美竹蘭の誕生日記念小説です

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 オリ主と蘭は大学生の設定です

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特別な日を君と

「……遅い」

 

 あたし、美竹蘭は駅前の時計を睨んでいる。時間は午前九時。駅前を多くの人が通ったり、待ち合わせスポットとして使用している人を多数見かける。かく言うあたしは後者だ。待ち合わせ相手はあたしの彼氏。去年の秋から付き合い始めたから、まだ一年もしない。

 

 そんなあいつが(彼氏)が昨日、これから寝ようとしている時にいきなりメールを送ってきたのだ。

 

 メールにはたった二文、『明日、空いてるか?空いてたら九時駅前に集合な』とだけ。

 

 今思えばなにか返信でも送ればよかった、と思う。

 

 いきなりだったわけだし、何処に行くかも書かれていない。あたしにはそれらを訊く権利はあったはずだ。

 

 もちろん、その発想はあった。

 

 にも関わらず、あたしはしなかった。

 

 それをするのがどこか野暮ったく思えたからだ。なぜなら今日はあたしにとっては特別な日。

 

 だから、あたしはこのメールを受け取った時はとても嬉しく思えた。明日は何の日か覚えていてくれている。

 

 そう思うだけで、あたしは幸せな気持ちになった。

 

 しかし……あいつは約束の時間に来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、いたいた」

 

「……何時だと思ってんの?」

 

 あいつは約束の時間から30分遅刻して待ち合わせの場所に来た。通学用のリュックサックを背負ってこちらに手を振りながら走ってきた。

 

 

「ごめん、ちょっと用事があってさ」

 

「あたしとの約束を置いてでも?」

 

「それは……ごめん」

 

 流石に遅刻したことを悪い、とは思っているらしい。しゅんとなってしまう。

 

 ……本当に素直なところは昔から変わらないんだから。

 

 

「もう……いいから行くよ。時間は有限じゃないからね」

 

「おう」

 

 さっきまでの雰囲気は何処へやら。あいつはいい笑顔をして、あたしの後に続いた。

 

 電車での移動途中、蘭があんな台詞吐くなんて……演技しといて良かった、とか呟いていたので爪先を踏んだりしたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電車に揺られて十分。着いたのはデパート。

 

 数多の店が一列になって客を手招きする。服やお菓子、ゲームにスマホ……一見するだけで何の店かがよくわかる店ばかり。

 

 あいつはそれらを無視し、選んだ店はゲームセンターだった。

 

「着いた、ここだ」

 

 あいつはそう言うと、中へとどんどん入っていく。あたしもはぐれないように後に続く。

 

 沢山の電子機器が音を出し、店内は騒々しくなっている。

 

 私達はそんな中を突っ切って行く。カップルであるだろう男女、友達同士だろう女の子二人、一人で熱中する男性……様々な人達が各々の遊びたいゲームで遊んでいる。

 

 彼等を眺めてばかりいると不意に壁にぶつかる。いや、壁ではない。あいつの背中だ。

 

「蘭、これで遊ぼう」

 

 そう言って見せてきたのは何処のゲームセンターでも必ずあるような対戦型のホッケーのゲーム。

 

 え、これやりたいの?

 

「いや、いいけど」

 

 ここだけしかないゲームがある、とかじゃないの?

 

「じゃあ、始めようぜ」

 

 彼は早速お金を入れると早く早くと、悶々としている私を急かす。

 

 別に、私だってこのゲームは嫌いではない。やらない理由は特にない。

 

「いいけど、やるからには勝たせてもらうから」

 

「こっちもそのつもりさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝った」

 

 少し息を出しながら、この三文字を言う。

 

 あいつとの一戦は中々の激戦だった。お互いがお互い一点も譲らないため、一回一回が長く、そして体力がそこそこ消耗した。そして、あたしは試合になんとか勝った。

 

 その分の勝ちだから余計に嬉しい。

 

「負けた」

 

 あいつはたいそう悔しそうにしている。かなりの接戦だったため負けたときのダメージが多少なりともあるのだろう。

 

 だけど、もしこれ目的で行っただけなら少し寂しい。せっかくここまで来たのだ。もう少し何かして楽しみたい。

 

 

 

 そうだ良いこと思いついた。

 

「ねぇ……あんた勝負に負けたんだからあたしのお願い、聞いてくれるよね?」

 

「は!?なんだ、それ!聞いてな「遅刻したよね」ぐっ」

 

 痛いところを突かれたからか表情が険しくなる。

 

 まだ気にしてたんだね遅刻の件。確かにあんたが悪いことに変わりはないけど、もうあたしは許しているよ。という事は、あんたは移動している最中ずっとあたしが怒っていると思っていたのか。道理でいつも言う冗談やからかいの言葉が少ないと思ったわけだ。

 

 ほんと、気にしすぎ。

 

 

「わかった、それでなんだ?叶えることが出来るものにしていただければ俺は良いが」

 

 万歳降参をするあいつ。

 

 自然とあたしの心の中で優越感が湧く。

 

 

 何を頼むかはもう決めている。

 

「じゃあ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで良いか?」

 

「うん」

 

 あたし達は今服屋にいる。理由は単純。

 

 服を選んで欲しいためだ。

 

 あたしだって一端の女性だ。オシャレにも気をつける。

 

 ただ、あたし自身が選ぶのもいいが、やはりたまには他の人の意見も聞きたい。

 

 そういう訳で、彼に選んでもらったのだ。

 

 

「それにしても驚いた……あんたのファッションセンスって良かったんだね」

 

「え?俺って、そんな見直される程ファッションセンスが悪いって思われてたの!?」

 

 いや、だってあんたの服って中々着る人選ぶみたいな服多いし……。

 

 それにあんた、自分の着ている服とか自覚して言ってんの?

 

 黒いパーカーの下に赤いシャツ、黒の長ズボンに十字架ネックレスって自分に自身がある奴がしそうな格好だし。

 

 あんたはスタイルや顔がいいからそんな格好しても許されるけど、普通の人がやってもただ痛いだけだからね。

 

 

「おいおい、どうした?俺の顔なんて見て」

 

 あたしの本心を知ってかムカつくほどニヤつくあいつ。

 

 ほんと……余計な時に人の心を読むんだから……この馬鹿。

 

 けど、ここは我慢だ。

 

 一応、経緯はあったけれど、あいつには服を奢ってもらうんだ。一回は我慢しなきゃ。

 

「取りあえず、レジに行きなよ。服一式あんたの奢りなんだから」

 

 

「はいはい」

 

 あいつはレジへと行き、会計をした。

 

 レジの店員さんがこちらを見てニヤニヤしていた。

 

 

 あたしは店の外へと出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クーーッ楽しんだな〜今日」

 

「……あんた、それ食べるの?」

 

 コーヒーをまるでビールを飲んでいるような感じを出しているあいつ。しかし、あたしは寧ろ彼のリアクションよりもコーヒーの隣にある物に注目していた。

 

 机に載るどでかい食べ物。イチゴやチョコ等の物をこれでもかと盛り、中の物もそれなりに量がある。食べたら胸焼けしそうな物だ。

 

 このカフェ目玉メニューバケツパフェだ。高さ二十五センチ、重量四キロ、カロリーは脅威の六千キロカロリー。並の人なら卒倒するレベルのものだ。少なくとも、これを食べた後は体重計なんて乗りたくない。

 

 そんなものを目の前にあいつは何の気兼ねなく食べる。

 

「もちろん……そりゃあ美味しいもの」

 

「あんた、それ絶対健康に悪いでしょ。というか太るよ」

 

 常人がこれ見たら間違いなくドン引きレベルだよ。

 

「大丈夫だ。これのために俺は一週間くらい糖分のお菓子食べるのもやめて、羽沢喫茶店のデザートも我慢したから」

 

「本気すぎるでしょ」

 

 こいつの甘いもの好きは前から知っていたのだが、まさかここまでになるなんて……。最近になって、それがさらに酷くなった気がする。量も増えて糖尿病や肥満まっしぐら……と言いたいが、これがならない。というのも、こいつはなんと世間で言う太りにくい体で体重が全くといって言いほど増えていない。

 

 それでいて、こいつ甘いものを食べるために電車で行く距離を自転車で行ったり、と極力電車やバス等を避けて自転車や徒歩で移動しているため本人の気付かないうちにカロリーを消費しまくっているという。

 

 ここまで来ると羨ましいを通り越して、呆れるレベルまで達している。

 

「こんなのを食べているなんてファンは知らないだろうね」

 

「安心しろ。俺のバンドのファンは大概特定の一人を見ていないから」

 

「それは……どうかな」

 

 あんたらのバンドは男女ともに受けがいいからなぁ。男性はともかく女性はファンとして或いはそれ以上の目で見てきてもおかしくはないだろう。

 

 あたしが所属しているバンド『Aftergrow』があんたらと一緒にライブをやった後の帰り道にファンの女性達が特定のメンバーの一人ファン集団をつくって盛り上がっているのを何回か見た。その中にはもちろん、あいつのファンもあった。

 

 

「蘭、どうした?そんな不機嫌そうな顔をして」

 

「……別に」

 

 別に何もない。ただ胸の中でもやもやしただけだ。

 

 あんたには関係ないことだから。

 

「気になるだろ」

 

「あんたには関係ないことだから」

 

 言えない。こんなの目の前で呑気にパフェ食ってる奴なんかに言えるわけない。

 

 

 

 あいつの顔を見ないように外を見る。

 

 

 もう、夕焼けが出ている。

 

 一日が終わりを告げ、そして明日を知らせるもの(夕焼け)

 

 まさにAftergrowだ。

 

 思い出す。

 

 モカや巴、ひまりにつぐみと『Aftergrow』を組んだあの時、辛い事も楽しい事もあった高校生活。

 

 今もバンド活動自体はやって、自分達の演奏をファン達に届けている。最近は本当に思う。もしあの高校生活が無かったら、今のあたしはないだろう、と。そして、こいつとの関係もなかっただろう。

 

 

 

 

「綺麗な夕焼けだな」

 

 いつの間にかバケツパフェを食べ終わった彼。彼も何か考えに耽っているのだろうか。頬杖をついて何か懐かしそうな、安らぎを与えられているような目だ。

 

 

「うん」

 

 斜光が店内を照らす。

 

 あたし達二人の影が下に映る。

 

 

「……実は今日、ここに来たのには訳があるんだ」

   

「ここじゃなきゃ駄目なの?それは」

 

「あぁ」

 

 ここじゃなきゃ駄目……私達はこのカフェとなにか重要な関係があったっけ?

 

 あたしは取りあえず店内を見回す。が、特に何か変わった特徴もない。

 

 

 つづいて店の名前を見ようとメニューを見る。

 

「『喫茶店クリスタル』でもないよね?」

 

「いいやBingoだ」

 

 あいつは隣に置いてあるリュックサックを中から何かを取りだそうとする。

 

「知っているか誕生石って?まぁ、わかりやすく言えば誕生花の石バージョンのやつ」

 

 はっと思った。

 

 え……嘘、覚えていてくれたの?

 

「……それって」

 

「そう……今日は4月10日、お前の誕生日だ。そしてクリスタルはお前の誕生石だ」

 

 

 覚えていてくれていた。

 

 あたしは昨日思っていた事はもう諦めていたのに。こいつはちゃんと覚えていてくれていた。

 

 嬉しい。

 

「というわけで受け取ってくれ俺の誕生日プレゼント」

 

 あいつが机に置いたのはラッピングされた小箱。

 

「開けていい?」

 

 首を縦にふる。

 

 あたしはラッピングされた箱の中身を見た。

 

 そこにあったのは赤色に輝くチューリップネックレス。

 

「チューリップはお前の誕生花だって調べたら出てきたから、これにした」

 

「これ……かなり高そうだけど」

 

「あぁ、奮発したからな」

 

 あいつは笑顔を見せて言った。

 

 ホッとしているような、それでいて何かに報われたかのように。

 

 ひょっとして今日遅刻したのって……。

 

「そうだチューリップの花言葉わかるか、お前」

 

 さも知っていますよね、という態度であたしに訊く。

 

 もちろん、あたしの返答は決まっている。

 

 

「いや知らないけど」

 

 

「え?お前華道やっているから花言葉くらい分かるんじゃ……」

 

「そんなの考えてやっているわけないでしょ……それに華道はそういうのに関しての知識は必要ないだから。あんた知っているはずでしょ」

 

 まじか、そう言ってあいつは手で顔を覆う。

 

 なに……そんなに恥ずかしい事なのチューリップの花言葉って。

 

「教えなさいよ」

 

「嫌だよ」

 

「花言葉なんて伝わらなかったら意味がないでしょ」

 

「ぐぐぐッ」

 

 あいつはうなり声をあげる。

 

 そして、はぁ、とため息をついて言う。

 

「チューリップの花言葉は思いやりに名誉それと……それと……」

 

 あいつは息を少し吐いて、顔に真剣さをおび、

 

 

「Te amare por siempre」

 

 

「は?なんて」

 

 あいつの言葉の意味を全く理解できなかった。

 

「ちゃんと日本語言いなさいよ!あたしが外国語出来ないの知って言っているでしょ!」

 

「う、うるさいバーカ!二度も言わねぇよ、あんな台詞!」

 

 あいつは顔をうずめた。絶対に見られまいと腕まで使ってやっている。

 

 だけど一瞬見えた。あいつの顔や耳が真っ赤に染まっていたのを。

 

 

 

 

 

「ほんと、肝心なところは言わないんだから」

 

 誰にも聞こえない声でぼそりと呟いてみた。

 

 

 もちろん、誰も何もあたしの問いを返す人はいなかった。 

 

 

 

 

 

 

 




 

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