まだ肌寒い夜。 雲ひとつない澄みきった空を紫煙で汚しながら月を見上げる。
俺な何か間違っていたのだろうか? と独りごちても答えは帰ってこない。
……はずだった。
「知りませんの、そんなの」
聞こえるはずのない声に思わずタバコを落とす。
「あー! タバコ! 落とさないでくださいよー! それに火がついてる間しか私は存在できないんですからー」
声の方向に目を向けると、白い服に身を包んだ女性が宙に浮いていた。
「……は?」
「だーかーらー! 早く拾って下さいってばー! それともご主人様はポイ捨てするようなハクジョーなご主人様なんですか?」
「……君は、誰?」
吸いかけのタバコを拾って咥えながら聞くと、女の子はキョトンとした顔で返す。
「誰って……。 変なこと聞きますねー。 ピースに決まってるじゃないですか! あなたが吸ってるタバコですよ」
意味が分からない。 タバコですよ?
「……まぁいいや。 夢だろ。 もしくは幻覚」
「あ、現実逃避ですね」
「喧し。 ……現実逃避もしたくなるわ」
「何があったんですか?」
覗き込むように問いかけてくる自称タバコ女に諦めたように答える。
「……フラれた」
俺の返答を聞くとオーバーリアクション気味にアチャーといったような仕草をする
「アチャー」
実際に言ってきやがった。
「失礼なタバコだやな。 消してやろうか?」
「わー! わー! 冗談! 冗談ですよー? 消さないで? ね? ね?」
空中で必死に腕を振り回して静止する。 その仕草が元カノに少し似ていて毒気が抜ける。
「……で、何しに来たの? お前」
「え? ……別に何も?」
「やっぱり消す」
「わー!わー!」
「冗談だよ」
「あー良かったー。 そもそも、タバコに何を求めているんですか? 所詮ただの嗜好品ですよ」
それはそうだ。 所詮この自称ピースの危ない女は俺の妄想が作り上げた幻覚だ。 なら、こいつに何言っても構わんだろう。
「……俺さ……ふられたんよ」
「さっき聞きました」
辛口だなこいつ。
「理由がさ……『 タバコ吸ってるからヤダ』ってさ。 俺の何がダメとかじゃ無くてただタバコ吸ってるからってだけの理由だぜ? 笑えるだろ?」
「……さぁ? 今どきタバコ吸ってて良いって言う人の方が少ないですし」
「おまっ……、タバコがそれ言うのか?」
「知りませんよ。 タバコですから。 所詮私たちは一時しのぎのその場限り。 あなたが吸ってるタバコの火が消えたら居なくなる存在ですよ。 タバコなんてそんなもんでしょ?」
「そりゃそうだ。 ……ま、これから一人で寂しくタバコを吸うことは無くなったって訳だ」
「そ、ご主人様がまた独りぼっちでさみしーくタバコ吸ってても私達が慰めてあげますよ」
「サンキュー」
そう言ってタバコを携帯灰皿にねじ込むと。 彼女は消えていた。 元からいなかったかのように。
いいさ、彼女達にはまたあえる。
こうしてベランダに行けば。