しれっと他の話もしれっと会話文修正してます
──ふと、無性に。
不安に駆られることがある。
17日目の、一つ目の最難関である撮影を控えたミーティングの帰り道。絨毯の敷き詰められた廊下の上を歩きながら、俺は宛もなくそんなことを考えた。
わかっている。
最善を尽くして、仲間を信じて、予想だにしなかった危機を乗り越えて、俺が思う最高のエンドのために向かっているはずなのに。
……その確信が、あるはずなのに。
なぜだか、どうして。これでは足りないと、意味もわからないほどにそう思うことがある。
はは、なんでかね。
部屋の番号が彫られたルームキーを、ぼーっと眺めながら。俺は一人深いため息をついた。百城さんとも話し合って当日の流れは決めたし、キャスト陣も基本的には大丈夫のはずなのだが。
……まあ、演技は水物だ。うまく行くときもあれば、失敗しか出来ない時だってある。それは痛いほどにわかっていた。そんな苦い経験は、痛いほどしてきたのだから。
ある種の緊張と使命感。
──もう、失敗できない。
是が非でも成功させなければならないという、強迫観念にも似たソレに微かに手が震えていた。
「…………、ちくしょう」
……うん、大丈夫。
今日も私は、百城千世子だ。
撮影十六日目、朝。
私と元輝くんと、夜凪さんの大きな撮影を控えた、その前日。
手鏡を見て、自分を微調整しながら安堵の息を吐いた。微かに滲む緊張を飲み干しながら目まぐるしく回る撮影現場を見渡す。いつもよりもピリついた空気感が肺を満たした。
台風がすぐそこに来てて、私含めスターズ組のスケジュールが酷く厳しい。予定していた期間内のリスケではリカバリーしきれない以上、この撮影を逃せば映画の公開延期は免れない。
それは商業的にも作品的にも避けなければならないことだ。仮に延期してしまうと、あの監督はスケジュールすら把握できない愚鈍だとか、あの俳優は自分の演技すらコントロールできないのだとか。
そういう根拠のないレッテルを貼られてしまうことになる。それは避けなくちゃいけない。
だから今の私がやらなきゃいけないのは、この撮影を無事完遂させること。
怪我人も機材のロスもなく、
…………さて、と。
「それで、私に何か話でもあるのかな。──ね、夜凪さん」
「……千世子、ちゃん」
どうしたの? と。
『百城千世子』は笑いかける。
……大丈夫、今もまだ。私は私のまま。
そう簡単に百城千世子は崩れないでしょ?
ね? と笑いかけた私に、少しどもるように俯いた彼女は目にしっかりとした意志を乗せながら、私の目を見つめてきた。ぐっと掌を握り締めて、慎重な面持ちで口を開く。
「────こっ。……ここに、座ってもいい?」
「うん、もう座ってるね」
座ってるね。
座ってるというか、私の隣に寄ってきてるよね。
思わず呆れのような、なんとも形容し難いチクリとした感覚が心を刺す。ため息交じりに視線をずらせば、ディスプレイが鎮座している別のテント下でよく夜凪さんと一緒にいるオーディション組の三人──茜さんたちかな──が、頑張ってとでもいいたげにこっちに熱視線を送っていた。
まあ、そうなるよね。予定通りだ。予定通りなのに、なんだかすごく神経が逆立っていた。
「千世子ちゃんのこと……千世子ちゃんって呼んでもいい?」
「うん、もう呼んでるね」
というか距離感近くないかな。
よし、と小さく握り拳を作る夜凪さん。……別にその呼び方が嫌だってわけじゃないんだけど。あなたから先にそう言われるって、なんだかな。
濡羽色の瞳に、微かな疑問が浮かんでいたような気がして。夜凪さんがどうしようと微かに慌て出した。
「もしかして私と仲良くなりに来てくれた?」
「え」
「そりゃ想像つくよ。
夜凪さんは芝居に"心"を必要とするもんね、きっと」
「…………?」
──どういうこと? そう言いたげに眉根が少し寄る。口をつぐみながらも、傍目からはわからないほど微かに表情が歪んだ。
わかんないかな?
……わかんないよね。わかるはずないよね。
だって私は凡才で、あなたは天才なんだから。私の目の前にある黒く分厚い鉄の壁が、あなたにとってみれば簡単に越えられるものだものね。
でもそうやって、本物みたいな演技っていうのは、稀有な存在って、わかってないのかな。
「……、でも」
元輝くんが気にかけるくらいなんだから、あなたはきっといい人なのかもしれない。
悪い人じゃないのかもしれない。
「……役者って、きっと。
素晴らしいものを作るものだから」
「────そうだね」
「千世子ちゃん。
…………私と、
……………………ほんとにさ。
ねえ。
よく私にそんなこと言えるよね、夜凪さん。
何も分かってないから言えるんだろうけどね。
私とあなたは友達じゃないけど。
でも元輝くんが気にかけてて、仲良くて、ひょっとすると。あなたは優しい人なのかもしれないね。
人を傷付けたり攻撃したりする言葉を喜んで吐くような、世の中に沢山いる人達みたいな人じゃないのかもしれない。
でもそうなら、あなたは単純に私のことを何も分かってないんだと思う。
ああ、だから、もうさ。
本当に、私に、凄いこと言ってくるよね。
「……ち、千世子ちゃ」
「ねえ、夜凪さん」
多分ね。
私たちは友達になれないと思うよ。
あなたの言う普通は、普通じゃないの。
みんながみんな、あなたたちみたいに演じられるわけじゃないことって、それは当たり前のことなの。
……そういうつもりじゃないって、あなたは言うかもしれないけど。そういう風なのは、想像つくけどさ。
みんなそうじゃないよ。
私はそうじゃないよ。
役者を志す人たちの殆どが、あなたみたいな心ごと組み替える演技なんてできないの。
でも、それをさ。
その言葉を、『百城千世子でしかない』私に言うって、それがどう言う意味なのか、わかってるの?
わかってないよね。わかるわけないよね。
だってあなたは、百城千世子じゃないから。
だったら、それ。なに。
自慢だよね。
宣戦布告ってことだよね。
私は元輝くんにずっと気に掛けられる夜凪景じゃないの。
私はたった数度の演技で、アリサさんに見初められる夜凪景じゃないの。
寝る間も惜しんで自己研鑽して、修正に修正を重ねて、最大公約数だけを追求して初めて認められるような私とあなたを一緒にしないで。
──私にも、できないことはあるんだと。
その事実だけが、苦しかった。
「あなたと私は友達になれないよ。
って、そういったら、どうする?」
ベンチを立つ。
夜凪さんに背を向ける。
「だからお芝居に、心はいらないんだよ」
言い聞かせるように、そう呟いて。
デスアイランド撮影開始より16日目。
暗雲と立ち込めた黒い雲は、まだまだ晴れる気配はなかった。
「友達になれなかったわ、どうしよう」
「つーか友達ってああなるもんじゃなくね?」
「そんな落ち込まんで、共演までまだ日もあるし」
ベンチから戻ってくるや否や、ズーンと重苦しい雰囲気を垂れ流しながらしゃがみ込んだ夜凪を、快活に笑った茜さんが肩を叩いて励ましていた。
なんだコイツ。
「切り替え早いのに意外とネガティブだな」
「口に出てるぞ真咲」
「……うっせぇ」
ため息をつく。
夜凪がネガティブ入ったらすぐさま元輝ぶつけるのがいっちゃん手っ取り早いんだけどな。一瞬で立ち直るしコスパいいし。依存しすぎるのは良くないから気をつけなきゃだが。
それ抜きにしてもアイツ今から撮影だし、下手に刺激与えたくねえしな。
夜凪がぶるぶると頭を振って、
「でも私明日千世子ちゃんと共演するし、困ったわ」
「対策がギリギリ過ぎんだよ、お前は」
「だってずっと千世子ちゃん怖くて近づけなくて……」
「猫かよ」
猫じゃないわよと口を尖らせる夜凪を鼻で笑っていると、いやに深刻そうな表情で夜凪が言う。
「……皆はどうして役者になったの?」
「な、なんだよ突然」
「ははぁ。ま、真咲ちゃんはスカウトやもんな!
最初生意気やったけど、鳴かず飛ばずで悔しかったんか真面目になってたけど、何かあったんか?」
「う、うるせーよ!
スカウトされたら期待しちまうだろ、自分の才能に!」
そりゃそうだろ自分の才能信じちゃうだろ! だってスカウトだぜ? 浮き足立つのも仕方ねえって話。
……まあ別に今はそんなことはないんだけどさ。上には上があるって現実を知ると、そういうことも言えなくなってはくる。
「……私も似たようなもんやで。
親に子役やらされて、チヤホヤされて。
売れんくなってきた頃にはもうやめられんくなってた」
茜さんが誇らしげにそういうのも真横に、武光が笑った。
「芝居は麻薬みたいなものだからな。
夜凪、お前は? どうして役者になったんだ?」
「……私は」
私が。
女優として。
やりたいこと。
「大変なことになったね」
「まあね」
衣装に着替え、8割ほどの準備を終えた元輝くんに、僕はお茶を渡しながらそう言った。
デスアイラインド撮影17日目、早朝。
慌ただしく準備に走り回るスタッフさんたちを見ながら、僕は元輝くんの隣の壁に寄りかかった。
「まさかあそこまで長回しになるとは思わなかったね」
「合計3カット……まあ結構ハードだな」
「僕も前にウルトラ仮面で似たようなことになったことあるから、大変なのはわかるよ」
頑張ってくれと肩をどつくと、わーってるよとうざったそうに元輝くんが首を振った。こうして話すと、初対面の時からだいぶ仲良くなったことがわかってしみじみした気分になった。……とは言っても、あそこのラーメンがうまい、あそこの焼肉がうまいと、なぜか僕らは飯の話ばかりだけど。というか謎に二人で飯を食べることが多いのだ。
時計を見る。
……あんまり時間もない、かな。
「……元輝くん。
少し、聞いてもいいかな」
「どした」
「……元輝君は、……いやもちろん僕もなんだけど、君は基本的にみんなに仲良くしてほしくて。
千世子君と夜凪君の二人に対してもそう思ってる。その上で、あの二人が仲良く出来ると思ってる。……どうしてなんだい?」
「…………それは」
この撮影を通して──いや。
ウルトラ仮面の撮影を、数ヶ月とはいえ、ここまで仲良くなった彼だからこそ、今になってわかったことだった。
千世子くんのバディ的な実力を持っていて、そして夜凪くんの幼馴染であるからこそ、わかることがあるのだと思うけど。
なんだか、友達として仲良くなって欲しい、というありふれた思いとはちがう何かが、そこにある気がしていた。
「僕には分からないんだ。君が、そこに何を感じているのか。
……頼む、教えてくれないか」
「いや、別に大したことじゃあ」
「僕は君を信頼している」
ガシガシと頭をかくと、ため息と共に、元輝くんが口を開いた。
「……まあ、単純にいうなら似てるんだよ、あの二人」
「似てる? 僕には正反対に見えるけど」
「確かに汎用性と特異性的には反対だけど、その上で似てるんだ。どっちとも、"自分にしかなれない"俳優で、交わらない平行線ってことなんだ」
「……難しいね」
「感覚的な話だからな」
──まあだから、俺は彼女達の演技、大好きなんだけどね。
「……そうか」
そう続けた彼に、僕は少し悲しくなって。
でもなんだか、
『本物になれない自分』が、交わらなくなることがあるのかと、そう思った。
──そんな感じで、ホモくんクライマックスシーン撮影でございやす。
撮影17日目です。
原作本編ではちょうど夜凪ちゃんが友達使ってカレンという友達を想像していたあたりの日程ですね。ちょうど修羅場がガチガチになり始めていたところです。……元々のチャートでは、同じような日程のはずだったんですけど……どうしてこうなったのか……。
それはさておき。アキラくんがチヨコエルとゴジラの関係をホモくんに聞くなんて結構珍しいパターンですねぇ。これは成長の証……おめでたいです。ありがとうウルトラ仮面! その調査でホモくんの矛となり盾となってくれ!(人間のクズ)
話を戻します。
ということで、デスアイランド編、ホモくんのクライマックスの撮影ですねー。いやぁ、確実にS評価を取らないとと思うと震えが止まりません……。
話の筋としては、チヨコエルとゴジラとホモくんの3人が一緒にとる激アツシーンの一つとなります。地獄じゃないか(涙目)。今までの試行通りにいけば、というかゴジラorチヨコエルの好感度調整ミスってなければ割と順当に終わるシーンでもあります。
このシーンの流れとしては、これはホモくんにカレンとケイコの殺害予告が出て、これをなんやかんやしてホモくんが自殺するというものです。散々ぶちかまして死ぬだけとかなんて最低なんだ……え、ブーメラン? なんのことだかなぁ。
なので好感度調整ミスってると、夜凪ちゃんが大発狂ゴジラとかしてしまうシーンな訳です。爆弾すぐる……。これをうまく解決するために、チヨコエルの助力が必要不可欠なわけです。
まあでも、昨日の会議的にチヨコエルやってくれそうだから勝ち確だなガハハ。
…………ハァ。
星くんもどこか行ってしまいましたし、さっさと準備を済ませてしまいましょう。
気合いです気合い。
これさえうまく乗り切れば、デスアイランド編も終わりが見えてきます。
「百城さん」
>笑顔で小さく手を振ってこっちに来る千世子。この陰りのない素敵な笑顔の裏に映画に対する熱い思いをたぎらせていると思うと、俺も失敗できないなと、首元のチョーカーを触った。
「今時間大丈夫? ちょっと聞きたいんだけど、いいかな」
>あなたはなんの用かと聞き返そうとしたが、それよりも先に千世子が口を開いた。彼女らしくないな、──そう思ったが、まあ何かしら事情があるのだろう。
>チョーカーから手を離す。軽いため息と共に、あなたは口を開いた。
「恋をしたコト――好きな人って、いたことある?」
「……こい??」
う……ん……??
koi
濃い……ですか……
濃い
色や味の程度が強い。色が深い。「―緑」。味が強い。
「―塩味」
え、そんなこと言ってる場合じゃない?
それな?(他人事)
感想くれたらパワー増して次話投稿できるカモ……
ギャンブル
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銀河鉄道編メイン
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とりあえず先進めて修羅場やっちゃう