『同胞の仇、討たせてもらうぞ!!
――ガイア教徒!!』
吠えるように発せられた言葉に、一瞬理解が遅れた。
「……いや待て、俺たちは――」
『今更、言い逃れできると思うなよ……! こいつらを八つ裂きにしろ!!』
ようやく意味を理解して慌てて誤解を解こうとしたものの、頭に血が昇っているらしき彼女は聞く耳を持たなかった。……どうにもこちらの声が届いていないように見えたが。
そして、彼女の言葉を受けて先ほどの男が殺気を放つ。
そうこうしているうちに通信は途切れてしまった。
「仕方ない……とりあえずここを切り抜けよう」
刀の柄に手を置いたまま、目下、最大の脅威である男を見る。
こいつを俺とオサキで相手取るのは少々キツイ。定石なら、電撃弾で四脚を仕留められる俺が二体を相手取ってこいつを果心居士に任せるところだが。位置が悪い。
男を挟んで後方数十mの位置に果心居士とチヨメちゃん、その更に十mほど後ろに四脚と複数の傀儡。
単純に果心居士と距離があり過ぎる。
俺に掌打を叩き込んだ瞬発力を考慮すると、入れ替わる前に迎撃される。
ここは地道に活路を見出していくしかないか。
――と、考えたあたりで男が動いた。
「ッ、速いっ!!」
ほぼ反射で抜刀、繰り出された拳をなんとか受け止めると重い金属音が鳴り響く。
ただの突きのはずだが随分と威力がある。
重い一撃で俺が硬直し、間髪入れずに蹴りが飛んできた。
迎撃が間に合わないと判断した俺は咄嗟にラクカジャを発動して、胴体に蹴りを受ける。
「がっ、ぐっ……!?」
骨が軋む音を聞きながら蹴り飛ばされる。
飛ばされる中でスクカジャを発動して体勢を整え、地に足をつける。
顔を上げた時には目前に迫る拳。
頬を擦りながらもバフで得た瞬発力で避ける、そして一太刀を――
――浴びせる前に、膝で柄頭を押さえられた。
「ごぁ!?」
次の瞬間には裏拳が頭部を直撃し、意識が揺さぶられる。続け様に拳と蹴りが叩き込まれていく。
……まずい、このままではラクカジャが切れる。バフ有りでこの威力だ、素で受ければひとたまりもない。
だが、猛攻のせいで術を発動することに集中できない。
やばい、もう意識が……
そして、視界の正面から拳が迫った時、何処からか飛んできた“拳”が銀髪の男の側頭部に激突した。
よく見れば飛んできた拳からはワイヤーのようなものが伸びており、元を辿るように視線を向けるとそこには、果心居士。拳があるべき場所からワイヤーを伸ばして拳を飛ばしていた。
「マスター、助太刀します」
果心居士はこちらに向かいながら有線で飛ばした拳で銀髪の男を翻弄して退けた。
側にまで来た彼女に声をかける。
「千代女ちゃんは!?」
「囮を任せていマす、逃げに徹すれば彼女でも問題ないカと」
ちらり、と視線を移せば影のような姿になって俊敏に動き回りながら傀儡の注意を引く彼女の姿が。
たしかに、速さの面では高い実力を持つ彼女だ、安定して囮を続けている。
そして銀髪の男の方へと注意を戻して、気付いた。
果心居士の攻撃によって男の袖が破れて素肌が……いや、
よく見ればズボンも一部が破れて
そこでようやく、この男の正体に思い至った。
「
銀狼。サマナー界隈でも有名なデビルバスターだ。
四肢を銀色の義肢に換え、それを
その実力は上位のサマナーにも匹敵するとか、風の噂で聞いたことがある。
「だが……」
「いや、今は対処が先か。果心居士、奴の相手を任せたい」
「承知しまシた」
「だが油断するな、たぶんあいつはまだ力を隠してる。何のつもりかは分からんが注意してくれ」
言い終えるなり俺はオサキを呼びつつ、チヨメちゃんの救援に向かった。
「有線式のロケットパンチか、興味をそそられるな」
――ヒデオがこの場を離れてすぐ、銀狼がゆっくりと果心居士の方へと歩みを進める。軽口のようでいて声は硬く、表情も変わらない。
「……お前は“目標”には無い。つまり、破壊しても構わぬということだ」
首の骨を鳴らしながら冷たい目を向ける。
対して、果心居士は身体中から機械音を鳴らしながら口を開く。
「果心兵装、限定解除……手加減、要りまスか?」
「ぬかせ、死ぬ気で来るべきは貴様だ」
断言し、地を蹴る。一息にて距離を詰める。迷わず顔面を目掛けて拳を放つ。
瞬間、果心居士の左眼が輝いた。
「っ!!」
同時に銀狼の身体が一切の動きを止める。
BINDか、と銀狼が考えた直後。果心居士の身体から苦無が放たれる。
銀狼は“練気”にてBINDを解除、苦無を躱す。すかさず果心居士の本体が光刃を作り斬りかかる。
これを義手で受け止める。MAGを練り上げた“気”によって硬度を増した義手は傷一つなく光刃を受け止める。
その後も、先に見せた曲芸のような動きで光刃を振るうが全て義肢にて弾き、捌く。
そうして生まれた僅かな隙をついて貫手を放つ。
アサシン適正を持つ果心居士を上回る速度で放たれた一撃は彼女の身体を貫いた。
「っ!」
取った、と思った直後に
空を切るという表現が相応しいほどに。
「幻覚か!」
気付いた時には貫いたはずの果心居士は消え、代わりに周囲を囲むようにして現れた複数の果心居士がぐるぐると回るように移動する。
「焔を」
呟くと同時、銀狼の足元から青い炎が柱の如く立ち上り全身を焼く。
これを“気”で耐え凌いだ銀狼は、“気”を読むことで見破った果心居士本体へと突撃、拳を振るう。
光刃で受けた果心居士は不思議そうに首を傾げた。
「どうして、わかったのでスか?」
「気の流れまでは誤魔化せん」
答えて連撃を放つ。拳と蹴り、どちらも“気”によって強化された義肢によるものだ。中級程度の悪魔ならば一撃で消し飛ばす威力の猛攻に彼女が思わず体勢を崩しそこに強烈な蹴りが入る。
脇腹にめり込む一撃は果心居士の躯体を軋ませる。
トドメとして右の拳を振りかぶった時、突如として銀狼の脇腹に
咄嗟に視線を向けた銀狼は、それが果心居士の背中から生えた機巧の脚であると気づく。
「っ、硬い……!」
果心居士も、機巧の脚に備わるセンサーにて銀狼の身体を
――苛酷な戦場で鍛え抜かれた肉体、霊力、気を持つ銀狼の
「……」
無言で突き刺さった脚を掴み握り潰そうとする銀狼の背後に、果心居士の幻影が光刃を展開して現れた。
無論、気付いている。だが幻覚であれば問題ないと無視した彼の背中に“斬撃”が見舞われる。
「っ、実体を持つ、幻覚だと……?」
僅か、狼狽えた隙を狙って果心居士は膝を文字通りポキリと折って、内蔵されている兵装から魔力の炎を放った。
「くっ!」
近距離から放たれた高出力の炎は、咄嗟に四肢で庇った箇所以外を焼き焦がす。
一転、攻勢に移った果心居士だが流石に銀狼相手では近距離戦は不利と判断して後退する。
「逃がさん」
「忍法・独楽回し」
追い縋る銀狼を刃を生やした身体を高速回転させ弾く。しかし、それでも一気に距離を詰めてきた銀狼の拳を紙一重で躱す――
「っ、いタい!」
――ことができなかった。十分に回避が可能と思われた距離は、文字通り
だが、彼女の顔面に激突して宙に放られた拳には“ワイヤーが無い”。
果心居士はカメラアイのセンサーを即座に切り替え、そのカラクリを見破る。
「
霊力が見えなければ不可視の糸、これに繋がれた拳は持ち主の意のままに動く。
「流石に聡いな、伝説に語られし果心居士の名、伊達ではないか」
果心居士を追いながら拳を失った義手表面の一部を開き、中から小型デバイスを二基射出する。霊糸で繋がれたデバイスはライトを点滅させながら霊波を放つ。
直後、果心居士の躯体からガクン、と力が抜けた。
「貴様の“霊力パターン”は解析済みだ」
銀狼の呟きで果心居士は躯体の不具合がジャミングによるものと理解、即座に己の“駆動系”を組み替える。
身体の自由を取り戻した彼女に銀狼の拳が迫る。
これを光刃で受け止めた。
「まさか組み替えるとはな……
銀狼は拳を押し当てたまま
「……!」
その笑みに言い表しようのない“怖気”を感じた果心居士は、背中から生やした二本の蜘蛛脚で銀狼を引き剥がし急いで距離を取る。
――この感覚、どこかで……
「逃がさぬと言った」
しつこく追い縋る銀狼に対して、果心居士の左眼が再び輝く。
「二度も同じ手を――」
練気にてBINDに対抗しようとした銀狼は、ピクリとも動かぬ身体に気づいてレジストに失敗したことを悟った。
再度、果心居士へと視線を戻すとそこには禍々しいオーラを漏らしながら輝き続ける彼女の左眼。
――なるほど、術ではなく“異能”。ならば出力を引き上げるのも容易か。
「魔眼……か……!」
気合いで絞り出すような声を発した銀狼に果心居士は少し驚いた。
「まだ喋れるのでスか。でスが……」
目を細め哀れむような視線の先には、彼女がいつのまにか手にしていた“瓜”のような実がある。
「なにを……」
二の句を継ぐ前に、果心居士が手刀にてその実を一文字に斬る。その瞬間、空間を斬り裂くような形で銀狼の首元に斬撃が発生した。
「
――忌み技にて、御免」
傀儡の注意を引くチヨメちゃんを遠目に、電撃弾を装填した愛銃を構える。
狙いはもちろん四脚。頭部にそれぞれ一発ずつ電撃弾を撃ち込む。
銃声と電撃に反応して、重装傀儡たちの視線が一気にこちらへ集まる。
そこですかさずチヨメちゃんに念話を繋ぐ。
「!」
短い指示で意図を理解した彼女は、気配遮断を活用しながら無防備な重装傀儡の背後を襲っていく。
数体仕留めたところで、傀儡たちもチヨメちゃんの奇襲に気付いた。だが、まだだ。
「オサキ!」
傀儡たちがチヨメちゃんに襲いかかる前に、オサキの幻術で奴らの視界を奪う。
混乱する傀儡たちを俺とチヨメちゃんで潰していけば、あっという間に全滅できた。
「……あとはコイツらか」
視線を移せば、四脚たちが極太砲塔をこちらに向けていた。
「マズッ!?」
慌ててスクカジャを掛けてその場から飛び退く。直後、床が爆発する。
激しい爆風に曝されながら受け身を取り電撃弾で反撃する。
着弾し電撃が迸るのを確認したが、どうにも効いている様子がない。
その後も何発か当ててようやくスタンさせることができた。
「……なるほど、霊糸か」
機械類を極力排除し霊糸でのみ操作しているのか。
……この数を?
「いったい誰がそんな化け物じみたことを……」
思案する合間にも、四脚の片割れが手に持つ銃を連射してくる。
スクカジャのおかげで回避は余裕だが、どうにも近づけない。小銃と砲撃で近寄る隙がないのだ。
『お館様、宝具……奥義を使いまする、ご助力を』
念話を聞いてすぐにCOMPにてチヨメちゃんにMAGを送る。
供給を受けた彼女は即座に親指の腹を噛みちぎり、鮮血を振り撒いた。
「口寄せ・伊吹大明神縁起!」
声と共にその身を禍々しいオーラが包み込んで、そこから溢れるように複数の大蛇が飛び出す。
大蛇は、小銃を放つ四脚へと一直線に向かう。四脚も銃にて迎撃しようとするも、大蛇を模った魔力である彼らに銃弾は効かない。
大蛇に群がられた四脚はあっという間に見えなくなり、やがて軋むような音が響いた直後。
グシャリ、と潰れる音が響いた。
術が解かれ大蛇が消滅した後には、見るも無惨にスクラップにされた四脚だったモノが置かれていた。
「残るはアイツだけだ!」
奥義の使用で疲れた様子のチヨメちゃんに発破をかける。無論、俺も電撃弾を装填した銃で迎撃する。
スタンから回復した四脚は砲撃を主軸に、砲撃後の隙を小銃でカバーしている。
……格段に動きが良くなっている。おそらく、傀儡が減ったことで四脚の操作に集中しているためだろう。やはり、傀儡の操作は一人で行なっていると見た方がいい。
これは推測だが、先のモニターの少女、発言から考えるに彼女が日記に書いてあった姫とやらだろう。そして、傀儡の操作は彼女が行なっていると見た。
言動を鑑みるに彼女こそが第三傀儡衆の長。
そして、同胞の仇ということは今のこの状況が“何者かの襲撃”によって発生したイレギュラーである、と言いたいところだが……
「どうにも違和感がある」
結論を急ぐべきではない、もう少し情報が欲しい。
考えつつ、四脚の腕部を狙い小銃の片方を落とす。
効率的、合理的な動きではあるが単純に
無論、我らがチヨメちゃんがそんな隙を見逃すはずもない。
「――お覚悟めされよ」
四脚の上部から短刀を突き刺した彼女は、刀身から大蛇の呪いを流し込み四脚を内側から破壊した。
躯体の至る所から大蛇の形をした魔力が飛び出し、やがてバラバラのスクラップと化した。
【あとがき】
FGO、終わっちゃった……いや、厳密にはまだ続いてるけど。
兎にも角にも、10年間本当に、ほんとうにありがとうございました。
そして、お疲れ様です、と伝えたい……
わりぃ、やっぱつれーわ(泣