しんしんと雪が降り積もる。
街はすっかりイルミネーションで彩られ、季節のせいかあちこちで話し声が聞こえたり、普段見ない格好をしていたりする人々を沢山見かける。
それもそうだ、今日はクリスマスイヴ。
街行く人達は皆浮かれる冬の1番とも言える日だ。
世間がケーキだのプレゼントだの売るのに必死になっているくらいだから間違いないだろう。
「ふぅ……」
そんな人々を眺めながら小さく溜息をつく。ここに座ってから30分くらいは経つだろうか、流石に指先が冷たくなってきたように感じる。
会社を出た時に買った熱々のコーヒーも既に風によってその熱を奪われており、掌から伝わった僅かな温もりが残るくらいだ。
もうそろそろ彼女は着くだろうか。
「♪ 〜」
軽快な音楽が街中に響き渡る。
19時の合図、待ち合わせはいつもこの音をサインにしていた。しかし未だ姿は見えず、連絡のない彼女を待つとなると少し体を温めておきたい。
そう思えば体は自然と動くものだ。視界の先に自販機を見つけ、寒さに震える重たい脚を動かす。
あたたか〜いという文字が書かれたいつものコーヒーを買おうとポケットから財布を取り出し小銭を入れる。
すると手元から逃げるかのように地面に跳ね落ち、後ろで待っていた人に当たった。
「すみません」
顔を上げるよりも先に小銭を取りに行き、慌てて謝る。
「ええ、ほんとよ。人との約束の場所で待たずにコーヒー買いに行ってるんだもの。もっと誠意を込めて謝って欲しいものね」
よく知る声が聞こえ顔を上げるとしかめっ面をしている彼女の姿が。
眩しい銀の髪が街灯の光を反射してキラキラと美しい……なんて言ってる場合ではない。
「30分も過ぎてるのに連絡せずにいるのはどこの誰だろうね」
拾った小銭を自販機に入れ直しながら、後ろに立つ彼女へコーヒーを1本買っては投げる。
慌てて受け取る彼女は表情こそ固いものの口元は緩んでいる。
というより声をかける時から口元だけはどうしても嘘をつけてない。彼女の癖を理解してるからすぐにこちらが有利になる返事を返せる。
そんな彼女は黙って受け取ったコーヒーを飲む。
僕もいつも飲むコーヒーを買って彼女の隣に移動する。
「それで友希那、今日もフェスに向けての練習が伸びたの?」
名前を呼ぶと飲んでいたコーヒーを離してこちらを横目で見ながら歩き始めた。
「ええ、次のフェスでも最高のステージにしたいもの」
彼女は音楽の為には全てを賭けている。だがその分だけ音楽を愛している。
僕もそれをわかっているから彼女が遅れて来た時は何も言わない。とはいえ毎度連絡が無いのも困るものではあるけども。
「そっか、それならあんまり強くは言えないな。でも時間を見て連絡はちゃんとしてくれよ」
「それに関してはごめんなさい。いつも気をつけようと思ってるんだけど」
「音楽に夢中になって忘れるって感じか」
そう返すと無言で視線を下げた。どうやら図星だったみたいだ。
そんな彼女はまたコーヒーを飲み始める。友希那が大好きな黄色パッケージの甘い奴。
「ははっ」
「なによ」
キッと猫のように目を細めて睨んでくる。僅かに頬が赤くなってるせいか怖いどころか可愛さの方が強い。
「いや、そこまで夢中になってるならなんか言うのも馬鹿らしいかなって。友希那が音楽を大切にしてるのはわかってるから」
僕の返事に何も返せないからか、友希那はまた視線を伏せる。
そんな彼女は一気にコーヒーを飲み干して僕に缶を渡してくる。照れ隠しのつもりだろうか。
ちょうど自分の飲んでいるのも無くなるところだったし纏めて缶を捨ててこようか。
歩いてる先に自販機をみつけ、脇に回収ボックスがあるのを確認したので小走りで捨てて、また小走りで戻る。
「友希那」
戻ってきてすぐに彼女の名を呼ぶ。
彼女は何かしらと首を傾げている。
そんな彼女に僕は左手を差し出す。
「行こうか」
そういうと彼女も始めは少し驚きながら顔を赤くしていたものの、すぐに返事を返してくれた。
「ええ、行きましょ」
そして手を握り返して、こちらに小さく微笑んでくれる。それに少しドキッとしてしまうあたり僕も慣れていないのだろう。掌に伝わる彼女の体温を感じながら、二人で街へとゆっくり歩き出す。
そんな僕らを手招くかのように、どこからかクリスマスソングが聞こえてきた。