点数状況
1位 晩成 巽由華 122300
2位 清澄 宮永咲 101800
3位 姫松 末原恭子 97300
4位 宮守 姉帯豊音 78600
『常勝軍団姫松が、今日初めて決勝進出ラインから落ちました……!大番狂わせとはまさにこのこと!優勝候補筆頭である姫松が、ここで姿を消すことになるのでしょうか……!』
『おいおいおい、そりゃまだ気がはえーだろーよ。……まあ鍵を握るのは、姫松の大将が気持ちを持ち直せるかどうか……かねえ』
南2局 1本場 親 豊音
由華が今まさに親の跳満を和了った豊音を見やる。
ここまで静けさを保っていた宮守が、ついに一撃を加えた。
まるで、最初から機を伺っていたかのように。
(……姫松に対して、相当牌を絞ってたのはわかってたけど……この時のためだったか)
豊音が面前で進めている時。
基本的に他3人はリーチをしない。2回戦の様子を見て、豊音には『先負』の力があることを知っているから、好んでリスクは負わないのだ。
しかし、先ほどの恭子は焦っていた。
失った点棒を取り戻したい。ドラが3つあって役のない聴牌。リーチするしかなかったといえばそうなのだが。
その隙を、豊音は見逃さなかった。
(まあいい。リーチが条件なら鳴けないだろ。基本的には私の方が早い)
そう、『先負』を使うには面前で手組をする必要がある。
それならば、相手が切った有効牌を引き入れられる由華の方が早い。
『先負』を使うことが前提であれば、だが。
由華が、ツモ山へと手を伸ばす。
7巡目 由華 手牌 ドラ{2}
{①①②223一二三六七東東} ツモ{東}
この巡目に咲から{東}が出たので、由華はこれを当然のようにスルー。
すぐに自身の手牌へと引き入れた。
このツモによって固定しやすくなったドラ対子を固定するべく、由華は{3}を切り出す。
「チー!」
その{3}に食いついたのは、豊音だった。
由華が、自身の河から奪われていく{3}を眺めながら、怪訝な表情で豊音の様子を伺う。
(鳴いた……?なんで?)
咲と由華が見たのは、2回戦で豊音が使っていた『先負』と『仏滅』だけ。
そのどちらもが面前で効力を発揮するもので、だからこそ豊音の仕掛けは想定外だった。
想定外だっただけに、一瞬、他のメンツの手が固まる。
その困惑による硬直が、豊音の突破口だ。
「ポン!」
「チー!」
豊音 手牌
{裏裏裏裏} {横4赤56} {発横発発} {横312}
チー出しで出てきたのは{5}。
由華が目を細めて豊音の仕掛けを見つめる。
(急いだ混一の仕掛け……?……もし無理をしているなら、リーチで脅すか……)
そう思いながらツモって来た牌の感触に、由華は一瞬だけ眉根を寄せる。
由華 手牌
{①①②22一二三六七東東東} ツモ{5}
索子。
おそらく豊音が集めている牌。
しかしこの牌は豊音がチー出しで切った牌。
当たることはあり得ない。
一向聴をキープするためにも、手出しが入る前に由華は{5}を切るのが得策だと考えた。
しかし。
「チー!」
豊音から、チー発声。
流石の由華も、これには目を丸くする。
豊音 手牌
{裏} {横567} {横4赤56} {発横発発} {横312}
豊音から発される黒いオーラに気圧されて、由華が静かに思考に耽る。
(ウチのバカもよく裸単騎やるけど……どうやらそれとは違うみたいだね)
和了ることに狂った晩成のならず者は、よく裸単騎をするが。
ゆらゆらと1枚の牌を左右に揺らす豊音の姿は、そのよく知る後輩の姿とは重ならない。
豊音の笑みは、何か和了れる確信があるとしか思えなかった。
豊音に、ツモ番が回る。
「トヨネ!」
人形のような綺麗な顔立ちで、ホワイトボードを握りしめたエイスリンが声を上げる。
「ついに出しちゃうか~それを」
モノクルをかけた塞が笑う。
「2回戦では上手く隠せたからね!」
白望の膝の上に鎮座する胡桃も満足気だ。
「まあ……トヨネが勝つでしょ」
白望のその言い方は、豊音の勝利を疑っていない。
孤独で、インターハイを一人テレビで見ていた少女はもういない。
温かい仲間と出会い、共に夢見た舞台に来ることができた。
胸を張って豊音は、かけがえのない友ができたと言うことができる。
そう、豊音はもう。
「ぼっちじゃないよ~?」
ぼっちじゃない。
「お友達が来たよ!」
豊音 手牌
{北} {横567} {横4赤56} {発横発発} {横312} ツモ{北}
「4100オールッ!」
『宮守女子姉帯豊音!この親番で3万点の点差を詰めました!!2着争いは激化!晩成以外の高校が全て9万点台にいます!!』
大歓声が、会場を包む。
姫松は準決勝通過確定か、と思われた準決勝はしかし、これでどこが勝ってもおかしくない状況へと移った。
盛り上がりは、既に最高潮。
点数状況
1位 晩成 巽由華 118200
2位 清澄 宮永咲 97700
3位 姫松 末原恭子 93200
4位 宮守 姉帯豊音 90900
豊音の笑みが、猟奇的なものへと変わる。
(このお祭り、まだまだ……終わらせないよ~?)
羨望の眼差しで眺めることしかできなかった舞台が、今自分の目の前にある。
最高の仲間と迎えられたこのお祭り。
豊音に終わらせる気は、さらさら無い。
初瀬「今失礼なこと考えてませんでしたか???」
由華「……」