気の迷いで夏祭りに参加してしまい、そこで人ごみに巻き込まれてしまう。
人ごみを抜けると花火会場そして、そこで偶然にも後輩の女の子に出会った。

これはエブリスタで2019年の8月ごろに開催していた超・妄想コンテスト『人ごみ』用に書いたものです。

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少しでもコロナで外出を自粛している皆様の暇つぶしになれば幸いです


夏祭りで人ごみに流されて

 

 夏。

 彼女なんていない俺は、何を血迷ったのか夏祭りに来てしまった。

 見渡す限りの人、人、人。まさに人ごみだ。しかも、当たり前の様にカップルばかり。

 妬みつつも一体彼らはどこで知り合ったりしてるのだろうか、なんて考えていた俺は移動する人ごみ飲まれてしまった。

 ただ夏祭りという独特の雰囲気のなか、屋台を回りたかった。少しでも子供の頃の味わったあの感覚をもう一度味わいたかった。そんな当初の希望はむなしく、屋台がある場所から人ごみという川に俺は流されていく。

 

 流れるプールでも、もう少し自由がきくというのに。

 

 やっとの想いで人ごみから抜け出すといつの間にか花火会場に来ていた。それも絶好の位置だ。もともと花火は見るつもりがなかったが、こんな絶好の位置で見られるなら見ていってもいいかもしれない。

 それに今から帰ろうとするとまた人ごみを掻き分けて進まなければならない。俺はチラリと後ろを見て、改めて人の多さにうんざりする。

 

 俺は人ごみというか、人が大勢いる場所好きではない。むしろ嫌いだ。だからこそどうしてこんなところに来たんだと、数時間前の俺を恨む。ここは大人しく花火を最後まで見て、人が少なくなった所で帰ろう。俺は後悔しながら、花火が始まるのを待つ事にした。

 

 少しして、花火大会が始まる。一発、一発と花火が上がってく。ドン!という大きい音が辺りに響き、空に花が咲いた。

 俺は久し振り見る花火に少しだけ感動していた。まともに花火を見るなんて何年振りだろうか・・・

 しかし感動した状態は長くは続かなかった。

 

 周りで「たまやー」と叫んでいる人がいるからだ。どうしてそう叫ぶのかは知らないが、俺からしたら邪魔でしかない。

 こういう物は静かに見たいタイプなのだ。しかも、花火という音が出る芸術は特に。

 花火は見るだけじゃなく、音もしっかりと聞くべきだ。空に花が咲いた後に鳴り響く重低音。

 花火は見ると、聞くが合わさった芸術なのだ。雑音は出さないでほしい。

 美術館に飾られている有名な絵画に落書きがされているか?否、そんな事はありえない。完成されている作品を異物で塗りつぶすなんて行為が認められるハズがない。

 花火でも同じだ。人の声なんて異物で塗りつぶして欲しくない。

 しかしそう思ているのはどうやら俺だけのようで、周りの人は気にしていないようだ。芸術が塗りつぶされているのに何も思わない思想には嫌気が差す。だがこんな大勢の人がいるなかで叫んでいる人に文句はいえない。多勢に無勢というやつだ。

 俺は仕方なく黙って花火を見続けた。

 

 

「先輩?」

 

 花火を見ていると、近くで可愛らしい声が聞こえた。

 何処かで聞いたような事で、なんとなく知人かも知れないと思い辺りを見渡した。

 するとすぐとなりに後輩の女の子がいることに気づいた。

 

「花火大会に来てたんですね」

 

「たまたまだけどな」

 

 学校でも普段からよく話す事がある後輩。だが俺から話しかける事はない。

 彼女はモテるので個人的にはあまり関わりたくないのだ。モテる人間と関わるのは非常に面倒だ。だが向こうからくる分には悪い気はしない。悲しい男の性だ。

 彼女の小柄な体格が常に上目使いを誘発する。この小悪魔はこうやって男を落としているのだろうか、だとしたら俺もヤバイかもな。

 

「もしかして、人ごみに流されてここまで来たんですか?」

 

「よくわかったな」

 

「確か、先輩は花火や映画は静かに見たいって、前に言ってた事を思い出しました」

 

 つい先ほど思っていた事を前に話した事があるようだ。

 自分では一体、いつどこで言ったかは覚えてない。少なくても最近ではない。そんな事をよく覚えているな、と俺は後輩を感心した。

 

「実は私も人ごみに流されてしまいまして」

 

 どうやら彼女も人ごみの被害者のようだ。

 浴衣姿なのに、よくあの人ごみを切り抜けられたものだ。俺は心配しながらも、後輩の話の続きを聞く。

 

「先輩・・・1人ですか?」

 

 人数の事だろうか。いや、人数の事だろう。

 あいにく、俺の友人は片手で数えても指が余ってしまう。そんな俺には彼女すらいない。このことは既に話した事があると思うが、この小悪魔は聞かなくてもわかるような事をどうして聞くのか。これも、小悪魔の作戦かもしれない。

 

「普通に1人だが」

 

「!!それなら・・・その・・・花火、一緒に見ませんか?」

 

 来た。ついに来た。小悪魔の必殺技、上目遣いだ。

 こんな事をされて断れる男は少ないだろう。

 もちろん、俺は断れる少数派だ。

 ここは断っておこう。彼女は俺みたいな奴よりふさわしい人が隣にいた方が似合うだろう。

 

「別にいいぞ」

 

「やった!」

 

 おや?思った事と実際に口にした内容が真逆だ。

 もしかしたら、気づかない内にもう既に俺は小悪魔に落とされてたのかもしれない。

 

 

 その後、最後まで花火は見ていた。

 帰り際になって気付いたが、どうやら手を繋いで見ていたようだ。

 なるほど。どうりでいつの間にか周りの雑音が聞こえないと思ったらこういう事だったのか。

 おかげで人生で最高の花火大会をだった。さらに世界一の花火(笑顔)も見れた。

 

 家に帰宅した俺は、また来年も人ごみに飲まれて見ようと思った。

 




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