アンケート、感想ありがとうございます。励みになってます。
修羅場タグがアップし始めたので実質初投稿です。
scene7『デスアイランドと配信ガール』
『スターズ主催、映画『デスアイランド』は24名の若手俳優を起用します。現在発表されているように、私を初めとしたスターズの俳優が務めますが』
『残り12名は、一般オーディションから募ります』
『皆さん』
『──私達と一緒に映画を作りませんか?』
「面白ぇじゃねぇか」
──ガリッ。
俺は舌で転がしていた氷を噛み砕き、口に満ちる塩素特有の苦味を麦茶で流し込む。ディスプレイから発せられたブルーライトを浴びながら、運が回ってきやがったと薄く笑った。
スターズ主催──この撮影、なんとかして夜凪をねじ込みてぇ。
……黒山墨字の名前に力はない。権力のあれこれからは死ぬほど遠い俺だ、夜凪をキャストに入れるように手配する権威なんざ持ってねぇ。精々俺が持ってるのは世界一の映画を撮影する能力と数えられる程度のコネ、ついでに元輝をオーディションにぶち込むことくらいのもんだ。
「切り口をどこに見出すかが問題だな」
スターズ主催『デスアイランド』
主演・百城千世子。監督・手塚由紀治。集A社のコミックが原作の映画作品。
一般応募の俳優12名と、百城千世子を筆頭とするスターズ俳優と共演可能とかいう奇跡みたいなチャンスだ。こいつを逃す手はない。
百城千世子の技術を。穂村元輝の技術を。
そして俳優21人分の技術を夜凪に一気に吸収させる。
今の芸能界で主演助演という関係性で夜凪景と真っ向からやり合えんのは、同年代じゃ百城千世子と
この機を逃せば夜凪を一気に成長させるチャンスはいつ来るか分からん。
「だが何の手も打たずにババァの監視を抜けられるとは思えねぇ」
どうやって書類を通す? どうやって映像審査をクリアさせる?
スターズオーディションで夜凪を落としたのは
監督の手塚には夜凪景を真っ当に評価しろと言ってあるが、手塚が肩入れできんのはアイツが直接選ぶ第三次審査からだ。
手塚があの面白味のねえやり方を変える気がねぇ以上、一次の書類審査と二次の映像審査はどうにもならない。
「何かねぇか」
何か。何かだ。
星アリサを説得するだけの材料がいる。
星アリサに、『夜凪景』という女優の幸せを認めさせるだけの何かがいる。
対価を渡すか? いや、この短時間じゃ星アリサが納得するだけの代物を用意できる算段がつかねぇ。それじゃあダメだ。
くそ、ここで賭けに出るのは些かリスキー過ぎる。このチャンスは逃すわけにはいかねぇからな。
──落ち着け。
視点を変えろ。単一の考えだけに囚われるなよ黒山墨字。
目的は星アリサの説得じゃない。夜凪景が映画の撮影に参加できるということだ。そこを間違えるな。
「……」
そうだ。単純じゃねぇか。
「
百城千世子に夜凪景を認知させる、それが一番手っとり早いな。
その為には──いや、それだと百城千世子と共演する必要が出てくるな。クソ、振り出しかよ……あ?
ピロンっという気の抜けた通知音と共に画面が点灯した。送り主は柊だが、どうせ夜凪が問題でも起こしたとかそこらだろう。アイツはトラブルメーカーの気質があるから──
「……なんだよ、丁度いいのがいるじゃねぇか」
送付されたインターネットのリンク先。
くだらない芸能ニュースしか取り上げねぇ、スターズ派閥のウェブニュースのまとめサイト。
その見出しを見た俺は、思わず口元を歪めた。
「なぁ──元輝」
「「「乾杯」」」
洗濯男の撮影終了後。時刻は夜六時を回ったところ。
私は元輝くんとアキラくんと一緒に食事に来ていた。撮影の打ち上げ兼顔合わせみたいなものだ。元々は元輝くんと初共演だったアキラくんが彼との親睦を深めようと思って食事に誘っていたところを私も飛び入り参加して、結果として三人での食事会となった訳だ。
場所は赤坂の焼き肉屋さん。アキラくんが店員に何品かオーダーしている。烏龍茶の注がれたグラスを両手で包み、ことりと傾けながら対面に座っている元輝くんを見る。こうしてみると、小さい頃の元輝くんから大きくなってもそのままだというのがわかる。
「焼き肉久々」
「…………」
「……? なんか俺の顔に付いてますか?」
元輝くんの横顔は、役者の横顔だ。
人の視線に晒されていることがわかっている、そういう代物。
黒山墨字の作品に出ていた時の彼の面影を残した彼の横顔を見ていると、視線に気付いた彼がこっちを向いた。ボリボリと頬を掻きながら困ったように僅かに目尻を垂れた。演技していない時はあまり表情は大きくは変わらないけど、目尻や眉、口元とかにすぐ感情が出てくるから意外と分かりやすいのだ。
「なんでもないよ。というか私の方が年下なんだから敬語とかいいのに」
「そういう訳にはいきませんよ」
芸歴って命より重いですから。そういってコップを傾ける彼に、私はくすりと笑った。
ノックと共に、牛タンやハラミ、ハチノスといった色々な種類のお肉が小皿で運ばれてる。アキラくんがそれを受け取り、元輝くんがそれを焼き始めていく。ジュウッという肉の焼ける音がよく熱せられた網から発せられた。
その僅かに緩んだ横顔を見ながら、程よく焼けたお肉をつつく。
元輝くんの隣に座ったアキラくんが、トングでくるりと小さく手元で回転させながら、
「そういえば元輝くん、さっきの撮影で愚痴ってたのはなんだったんだい?」
「あー、あれか。幼馴染みが知らない間に芸能界入りしててちょっとな」
「なるほど。……じゃあ撮影で一緒だったのかい? 復帰してからそんなに経ってないだろう?」
「まあそんなとこ。一緒だったというか……全任せというか、意図してない交通事故みたい……」
「意図してない交通事故ってなんだいそれ」
「あるだろ、意図した交通事故」
「いや、ないんじゃないかな?」
……幼馴染み? そんな話は聞いたことがない。
記憶の引き出しから元輝くんに関する情報を探し出してみてもそれといった話は出てこない。三日前に電話した時も、特にそれといったことは言っていなかったから一昨日あたりに遭遇したのだろう。なんだか嫌な予感がして、私はハチノスを小皿に移しながら、
「どんな子なの?」
「なんていうか、ブルドーザーみたいな奴ですよ。俺とかとは大分違う演技する役者です」
「へぇ」
「ブルドーザーって……」
元輝君は目がいい。私が『百城千世子』という仮面を作り上げ、維持するためにどれだけの費やしている労力を一度の共演で見抜けるほどに、彼は才能や努力に関してとても目がいい。
何者よりも正確で、過大も過小もなく。
彼の目は本当に正確だ。正確に正当に、私の仮面を受け止めてくれている。
「でもたぶん、百城さんとはいいライバルになれるんじゃないですかね」
個人的な意見ですけどね、と付け足して元輝君はカルビを頬張った。
……ふーん。
なんだろう。『百城千世子』という仮面ごと私を認めてくれている元輝君が、誰か知らない役者を褒めているのをみると。
ちょっと、ほーんのちょっとだけど、イラッとする。
「元輝くん、ひょっとしてその役者って……」
「堀くんは自分のスタンス見返すと化けると思うよ」
「最後まで言わせてくれないし僕の名前は星アキラだ」
アリサさんから、穂村元輝をスターズに来させることは了承を得ている。その為なら、ある程度のことまでなら許容するという許可も取って来ている。
元輝君の親戚は
スターズに入るように外堀を埋めていく──というのが今のところの方針だったのだけど、なんだか嫌な予感がする。
元々はと言えば、今日私が同席したのも元輝君に『デスアイランド』のオーディションを受けるようにしてもらおうというのが理由の一つでもあったのだ。
だから、これは、ちょっとした悪戯だ。
さて、と。
デザートの苺のジェラートも食べ終わり、食後のコーヒーを嗜んでいるころ。私は徐にスマホ用のミニ三脚を取り出した。くるりと二人の方へと振り返って、
「せっかく三人集まったから、ちょっとだけ配信していいかな。十分くらいの雑談配信なんだけど」
「……僕はいいけど、マネージャーから許可は取ってるのかい?」
「大丈夫だよ、アリサさんから許可貰ってるから」
「……母さんが?」
「元輝君は大丈夫?」
「んー、……問題ないです。大丈夫ですよ」
「よし、じゃあっと」
カチャカチャとアダプター部分にスマホを接続した。私がいつも配信で使っているアプリを立ち上げる。手早く配信の準備を整えながら、配信履歴を見た。この前のドラマ以来だから、一月半ぶりくらいの配信になる。
「……こんばんは。突然始まることもある、ゲリラライブです」
『こんばんは!』『この日のために生きてた』『千世子ちゃん可愛い』『相変わらず可愛い』『絶景や』『お店かな?』『告知見たよー』『というかCALPICEのCMがヤバい』『わかる』
ピロンッという気の抜けた音共に続々と、コメントが流れ始めた。
幾つかのソレらをピックアップしながら今日の視聴者のテンションを算出していく。……うん、問題ないかな。
私は口元に微笑みを湛えながら、私一人が写り込むようにカメラを調整する。そのままの流れで視聴者のみんなに小さく手を振った。
「みんな久しぶりだね」
『久しぶり』『久しぶり』『備忘録以来だから一ヶ月半ぶりか』『久しぶりだねー』『かわいい』『誰かといるの?』『Twittersから飛んできました』『ゲリラとか最強かよ』
反応は上々。
大分期間を空けただけあって人の入り具合もいつもよりいい。CMの放映とデスアイランドの告知と重なったというのもあるだろうけど、中々に好都合だ。
「今日は雑談配信だけどいろいろとお知らせがあるんだ。まず一つ目は今年度のCALPICEのCMに抜擢されたこと。もう放映されたかな?
みんなはもう見てくれた?」
『見た見た』『可愛さ天元突破してた』『僭越ながらCMから来ました』『ヤバい可愛い』『もうみた』『最高』『CMおめでとう!』『共演のイケメンもやばかったよな』『また同志が増えるぜ』『かわいい』
「二つ目が映画『デスアイランド』のオーディションの告知だよ。私も出るからみんな応募してくれると嬉しいな」
カメラの撮影範囲を逐次修正しながらコメントを追っていく。元々、今回の配信の目的はオーディションの告知と拡散だ。ゲリラ的にやっておくだけでまとめサイトに取り上げられるから中々に広告効果が強い。スターズ主催だから出来ることではあるけど。
『あざとい』『でも可愛い』『応募しちゃう』『ちょっと郵便局行ってくるわ』『馬鹿野郎応募要項はネットからだ』『可愛いは正義』
「それで最後は──今回の配信、なんとスペシャルゲストが来てます」
軽く一拍置いて期待感を高める。配信自体一つのカメラで行う撮影のようなものだから、やること自体は普段と変わらない。撮影の延長だの考えれば、いつもは全身に対して行なっているカメラワークの把握する分のリソースを、コメント欄からの『大衆』に対する統計とコメントの取捨選択に回せばいい。それで十二分に『百城千世子』を修正することは可能だ。
観客に困惑が広がっているのがわかる。それはそうだろう。
『マジかよ』『やば』『誰だ』『町田リカ?』『デスアイランド組かな』『というかゲリラ配信でゲストいるのは珍しくない?』『ゲストいるのドラマか映画の時が多いもんな』『ゲリラじゃ初めてでは?』『それな』『星アキラだな』
「みんな察しがいいみたい。じゃあ紹介するね、今日のゲストはこの二人だよ」
テンションを上げていく。コメントを見る限り男女比は五分五分と言ったところ。上出来だ。
私の目の前で、元輝君とアキラ君が薄く息を吸った。目配せ。ここのタイミングだ。カメラアングルを調整しながらテーブルの端へとスマホを寄せ、ぐるりとカメラを回転させた。
「こんばんは、スターズの星アキラです」
「新人の穂村元輝です、はじめまして」
静かに頭を下げるアキラくんと、ぴすぴすと軽くピースサインを作る元輝くん。素顔を晒した俳優二人は、くしゃりとカメラに向かって笑いかけた。
効果は絶大だった。私に向けられた視線が減り、対比するようにしてコメント欄が一気に溢れ返る。
『は?』『んんん?』『元輝くん!?』『イケメンや』『ウルトラ仮面だ!』『初めて見る俳優じゃね?』『スターズ?』『デスアイランド組じゃないのか?』『というか穂村元輝だ』『CALPICEの共演者じゃんか』『それだ』『マジかよ』『CMの俳優の人だ!』
「ということで今回のゲストは俳優星アキラくんと穂村元輝君でした。みんな驚いたかな?」
『すごい』『ヤバい』『つーかヤベェ』『画面内顔面偏差値が高すぎな件について』『ずっと見てられるわ』『わかる』『顔面国宝』『ここは博物館かなにか?』『ここが桃源郷か』
「それで、今日のゲリラ配信、短い時間だけどせっかく三人集まったってことで質問コーナーと洒落込みたいんだけど、みんなどんどん送って来てね。
二人が答えてくれるから」
「えっ、ちょっと千世子君……!」
「
チヨコエル意外とホルモン好きそうという偏見。
あと配信というトレンドにのって置きたかった(ミーハー感)
独り言がてら時系列軽くまとめると、
『scene6〜7』
10:00/夜凪景エキストラ出演、スタジオへ
11:00/洗濯男撮影開始
チヨコエルオーディションの詳細発表
15:00/洗濯男撮影小休止、チヨコエル合流(夜凪ライダーキック)
16:00/洗濯男撮影再開(夜凪"役作り"修得&カメラを気にし始める)
18:00/食事会スタート(夜凪反省会中)
19:00/配信開始(夜凪帰宅&黒山暗躍)
なんという過密スケジュール。
はたしてホモくんはチヨコエルとゴジラの間に挟まれることなくデスアイランドに入れるのだろうか……
……無理な気がしてきたので失踪します。
特に関係ないんですけど。一人称って当人が気づいてないことは書かなくていいので便利ですよね。関係ないですけど。
ギャンブル
-
銀河鉄道編メイン
-
とりあえず先進めて修羅場やっちゃう