※東方小話集、「メディスン・メランコリー」のリメイクです。話の大筋は変わっていません。
※オリ主?注意。また、多分に独自解釈が含まれます
※pixivとのマルチ投稿になります。




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メディスン・メランコリー

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鈴蘭の花が疎らに咲く、小高い丘。微量の毒気を孕んだ土壌のせいか、鈴蘭を除けば雑草の一本も生えてない。日が当たるのは午後の短い間だけであり、年中陰気な雰囲気を醸している。無名の丘と呼ばれるようになったのも、その雰囲気が人を寄せ付けないために、態々名前を付けようという者が現れなかったということか。

或いは、全く人が寄り付かない、と言う訳でも無かった。今ではとっくに廃れた風習だが、ここはかつて間引きに用いられた場所であった。まだ名前も持たない幼子が棄てられる……そういった意味での"無名"であったのか。

メディスン・メランコリーの棲家は、この無名の丘そのものだ。彼女は種族:妖怪であるが、性質は鈴蘭を強く模したものとなっており、復活こそしないものの、自然の権化という意味である種の妖精だと言える。加えて、出自は道具であるので、解釈によっては付喪神と考えることも出来るだろう。尤も、幻想郷に於いては妖精にせよ付喪神にせよ人に仇為す存在であり、人里での認識は曖昧である。

 

「スーさん、今日は何しようか?」

 

新米妖怪の彼女にとって、ここは非常に住み心地の良い場所だ。今日も一面の鈴蘭と戯れる彼女は、西洋人形のような容姿も相俟って、とても可愛らしい。

鈴蘭の妖怪でもある彼女は、鈴蘭と会話する。本当に会話しているのかは定かでは無いが、傍目からはそう見えた。

 

「人?人が居るの?」

 

鈴蘭が伝えた通りの方向に顔を向ける。普段は滅多に人の通らない花畑沿いの通り道に、人間が居るようだった。

それを見たメディスンの表情が、困惑に変わり、それから悪戯っ子のような、無邪気さと明確な悪意を持ったものに変わった。

彼女が人間に抱いている感情は、憎悪と言っても良いものである。メディスンが妖怪としての自我を持つに至った原因が人間であるということは、彼女が棄てられた道具として過ごした数十年の間に、彼女自身が思い知っていた。

その怨念を原動力にして存在している彼女は、長い年月の間に積もりに積もった恨みを人間にぶつけることで、その存在意義を埋めていたのだ。

 

「どうしようかな」

 

何時も通り。まだ精神的に成熟していない妖怪によくある様に。掌に猛毒を纏わせて、迂闊な人間の元に向かう。

しかし、残り数メートルの距離まで近付いた所で、人間がそれに気付いた。

 

「あっ」

 

「やあ、御嬢さん。こんなところで何をしているんです?」

 

白髪の、穏やかそうな老人。それなりに齢を重ねてきたように見える。

声を掛けられるという、予想だにしなかった行動に、メディスンの動きが止まった。

掛けられた声に、恐怖や畏れは混ざっていなかった。自分が妖怪だと気付いていないのかもしれない。一瞬そう考えたメディスンだったが、老人が言った通り"こんなところ"なのだ。そこに居る何者かを人間と間違うだなんて、幾ら何でも無理がある。

 

「あ...あれ...?」

 

メディスンが固まってしまった原因は、意外性だけでは無かった。老人から感じた強烈な違和感。それは彼の言葉からか、声からか、それとも容姿からかは判らなかったが、彼女の動きを止めるには充分だった。

 

「……初めまして、ですか?」

殺気と毒を止めて、そう呟くメディスン。

いや、彼女は少なくとも、覚えている限りで彼に会ったことは無い。

しかし、覚えている限りでは、だ。

彼女に過去の鮮明な記憶は無い。

妖怪としての現状を良しとするメディスンにとって、恨みを重ねた期間の記憶や、妖怪になってからの記憶は自身を保つ手段と成り得る。しかし、"どうして"恨んでいるのか?"どのように"捨てられたのか?その経緯は、当時道具として、はっきりとした意識を持たなかった彼女には、知り得ないことである。

自分が道具だったときの出来事。

持ち主。

それはメディスンという"妖怪"が、知っていてはならないことだ。

妖怪は畏れを喰らう者。精神が存在の殆どを占める妖怪は、畏れを生み出す機構として特化しなければ存在を失ってしまう。どのようなものであれ、幸福な記憶を持ち続けることは許されないことだった。

 

「貴方、知ってる気がする……」

 

幸か不幸か、メディスンが自らの意思で記憶を手放した訳では無い。妖怪としての自我が広がるにつれて、それは自然に失われてしまったのだ。

老人から感じる違和感。初対面の筈なのに、そうは思えない感覚。

その感覚が、自分の過去に繋がるものかもしれないと、メディスンは期待した。

 

「私も知っていますよ。遠目に見て、ああ、見覚えがあるなって」

 

「えっ?」

 

老人の一言で、期待が確信に変わる。この老人は私について知っている、そう確信したメディスンが、少し上ずった声を出した。

しかし、老人の返事は期待外れなものだった。

 

「最近ここらに出没するようになった妖怪ですよね?どうも私の人生はここまでみたいで……一思いに、お願いしますよ」

 

その言葉に落胆する。予想外の返事に、少ししどろもどろになりながら、メディスンが答えた。

 

「あ……いえ、食べませんよ。そんな」

 

そう言いながら、メディスンは考える。老人への違和感が消えない。やっぱり何かがおかしい。

 

「見逃して頂けるんですか?」

 

「いえ」

 

諦めが付く筈も無かった。

現状に満足していた筈なのに。恨みを吐き出し続ける道を選んだ筈なのに。

 

「一緒に来て頂きます」

 

幸せな記憶を、探り出してみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

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初夏の候。人里に建つ一軒の家。あまり大きくは無く、建物自体も古びてはいるが、小綺麗に整えられた植え込みや丁寧に補修された屋根瓦の様子から、亭主の生真面目さが伝わってくる様だと自負している。

我が家の家業は雑貨品の製作、販売だ。

裁縫が得意な妻と、大工仕事を生業にしていた私。

ちょっとした事情で現場での仕事が出来なくなってしまって、この仕事に落ち着いた。最近になって軌

道に乗り始め、清貧に過ごしていれば生活に困ることは無くなり、一安心している。息子は遊びに行った様である。妻が出掛けに何か渡していたようだったが、何だったのだろうか?どうもあいつは私では無く妻に似たようで、 木工なんぞに興味を持たない。針と糸、それから手工芸品に服飾。男にしては変わっていると思うのだが、妻はそれが嬉しいらしく、熱心に教え込んでいる。

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

今日、とってもすごいものをもらいました。お母さんがこものの作り方をひととおりおぼえたごほうび

だと言ってくれたものです。

作るのにどれくらいかかったんだろうなぁ。ぼくも大きくなったら、こんなのを作れるようになりたいです。

これからよろしくね。

なまえをつけなくちゃいけないかなぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

75

 

丘の中央。鈴蘭がより一層多く咲き誇るそこが、メディスンの家である。簡素な造りであり、どちらかと言うと秘密基地と形容した方がしっくりくるが。

元来妖怪に定住する建物の必要は無い。棲家はあくまで無名の丘であり、家は丁度、少女の姿を取る彼女のちょっとした身嗜みの様なものであった。

 

「私も歳なのでね」

 

妖怪に拉致されたと言うのに、老人は事も無げに話す。

 

「鈴蘭は綺麗な花なんだがな、どうにも居心地が悪いよ」

 

「あら、そう?」

 

老人から挨拶されて、つい敬語になってしまっていたメディスン。しかし、新米とは言えこちらは妖怪。あちらは人間だ。妖怪らしく、子供らしく無い様に、そっと口調を元に戻した。

 

「用事が有るんだろう。老体には堪えるんだ。さっきまでは殺そうとしていたろう?早く済ませて、喰うなら喰ってくれないかい?」

 

「ねえ、あなた。私を知ってるんでしょう?」

 

ここに連れてくるまでにも、幾度と無く突いた核心。

 

「はて、さっぱり知らんな」

 

立て板に水、知らない知らないの押し問答となってしまっていた。メディスンは、何なら諦めて喰ってしまおうかと悩む。もしかしたら本当に知らないのか、とも思った。

しかし、一度沸いた疑問をすぐに頭から切り離せる程、彼女は歳を重ねていなかった。

 

「……それじゃあ」

 

結論は、妥協。

 

「貴方が知っている筈の私の事を教えてくれるまで、貴方に付き纏うことにするわ」

 

何事も、時間をかけて行えば解決できる……メディスンのその考えは単純だったが、ある種正しいものがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

11

 

人里の夏は暑い。そもそも幻想郷全体が山に囲まれた盆地である為、熱気が篭りじめっとしているのだが、開けた場所に位置し、緑の比較的少ないここでは、それがより顕著になっているのだ。

 

「おい!今日はなにすっか?」

 

田舎には田舎なりの遊びが有るものだ。夏真っ盛りの今、子供達の遊びと言えば昆虫採集、魚釣り、川遊びと言った、如何にもなアウトドアばかりである。

 

「虫取りに行こう!昨日僕一匹も採れなかったんだよ」

 

「それはお前がとろいだけだよ、二日続けておんなじ遊びなんて飽きちまうぜ」

 

「そうか。おいお前ら!今日は探検だ、行ったことの無い場所に行くぞ!」

 

結局ガキ大将が全て決定するということも、ままある。

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

それなりにではあるが妖怪対策をして、子供達は出発した。行ったことの無い場所、などと思い付きで言ったものの、彼等の行ったことが無い場所はそう多くない。そこから明らかに危険な場所を除くと、行き先は自然に限られるのだった。

 

「あんまり良い噂は聞かないけどよぉ、東の丘に行ってみようぜ?」

 

「えぇ、あそこは駄目だよ」

 

「お母さんが行っちゃ駄目だって」

 

「うるせえ!お前ら気にならないのか?」

 

「何が?」

 

「行っちゃいけないって言われちゃいるけど、その理由を知っているやついるか?」

 

ガキ大将のその一言に、全員が黙り込んで、それからすぐに目を輝かせ始めた。

 

「道中にはそりゃあ多少妖怪は出るけどよお、そんなのここならどこだって同じだろ?」

 

「そういえばそうだねぇ」

 

「うんうん」

 

冒険心をくすぐられて、リスクに好奇心が勝る。"何があるのだろう"、その欲求を満たすことで、彼等の

頭は一杯になった。

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

「すげえな……」

 

そこには、一面の鈴蘭。

全てが咲いているわけでは無く、精々五分咲きと言ったところであったが、元々の量が量である。童心を

満たすには十分だった。

 

「僕知ってるよ。鈴蘭には毒があるから、食べたりしちゃいけないんだって」

 

「けっ、妖怪の方がよっぽど怖えや」

 

実際そうなのである。大人が無名の丘について語りたがらないのは、間引きという後ろ暗い歴史を子供に知れることが無いようにしたい、それだけのことであった。

 

「丁度良いや、ここに秘密基地を建てるぞ」

 

「ここにー?」

 

「そうだ、ぴったりだろ?」

 

どうやら彼等には、鈴蘭の毒も効きそうに無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

76

 

彼に付き纏うことを決めたあの日から、結構な時間が流れた。

彼はあれからそう時間が経たないうちに、自分は貴女の元持ち主の友人であり、それなりの頻度で見かけていたのだ……ということを明かしてくれた。随分と言い渋っていたが。

私の人形時代のことも沢山知っているようで、色々なことを聞いて、色々なことを知っていくうちに、彼とは随分と親しくなったと思う。

 

「やあ、いらっしゃいメディスン」

 

彼は老齢であるし、かつて腕っぷしが強かったとかいうような雰囲気も感じない。包み込まれるような、そんな優しい雰囲気を纏っていた。

だから私が彼の元に出向くのが当たり前になっていた。最初の頃は、昔の記憶探しに躍起になっていただけだったけれど、今では彼に会うことそのものが楽しい。

 

「また来たよ。今日もお話聞かせて?」

 

「やれやれ。最近じゃめっきり無名の丘方面での妖怪被害が減ったそうだぞ。それに、私が幼い少女を連れ回しているという噂も」

 

「ふふーん。そんなこと言ってると食べちゃうよ?」

 

「喰ってもいいぞ?」

 

「意地悪」

 

彼との何気ないやりとりが楽しい。

私が妖怪になったのは、どうしてだったろう?

人間を恨んで恨んで……そうすることが私の存在意義の筈なのに。

誘蛾灯に惹かれているみたいだと、そう自嘲した。

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

彼と一緒に、何時もの団子屋に向かう。そう遠出は出来ない。彼は飛べないし、あまり長い距離も歩けない。

 

「それじゃあ、私の持ち主はお母さんから私を作ってもらったのね?」

 

「そうだったようだね」

 

「それじゃあ私のお母さんは私の持ち主のお母さんかぁ」

 

「うむ」

 

「ねぇ、貴方から見てさ」

 

「私の持ち主が私を棄てた理由は何なのか、やっぱり思い付かない?」

 

「そんな素振りは見せなかったなぁ」

 

「ある日突然。それ以来メディスンを持っていることが無くなったよ。」

 

「そうなんだ...そうだよね」

 

何時も通りの答えに落胆する。こればかりは、本人に尋ねてみないとはっきりしないことだ。

もしかしたら、返答次第では、妖怪の私は妖怪でなくてもよくなるかもしれないのに。私の持ち主は既に

行方不明で、何処に行ったのか知れないらしい。

 

「そう、ある日突然無くなったんだよ...」

 

私の持ち主のことを話す彼の表情は、他人事の筈なのに、とても悲しそうに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

12

 

少年老い易く学成り難し。少し前まで野山を駆けずり回っていた彼らも、例外では無い。

少し成長した彼らは秘密基地の事などとうに忘れ、思春期に入りつつある集団は、次第に陰湿なものになりつつあった。

 

「そういえばよお」

 

「なに?」

 

「雑貨屋のあいつ、今ごろなにやってんだろうな」

 

「人形遊びでもやってるんじゃない?」

 

「俺らとはしばらく会ってないよなぁ、いい加減に女みたいな趣味から卒業したかな?」

 

「んなわけあるかぁ、どうせ家にこもって妙なことやってるんだぜ」

 

「ハハ、違いねぇや」

 

「あいつの家行ってみっか!」

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

"あいつの家"に辿り着いたものの、誰も居ないようであった。からかいに来た彼等としては面白くない。

 

「どうすんだよ、居ないじゃねえか」

 

「近くの団子屋にでも行くか?」

 

「ちょっと待てよ」

 

ガキ大将が、生け垣の隙間から庭の様子を伺う。

 

「面白いもんがあるじゃねえか」

 

縁側には、丁度腹話術にでも使うようなサイズの人形が、だらりと寝そべっていた。

 

「あれ、いつもあいつが持ってた……」

 

「おい」

 

「ん?」

 

「あいつが男らしくなれるように、手伝ってやらねえか?」

 

「えっ?」

 

「あれをどっかに隠すんだよ」

 

大人には出来ない、残酷な笑い。

 

「俺達しか知らないあの鈴蘭畑にでも」

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

「お母さん、メディ知らない?」

 

「知らないわよ?今日は一緒じゃなかったの?」

 

「うん……外にまで連れて歩くの、流石にそろそろ恥ずかしいかなって」

 

「あらそう」

 

「見付けたら教えてね?」

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

「どこに行っちゃったんだよ、メディ……」

 

僕が置いていったから拗ねちゃったのかな……ごめんよ……ねえ……。

 

「ねえ…隠れてないで、出てきてよぉ...」

メディ……メディ……。

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

一日探し、二日探し、三日探しても人形は見付けられず。

 

「ねえあんた、メディが好きなのはよく知ってるけど、もう……」

 

「いやだ!ねえお母さん!いやだよ!」

 

叫ぶ声は、次第に弱くなって。

 

「メディが居ないなんて……嫌だよぉ……」

 

幼い慟哭が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

22

雑貨店を継ぐ

 

 

34

大人になった当時のガキ大将から、ふとした拍子にメディのことを聞く

殴り飛ばした

 

 

44

鈴蘭畑を捜索し続けて十年

 

 

60

還暦。動くことが辛くなる

 

 

65

鈴蘭畑に最近出没するようになったという、妖怪の噂を聞く

 

 

66

一年間詳しく調べ、人間を嫌っていることや、特徴がメディに酷似していることを突き止める

 

 

70

会って良いものか逡巡し続けている

人嫌い、その上妖怪であれば、殺されるかもしれないし、自分のことを覚えているかも分からない

恨まれているかもしれない

 

 

74

老い先が短いことを悟った

 

 

75

殺されたっていい

メディに一目会って、償いたい

 

 

 

 

 

 

 

 

76

 

「なあメディスン」

 

「なあに?」

 

「持ち主のこと、恨んでいるかい?」

 

「うーん、覚えていないから」

 

「それに貴方、昔の私のことは教えてくれるけれど、私の持ち主のことは曖昧にぼかすじゃない」

 

「そうだったね」

 

「なあ」

 

「なあに?」

 

「私はな、メディスンに殺してもらうつもりだったんだよ」

 

「……どうして?」

 

「お前は素直で優しい子だから、本当のことを言ったら怒らないだろうなとは思っていたよ。そして実際に会ってみて、ああ、やっぱりそう

だ、って」

 

「ねえ、何を言っているの?」

 

「私はあのときメディを置いて出掛けてしまった自分が許せないんだ」

 

「メディ……?」

 

呼び間違いかな?……ううん、メディって誰の名前だったっけ?……ああ、そうだ、私の名前だったん

だ。私の名前?そっか、メディか。いつの話だったっけ?ああ、もう60年以上も前のことだったなあ……。

 

「だから、少しだけ、メディの今を確かめたら、けじめを付けるつもりだった。でも、殺してくれなかったじゃないか」

 

「何も知らない人間のふりをして」

「何時でも喰えるようにしたのに」

「本当にしつこかったね」

 

「でも、本当のことを言ったら、メディスンはメディに戻ってしまう」

「それはメディスンの為にならないのに」

 

私は誰の人形だったんだっけ?

お母さんに作ってもらって、大事に使ってくれる男の子に出会って……。

 

「でももう、堪えられないんだ」

「メディはもうメディスンで」

「それを壊しちゃいけないのだけど」

 

ああ、あの男の子は……。

 

「私が君の持ち主だよ、メディ」

 

「……どうして黙ってたの、バカ……」

 

嬉しい。

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

「寂しかったよ」

 

「ごめんな」

 

「誰も居ない鈴蘭畑に捨てられて、長い間一人で」

 

「本当に済まない」

 

「あんまり待たせるから、スーさん達と話したり、毒を使ったり」

「そんなことまで出来るようになっちゃったじゃない」

 

「どうすれば許してくれるんだい?」

 

「ふふ」

「貴方のせいじゃないよ」

 

「それじゃあ私が納得いかないんだ」

 

「だからね」

「ぎゅって……して?」

 

「メディ……」

 

「それで、許してあげるよ」

 

久し振りに抱き締めたメディは、暖かくなっていて、心無しか昔より大きくなっていて。けれど少し震えていた。

 

「……メディは本当に優しいんだな」

 

「違うよ」

「貴方が昔、人一倍大事にしてくれた分もあるから」

「それでおあいこね」

 

メディの体から生気が消えていく。

 

「私ね、もう恨みも疑問も無くなっちゃったんだ」

「だから」

 

「……これで、良かったんだな?」

 

「うん」

「元の鞘に戻るだけだよ」

 

元々白かった肌がより一層白さを増す。

 

「だからね、"メディスン・メランコリー"はもう居なくなっちゃうけど」

「メディとして、私を」

「貴方が死ぬまで大事にしてくれる?」

 

「ああ、約束する」

 

「良かった……」

「……それとね」

 

「なんだい?」

 

震えが更に強くなった。

 

「ちょっとだけ、怖いから」

「私の意識が途絶えるまで、ずっと抱き締めていてね……」

 

腕の締め付けが段々と弱くなる。

もう畏れを必要としない彼女は、道具として、新たな生を踏み出す。

 

「……メディスン」

「楽しかったよ」

 

後に残ったのは、腕の中で私にもたれかかるメディと、メディスン・メランコリーとの思い出だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

134

 

人里の外れ。今年は例の"六十年に一度の異変"である。本数は少ないながら、季節外れの彼岸花が咲き誇る、無骨に削られた石材が立ち並ぶそこは、墓場であった。

 

「んしょ...っと、ふぅ」

 

「久し振り、だね」

 

「お墓参りに鈴蘭って、大丈夫なのかなぁ」

 

「でもまあ、許してくれるよね?」

 

空は快晴。清々しい気分。

 

「貴方が独り身だっただなんて、思ってもいなかったけど。よくよく考えたらあんなに私と一緒に居て

くれたなんて、既婚者なわけがなかったのよね」

「私がお嫁さんになってあげても良かったんだよ?ふふ」

 

「でもまあ、そのせいで貴方は……」

 

メディの眼前には、荒れ果てた墓。作ったまま放ったらかしと言った体であり、長い間手入れをされた様子は無い。

 

「貴方は結局、あれから十年と経たずにポックリ死んじゃって」

 

「約束通り凄く大事にしてくれたんだけどね」

 

「そんなんだったから、お葬式だけさっさと済まされて、こんなになっちゃうんだよ」

 

「私の気持ちもこれで分かったでしょ?一人ぼっちって辛いんだよ?」

 

 

 

 

「だからね」

 

「早く貴方の側に行きたくて。道具の私じゃ何も出来なくて」

 

「今の私、付喪神なんだよ?」

 

「貴方が大事に大事に、愛着を持って使ってくれたお陰」

 

「だからこれは、その恩返し」

 

「覚悟しててよね?毎日だって通ってやるんだから」

 

「そして長い永い時間が過ぎて、私のとっても長い寿命が尽きたら」

 

 

 

 

「その時は」

 

「貴方のところに逝くよ」


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