幽霊に呼吸を習いました   作:星天さん

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日輪と一輪の花

しのぶ様(そう呼ぶようにと言われたので)の隣をドキドキと心臓の鼓動を聞かれないようにしながら歩いていると、少し先に水屋敷より大きい屋敷が見えてきた。

 

「あれが蝶屋敷ですか?」

 

「はい、蝶屋敷では怪我を負った隊士を治療する病院の様な役割をしています」

 

今日まで鬼との戦闘による怪我を一切受けた事の無く、蝶屋敷を知らなかった俺だったが、これからは増援に行った際に負傷している隊士を連れてこれる様に場所をしっかり覚える様に目に焼き付けた。

 

トントントン...トントントン...

 

しのぶ様は屋敷の門を6回叩くと、1分もしない内に門が開いた。門が開いてから直ぐにしのぶ様は門を潜った、俺も後に続いて門を潜り中に入った。

 

「おかえりなさいませ、しのぶ様」

 

「門を開けてくれてありがとうアオイ。姉さんは台所ですか?」

 

「はい、カナエ様は昼餉の支度をしてます。しのぶ様の隣に居る人は怪我人でしょうか?」

 

「いえ、違いますよ?私が無理を言って来てもらった御客の亮壱君です」

 

「はじめまして...。階級・甲の榊亮壱と申します...」

 

「私は階級・癸の神崎アオイです。蝶屋敷でしのぶ様の元で働かせてもらっています」

 

アオイさんと互いに自己紹介を終えてから、しのぶ様とアオイさんに案内され蝶屋敷の中に入った。

 

「私は亮壱君の分の昼餉を用意しに行きますので、亮壱君を居間に案内してくださいねアオイ」

 

「分かりましたしのぶ様、行きましょうか亮壱さん」

 

「よろしくお願いしますアオイさん」

 

しのぶ様は台所の方へと行ってしまい、俺はアオイさんの後について歩き居間に向かった。居間に着き中に通されると、部屋の隅に小さな女の子が置き物の様な感じで座っていた。

 

「アオイさん...この子は一体?」

 

「この子は栗花落カナヲと言います。カナヲ?この方はしのぶ様が呼んだお客様なのでご挨拶しなさい?」

 

アオイさんがカナヲと言う女の子に優しい口調で話すと、一枚の銀貨を取り出して、上に向かって銀貨を弾いた。上に弾いた銀貨がカナヲの手の平に落ちて、しばらくすると口を開いた。

 

「裏...。栗花落カナヲ」

 

「この子は自分の意思では決められず、さっきの様に銀貨を弾いて物事を決めるんです」

 

アオイさんはカナヲの頭を優しく撫でながら、先程の行動について教えてくれた。自分の事を自分で決められない事に、幼いながら酷い目に会ったのだろうと感じた。

 

「俺は...榊亮壱だ、よろしくカナヲ...」

 

アオイさんに習って、カナヲに優しい口調で自分の名前を名乗った。自分の名前を名乗り終わるとカナヲは何も言わないが、コクリと首をゆっくり縦に振ってくれた。

 

「え...」

 

カナヲとの挨拶が終わり、しのぶ様が戻ってくるまでどうしようかと考えていた時だった。居間にしのぶ様と同じ蝶の羽根の様な羽織を着ている女性が入ってきて俺と目が合うと驚いた顔になっていた。

 

 

今、目の前に感謝の言葉を伝えたい男の子が居た...。

今から2年前、見回り中に上弦ノ弐と出くわし討伐しようと戦ったのだが、上弦ノ弐はそこら辺の鬼や下弦ノ鬼より強く手も足も出ずに敗北した。血鬼術によって肺をやられ、鉄扇による攻撃で重症を負わされた私は、ただただ上弦ノ弐に殺されるのを待っているしか無い状況に、目の前に居る男の子が助けてくれた。

手も足も出なかった上弦ノ弐を退け、私の凍った肺を溶かそうと、じ、人工、こ、呼吸/////をしてくれた。人工呼吸をしてくれたお陰で、しのぶから奇跡的に前の様に最前線で戦うのは無理だけど短時間なら戦える事と日常生活には何の支障も無く過ごす事が出来ると言ってくれた。

 

「初めまして、胡蝶カナエと言います。君の名前を教えてくれるかな?」

 

「俺の名前は榊亮壱と申します...呼び方は好きな様に呼んでください」

 

一応、ちゃんと会うのは初めてだから自己紹介はきっちりと行った。自己紹介を終わらせてから、あの時の事に対してのお礼を言うと、首を傾げながら腕を組み始めた。

どうしたのかと尋ねたら、私の顔を覚えてなくて何処で会ったのかを思い出そうとしてたみたいだった。

 

「ふふ、私と亮壱君が出会ったのは1年前よ。最終選別に向かおうとしていた亮壱君が、上弦ノ弐によって重症を負わされた私を助けてくれたのよ?そ、それに...じ、人工呼吸/////をしてくれたの」

 

「あ──お、思い出しました/////あの時はすみませんでした」

 

あの時の事を鮮明に覚えている私は、きっと顔を赤くしながら言っていると思っている。ずっと無表情だった亮壱君は、表情はピクリとも動いてないけど、下を向いて薄らと顔が赤くなっていた。

 

────凄く可愛い...

 

「今の話を昼餉の後、詳しく聞かせてくれますか〜。亮壱君?」

 

しのぶがシュッシュッと拳から音を出してニッコリと笑顔で立っていた。こうなったしのぶは怖いから、アオイと一緒に居間を出て、人数分の皿に料理をよそいに台所へと避難した。

 

 

恐ろしかった...。

昼餉を食べ終えた後、カナエ様にした人工呼吸は下心があってしたのかと、シュッシュッと拳を振るいながらニコニコと笑顔でしのぶ様が聞いて来た。

 

「あの時は、急いでいたので顔を全く見ていませんでした。それに...顔を見ていたとしても下心など一切無しでやっていると思います」

 

我ながら完璧な返答だと思いながらしのぶ様を見ると、何故かむくれていた。しのぶ様だけでなく、しのぶ様の隣に座っていたカナエ様までもむくれていた。

 

「それは、姉さんに魅力が無いと言いたいんですか亮壱君?」

 

「下心一切無いって...女として傷つくわね...」

 

完璧な返答だと思っていたのだが...しのぶ様はカナエ様について語り、カナエ様は落ち込んでしまい、場が混乱状態になってしまった。アオイさん、昼餉の時に仲良くなった、なほ、きよ、すみ達によって事態を収拾してもらい事なきを得る事が出来た。

 

「今夜、亮壱君は任務ある?」

 

「いえ、今日は日向...鎹鴉から任務は無いと言われましたのでありません」

 

「なら、姉さんを助けていただいたお礼をしたいので今夜は蝶屋敷に泊まっていってください。夕餉に鶏大根を作ります」

 

泊まっていって欲しいと言われたが、女性の屋敷(なほ、きよ、すみ、カナヲを除く)で一晩過ごすのは気が引けて、断ろうと思ったのだが、鶏大根を作ると言われ悩んでいた。

 

「感謝の気持ちを受け取ってください亮壱君」

 

「亮壱君が居たから、私はこうしてしのぶや蝶屋敷の皆と過ごせているの...命を助けてくれたお礼をさせて!」

 

「私からもお願いします亮壱さん!」

 

「わ、分かりました...。一晩お世話になります」

 

三人の押しに負けて、今夜は蝶屋敷で過ごすことになった。

 

 

「俺と立ち会え、榊亮壱!」

 

蝶屋敷に一晩お世話になる事が決定してから数分後に──柱達に囲まれて、柱の一人、傷跡だらけの柱に勝負を申し込まれることになった。




読んでいただきありがとうございます!!

亮壱コソコソ話①

亮壱を初めて見たアオイは、亮壱とアオイが同い歳だとは思わず、歳上だと思っていた。

亮壱コソコソ話②

カナエ、しのぶに無表情=無口と思われていたが、自分は無口では無いと弁明をした。
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