神天地より   作:アグナ

8 / 8
久しぶりに筆を取ったので違和感あったらすみませぬ。
近頃、リアルが忙しいものでしてね……。


では、新章をばご堪能あれ。


魔王来臨-序

 イタリア、サルデーニャ島。

 

 イタリア半島は西方、コルシカ島の南の地中海に位置するイタリア領の島。イタリアに五つある特別自治州の一つで、周辺島と合わせてサルデーニャ自治州と呼ばれることもある。

 主に工業、商業、サービス業、IT業、観光業などを産業の中心としており、特に観光業に関しては島の北東部に広がる風光明媚な海岸、通称エメラルドビーチと呼称される煌めく海、美しい青空、輝く太陽と必要三種を全て揃えた世界的にも有名な場所であり、高級セレブが挙ってバカンスを楽しむリゾート地として有名である。

 

 そしてそんな美しい白と青が織りなす浜辺を贅沢にも一人独占する男がいた。

 いや、独占すると言うよりも普段は観光客や地元の人間が多く居る場所でありながら何故か今この時に限って彼を除いて人影は存在していなかった。

 

 地元の人間なのか、彼はラテン系のハンサムな顔立ちに金髪。身につけるアロハシャツと頭の上に乗せているグラサンは浮かべる微笑と相まって陽気だろうその気風に適している。

 だが、同時にアロハシャツから覗く肉体には、隙という隙は無く、雰囲気に反して鋼のように鍛え上げられ、引き締まっている。

 一種、幼稚とも取れる陽気さとまるで荘厳な戦士の気風を漂わせる二面性を持つ男。勘の良い者ならばある種の危険さを察することが出来るかも知れない。

 

 この男は──陽気なその性格なままにとんでもない事をやらかしかねない。

 

 それは一言で言えば、馬鹿だの阿呆だのと形容されるのだろうが、そのやらかす馬鹿の度合いによっては罵倒や侮蔑を通り越して畏怖を覚えることだろう。

 例えば──神に挑み、勝利し、その権能を簒奪する。

 そのような馬鹿をやらかした男であったならば……成る程、人々が馬鹿や阿呆と罵倒しながら決して侮ることはないだろう。

 

 事実、彼はその様にしてイタリアを治める王としてあるのだから。

 

 サルバトーレ・ドニ。今代に現れたる七番目の王冠。

 通る字は『剣の王』。

 鋼の魔剣を携えた、イタリア最強の騎士王である。

 

「相変わらず見えないねェ」

 

 ぼやくようにドニが呟く。

 今、この場には彼しかいないはずなのに。

 まるで彼以外の何かがいると言わんばかりに。

 

 そしてそれを証明するようにドニの立ち尽くす砂場の地点。

 そのすぐ横が唐突に爆発を起こした。

 

「っと──」

 

 爆発と同時、ドニは飛び退りながら手に持つ獲物。鋼の魔剣を振るう。

 斬檄が大気を揺らし、届く筈のない剣閃が爆発地点に斬の着弾する。

 

 権能『斬り裂く銀の腕(シルバーアーム・ザ・リッパー)』。

 

 まつろわぬヌアザより簒奪したその権能は右手で手にしたあらゆる物体を斬り裂く魔剣へと変貌させる権能。

 液体、気体など形持たないモノであれ斬り裂くことが出来るため、当然魔術や霊体と言ったものにすらその効果は及ぶ。

 見えぬ存在とて、喰らえば無傷では居られまい。

 

 故に瞬間的に刃の長さを拡張することで、剣士の間合いを遙かに超えた範囲で効果を及ぼしたドニの魔剣は確かに異変を捉えた筈だったのだが……。

 

「ん、遅かったね、残念。相変わらず厄介だよねえ、見えない上に速いなんてさ」

 

 難敵を前に楽しげに呟くドニ。

 直後、そのドニの身体が突き飛ばされたように宙を舞う。

 

 恐らくはドニの次瞬を先読みしていたのだろう。

 飛び退ったドニの合わせ、その背後に回り込んだだろう見えない敵がドニに強烈な当て身(タックル)を見舞ったのである。

 

 まるで新幹線にでも撥ねられたように突き飛ばされたドニは白く美しい海岸を通り越して碧い海を水切りのように跳ねる。

 しかし、常人ならば挽肉にでもされかねない衝撃にあって、ドニは意識を維持したままあろう事か体勢を整え反撃に出ていた。

 

「よっ──ッと!!」

 

 かけ声と共に剣が伸びる。先ほど一瞬だけやって見せた魔剣の機能。

 それを今度は限界まで伸ばし、維持する。

 

「──ただ一振りであらゆる敵を貫く魔剣よ。全ての命を刈り取るため、その輝きを宿せ!」

 

 呪文と共に手にした魔剣をドニは投擲する。

 魔刃の呪文を受けたその魔剣は刃渡り、七、八メートルにまでその長さを拡大しており、それが銀の流星となって恐ろしい速度で以て見えぬ敵を強襲する。

 さしもの見えない敵も吹き飛ばされながら即座に反撃してくるとは予想が付かなかったのだろう。

 回避するよりも早く着弾するだろう魔剣を前に見えぬ敵はその場に立ち尽くしたまま──。

 

 

『RUOOOOooooouuuuu──ッ!!』

 

 ──それは空の遙か彼方まで響くような何処までも澄んだ美しい獣の咆吼だった。

 

 何処か郷愁の念を抱かせる遠吠えは見えない敵を中心にドーム状の音領域を形成、あわや届きかけた魔剣の機動をねじ曲げ、あらぬ方向へと導く。

 その現象はまるで屈折。仮に盾や防壁の類いだったならば魔剣は斯くと獲物を仕留めたことだろう。

 しかし、投擲に際した、慣性や力の方向性そのものをねじ曲げられてしまえば、魔剣は効力をそのままに明後日の方角へと受け流されてしまう。

 

 姿無き敵──『獣』が成したのは正にそれだ。

 

 元より彼は雪原に現れたる幻の陽光。

 陽炎が如くあるその在り方は、侵す全てを惑わし、はね除ける。

 古くより獣の咆吼が魔性を祓うと言い伝えられるように。

 

 例え魔剣であれ、その有り様を崩すことは適わない。

 

「んー、外したか。やっぱりまだ本調子じゃ、わっぷッ!?」

 

 残念そうに呟きながら海に落ちるドニ。

 彼を突き飛ばした慣性がようやく効力を失ったお陰だろう。

 間抜けな悲鳴を漏らしながら、力試しは幕引かれた。

 

 

 

 

「相変わらずの出鱈目振りね」

 

 開口一番、御先は腰に手を当てながら全身海水まみれで浜に上がってきたドニを呆れたような態度で迎え入れる。それに対してドニは笑いながら言葉を返した。

 

「そうかな? お師匠と比べれば僕の戦い方はただ剣を振るだけだからね。飛んだり燃えたり、透明になったり、津波を起こしたりするのに比べればまだ世間的には普通なんじゃないかな?」

 

「──驚いたわ。あの(・・)サルバトーレ・ドニの口から「普通」なんて言葉が出るなんて。明日は嵐のまつろわぬ神でも顕現するのかしら?」

 

「そりゃあ良い! 本調子じゃないのが今のでよく分かったからね。リハビリがてらちょっと本気で戦いたい気分だったんだ!」

 

「……あのね、今のは嫌みだったんだけれど?」

 

「あれ? そうなの? お師匠は予言の力とかそういうの持ってなかったっけ?」

 

「持ってるわけないでしょ。そんなつまんない力。手に入るって言われても断るわ」

 

「んー……そっかー、残念」

 

 ブルブルと大型犬のようなしぐさで髪の毛に付いた海水を払いながら心底残念そうにするドニ。

 その態度に御先は意外そうに声をあげる。

 

「珍しいわね。今の会話の流れならてっきり「じゃあちょっと他の神殺しと決闘してくる」って言ってトラブルを巻き起こしにいくと思ってたのに」

 

「護堂と決闘してからアンドレアに凄く怒られちゃったからね。暫くは大人しくすることにしているのさ」

 

「ふーん。暫く、ねえ……」

 

 半ば気分屋であるこの男の暫くがどれぐらいの期間か知れたものではないが……。

 まあ己には関係のない事情であるからと御先は聞き流す。

 もとより旧知であるドニの元に出向いた理由は別にある。

 

「ま、アンタのことはどうでもいいわ。それより丁度良いから聞かせなさい。貴方に次いで現れた新しい私の同胞……八番目の神殺しについて、ね」

 

「何だ。やっぱり護堂について聞きに来たんだね。いきなり襲われたからてっきり久しぶりに殺し合おうって話だと思ってたのに」

 

「馬鹿ね、それなら初手でカルラを叩きつけてたわよ」

 

「流石はお師匠。そういう知り合いだろうが容赦ない所はぜんぜん変わらないね」

 

「そういうアンタはヴォバンの爺様ごとぶっ飛ばした時から変わらないわね。いいえ、寧ろ増したかしら? 馬鹿さ加減が」

 

 御先の一言に酷いなァと笑うドニ。先ほどから続く辛辣な言葉一つ一つを気にかけない限り、やはりこの男は大物(バカ)だと御先は再認する。

 

 ──神上御先とサルバトーレ・ドニ。

 二人の関係は今からおよそ四年前に遡る。

 

 当初、新参者であったドニは四年前、己が剣の師であるラファエロに言われた言葉を信じ、『己と同等以上の敵』を探して世界を放浪していた。

 そして厄介ごとを巻き起こす神殺しの性か、案の定サルバトーレ・ドニは一つの厄介ごとに半ば顔を突っ込むことになる。その厄介ごとこそ、『まつろわぬ招聘の義』。

 ──嘗て御先が魔術師たちより依頼を受け、サーシャ・デヤンスタール・ヴォバンと殺し合うこととなった事件。その当事者の一人として。

 

 曰く、神も神殺しも含めドニにとっては『同等以上の敵』が三人も揃った戦争。

 喜び勇んで参戦したドニは御先とヴォバンが争う隙に招聘された『まつろわぬジークフリード』を討伐すると連戦を望んで二人の戦いに介入した。そしてその結果……。

 

「もう一回殴り飛ばせば、脳の回路が正常になったりするのかしら?」

 

 目前の女傑によってヴォバンごとなぎ倒されたのだ。

 以降、二人は名目上は『同盟者』として関係が続くこととなる。

 

 元々戦いに憎しみを持ち込まない両者である。

 加えて他者をあまり考慮しない自由人の気質が噛み合ってか時折、殺し()いながらも二人は隣人同士のような感覚で接し合うに到ったのだ。

 因みにドニの御先に対するお師匠という呼称は、「何となく僕の剣の師匠に似てるっぽいから」という適当な理由で定着したものであり、特に深い意味は無い。

 

「──それで、護堂の話だっけ?」

 

「ええ。貴方、早速噂の少年とやり合ったんでしょ。聞いて少し驚いたわ。まさか貴方が負けるなんてね」

 

「引き分けさ。勝ちきれなかったのは事実だけどね」

 

「成り立ての新人に相打ちまで持っていかれた段階で実質的な負けでしょう。そういう負けず嫌いなところはやっぱり馬鹿でも神殺しってね」

 

「お師匠には負けるさ。白か黒かに一番うるさいのはお師匠じゃないか」

 

「当然でしょう。少なくとも私にとって喧嘩は勝者を決めるんじゃない、敗者を決めるものなの。相手に認めさせて初めてそれは“勝利”となるのよ」

 

「……へえ、じゃあまだ僕はお師匠に負けてないってことかー」

 

「──そうね、まだ(・・)、ね」

 

 刹那、両者の間に緊張が奔った。

 ミシリと空気に亀裂が入るような錯覚と共に増大する存在感。

 満ちる呪力と闘争心は両者が並々ならぬ戦士である証明だ。

 

 交換されるは無言の内に交わされる“意志”。

 『勝つのは己だ』と言葉以上に雄弁な眼差しが物語っている。

 そして──。

 

「ま、決着は何れつけるとしましょうか」

 

 その一言と共に何事も無く全てが霧散する。

 ケロリとした態度で語る御先と同じくドニも肩を竦める。

 

「そうだね、その時を僕も楽しみに待っているよ。お師匠と、それから護堂とね」

 

「ふうん、そんなに気に入ったの噂の好敵手(フィアンセ)は」

 

「ふふふ、よく聞いてくれたね。そう、僕と護堂は何れ雌雄を決そうと誓い合った仲なのさ。いわゆるライバルって奴だね!」

 

「そう」

 

 ふふんと誇るように笑うドニの言葉に御先は興味なさげな返事を返しながら、内心で噂の人物の評価を下方修正する。──なるほど、相手もドニと同じ同類(バカ)であると。

 噂の本人が聞けば心外だと首を振りそうな評価を下した。

 

「ああ、そういえば同じ日本人だったね、お師匠と護堂は」

 

「そうよ、それもあって確認しに来たの。別に故郷に思うところがあるわけじゃあ無いんだけれど、向こうには何人か知己もいるし。事と次第によってはすぐにでもリタイア(・・・・)して貰おうって考えてたのよ。随分と好戦的だって話も聞いてるしね」

 

「確かにねー、僕と最初に決闘した時はつれない態度を取ってたけれど、いざ決闘になると向こうもノリノリだし。僕と一緒で根っこは戦いが好きなんだと思うよ?」

 

「それは貴方の予想?」

 

「ううん、直感さ。よく当たる」

 

「そ。なら、その通りなんでしょうね」

 

 何せ、剣の才だけで神を殺しせしめた戦士の言葉である。

 そうでなくとも神殺しの持つ獣の如き直感は、まず真実の的を外さない。

 

「となると本格的にリタイアも視野に入れた方が良さそうね。向こうには前にヴォバンの爺さまぶっ飛ばした時に助けた子も何人かいたし、一度面倒を見たからには最後まで救いきらなきゃね」

 

 御先に日本への特別な思い入れはない。

 故郷ということで多少は思うところはあれど、基本的に風の向くまま気の向くままで地を行く御先である。故郷に新たな神殺しが誕生し、根を張っているからと言って、その事実自体に思うところはない。

 だが、日本には嘗て同じ神殺し、ヴォバン侯爵から救った巫女や魔術師が幾人かいる。

 

 別に彼らにも対して思うところはないのだが……それでも彼女には一度救ったという『責任』がある。

 動機はどうあれ、彼女は一度彼らを救うと決め、救ったのだ。

 ならば彼女には、その選択を決断した責任があるだろう。

 

 少なくとも彼女の美学においては一度手を差し伸べたからには救い切るまでが責任だ。

 だからこそ、迷った。未知の神殺し、草薙護堂。

 救った彼女らの安寧を考え、果たして詰んでおくべきか否かを。

 

「うーん、どうしたものかしら?」

 

 基本、即断即決の彼女にしては珍しい迷い。

 そんなお師匠の様子を横合いから見ていたドニはあっけらかんとした態度で。

 

「じゃあさ、手っ取り早く護堂と戦えば良いんじゃ無い? そしたらお師匠は護堂のことがよく分かると思うし、僕としても護堂が経験を積めて強くなれるだろうし……これって日本でいう一石三鳥って奴じゃないかい?」

 

「アンタね……。私は何処かの馬鹿や老害と違って淑女なのよ。そんな何でもすぐに暴力で物事を解決しようっていうのは好きじゃ無いのよ」

 

 と、鼻を鳴らしながら胸を張って言う御先。

 ドニは内心、嘘だと確信しながらそんなことを一切感じさせないにこやかな笑みで言葉を続ける。

 

「でも殴り合えばこそ相手をより理解できるってもんじゃないのかい? ほら、日本では親友同士は川辺で殴り合うものなんだろう?」

 

「それは男同士の友情における話よ。しかも多分に間違っているわ。第一、喧嘩をするにしても理由が無いもの。私は別に愛国主義者ってわけでもないし」

 

 そもそも特定の領地や活動地域を持たない御先である。

 自分の島を新参に荒らされたから絞めにいく……などとは。

 御先には最も似合わない戦闘動機(りゆう)だ。

 

「……理由かァ」

 

 御先の言葉にドニはらしくなく思考を凝らす。

 

 ──ドニにとって好敵手は強ければ強いほど良い。

 まして自らが決着を望む相手ならば尚のことである。

 だからこそドニとしては、何れ決着をつける相手を強くすることは得な話なのだ。

 

 なので出来れば己の師と護堂を戦わせ合いたい。

 そうすれば護堂はより力を付けるだろうし、何より相手が己の師ならば両者戦いの末、どちらかが倒れようとも雌雄を決すべき宿敵がどちらか一人は残る。

 

 師か護堂か、出来れば両方とやれれば万々歳だが、ドニとしてはどちらでも構わない。

 故に彼は似合わぬ奸計を巡らせ、そして──ふと、思い出す。

 

「あ」

 

 護堂のお付き……己が幕下にある魔術結社に所属する少女のことを。

 

「──そういえばお師匠。お師匠がヴォバンのじいさんから救ったっていうのは巫女さんだったよね?」

 

「そうだけど、珍しいわね。アンタ、そういうことは些事と覚えないタイプじゃない?」

 

「僕は物覚えが悪いからね、否定はしないよ」

 

「で? 救ったのが巫女だとどうなのよ?」

 

 ドニらしからぬ言動に御先は訝しむように尋ねる。

 この男が何を言わんとしているのか、と。

 果たして、ドニは、

 

 

「護堂はこっちで愛人を作るぐらい女好きだからねー。僕はそういうのに興味がないから分からないけれど、僕と決闘した理由だって確か、俺の女に手を出すなーって感じの理由だったからね」

 

 

 瞬間──ギシリ、と何かが割れるような錯覚が場を満たした。

 

 

「へぇ──……愛人、ね」

 

「エリカ・ブランデッリっていう娘だよ。そういえば最近は名前を聞かないから日本に連れて行ったんじゃないかな? そうそう、日本と言えばこの間、何とかっていう『まつろわぬ神』が現れたらしいんだけれど、相手が女神だったからって護堂は逃がしてあげたらしいよ? 他にも聞いた話じゃ護堂は女好きで何人もの娘を侍らしているとか何とか。こっちの魔術結社にいたときにも何人もの女の子と一緒にお風呂に入ったとかそういう話を聞いたこともあるし」

 

 極めて出所の怪しいフワッとした噂話を持ち出す辺り、この男の脳の出来(げんかい)が見える。

 それでも真実を掠めている辺り、流石は神殺しだった。

 無論、噂の張本人が聞けば首を凄い勢いで横に振りそうな話であるが。

 

 しかし、事ここに到っては真偽などはどうでも良かった。

 何故ならば。

 

「成る程、つまりは女の敵ってわけ」

 

 凄む御先を前に、見事、ドニの奸計は結実したからである。

 

「これはちょぉっっと『挨拶』が必要ね」

 

「分かるよ。僕の日本の知り合いの人たちも新顔には挨拶が大事だって言ってたからね」

 

 どの場合の挨拶が世間一般における挨拶とは異なっているのは言うまでも無い。

 その結果、御先が次にいう言葉は聞くまでも無かった。

 

「ドニ、アンタちょっと適当言って、日本へのチケット取っといてくれない?」

 

「任せておくれよ。他ならぬお師匠の頼みだからね。アンドレアにすぐ手配させるさ」

 

 ふふふっと、両者異なる意味合いで重なる笑い。

 斯くして次なる騒乱の地は決定された。

 

 舞台は日本。

 神殺しの歴史に稀とみる同族同士の戦いが此処に定められた。

 来たる波乱を前に、もう一人の主役は、

 

 

「……なんだ? 今、ものすごい寒気と勘違いを感じたような」

 

 

 遠き地で知らず、平穏が壊れる音を直感するのであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。