友人がVtuberやってるって言いたい 作:未来へと繋ぐ楔の筆
EXTrail
好きな人が出来ました。
そう伝えた時、彼女は、最初はびっくりした顔を作って、その後心配そうな顔をして、最後に薄く笑って、言った。
「おっっっっっっっそ」
久しぶりに首を絞めるなどした。
〇
「いやおっっっっっっっそ。え? これ私が間違ってる? 遅すぎてちょっとお腹攣ったわ本気で笑ってる今ちょっと待ってちょっと待って今首絞めると呼吸困難で死ぬから待って待って」
「こっちは結構真剣に! 結構悩んで! 結構迷って! 覚悟を決めて打ち明けたの! それを笑うとか……!」
「いやだってリンリン好きな人が出来たってブフッ、今? 今? ぷくくく。だって今何年生よぷふ、三年だよ三年。高3の2月! 2月下旬! あぁお腹痛い! ああ蹴るな蹴るなお腹を蹴るなァ!」
最近は色々お互い忙しかった。受験とか資格試験とか。お互いの家に行く頻度は中学や高1の頃に比べれば激減し、それでも時間を作って会いましょう、と言った日が今日。学校以外で久しぶりに膝を突き合わせてみれば、なんとウザいことか。こんなにウザかったかこの青眼鏡。それとも私の耐性が落ちている? それはありそう。
このところ、まぁ困るなぁっていうコメントもそこそこはあったけど、
「あぁ~、笑った笑った。それで、誰? まさか壮一とか言わないよね。リンリンが好きになりそうなところというと……渋沢とか? 郡山も運動神経抜群で」
「学校の人じゃない」
「は? じゃあDIVA Li VIVAの人? 社内恋愛は……結構厳しいんじゃない? 色々やっかみを受けそう。男女コラボもしづらくなるんじゃ」
「好きになったのは、女の人だから大丈夫じゃないかな」
「……」
青眼鏡は居ずまいを正すと、手を合わせ、黙祷した。
割と本気で蹴り飛ばす。
「そういうとこだぞ! このDV彼女め! 私はその人が可哀想でならないこれから沢山の暴力や首絞めや首輪なんかの隷属化が待ち受けているんだ祈りだってするさ!」
「好きな人にそんなことするわけないじゃん!」
「友達にだってそんなことしちゃいけないんだぞ!」
「それはそう」
「ようやく自覚できるようになったんだねリンリン……」
それなりに常識を学びましたのです。
あと少しOSHITOYAKASAというのを学び始めたともいう。
「でも雑に扱っていい友達が青眼鏡しかいないんだもん」
「そりゃ光栄だけど、全く嬉しくないね?」
「嬉しいくせに~」
「リンリン私にフられてからちょっとナルシ入ったよね」
「あの出来事をフられたと言うなと何度言ったら」
二年前の友達に戻ってください事件は、見方を変えれば私が青眼鏡にフられたようなものだ。見方を変えれば。私は全く、これっぽちも、1㎜たりともそうは思っていないんだけど、この話を誰に相談しても「フられて傷心中なんだね」としか返ってこなかったので、客観的に見て私はフられたらしい。
このことを青眼鏡本人に言ってみたら、その時も爆笑された。今の今に至るまでずっと擦られ続けている。その度に蹴りを入れている。
「んー、もしかしてだけど、さっき覚悟決めた、とか言ってたのって、それ?」
「……」
「一瞬でもその気にさせたんだから、ちゃんと青眼鏡にはちゃんと断りを入れておかないとダメだ、とか……そういう馬鹿なこと、考えてたり」
「……ばかなことじゃないし」
「ビンゴ」
青眼鏡が青眼鏡越しにウィンクをする。なんかそういう喜怒哀楽の百面相がちょっと大人っぽいな、とか思ってみたり。
私はまだ子ども扱いされる。身長が伸びないからなんだろうけど、それ以外にも理由がある気がしてならない。青眼鏡に身長を追い抜かされた時は悔しくて悔しくて正座をさせた青眼鏡の膝に3時間座りながらゲームをやらせてもらった。
「まぁこの二年でリンリンもオタクになったってことだね。オタクは一途だから、自分を好いてくれている人がいるのに他の人を好きになっちゃった、っていう三角関係な状況に耐えられない。すーぐNTRとか言っちゃう。簡単に負い目に思う」
「別に負い目になんて思ってないし」
「うん、それでいいんだよ。だってほら、例えば私に好きな人が出来たとして、リンリンは怒る? それとも、応援してくれる?」
一拍、考える。
青眼鏡に好きな人が出来た。そう聞いた時、私は。
「とりあえず青眼鏡の痴態をその人にバラす手段を考えるかな……」
「最低だな?」
「好きなプレイは首絞めとSMですよ、って教えてあげる」
「本気で最悪だなぁ! あと違うし!」
この気持ちは、なんだろう。
青眼鏡の恋路を妨害したい、という気持ちではない気がする。でも。
「どことも知らぬ馬の骨に青眼鏡をやるのは納得できない、みたいな?」
「うん……なんか、イラっとはするよね」
「リンリン、それはね。私の方が知ってるんだぞ、っていうマウント心だよ。今私も、その女の人に抱いてる心。怒ってるわけでもないし、普通に応援はしたいんだけど、それはそれとして「お前にリンリンの何が分かるんだ! 私の方が知ってる事多いんだぞ背骨を撫でられるのが弱いとか!」っていう、マウント」
「その話誰かにしたら久しぶりに縛るからね」
「やめてもろて」
だからこれは、逆転すれば。
青眼鏡は続ける。
「そこでリンリンについての理解度が十分なら、手を繋いでリンリンの良さを語り合える。決して同担拒否ではないからね、私は。ということで会わせろください」
「えー」
えー。
「まー、さっきは遅いとか言ったけど、学校じゃなくて社内の人なら遅くも無いし、頑張ってよ。私はもうすぐ引っ越しでいなくなるけど、進展したらLONEで教えて。2ショットを送ってくれてもいい。R18な画像でもイイヨグエッ」
「お姉さんとはそういうのじゃないから!」
「へ、へぇ~。お姉さんって呼んでるんだぁ。ぷくく、どんだけ猫被ってるのやら」
「それは……そうなんだよねぇ」
「ありゃ、思ったよりクリティカルヒット」
ちょっとだけ、気にしている。
お姉さんの前では、元気で可愛いNYMUちゃんそのもの! って感じで過ごしている。ファーストコンタクトがそうだったし、そんなにプライベートで会う機会がまだ無く、ほとんどが仕事場での出会いなわけで、NYMUから私に戻るチャンスが無い。
どうなんだろう、って。
私は実は、結構苛烈な性格で、客観視したらかなり重い女で、独占欲もとても強くて。
そもそもこれが恋なのかどうかもわかっていない。ところはある。
初めてなんだ。「カッコよくて好きになった」って経験が。昔青眼鏡に感じていた「私のものにしたい!」っていう感情じゃなくて、どっちかというと……「あの人のものになりたい」みたいな、自分が自分だとは思えない感情の方が強い。
「ふむ。ねこかぶリンリンから暴力リンリンになった時、嫌われてしまわないか……と。難しい話だねぇ」
「その呼称の可否は置いておくとして、結構悩んでる。何かいいアイデアないかな、†学校一の天才青眼鏡†さん」
「わざわざ
「歌が上手い!」
「お、おう。私が聞きたいのは性格の特徴なんだけどね?」
「カッコいい。けどちょっと理屈っぽい? ニヒルな感じ。でも割と熱血」
「じゃあ大丈夫でしょ。へぇ、そういう性格なんだ。いいんじゃない? で終わりそう」
「なんで会ったことも無い人の物真似が上手いの……?」
「そろそろ特技になってきた」
理屈っぽいのは青眼鏡も一緒だけど、青眼鏡と違う所は、あんまり肯定しない所かな。ちょっと否定的な世界観を持っている気がする。まだ全然話せてないから断言はできないけど、否定的……ううん、どっちでもいい、がしっくり来るかも。
青眼鏡は今もずっと保護者面。干渉は減ったけど、それでもたまにぶつかる程保護者保護者してくる。お姉さんはそういうのないけど、発言の重みでたまにこっちが勝手に影響を受ける事がある。
「リンリンが地球で、私が木星。オネエサンとやらが太陽って感じだね?」
「太陽って感じじゃないなぁ」
「なんにせよ、会ってみない事には。今週の土日とかどうよ」
「ごめん、撮影……」
「んー、次の週は私が用事あるからな……」
「そもそも引っ越しまでに会える日がここしかなかったもんね」
「ふむ」
私も青眼鏡も結構なハードスケジュールで、青眼鏡に至っては毎日のように資格試験を受けている程。何をそんなに取っているのかと聞いたところ、とりあえず取れるだけ取ってみようかと思ってて、とかいう頭のおかしい回答が返ってきた。なんでも出来たほうが楽しそうじゃん? とのこと。
これでいてオタク活動は欠かしていないというのだからちょっと怖いよね。
「……じゃ、会える時まで取っておくよ。リンリンの彼女になるっていうんなら、いずれ会うことになるだろうし。今は縁が無かった、ってことで」
「彼女になるかどうかは……。まだ片想いだし」
「おりょ、競争率高め?」
「一人、なんか夫婦みたいな感じでいっつも一緒にいる人がいるみたいなんだよね……。会ったのは一回きりなんだけど、その一回目で「あの人は渡しませんから」って宣戦布告されちゃってさ」
「それは怖い」
私も重苦しい女であることは重々承知しているんだけど、あの人もすっごく重たい人な気がする。そういえばあの人も眼鏡だったなぁ。
「メンヘラの見本市かな?」
「なんか言ったよね」
「断定!?」
別にメンヘラじゃないし。
……じゃないし。
「いつか、紹介してよ。大学行ったら会う機会あんまないかもだけど、卒業してからでもいいからさ。彼女として、じゃなくてもいいよ。フられて尚友達でいるのは得意でしょ?」
「怒るよ」
「ごめんごめん。冗談冗談。マイケルマイケル」
蹴った。
「うー、なんで私ってこう、私を好きになってくれるかわかんない人ばっかり好きになるんだろう」
「そんな恋する乙女みたいな台詞吐いても直前に友人の腹を蹴っているのは誤魔化せないぞ」
「私ってそんなに魅力ないかなぁ」
「スルーかぁ。はぁ。ま、恋ってそんなもんだよ。世間一般を見ても、ね。自分を好きになってくれるかわからない。なってくれない可能性の方が高い。でも好きだから仕方がない。好きって伝えるしかない。自分をよく見てほしくて、良くみてほしくて、自分といるとどれだけ良いのかをアピールしなきゃいけない。誰かの想いを独占するんだから、それくらいの代償は必要でしょ」
「……青眼鏡だって恋愛経験無いクセに」
「恋愛相談だけは死ぬほど受けてきたからねぇ。自分の魅力はあんまり関係ないんだよ。相手の求めるものと自分が出せる魅力が噛み合う事の方が稀で、だからこそ変わろうと努力するわけで。好きになった方の負け、っていうのは良く言ったものだよ。悩み悩んで恋せよ乙女。私は応援しているよ。リンリンが幸せになる事をさ」
なんか。
本当に、ちょっと大人になったなぁ、って。そう思った。
いや、壮一君も京子ちゃんも、クラスのみんな……大人になっていっている。卒業式まで残すところ数日で、そこから私達は大人に半歩を進めるのだ。ううん、もう大人、かな。
私は。
どうだろうか。
「ふむ。これはある人の受け売りなんだけどね。リンリン」
「うん」
「大人というのは、成るものではなく、帯びるもの、なんだそうだ。昆虫が変態するように形態が変わるわけじゃない。階層があるわけでも、ステージがあるわけでもない。ただ少しずつ帯びていく。それは自分では気付かなくて、誰かに見られて初めて気付かれる」
あぁ、なんだか大人びたなぁ、ってね。
「あくまで気付かれるものなんだ。だから、私達の自覚はいつまで経っても子供。大人になったね、って言ってくれる人が現れるまで、大人っぽいなぁ、って言ってくれる人が現れるまで、リンリンはずっと子供」
「……青眼鏡は、思ってくれないの?」
「うん。全く思わない。リンリンはまだ子供だよ。それを言うのは、私じゃない」
にっこり、優しく。
あやすように言う。
「ねぇ、次はいつ会えるかな。次にこの家に来るのはいつになるだろう」
「別に、いつでも来ていいよ」
「いつか、にしておこうか。その方が楽しそうだ」
ああ。
やっぱりまだ、遠いんだなぁ、って。
早く、追いつかなきゃ、って。
そう、思った。
「あれ……レナ、さん?」
「や、久しぶり」
「え、え、え?」
それは、まだ不確定な未来の話。
私も私もわたしも知らない先の可能性。
「なんでここにいるか、聞いてもいい?」
「受かったなら連絡してよ……!」
だから、そうなるように、そうなってくれるように。
未来がここを楔に出来るように、刺しておくための物語。
「んー、まぁ理由はいろいろとあるんですけど」
言いたかった言葉を。
「友人がVtuberやってまして」
「何ですか?」
「金髪ちゃんがたまにつけてるペンダント。あれ、青眼鏡ちゃんがあげたもの?」
「あ、はい。そうです」
「この間愛おしそうに舐めてたよ。もしかしてソウイウ関係?」
「……今度キツく言っておきます。ソウイウ関係じゃないです」
「ヒュウ、ママが現れたね。これは金髪ちゃん大変だぁ」