準決勝も佳境!盛り上がっていくぜ!
恭子はこの瞬間を待っていた。
おそらく豊音が、自分への対策として切りたくなかった最後の切り札。
しかし、切らないという選択肢を状況が許さない。
点数的に抜け出したのは晩成と清澄で、その2校を止められるのが『仏滅』。
必然的に、使わざるを得なくなるこの力の発動を、恭子は虎視眈々と狙っていたのだ。
2回戦で見せた、豊音の切り札である、『仏滅』。
ホテルでチームメイトとあの力について検討した結果、あれは全体効果系。
それも代償を伴う強力なものではないかという結論に至った。
恭子は実際に同卓して、その力を感じている。
発動時点で全体にデバフをかけた上で、力の有無にかかわらず、全員の手を遅延させる恐ろしい力。
ではその状態になった時、なにもできないかといえば答えはNOだ。
事実、恭子は鳴きを積極的に活用することで有効牌をいくつか引き入れることができた。
しかし、実際に体験していない2人はどうしたって対処に遅れる。
この場で有利に立ち回れるのは、恭子だけだ。
豊音が1枚目を切り出す。
数牌だ。
おそらくここから1面子を切り出していく。
これが仏滅をさらに強力なものへと昇華させるための条件。
今回は席順の影響で、恭子が2回戦にやった捨て牌の面子を完成させないように鳴くことは難しい。
おそらく、完成された仏滅は発動する。
3巡目 豊音 河
{321}
豊音の河に、一面子が、完成した。
重くのしかかるような圧力が、3人を襲う。
しかしそれを見た恭子は、すぐさま攻勢に転じた。
「チー!」
「……ッ!」
表情を歪めたのは、やはり豊音。
恭子にだけは対応されるというのがわかったうえで、それでもやるしかなかったのだ。
ここからは、速度の勝負。
5巡目 豊音 手牌 ドラ{九}
{②④④⑤⑥6678四五六南} ツモ{7}
(末原さんにも効いてるはずだよー……必ず先に聴牌……!)
豊音にしてみれば、絶対にこの親番は譲れない。
姫松の誇るスピードスターが相手だとしても、向こうにも有効牌が来なくなる遅延は効いているのだ。
しがみついてでも、この親番は手放せない。
豊音と恭子が手出しをする中、完全に手が止まってしまったのは由華と咲だ。
(……2回戦の最後。まったく有効牌が来なくなっていたのはやっぱり宮守の姉帯さんの力か……)
(有効牌がこない……これじゃカンができないよ……!)
ツモ切りが続く。
なんとなく力の影響を感じながらも、即座には対応ができていない。
恭子が、ツモ山へと手を伸ばす。
恭子 手牌
{①①二三四五六南南南} {横456} ツモ{西}
(鳴いた直後2巡くらいは有効牌が来る……せやけど、やっぱ鳴かんと有効牌がけえへん……このままやと聴牌止まり。宮守に先制されてしもたら、どうせ宮永と巽やって当たり牌は切ってこん。……考えろ。考えるんや。こっから先が凡人の勝負やろが!!)
恭子の打牌に、熱がこもる。
ここしかない。
見えた逆転の目を、逃すわけにはいかない。
考え続ける凡人の脳は、今まさにフル回転していた。
(鳴く……じゃあどこを鳴けば……?向聴数を落とす?……いや……!)
咲の河を見つめ、何かに気が付く恭子。
凡人の思考が、一つの結論を導き出す。
豊音 8巡目 手牌
{④④⑤⑥66778四五六南} ツモ{⑦}
(きたよ~!……末原さんが役バックの可能性も考慮して{南}は温存してたけど~……通すしか、ないよね~!)
赤とドラが使えない中で辿りついた、リーチすれば高目満貫の聴牌。
仏滅を使っている以上、先勝を使えないのが痛いが、それでも十分に他家より先にツモ和了れる手牌。
豊音が当然のように牌を曲げた。
「リーチ!」
最後の切り札を使って、手繰り寄せた親番での満貫聴牌。
しかしその牌を、咎める者がいる。
「カンや!!!」
豊音よりも先に肩を震わせたのは、咲。
彼女は嶺上牌にある牌が、なにかを知っている。
その牌を、自分が必要としていたことも。
咲が必要としていたということは、『有効牌』であるということに他ならない。
豊音も目を丸くして、恭子が嶺上牌へと手を伸ばすその姿を、追うことしかできなかった。
「やられたわね」
モニターを見つめ、呟かれた熊倉の言葉に、宮守のメンバーが息をのむ。
最後の親番。残し続けた切り札。
しかしそれに待ったをかけたのは、この局何度聞いたかもわからない「カン」の発声。
「『仏滅』……万物をほろぼす日と言われているけれど。それは、この世にあるものだけ。霊界に咲く『花』だけには、届かない」
一見つながりの無い言葉のような熊倉の指摘の意味を、最初に理解したのは、塞。
「まさか……!」
恭子が嶺上牌を力強く手元に引き寄せる姿が、塞の目に焼き付いて離れない。
(凡人やから嶺上牌に何があるんかはわからん。……けど、宮永の捨て牌と切り順で、ある程度のターツは絞れるんや。……来いッ……!)
恭子が盲牌に力を入れる。
全てが滅び。
何もなくなった世界で。
霊界に咲く蓮の花が、地上へ恵みの雨を降らせた。
「ツモや!!!」
恭子 手牌
{①①二三四五六} {南横南南南} {横456} ツモ{一}
恭子の機転が、豊音の切り札を打ち破る。
「2600!!」
『り、嶺上開花ーーー!!!この大将戦で何回目でしょうか!!清澄の宮永咲のお株を奪うように、今度は姫松末原恭子選手の嶺上開花!!まだまだわからない点差のまま、大将戦は南3局を迎えます!!!』
点数状況
1位 晩成 巽由華 117300
2位 清澄 宮永咲 109000
3位 姫松 末原恭子 93600
4位 宮守 姉帯豊音 80100
南3局へと、場面は移る。
南3局、つまりラス前と呼ばれるこの局は、勝敗を左右する非常に大事な局と言っていい。
オーラスはそれぞれの条件ができてしまうため、さまざまな選択肢を追えるのは、この局が最後。
高まる会場のボルテージに呼応するかのように、大将戦の卓はむせかえるような熱気に包まれていた。
南3局 親 由華 ドラ{1}
前局使われた仏滅への対処を、由華が考える。
仏滅の全体効果はまだ持続中。配牌は、良くない。
由華 配牌
{②②③⑤⑥⑨五七九57東南}
(代償は捨て牌の最初の3枚で1面子を作る……か。どうする。思考を止めて勝てるような相手じゃない。姫松の末原さんみたいに、鳴いて流れを変えるか……いや。それは私のしていい麻雀じゃない……!)
やえから受け継いだ王者晩成の意志。
曲げない心。
正面から向かって叩く。
やることは変わらない。むりやりにでも有効牌を引っ張ってくる。
由華の鉄の意志は、この南3局に来ても変わらない。
強く1枚目の牌を切り出す。
恭子 配牌
{①④⑥⑨446六北発発中白} ツモ{七}
恭子も火照った身体を無理やり抑え込み、荒い呼吸を整えながら配牌を理牌していた。
(配牌は変わらず悪い……けど関係あらへん!ここでまくる……!2校が動けない今が勝負所なんや!!)
目に宿った燈火は、先鋒戦から受け継ぐ姫松の燈火。
その行く先を照らすのは、天国か、地獄か。
まさにその岐路に立った恭子が、1枚目を{北}に決めて強く切り出す。
絶対にこの局は譲れない。
咲 配牌
{①①②②③⑤13一三八中西} ツモ{1}
仏滅の対処に追われるのは、咲も同じだ。
(最初に1面子壊すことを代償に、相手の動きを止める……って部長が言ってた。けど、……末原さんはカンで和了った。嶺上牌も少しは感じられる。なら……!)
咲は先ほどの恭子の和了りに光明を見た。
得意とするカン材と嶺上牌も、仏滅の影響ではっきりとは感じることはできないが、それでも有効牌であることはわかる。
配牌に槓子も、暗刻すらない。それでも自分なら戦えるはず。
咲も臨戦態勢をとって一枚目の{⑤}を切り出した。
親番である由華の前。
北家の豊音が、山へと手を伸ばす。
3秒ほどだろうか。
豊音が切り出した牌は。
{西}だった。
(((?!)))
3人が息をのむ。
{西}は数牌ではない。
ということは、1面子崩しに来ていない。
それが意味することは。
豊音が仏滅を、しかけてこなかったということ。
静寂。
苦い顔をした3人の頭が、少しの間硬直する。
もちろん配牌が悪く、1面子も無かったと考えることもできるだろう。
しかし、だとしたら。
何故この少女はこんなにも笑みを浮かべていられるのか???
豊音 手牌
{13336788899発東}
最高の配牌が、豊音の手に舞い降りていた。
この形から『仏滅』を使うと、ドラが来なくなるのが痛すぎる。
自らの力で、豊音は決勝進出をもぎ取りに行く。
切り札が打ち破られ、最後の親番を失った。
それでもなお。
決勝進出をあきらめない。
飄々としているように見えていた瞳は、力強く3人を見据えている。
それは間違いなく”勝負する打ち手”の瞳。
「あれー?ツモらないの?」
「くっ……!!」
由華がしびれを切らしたようにツモ山へと手を伸ばす。
配牌が良いのは豊音一人。
しかし配牌で勝負がきまるわけではない。
4人の視線が、交錯する。
(姉帯の力のせいで、宮永も巽も、能力には多少の制限がかかっとるはずや……!)
(……姉帯さんは配牌が良いんだろう。……けど。仏滅を使ったからには他の力は使えないはず……。なるほどね。いいじゃん、殺りあおうか)
(ってことは……この南3局は……)
((((自分の力でつかみ取るしかない……!!!))))
勝負の南3局が、始まった。