ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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本編とは全く関係がないんですけど、全国大会の個人戦ってどういう方式で戦っていくんですかね?
県予選では総当たりのスコア上位3人が全国って感じでしたけど……。
全国大会の方式を知らないので戸惑っています。

あ、本編には全く関係ないんですけどね?





第84局 思考を止めるな

恭子には、忘れられない1日があった。

 

 

それは去年のこと。

 

インターハイ決勝を終え、会場を後にする姫松の面々の足取りは、決して軽くはなかった。

 

表彰式も終わった夜遅く。

宿泊しているホテルまでの道のりは、いつになく長く感じる。

 

立ち並ぶビルと、路地裏に輝くネオンの光は、流石眠らない街といったところだろうか。

引率がいるとはいえ、女子高校生が歩くには少し危険なその通りで、しかし4人は歩いている。

 

そんな時だった。恭子がおもむろに口を開いた。

 

 

「ウチのせいや」

 

ポツリと、恭子がつぶやいた言葉に、全員が足を止める。

 

今日の決勝戦。結局先鋒戦で稼がれたリードを守り切られてしまった。

結果、姫松高校は準優勝で今年のインターハイを終えた。

負けたのは、前の年敗れたのと同じ相手。

 

 

絶対に今年は全国制覇できると意気込んで臨んだインターハイ。

しかしそう上手くは行かなかった。

 

大将として、準優勝のまま終局を迎えたのは恭子。

責任を感じるのは仕方がないことだろう。

 

しかし、そこに異を唱えるのは多恵だ。

 

 

「いや、私のせいだよ。先鋒戦で、あの人に勝ててさえいれば……」

 

多恵が思い起こすのは、高校になって突如として現れた、同学年の雀士。

 

圧倒的な強さを前に、多恵は1年目に為す術なく叩き伏せられた。

そして、2年目の今年も、善戦したとはいえ負けは負け。

 

だからこそ多恵は責任を感じている。

自分のせいだと主張するのは当然の流れだった。

 

その多恵の言葉を、全員が否定する。

 

 

「多恵のせいなわけないやろ。多恵は最後まで戦った。あんなんを相手にプラスで帰ってきたんや。それだけで十分やろ。逆転できなかったウチが悪いんや」

 

「ちょ~っと流石に、多恵ちゃんは相手が悪すぎたのよ~……」

 

「まあ、あれがバケモンであることは確かやな」

 

後に、チャンピオンと呼ばれることになる少女。

余りにも衝撃的なその打ち筋は、全国を震撼させた。

 

先鋒戦というエース区間を戦う多恵は、当然戦うことになるわけで。

 

そのエース区間で、多恵は2年連続チャンピオンにトップを奪われている。

 

一瞬の、静寂。

 

 

多恵が、一歩前に出た。

 

 

立ち止まる4人に対して、振り返った多恵の表情が、恭子の脳裏に焼き付いて離れない。

 

やけにうるさい街頭の光を背に、潤んだ瞳で見つめる少女の顔は、悲壮に染まっていて。

 

 

 

 

 

 

「私は、諦めないから。来年必ず勝つから……!……負けて仕方ないなんて、言わないでよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日からだ。

 

あの日から、姫松の全国制覇は、『悲願』に変わったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『恭子!恭子にはこれが似合うよ!これなら対局中付けても問題ないし、お守りにもなるよ!』

 

『なんやこれ、ダサない?』

 

『ひどくない?!まあまあ、これくらい派手なほうが最速最強!って感じでいいよ!……それで、私には何を買ってくれるの?』

 

『あー……悩んだんやけどな……これで、どうや?』

 

『……良く人のことダサいとか言えたね?』

 

『うっさいわ!ええから黙って大事な対局はこれ付けるんや!』

 

『ええ~……ま、せっかく恭子が選んでくれたんだし、これにするか……恭子も、つらい時はそれを握るんだよ。対局は一人ぼっちに感じるかもしれないけど、一緒に努力してきた仲間は、必ずそばにいるから』

 

『……ようそんなくっさいセリフ吐けるもんやな……』

 

『めうめう……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭子の和了りに、会場の熱気が更に増す。

 

真夏の夜に相応しい熱気と歓声が、会場を包み込んでいた。

 

 

 

『東発まず和了ったのは姫松高校末原恭子!常勝軍団姫松の名に懸けて、準決勝で負けるわけにはいきません!!』

 

『ひゅーう!しょっぱなど真ん中から切ったときはびっくりしたけど、しっかり和了りきったねい!』

 

 

準決勝最後の半荘。大将後半戦が始まっている。

 

 

 

お守り。仲間から買ってもらった大切な物を、恭子は身に着けて戦っていた。

 

右手につけたブレスレットは、2つ。

左手につけたブレスレットは、1つ。

 

 

しっかりと、握りしめた。

 

 

(まだ全然安心できる状況とちゃう。そんなんはわかってんねん)

 

まだ1度和了っただけ。

終了時点で2位にいなければ、決勝には行けないのだ。

 

上がってきた東2局の配牌を理牌して、もう一度頭を回す。

思考を止めない。

 

一局一局、一打一打に意味を持って。

最大限の努力が、強大な相手を前にして今の恭子にできる唯一の抵抗。

 

 

(思考を止めるな。凡人にできるのは考えることだけなんやから)

 

思考をやめるのは、対局が終わった時でいい。

 

 

 

 

東2局 親 豊音

 

 

恭子 配牌

{①④⑧379三八九東西北発} ツモ{九}

 

 

 

五向聴。

目も当てられない配牌だ。

しかしそんなことで恭子は止まらない。

 

恭子が切り出したのは、{3}。

配牌が悪い時は、悪いなりの戦い方があるのを、恭子は知っている。

 

 

 

 

 

8巡目。

 

豊音の手から、{白}が出る。

由華が、それを静かに眺めた。

その視線は一瞬、全員の河……特に恭子の河を見る。

 

 

恭子 河

{37④⑤八5}

{⑧}

 

 

 

「……ポン」

 

静かに発声するその声音は、あまりこの鳴きを歓迎していないような声音だった。

 

 

由華 手牌 ドラ{2}

{12336899北北} ポン{横白白白}

 

 

 

『副露率が実に5%という数字を誇る巽選手が鳴きましたよ?これは一体……?』

 

『かあ~!なるほどねえ~!そういうやり方があるわけか!』

 

『あの……一人で納得してないで解説していただいていいですか……?』

 

『ごめんごめん!姫松の大将……末原ちゃんの手牌はまだバラバラだけど……捨て牌から見るだけだと国士無双に向かっているように見えるよねえ?』

 

『はあ……確かに、あの捨て牌だとその可能性は十分ありますね』

 

『晩成のコは、見逃せば高確率で有効牌を引き入れられる……けど……もしその牌が既に相手の手にあるとしたら?』

 

『あ……!』

 

『そゆこと~いやあ~よく考えるねえ!流石後半戦にルックス変えてきただけあるわ!それこそ知らんけど!』

 

 

恭子の狙いは、由華の打点を下げること。

捨て牌に国士をにおわせることができれば、由華はそう簡単に役牌をスルーできなくなる。

もし仮に最後の1枚を恭子が持っている可能性を考慮すれば、その牌はもう2度と河には出てきてくれなくなるのかもしれないのだ。

 

今回の場合は、由華は鳴いても満貫が確約された手牌。

普段なら鳴く場面ではなかったが、しぶしぶ鳴いたというところだ。

 

由華が鳴いたというのに浮かない顔をしているのは、そういった理由。

 

 

(なーんか鳴かされたようで気分悪いな……末原さんの狙いは私の打点ダウンか……?)

 

由華も気持ち悪さは感じている。

しかしこれを鳴かないと、七対子以外の和了りが遠のいてしまう。七対子は由華自身得意な役ではない。とすると、和了れない可能性の方が高くなってしまう。

だから、由華は仕掛けざるをえなかったのだ。

 

 

そしてこれを見た後の恭子の対応は早い。

 

 

「ポンや!」

 

由華が鳴いたと見るや、すぐさま役牌の{東}をポン。

 

恭子の鳴きを見て、咲にも焦りが生まれる。

 

 

(末原さんが仕掛けてきた……はやくカンしないと……)

 

そうして泳いだ視線の先を、見逃さない恭子ではない。

 

 

「ポン!」

 

「……!」

 

 

すぐ後に出てきた{九}をポンして、瞬く間に2副露。

同時に咲の表情に変化が出たのも見逃さない。

 

 

(私のカン材が……!)

 

ツモ巡がずれたことで、咲のカン材が流れる。

1枚しかないカン材を流されることは、咲にとっては大激痛だ。

 

 

2副露になったことにより、豊音の表情にも流石に焦りが出る。

 

 

(最速のギア入れてるねー……友引じゃ間に合わないかなー……)

 

恭子の捨て牌が最初国士模様だったことを鑑みて、豊音は友引からシフトチェンジ。

能力を、切り替える。

 

 

 

12巡目 豊音 手牌 ドラ{2}

{13②③④⑥⑦⑧⑧⑧四五五}  ツモ{赤五}

 

 

赤を引き入れての、聴牌。

豊音から、黒いオーラが発生する。

 

 

(愚形だけど~……関係ないねー?)

 

恭子は2副露だが、まだ手出しが入っているし、聴牌とは限らない。

先制さえ打てれば、必ず勝てる。

 

 

豊音が、牌を曲げた。

 

 

 

「リー「ロン!!」……!」

 

 

しかし、その牌が通らない。

 

 

 

 

恭子 手牌

{二二三三四北北} {九横九九} {東東横東}

 

 

 

豊音から出てきた{四}を、捉える。

 

 

「3900や……!」

 

 

 

 

 

 

『2連続和了!!!姫松の猛追が始まりました!得意な鳴き仕掛けで流れを引き寄せます!』

 

『へえ~!打点ダウンだけが狙いかと思ったけど、自分はちゃっかり混一へ……やっぱセンスあるよねいこのコ。知らんけど!』

 

 

大事な親番が流された豊音。

点棒を渡しながら、静かに恭子の手牌を見つめる。

 

 

(先制じゃなかったねー……周りに対応しながら自分も手作り……この人、ちょーすごいね)

 

油断していたわけではない。

しかし前半戦ではかなり豊音のペースに持っていけたこともあり、少しだけ強引に行ってしまった。

 

 

(流石、全国常連、常勝軍団の大将さん。後でサインもらおうかな!)

 

この試合に勝ったあとで。

 

まだまだ豊音の頭に、負けはない。

 

 

 

 

 

 

 

東3局 親 由華

 

 

恭子に2連続に和了りをモノにされ、由華は嫌な雰囲気を感じていた。

 

 

(末原さんが本領を発揮してくると、手が付けられなくなるほど速い。この親番は有効に使いたいけど……)

 

既に、1巡目から仕掛けた恭子の手牌は短くなっている。

鳴き選択が速く、その鳴き一つ一つに意味を持つ恭子の鳴きは、範囲が広すぎて読みにくい。

 

和了りに真っすぐな鳴きの打ち手と違って、多彩な戦術を持つ恭子だからこそ、今回は遠い仕掛けなのではないかと疑ってしまう。

 

 

(ただでさえ、末原さんの上家……。形を作られる前に、先制を打つ)

 

あいにくと後半戦の席順は、由華が恭子の上家に座る形。ツモ巡を飛ばされてしまうこの並びはとてもじゃないが良い並びとは言えない。

 

しかし悪いことばかりでもない。

恭子が鳴いてくれれば、国士無双のブラフは使えない。

しっかりと面前で打てる。

 

そのことをプラスに考えて、由華が1枚の牌を切り出した。

 

 

しかし恭子が真っすぐ進むということは、配牌を見て、『和了れる』と判断したということ。

 

そしてその判断は実に的確で。

 

 

 

 

「ツモ」

 

「「「?!」」」

 

 

3人が、息をのむ。

まだ、3巡目だ。

 

 

 

恭子 手牌 ドラ{7}

{①①①③④678九九} {南南横南} ツモ{赤⑤}

 

 

 

1300(イチサン)2600(ニーロク)や!」

 

 

 

『3連続和了!!!姫松のスピードスター本領発揮!!誰にも追い付けないスピードで圧倒しています!』

 

『ノってきたんじゃねえのお?ひょっとしたら……このまま速度で押しきっちゃうかもねい!知らんけど!』

 

 

歓声が上がった。

前半戦沈黙していた姫松ファンが、歓喜の声を上げる。

 

 

(いくらなんでも速すぎる……!)

 

由華が表情を歪めた。

せっかくの親番でもこの速度でこられてはどうしようもない。

 

 

(……全部が速い配牌なわけじゃない……そんなのはわかってるけど!)

 

恭子の強みは、配牌がどんな形であれ勝負できること。

多彩な勝負勘は、相手の速度読みを狂わせ、更に鳴きへの嗅覚は一級品で、速い手牌は逃さない。

 

そのスタイルは、配牌に恵まれているわけではないのに、いつも速いような印象を対戦相手に植え付ける。

 

 

恭子が、グッと拳を握った。

 

 

その時ふと、恭子は自身の右手に、文字が書かれていたことに気付く。

 

 

控室で無理やり着替えさせられた時に書かれたモノ。

 

誰のものかなど考える必要もない。

見間違えるはずがないのだ。よく見慣れた、後輩と親友の筆跡を。

 

 

 

 

『ファイトなのよ~!』 『凡人の底力見せたってください!』

 

 

笑みがこぼれる。

 

 

ああそうか、と恭子は気付いた。

あの時多恵に言われた言葉は嘘じゃなかったのだ。

 

 

 

 

『対局は一人ぼっちに感じるかもしれないけど、一緒に努力してきた仲間は、必ずそばにいるから』

 

 

 

 

 

大きく息を吐いて、恭子がサイコロを回す。

 

 

 

さあ、親番だ。

 

 

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