「……落ち着いた?」
「うん、少し……」
自動販売機の横のベンチに腰を下ろす。
ひとしきり泣きじゃくって、少しは平静を取り戻した私は、元輝くんに連れられてリビングルームに来ていた。
近くの窓を見ると、台風の豪雨が窓を叩いていた。
せっかくちゃんとしようと思った矢先、こんなとこを元輝くんに見せてしまった。……父親のことになると、過呼吸気味になってしまうのは、まだ治ってなかった――というより、それと元輝くんを被せようとしたのが、原因ね。父親の話をしたって、こんなことにはならないように、一年前くらいからなっていたはずなのに。
「……ごめんなさい、迷惑かけちゃって」
「おう」
「だめね、わたし」
少し、思考に耽る。
手塚監督の言う千世子ちゃんは、天使だって、言ってた。
スタッフの労力、ファンの期待、自分が費やしたコスト、自分にかかっている、社会的な彼是。それらを全て包み込んで、なんとかするために、天使になったんだって。
「もときくんは、つよいね」
「……そう、か?」
千世子ちゃんと、元輝くんは。少し似ている気がする。
環境が、今の千世子ちゃんを作りあげたように。
今もみんな、千世子ちゃんが『天使』であることを、当然のように思って。それに肖っている。
茜ちゃんとの演技の時、千世子ちゃんの仮面が、見えた。
元輝くんとの演技の時、その下には『百城千世子』がいたのが、見えた。
カレンの仮面の下には百城千世子がいて、その奥にいる、千世子ちゃんが、わからなかった。
全部仮面だったら、って考えると。
私は怖い。
元輝くんも、似た仮面を被ってた時期があったのを思い出した。
人目を気にして、全部環境のせいにして、でもそれを全部受け止めるために、強くなっていて。……でも、何年か経って。徐々にそれも。元通りになっていたけれど。
いつだって、寝て起きた時だって、千世子ちゃんは千世子ちゃんだ。
でもあれが仮面だと分かった今、私にはそれがすごく怖い。"百城千世子"の仮面を付けたまま寝て起きて、仮面を付けた状態で過ごし続けるのに……いったい、どのくらい練習したんだろう。
ああはなりたくないと、思ってしまっている。
なれって言われてもきっと無理。
でも、私が一番強く思ったのは、『可哀想』という感情だった。
あんな風になれないと、『百城千世子』として認められないのは。
あんな風にじゃないと、作品を売れるようにできないのは。
一番多くの重荷を持ってる彼女を――なんで周りの人は、可哀想だと思わないの?
何かしてあげたいと、そう思う。
「ね、もときくん。
聞きたいことがあるの」
色々なことを、話した。
仮面が好きになれなかったこと。
千世子ちゃんを可哀想だと思ったこと。
自分から孤独になろうとしている千世子ちゃんに、元輝くんを重ねてしまったこと。
全部、片っ端から話した。
「――千世子ちゃんを、かわいそうだと思ったこと、ある?」
「ないよ」
「え」
元輝くんは手に持った缶の紅茶を一口含むと、
「
そう、なの? かしゃりと何か音がした。元輝くんが一瞬そっちを向く。
まあ、と口を開いた。
「彼女はプロだから――でも、天使だけってわけじゃなくて、人間さ。俺らと同じで。
……まあでも、それを知ろうとしたことは、一歩成長じゃない?」
成長?
「そう。成長。千世子さんのことを全然知らないことに気付いて、知ろうとしてるんでしょ?」
「うん、そう。私、気付いたの」
じゃあ出きてきてるよ。墨字さんも言ってただろ? そういう元輝くんに言われて思い出す。
「不知の知、ってことかしら」
「さすが」
時代劇のエキストラで撮影をやった日に、柊さんと黒山さんが言っていたコト。
感覚的にしか分かってなかったもの。
不知の知――
確かに私は、千世子ちゃんのことを全然知らないということを知った。
そうだ。
知らない私がいたように。
私の知らない千世子ちゃんも、いる。
私の内側の側面を全て私が知らないように、私のことすらわかっていない私が、千世子ちゃんを知った風に思うのは、筋違いだわ。
「ね、元輝くん。千世子ちゃんのこと、教えてくれない?」
「俺が知る範囲でなら」
元輝くんはそう言いながら、千世子ちゃんの凄さについて話してくる。
なんだろう。――そうね。うん、役者として。
こんな顔で語られる人間になってみたいと、そう思った。
クライマックスから始まる実況、はーじまーるよー。
そんなこんなでラストカットの撮影です。
うーんまた台風。なんやこれやってんなぁ。知ってたけど。
この台風、どーにか避けられないかということで、監督ルートで走ってデスアイランドの撮影の日時や場所を変えてみたんですが変えれば変えるほど勢力増して帰ってくるんですよねえ……(8敗)。場合によっては洪水に飲まれてお陀仏エンドもあるので正直1番の殺人鬼的な役割を持っているのがこの台風になります。なんだお前リベンジ◯ルノか?(違う)
まあというわけで、日程が原作通りに進んでいてもいなくても、この2人の演技は必然的に起きるわけですね。スターズ所属の監督とかプロデューサーをずらすことで無くしたりもできますが、景ちゃんの成長の阻害面で実績解除以外で使ってる走者は見たことないですねえ。
>あなたは激しい風と雨に打たれる百城千世子と夜凪景を中継越しに見る。
>カチンコの音と共に、セリフを発した2人。そのまま、山を駆け上がっていく。
>今までの景の演技とは比べ物にならないレベルの精度――何かを掴んだらしい。
「……やっぱり、すげぇな」
「芝居とは思えへん」
>ただ、それは主演を霞ませる演技。
>負けないよと、千世子が言った気がした。あなたは前のめりになって、カメラの画面に注力する。
ここからです。
景ちゃんの本気の演技と、千世子ちゃんの本気の演技が始まります。ここを見逃したりするとチャートが崩れるわけです。――おい頼むぞ、ここで変な演技したらお前らぶっ飛ばすからな(人間のクズ)
>進もうと。百城千世子の手を夜凪景が掴む。そこから垣間見えるのは恐れだ。友人が死地に行こうとしているのを止める――ケイコとして、最も自然な行為。
>驚いた表情を見せることもなく、千世子が景を励ました。
「ケイコ、大丈夫」
「……うん!」
ヨシ!(現場ネコ)
これで完璧です。このまま2人の演技を見て、濁流で流されるとこまで確認しましょう。これで晴れて両演技術の値が基準値までは到達するでしょう。
これでスキル値的には十分なので、あとは習熟度を上げるターンですね。一つデカめのドラマの主演を取る必要がありますねー。今回のチャートですと劇団天球――銀河鉄道への参加は難しいので他の部分で経験値を取得する必要があるわけです。
あとはそうですね。これとは別にバラエティ関連の能力値もあげなきゃですね。トーク術とか色々入り用ですからねー。人脈が命って、それどこの世界でも言われてるから。
いるだけでウケるとかなんとかなる威圧感含め王賀美陸くらいいりますから、そのタイプは今回のチャートでは採用してません。まーウチのホモくんじゃ人生5周くらい掛かりそうですけど(5敗)。そろそろラジオとかも仕事とれたら熱いんでどっかに掛け合ってみましょうか。
おっと、そんなこと考えてる間に名シーンです。見逃すなよォ。
>千世子の足が水に飲まれた。体勢が崩れる――その前に、景によって突き飛ばされた。景が林の向こうへと消えていく。
「ケイコ!!」
>あ――と。
>千世子から台詞が出てこない。仮面が崩れている。ぐちゃぐちゃに。元の人間性が垣間見える。ソレは、作られた涙ではなく、本当に悲しい時に出るモノだった。
「……ありがとう」
ヨシ(現場ネコpart2)
それじゃあ景ちゃんを迎えにいきましょうか。
>あなたは手塚監督のカットを確認すると、すぐさまテントを飛び出し夜凪景の下へ駆け出した。
場所は分かってるんで邪魔すんなよォ!?
「ちょ、元輝! 待ってって!」
「俺たちもいこう」
「せやね、いそご」
>あなたが駆けつけると、百城千世子たちに囲まれた夜凪景がネットに引っかかっていた。
「千世子ちゃん、私…顔ケガしてない?」
「してないよ――女優だもんね」
ほいほい。
ほなこれでデスアイランド完結でございます。
さて、これで次回から銀河鉄道な夜周りについて処理していこうと思います。
デスアイランド撮影、最終日。
打ち上げ会場から離れた場所に、千世子と景はいた。後ろの方で元輝くんたちが大騒ぎしているのが聞こえる。
「ふふ、みんな楽しそうだね」
「そ。そうね! 私もそう思うわ! 千世子ちゃん!」
「そんなに怖がらなくてもいいんじゃないかな……?」
え、あ、そう? と何故だか戸惑っている景に千世子はクスリと笑った。
夕焼け空はもう落ちて、空に星が輝き始める時間帯。千世子は打ち上げに付けたピアスを一撫すると、海辺に立っている岩に飛び乗った。くるりと、回ると、景へと視線を向ける。
「夜凪さん、前にさ、私と仲良くなろうとしてくれたよね。あれって、演技をするためだった?」
「……それ、は」
言葉に詰まる。
――でもなんだか、正直に言わないと負けた気がすると。景の本能が告げていた。
「最初はそうだったわ。全然、千世子ちゃんのことがわからなくて、演技をするために仲良くなろうって思ってたの。
でも、知れば知るほど、千世子ちゃんが、映画のために頑張ってるのがわかって、だから――そこからは、友達になりたかったんだと、思うの」
「そっか」
あれだけ憎いと思っていた景と、こうして普通に会話できているのが、なんだか少し不思議だと、千世子はふと思う。
「あの夜に撮った映像、夜凪さんは観た?」
「う、ううん。ず、ずっと寝てたから」
「私さ、思わずケイコって呼んでたよ夜凪さんのこと。ああいうのを芝居って言ってたんだね。自分でもびっくりしちゃったよ。あの時の私、顔ぐちゃぐちゃで超不細工でさ」
言葉とは裏腹に、千世子の顔はすがすがしいものがあった。何かに、ケジメをつけたような、そんな覚悟のある表情だ。
「あの時の演技、すごくよかったよ。ほんとに、デスアイランドにいるみたいだった」
だから称賛の言葉も、驚くほど自然に喉から出た。
千世子がふっと、岩の上から飛び降りて、景の横まで歩いてきた。
「あの時の演技……自分でも見返して、びっくりしちゃったんだ。
でも案外、私の横顔もきれいだった。だからありがとう。私の芝居はもっと良くなるよ。あなたの芝居を盗んじゃったから」
振り返って笑うその表情はいつもより少しあどけなくて、本当に嬉しそうで。
千世子の素顔の一面が、ふと顔を覗かせたような、そんな気がした。
風に揺れる髪に手を当てて、視線が自然に上を向く。
「正直ね、わたし、夜凪さんのお芝居に、引っ張られたの。
すごくおもしろい子だよね、夜凪さん。
接している内に、元輝くんがどうして夜凪さんのことを大切にしてるのか……なんとなく、わかっちゃった」
それは……なんか、嬉しいようで困るような、複雑な気持ちだ。夜凪はなんとも言えない気持ちになった。
元輝くんのことを知ってもらえるのは嬉しいんだけど、なんと言うか、それは私だけが知ってたものというか。……うーん、どういうことなのかしら。夜凪は狐に摘ままれたみたいな顔をした。
クスクスと、そんな表情の景に笑いながら、千世子は言葉を続けた。
「だから、ごめんね」
「? なにに謝ってるのかしら、それって」
「いろいろ」
真っ直ぐに景を見ながら、千世子は言った。
「これはね、宣戦布告だよ」
ポツリ、と。でも、はっきりと
景に向かって話しかけている、というよりも。
それは、自分自身に対して独白しているかのように、淡々と並べられる言葉だった。
「わたし、夜凪さんと一緒に演技をして気づいたの」
力強く、決してブレることのない、
「わたしの芝居は、もっと上手くなる」
それは自信と信念に裏打ちされた確信。
今までの百城千世子の否定でもあり、肯定。
千世子が景と共演したことで得た進化のためのピース。自分の芝居に疑問と、景のブルドーザーみたいな演技があったからこそ得られた自分の芝居の可能性。彼女が演技というものを大事していたからこその、百城千世子としての『演技』
手を伸ばしていたからこその、新しい世界。
「――だから、うかうかしてると、追い抜いちゃうよ、夜凪さん」
次はデート編です。阿頼耶節むずすぎてキレながら執筆してます。
感想ください(感想乞食)(土下寝)(五体投地)
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