【pimp】
1.誘惑する
2.客引き
アメリカスラング。最近ではもっぱら"女たらし"の意味のスラングとして使われる。また、クールという形容詞としても使われることがある。
「すごいなけいちゃん。本当に最後の12人に選ばれちゃうなんて。書類審査の段階でアリサ社長に落とされそうって思ってましたけど。どんな不正使ったんですか?」
「大したことはしてねーよ。真正に審査しろって話しつけただけだ」
夜凪がデスアイランドオーディションに合格した。
予定通りうまくいったな。書類選考と映像審査に関しちゃあ高々仕事一つ増やして千世子の敵対心を煽れば万事解決と言ったんだから、この前のwebCMもクソみたいな案件だったが偶には役に立つもんだ。
「今の
手塚か……、アイツ思ったより酔狂だな」
氷を噛み砕く。コレで夜凪に千世子の技術を盗ませられると思わず笑みが浮かんだ。
……悪くねぇ。悪くねえ流れだ。上出来と言ってもいい。
「あ、元輝くんも受かってたんですね」
「馬鹿か、アイツが落ちる訳ねぇだろ。俺の甥だからな」
「ソレが一番の不安材料でもあるんですけど……」
千世子の俯瞰技術──
一つの『目玉』だけじゃなく、多くの視点を意識することで"他者から見える自分自身"を把握し、撮影の全体像を俯瞰する技術。
コイツを夜凪に覚えさせる。
アイツには末恐ろしいほどに"周りからどう見られてるか"っていう視点が欠落してやがる。あのレベルまで一切の俯瞰視点を持ってねぇってのは一周回って才能だろうな。
残念だが、俺は演出家であって役者じゃねえ。だから欲しい演技があっても、それを出来るようにする為の技術を教えることは出来ない。夜凪自身にその技術を盗ませる必要が出てくる訳だが……。
この前の撮影で元輝の演技を見れたのが功を奏したな。
元々は夜凪に習得させようとしてたのは『芝居をする自分』と幽霊のように『自分を見下ろす自分』に意識を分ける"幽体離脱"みてぇなモノだったんだが、夜凪と元輝の反応を見るに、恐らく夜凪に適してるのはアンカーポイント*1の類に属する俯瞰系──分かりやすく言えば三人称視点での
自分の持つ二つの目玉と思考だけで周囲を把握する主観的な俯瞰ではなく、所謂『神の視点』──全てを別の視点から把握して俯瞰を構築する三人称視点での俯瞰。
千世子の技術とか元輝が最近やってるのがコッチの視点になる。
全力で演技をする夜凪と、ソレを把握してコントロールする俯瞰。
コレを夜凪が手に入れられればとんでもねぇメソッドアクターが出来る。客観性のあるメソッド俳優は強えからな。レオナルド・ディカプリオ*2とかがその最たる例だ。
……しかし。
正直言って、この俯瞰技術という点じゃあ夜凪は千世子に勝てねえだろう。自分の目玉を捨てて、客観的な美しさだけを求めて自己を排した"作品"の為、"大衆"の為のプロの演技。
メソッドアクターである夜凪が、プロである千世子に勝てる見込みは正直薄い。
だが、アイツらの技術を盗んで物にすることは出来る。
足元に何があるのか。
カメラの撮影範囲に自分がどう写っているのか。
周りの人はどう動き、自分自身がソレにどう対応すべきなのか。
俯瞰視点を手に入れられれば、そういういろんなことを処理して、理解して、
「盗めるもんは全部盗ませる」
面白え。
撮影現場には元輝もいる。つまり夜凪が何やらかしても何とかなる。つーか何とかさせる。アイツの苦労とか知ったこっちゃねぇからな。
「……面白えことになってきたな」
「なにが面白いのか知らないですけど、すっごい悪どい顔してますよ」
「…………どうも」
「お、お邪魔します……」
夜凪邸からお送りしています。スタジオ大黒天所属の美人制作担当こと柊雪です。
なんでけいちゃんの家に行くことになったのか──理由としてはそんなに難しくはないです。
けいちゃんの高校は正当な理由があると認められれば公的欠席として認定されるとの校則だったのですが、今回のCM撮影やデスアイランドのオーディション合格などの"実績"が出来たので、無事ある程度の欠席は証明書があればどうにかしてくれるとの運びになりました。
これで気負いなく女優を演れることになったのは喜ばしいことなんだけど……。
とはいっても高校も学業施設、補填も何もなく芸能活動を許可してくれるほど甘くはなかった。
公欠の影響が出てきてしまいました。
けいちゃんが休日に学校に出席する必要が出てしまったのです。補習という形で単位の取得を許してくれたとはいえ、けいちゃんには夜凪家の家主としての仕事があります。
なので"休日に家を空けなくてはならないが、二人をそのままにしておけない"という熱い要望をプッシュ。複雑な家庭状況というのもあって、私で良ければ一助になりたい、と。
そんなちょっとしたお姉さん心でルイ君とレイちゃんたち夜凪姉妹の面倒を見に来たんだけど……。
「粗茶ですが」
「いえ、お気遣いなく……」
「粗茶でごめんなさい……」
「どゆこと……?」
なんでこうなったの。
ルイくんが頭に乗った状態のまま、特に大きく表情を変えることなく緑茶を出してきた青年──墨字さんの親戚とかいう謎の経歴を持つ俳優、穂村元輝を見ながら思わずそんなことを考える。この意味がわからない状況に頭を抱えたいというのが正直な所だった。
……そういえば、景ちゃんから幼馴染みに一応連絡は入れたとは聞いていたけど。まさか本当に彼がいるとは誰が予想したのか。少なくとも私にはわからなかった。むしろわかる人がいたら呼んできて欲しい。
「あ、おはよーございます柊さん。
兄ちゃんごはーん」
「今から作るからちょっと待て。なんか食べたいもんあるか?」
「チーズケーキ!」
「今すぐは無理だ。今度作ってやる。
……まあ、適当に作るか」
時刻は8時30分を回った頃だ。
バッと背中に飛び乗って、むにむにと後頭部から伸ばした手で元輝くんの頬をびよーんと引っ張ったり伸ばしたりするルイくんに僅かに口元を綻ばせる。
よいしょと元輝くんが自分の顔で遊んでいたルイくんを持ち上げて横に置くと、ちゃぶ台の前に座っていた私に目を向けて、
「朝ごはん食べました? 2人に作るから、まだ食べてないんだったら用意しますけど」
「う、ううん。別にお気遣いな──」
ぎゅるる。
小さく音を鳴らしたお腹を押さえる。目を白黒させながらも目の前の元輝くんを見ると、わずかに眉を上げた後にくすりと僅かに微笑みながら、
「準備しますね」
「……はい、お願いします」
恥ずかしい。年上だからって張り切ったばかりに結構な恥をかいてしまった。超はずかしい。
羞恥の余り耳朶を赤く染めている私の前に座っていた元輝くんが腰を上げ、昔ながらの台所に向かった。ぶんぶんと頭を振って元輝くんの後に続く。
「何か手伝えることある?」
「そんなに手間かからないんで大丈夫ですよ。お客様なんですし」
「まあまあそう言わずに」
気にしなくていいのに、と言いながら元輝くんは冷蔵庫の中から卵を取り出した。慣れた手つきだ。
小皿に卵を三つ入れると少量の水と砂糖、塩を手早く加えて菜箸で掻き混ぜた。片手間にグリルに余熱を入れながら、キッチンペーパーで銀鮭の水気を切って軽く塩を振る。
……ダメだ、手際的に私より料理上手いやつだ。南無三。
元輝くんとの間にわりと高く聳え立っていた女子力の差に打ち拉がれた私は、取り敢えず何かしようと卑屈になりかけた思考を元に戻す。……うん、私は味噌汁でも作ればいいかな。お米も炊いてあるみたいだし。
というか手早く私が作れるのもそれくらいのものだった。悲しいがソレが事実である。
鍋に水を入れ、顆粒だしを加えて火にかける。豆腐を1cm角に切り揃えた。具材は豆腐にワカメと王道でいいだろう。
せっせと調理を始めていると、元輝くんが私の方を横目に見た。
なに? と元輝くんの方を見返すと、なんでもないですと言いながら、元輝くんは私の調理してる様子をこれといって気にした様子もなく視線を手元に戻した。予熱の終わった魚焼きグリルに鮭を四切れ並べる。グリルの火力を調整、キッチン下の収納棚から卵焼き用の四角いフライパンを取り出して、コンロの上に乗せて油を引いた。
好奇心旺盛な年頃なのか、ひょっこりと台所に顔を出していたルイくんに危ないからちょっと離れろと言いながら、手首を回して油を全面に回らせる。卵液の三分の一くらいを菜箸に伝わせてフライパンに注ぐ。ジュという音と共に薄く卵液が広がっていく。
……うん、泣ける。
年下の男の子に調理スキルで負けてるのは中々心にくるものがあった。
「レイはどうした? もうすぐ準備できるんだが……」
「兄ちゃんに別の女の匂いがするって。よくわかんないけどシャワー浴びに行ってるよ」
「……いや、何を言ってるんだアイツは」
ボディーブローのような精神的ダメージをひっそりと受けつつも、私は切り揃えた具材を加えた鍋に味噌を溶かした。
隣ではもうすぐ朝ごはんだと知らせといてくれ、と元輝くんもルイくんに指示を出しながら焼き上がった銀鮭を皿の上に載せ、黄金色の卵焼きを添えていた。
……よし、出来た。軽く味見して出来栄えを確認する。大丈夫だろうと判断。味噌汁を注いだお椀をちゃぶ台の上に配膳していると、隣の元輝くんもさっさとお米をついで、鮭と一緒にちゃぶ台に並べていた。
メニューは焼鮭、味噌汁、ごはん。それと元輝くんの父親が送ってきたという東北名物(らしい)牛タンのしぐれ煮だ。
さくっと作った割には中々の品揃えだと思う。
「あ、柊さん。おはようございます」
「うん、おはよーレイちゃん」
よし、と静かに達成感に包まれていると、ホカホカと湯気を立てたレイちゃんが現れた。
僅かに湿気ったけいちゃんよりも色素の薄い髪の毛をヘアゴムで結んでいる。将来有望な幼なさながらに目鼻立ちの整った彼女は、麦茶を注いでいる元輝くんを見て、
「お兄さん、昨晩はお楽しみだったんですね」
「……? ……いや、何の話だ」
「……ふーん。やっぱり男って勝手ね。さいてー」
「変な言葉を覚えるんじゃない」
「さいてー」
「ルイ……」
さっさと準備してご飯食べるぞ、と元輝くんが二人をちゃぶ台へと促した。
グラスに入った麦茶を受け取りながら私も席に座る。向かい側に元輝くんが座り、私から見て左にレイちゃん、右にルイくんという形になる。
「じゃ、てをあわせて、いただきます」
「「「いただきます」」」
ルイくんの言葉に従って私も手を合わせた。
さくりと香ばしく焼き上がった鮭の身をほぐす。久々にここまでしっかりした朝ごはんだった。脂の乗ったソレをご飯の上に載せて頬張っていると、対面に座っていた元輝くんが私の方を見ながら、
「それで柊さんはどうしてここに?」
「けいちゃんから話聞いてない? 二人を置いていけないから面倒を見にきて欲しいって頼まれたんだけど。
というか私的には元輝くんが来てたことの方が驚きだよ。結構忙しそうなのに」
「俺と景は幼馴染みですからね。アイツの頼みは断れないですよ」
ルイとレイを二人だけにしておく訳にはいきませんし、と続けながら元輝くんはしぐれ煮をご飯の上に載せた。
その横で卵焼きを頬張っていたルイくんが、にっとどこか得意げな笑みを浮かべながら、
「兄ちゃんはお姉ちゃんに頭あがんないからなー」
「……そうなんだ。元輝お兄ちゃんってよくここに来るの?」
「たまにですけどね。お姉ちゃんがバイトで忙しかったりした時とかはお兄さんがご飯作りに来てくれるんです」
「ふーん?」
相変わらずのポーカーフェイスを貫く元輝くんを見遣ると、素知らぬ顔で味噌汁を啜っていた。
「懐かれてるんだねえ元輝くん」
「そんなことはないですよ」
緊張、している気がする。
……ううん、やっぱり緊張してないかな。こういう状況だと、きちんと緊張していた方がいいのかしら。
私、茜ちゃんにちゃんと謝れてない。ごめんなさいも聞いてもらえなかったわ。まだ役者として認められてない。
コレじゃあ私ちゃんと茜ちゃんと共演できないわ。
共演者として認められるように、頑張らないと。
ギシリと映画で見たよりも安っぽいイスを少し軋ませながら横を見る。右には真咲君、茜ちゃん、武光君が座っていて、左には私と同じオーディション組の人が七人座っていて、一番端っこに掌に顎を乗せた元輝くんがいた。くあ、と元輝くんが小さく欠伸をして、チラリと私の方を一瞥した。小さく手を振ると、ちょっとだけ口角を上げながらも元輝くんはそのまま前を向く。……いつもより表情が固い気がする。元輝くんも緊張してるのね。
他の俳優の人たちも、みんな私と同じくらいの年齢だった。デスアイランドのキャラクターはみんな高校生くらいって話を聞いたけど、キャストもその年齢に合わせたみたい。
……今日、私は天使に会える。
どんな人なんだろう。私とは全然違った演技をする『スターズの天使』。
全然顔が見えないのに、どこまでも人を惹きつけて魅了する、とても、とても素敵な仮面。
百城千世子──どんな演技をするのかな。あんな綺麗な仮面を、一体どうやって創ったのだろう。
私にないモノを持っている彼女は、一体どんな人なんだろう。
……幽体離脱できるって本当なのかしら。
でも、どういうことなんだろう? 天使に会えるって思って楽しみにしてたのに、スターズの役者さんは誰も来てないわ。監督はきてるのに。どうして?
「ごめんね皆!
せっかく時間通り顔合わせに来てもらったのに。
監督がにこやかにそう言った。なんだかドラマで見るような胡散臭い格好をしてる。元輝くん曰くすごく『有能な監督』らしいけど。
でもすごく軽い男の人って感じがするっていうのが正直なところね。黒山さんよりはマシだけど。
「皆多忙でね。もしかしたら一人も間に合わないかもしれない。
ま、よくあることだし気にしないでね。どうせ現場で会えるから」
……残念。折角天使と会えると思っていたのに。元輝くん、芸能界って嘘つきがたくさんいるみたい。実は大変な世界だったみたいだわ。
天使っていえば、黒山さんは『天使は盗みがいがある』って言ってたけど、一体何を盗むべきなんだろう。技術? 態度? 他には何かあるのかしら。
「じゃ、台本を渡そうか。
監督が台本を取り出して、口元を三日月に歪めたその時。
ガチャリ、と。
ドアが開く、音がした。
「ごめんなさい遅れてしまって。これでも撮影急いで巻いたんだけど」
百城千世子。
スターズの天使。
何の演技もしていないのに、みんなの注意を引いて、彼女の虜にさせる綺麗な仮面を被った天使。
「……私以外誰も来てないじゃんスターズ。こんな日に顔合わせなんてダメだよカントク」
綺麗な瞳。目を引く姿勢。目を奪う仕草。
大きな動きを伴う派手な演技をしていないのに、皆の注意を引き付けて離さない。
顔合わせという目的があったこの部屋の中心が、百城千世子へと移動したのが分かる。上下左右三百六十度。どこから見たとしても、彼女は綺麗に見えるんだろう。ソレが直感的にわかった。
「ま、顔合わせなんてしなくても作品には関係ないからね」
「大アリだよ! 酷い監督だな。第一これじゃみんなに失礼だよ」
でも。
どうしてか、よくわからないけれど。
「改めまして、遅れてごめんなさい。
スターズの百城千世子です。よろしくお願いします」
ドアが開いたその瞬間。
今は綺麗で優しい瞳をしている彼女が。
ギラリとした。
刺すような瞳で、こちらを見ていた気がして。
嫌に背筋が冷たくなって。
なんだか、妙に嫌な予感がした。
景「天使ってどんな人なのかしら(純粋)」
千「よろしくね(宣戦布告)」
ホ「胃がいてぇよ(吐血)」
二股ムーブメント決めてたホモくん、実際は三股決めようとしていた模様。子供は勘が鋭いからね、仕方ないね。
活動報告にホモくんの挿絵投下してます。イメージ固まってる人は見ないことをオススメしますが、別にいいよという人は見てくれると作者が狂嬉します。ついでに乱舞します。
ガバの嵐なんで失踪しますね……。
ギャンブル
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銀河鉄道編メイン
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とりあえず先進めて修羅場やっちゃう