秘封二次創作「秘恋映すは少女の瞳」   作:八雲春徒

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こんにちは。
今回の話は次の話への繋ぎの部分ですので少々短くなっております。
旅の始まる雰囲気を感じていただけたら幸いです。

それでは


第二話 「セピア色、旅の始まり」

 第二話 セピア色、旅の始まり。 

 

 

 

 あれからの五日間は多忙を極めた。いつもなら、いつも通りであったのなら、日々の仕事は仕様もない雑務に過ぎず

 疲労に頭を痛ませる事はあってもそれこそ精神的なストレスというのか所謂心労的なものは溜まりもしなければ感じない、感じるはずのない月から金の五日間であったはずだった……。

 

 だったのだが……。

 

「ああ、疲れた……」

 

 疲れた。疲れ果ててしまった。五日間とはこんなに長いものだっただろうか。そう疑いたくなる程の疲労感、それが押し寄せていた。

 

 いつも通りの帰り道、過ぎては近づく電灯の青白いLEDがチカチカと網膜を刺す

 

 あと十五分、安全運転でと再びハンドルを握り直し、摩天楼の輝きの中へアクセルを踏んだ。

 

 

 

 

 家に着いた頃にはすでに十一時を切っていた。部屋の明かりをつけ、そのまま散らかった部屋の片隅、ソファにへたり込んでしまう。

 こうなるとしばらくは立ち上がれないが、今日に限ってはそうも言っていられない、とっとと明日の身支度を済ませてしまわなければいけないからだ。

 

 十分ほど体を休めたところで、意を決し立ち上がる。

 

 数歩先、クローゼットを開け引き出したキャリーバッグに一泊分の衣類なんかを突っ込んでいく。

 こうして荷を作り出すと何かが不足しているような気になるもので、結局片付くまでに三十分弱を要してしまった。

 

 そういえば、とポケットから携帯を取り出し、メッセージアプリを開く。

 

 

「明日、九時半に京都駅の改札前に集合よ遅れないよーに」

 

 

 蓮子からのメッセージだ。

 

 確か、十時十二分発のヒロシゲ三十六号に乗る予定だったと記憶している。妥当な集合時刻だろう。八時起きなら間に合うかなどと考えつつ。タオル手に取る

 

 さっさとシャワーを済ませてしまうつもりだ。

 

 蛇口をひねると勢いよく温度を持った水流が心地よく頭を打ち、汗を流す。何もせずシャンプーの容器に手を伸ばすでもなく。身をゆだねていた。

 

 こうしていると普段考えない様なしょうもない雑念ばかり浮かんでくるものだ。途切れない水音がそうさせるのだろうか。浮かんで消えない議題、それはある瞬間一つに集約された。

 

 

 どうしてこんなにも疲れてしまったのか

 

 なんとなく思い当たりはあった。というよりかはあまりにも自明な議題であった。

 時間よ過ぎろと、そればかり考えすぎていたからに違いない、早く週末がきて欲しいとそんな思考が脳裏を占拠していたのだ。疲れるに決まっている。

 例えるならそう、遠足を待ち遠しむ小学生の心境だろうか。馬鹿らしい話だ。気取った自分はいったいどこに消えたやら……

 

 この辺にしておこう。恥ずかしいのも甚だしい話だ。

 

 水音が近づく。思案を打ち消すように強く、頭をこすった。

 

 

 

 烏の行水を済ませた後、乾ききらない髪のままで足早にベッドに腰掛け、冷えた缶ビールを飲み干す。風呂上がりの酒は特別に美味い。火照った体に程よくアルコールが回り、心地よく眠気を誘った。

 

 寝酒を飲み終え。灯りの消えた部屋。寝転がったベッドの上で静かに瞼を落とした。

 

 フワフワした意識、おやすみの代りにその誰でもない暗闇に囁く。 眠ろう

 

「明日に備えて……」

 

 何年振りかも覚えてはいない独り言を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞼の裏を赤く射す日差し、けたたましいアラーム音に目覚める。八時三十分

 寝酒が祟ったか、はたまた抜けきらぬ疲労のせいかズキリと頭が痛んだ。しかし、それでも清々しい朝だ。

 よし、と気合を入れなおし立ち上がる。心なしか肌寒いが、とりあえず洗面所に向かう。 顔を洗い、髪を整える。

 昨夜に荷造りは済ませてある。あとはいつも通りの簡素な朝食を済まし、家を出るだけだ。

 現在借りている部屋は、京都市街のその郊外に位置し、駅までは車で三十分ほど、ちょうどいい時間だ。さあそろそろと腰を上げる。二日近くここを空けることになる。何か見落としがないかと部屋と玄関を行き来した

 

 馬鹿らしいし無意味なことだ。支度は済んだ。そろそろ出ることにした。

 

 コートを羽織り机の上の鍵束に手を伸ばす

 掴んだそれを片手に玄関を出る。

 

 空気が冷たい、高く空は晴れ渡っている。

 秋の朝だ。東から射す朝日が眩しい。

 

 空を仰いだ。その視線を落とし運転席のドアに触れたとき、ふと思い至る。

 

 別に車でなくてもいいな と、最寄り駅から京都駅までは四駅、現在八時五十五分、歩きの時間を加算しても充分に間に合う。なにより二日間も愛車を公営駐車場に放置するのは心もとない、まだローンの残る車だ。

 予定変更、と踵を返しキャリーバッグを引き歩き出す。寒いくらいのほうが快適だ。秋めいた空、すじ雲高く そんな道を歩いた。

 

 最寄り駅までは十分弱程だっただろうか。

 

 自動改札に端末をかざし、急ぎ足に電車に乗り込んだ。

 

 近鉄京都線、車両こそ目新しいものの路線自体は昔から、それこそ首都が移る以前から存在しているそうだ。

 

 今でこそ京都のその市街には懸垂式と呼ばれるような、所謂一昔前の近未来風モノレールがビルの間を走っている訳だが、それでも今も昔もこの街に住む人々の足としてこの路線は機能している。

 

 車窓に映るののは京都の街並み、山間の住宅街を横目に電車は進んでいく。車内に目をやってみると人はほとんどいなかった。急いで乗ったものだからそんな事にも気が付かなかったのである。

 

 そういえば今日は土曜日だったな。なんて考えながら再び車窓に目を移すと、曲がりくねった鉄道高架を行く当車両はまさに京都のその中心街へと入る所であった。

 

 何度見ても綺麗な街である。通り過ぎる高層ビルは照らす東日のオレンジ色を鏡面反射してセピア色に輝いている。この時間がいちばん好きかもしれない。

 

 一瞬車内が暗くなる。ひときわ大きな高架下を通ったのだ。あれは確か京都を一周する環状モノレールの線路だったか。懸垂式の車両が真上を通り過ぎて行った。

 

 これが京都の朝である。

 

 そんなこんなで電車に揺られること二十分弱、京都駅に着いた。

 

 近鉄線のホームはだだっ広いこの駅の端に位置しているため、集合場所の卯酉新幹線の改札前までは少々距離がある。休日とはいえ通勤客はいるし、これでもかという程の観光客で土曜の京都駅はごった返している。

 

 人ごみをかき分けながら改札を抜け、突き当りを右に階段を登る。横目に映るスタンド居酒屋や立ち食い蕎麦は魅力的ではあったが時間も無いので見ないふりをした。

 

 時間まで約十分、もう二人は着いているかもしれないな、などと考えつつ小走り気味の速足で通路を進んだ。

 

 最初は迷ったこのダンジョンめいた駅だが今や慣れたものだと思う。

 俺は重度ではないが方向音痴なのだ。外の景色も、方角もわからない駅の構内とか地下通路は大の苦手である。

 

 しかしまあこの駅は擦り切れるくらい通ったので問題はなかった。

 

 二人と出会って数か月、この駅からいつも物語は始まった。きっとこの角を曲がった先に瞳映すのはきっといつもの憧憬、何でもない日々の中に小さな神秘を、ノスタルジックを、そしてあの夢の悲恋を、拾い集める旅

 

 その終わりなき旅の始まりを告げる景色だ。

 

 朝日射す改札前、逆光気味なその中、小さく手を振る二人

 その影に、俺もまた手を振った。

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想お待ちしておりますのでよろしくお願いいたします。

続きもお楽しみに。
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