秘封二次創作「秘恋映すは少女の瞳」   作:八雲春徒

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こんにちは
卯酉東海道からのお話です。
ヒロシゲの旅の風景をお楽しみください。


第三話 「富士と海 36号東海道中」 

36号と富士と海

 

 

 

 

 

 

 

 

 休日ということもあってか卯酉新幹線、そのホームは人で溢れかえっていた。改札前で手を振る二人のほうへ速足で近づく。

 

「おはよう、よく眠れたかしら遅くも早くもないご到着ね」

 

「そっちこそ珍しいじゃないか蓮子、お前が遅刻しなかったのはじめてじゃないの?」

 

「そんなわけないでしょう。間に合ったことだってあるわよ」

 

 蓮子はそう言うが、俺が彼女達と行動を共にするようになってからの今まで五分前はおろか間に合った場面にも遭遇した記憶はない

 それより前の話なんだろうか……。

 

 またいつものようにあきれ顔でメリーは言う

 

「はいはい、偉い偉い……あなたが寝坊しなかったってことは馬鹿みたいな昨日を過ごしてたからかしら?」

 

 

「何を言うのメリー、昨日は大学であったでしょう。いつもと変わりない、いやいつにも増して知性に満ち溢れ美しい蓮子さんだったはずだけど?」

 

 

「どーだったか、さあくだらない話はやめてホームに降りましょ。乗り遅れないようにね……そうよね?」

 

 メリーはこちらに目配せをする。

 

 

「そうだな、もう少しその漫談をみていたくもあるが、遅刻癖の会長が俺より早く来てくれたんだ。その思いも東京観光の時間も無駄にはできない 行こうか」

 

「誰が始めた会話よ……わかったわそれじゃあ行くとしましょうか。霊都 東京へ」

 

 各々改札に端末をかざし通り抜ける。すぐ目の前には地下へと続くエスカレーターが伸びていた。降りる間に蓮子に何でもなしに尋ねてみた。

 

 

「酉の京都が魔の都なら、卯の東京は霊の都か。故郷でも結界暴きのご予定かい?」

 

 

「そう言えば話してなかったわね。今回の旅の目的を」

 

「それだよ、結局何なんだ?」

 

 

「私もまだ聞いていないわ」

 

 

 ほどなくしてホームに着く。蓮子は少し考える素振りを見せた

 

「乗ってからでいいじゃない。取っておきましょう」

 

 取っておきたいとっておき……か。それほど引っ張るほどの話なのだろうか。まあでも長い話になるのなら座ってからがいい、蓮子の小難しくて理屈っぽい”講義”は立って聞くには重たすぎる……。

 

 白いホームドアの前でじきにつくであろうヒロシゲを待つ、メリーはその目でくるくるとホームを見渡した。

 

「東京方面、空いてるわね。反対方向はあんなに勤め人で混んでいるのに、私たちにとっては好都合だけど」

 

 

「蓮子に言わせれば東京は田舎だそうだからな、自由席でよかったじゃないか。帰りは混むかもしれないけど」

 

「相席されたらのんびりできないじゃないの、憂鬱かも」

 

 メリーは伏目気味で言った。

 

「旅に出る前から憂鬱になってどうするのよメリー、そういう細かいことはお酒でも飲んで忘れましょ」

 

「車内販売か、いいじゃないか。もちろん付き合うよ」

 

 

「飲み比べじゃ勝てないわよ私には」

 

 

「ごもっともだけど、道中からそんなに飲まねえよ」

 

 

 蓮子と向き合いお互いに杯を傾ける仕草をする。

 

 

「うわばみは結構だけどほどほどにね。着く前から酔っぱらわれたら大変よ」

 

「そういうメリーも飲むんでしょ」

 

 

「まあ飲むけどね」

 

 

「はい決定、早めの宴会でもしながら今回の旅の目的、それを話してあげる」

 

 

 メリーは返事をするでもなく。目線で乗車を促し踵を返す。それに続く。

 物々しいホームドアをくぐった先、ヒロシゲ36号の車内は想像とは違い、俺の嗜好にそぐわぬものだった。

 

 件のカレイドスクリーンにはまだ景色は描写されておらず、乗車に際しての注意事項や簡単な当機の説明を促す文字列だけが漆黒の液晶に流れている。座席はこの近代都市京都らしからぬレトロチックなデザインが施された風変りなものだ。

 

 

「ネオクラシカルってところかしら。きらいじゃないけれど」

 

 

 中折れ帽の裾を抑え、トランクケースを片手に引いた会長はけだるげにさも興味の無さそうな語調で言う

 

「私は良いと思うけどな。あなたはこういうの好みなんじゃない」

 

 メリーはまたも俺に目配せする。その言葉に返すでもない俺は、さながら意趣返しのように軽く微笑んで応えた。

 

「うん、意外に座り心地は良さげだな、あの店のソファみたいで」

 

「なら微妙じゃない、まあ悪くはないわ」

 

 あの店とはいつもの集合場所、路地裏の純喫茶のことである。俺はあの時代錯誤な店内の雰囲気をこよなく愛しているのだ。

 

「そうだわ蓮子、喫茶店といえば大学のテラスに新しくカフェがオープンしたみたいよ。なんでもオーダーも配膳もメイドロボットが行っているとか」

 

「メイドロボットってR2D2みたいなのでしょう……。でもまあ興味はなくはないわよ。次の集合場所はそこね」

 

 車両の端、接合部その横の座席に座り終えた二人はそんな調子に勝手に集合場所を決め始めた。

 

「ちょっとまってくれ、新しい店は構わないがいつもの喫茶店はどうなる? 気に入ってるんだけど、しかも大学かよ……」

 

「何も永遠にその店にしようなんて言ってないじゃない、あなたそんなに馬鹿だったのかしら? たまには気分を変えてって話よ。大学は所謂”開けた場所”なんだからかまわないでしょう」

 

「馬鹿なのは否定しないけど別に新しい店にいくことを否定してないぜ。普通に賛同だ。

 

 早とちりはよせよ会長、ただ肌に合わなそうで抵抗があっただけさ」

 

「若い子でごった返してそうだから? それか劣等感に苛まれるからかしら」

 

 言い返したって仕方ない、憎たらしい猫のような笑みも鼻には突くが慣れてしまった。

 

「まあね。でもいいよ行ってみようじゃないか。メイドロボットにも興味あるし」

 

「だからR2D2だって……」

 

「もー。好き勝手言わないでよ蓮子、可憐な乙女ロボかもしれないでしょ」

 

「メリーみたいな?」

 

「好き勝手言わない……」

 

 腹に据えかねたメリーは蓮子の頬をつねる。

 最も彼女の頬は紅潮していたが。

 

「いひゃいってめりー!」

 

 

 割と容赦なく引っ張られているのか、本気で痛がっているのが可笑しい。いつもと変わらぬ微笑ましい光景、旅の第一幕を閉じるように発車を告げるアナウンスが鳴った。

 

 ”今日も卯酉新幹線をご利用頂きありがとうございます。この電車はヒロシゲ36号東京行きです”

 

 車両が動き出すと同時にカレイドスクリーンにも景色が映し出される。

 

「おお、これがヒロシゲの……」

 

「ふふ、現実ではありえない景色ね」

 

 メリーは窓、正しくはそのモニターを指して言う。その先には見渡す限りの青い海が、反対方向の窓には建物の一つも見えない平原と松林だけがただ広がっていた。

 

 息をのむような景色である。最も実際は地下の、それも巨大な試験管の中を通っているわけであり開放感などとは縁のない場所で今いるわけなのだが……。

 

 それでも目前に広がっているのは現実と相違ない非現実的な仮想現実である。

 

 人間とはそのほとんどを視覚からの情報に委ねて生きている……

 

 という話もあながち嘘では無いのだろうか。なんてくだらないことを考えていた。

 

「瞳に映るものだけが現実ではない……か」

 

「私の見る夢はどうなんでしょう。現実みたいな非現実……。でもこの景色とは違うわ。確かにそこにあって触れられるもの」

 

 

 彼女は、マエリベリー・ハーンは不思議な夢を見る。床にはいり気が付くと彼女は見知らぬ場所にいる。例えば鬱蒼とした竹林、例えば霧の中に浮かぶ赤い館……

 

 

 そんな異界に現実的な意識を伴ったまま放り出されるのだから大変である。異形の化け物から追い回されることもあったらしい。

 蓮子から聞いた話では、”夢”の中の竹林で擦り傷を負い、そのケガは現実に帰っても消えなかったそうだ。

 

 

 

 それでも自分の部屋で目を覚ませばその体験も景色も「夢」に他ならない。

 

 

 彼女の肉体は眠っている間も部屋から消えていたりはしないだろうし極めて生物的に機能し続ける。同じ経験を、「あの夢」に迷い込んだ俺にはわかる……。

 

 尤も彼女のように自らの「能力」によるものでは無かったわけだけれど。

 

 彼女はカレイドスクリーンに映る絶景から”現実”という物の不確定性、その言葉の脆弱性を感じ憂いているのだろう。

 

 その瞳は現実を歪ませる。そんな力を躊躇いなく使える彼女がどうしようもなく心配になるのは俺が彼女達と同じ位相にいないが故なのだろうか……。

 

 それなら……良いと思う。

 

 

 

 

 マエリベリー・ハーンは聡明な女性だ。それでいて好奇心と探求心を持ち合わせてもいる。

 それゆえに例えば悪夢の中だとしても、意識のある限り、その探求心に突き動かされるままに「活動」をする。

 ケガを負ってもきっとそれをやめはしないだろう。

 

 だからこそ彼女は秘封倶楽部で宇佐見蓮子の相棒……。なのだろうけど。

 視線に気づいたのか、メリーは窓から目を離す。

 

「どうかした?」

 

「別になんでもないよ、スクリーンの景色が新鮮でな」

 

「まーたしょうもない事考えていたんじゃない。モニターに映る絶景に放心するほど単純な人間じゃないでしょうに……というか私はそう評価しているわ」

 

 取り繕ったつもりだったのだが、我らが会長は気に食わなかったのか横槍を入れてきた。

 

 困った。メリーを横目に見ながら考え事、なんてバレる訳にはいくまい……

 

「……まあな、ただ……。二人の目にはこの景色がどう映っているのか気になっただけだ」

 

「││私の目は時間と場所が見えるだけ。世にも美しい作り物の海がよく見えるわね」

 

「はあ、まあそうだよな。夜の便ならまた違うんじゃないか?」

 

「さあどうかしら。それよりもメリーの目のほうが面白いわよ、きっと」

 

「私はおもしろくないわよ蓮子、至って普通にしか見えてないわ。今のとこはね、珍獣扱いは悲しいですわ」

 

 メリーはわざとらしく膨れて見せた。

 

「蓮子はどうかしらないけど、俺はその目羨ましいと思うよ、俺には見えない世界が、景色が見えるんだろ。それは俺が焦がれ続けているものなんだ」

 

「慰めてくれたの? 嬉しいわよ。渡せるなら渡したいのだけどね……この目、誰かさんには気持ち悪いとか言われるし」

 

 

 この誰かさんとは疑うべくもなく蓮子の事だろう。いつかそんな話を聞いた気がした。

 

 続く蓮子の言葉は言い訳、自己弁護だろうか俺の仕事は終わったと、窓、カレイドスクリーンに目を移した。

 

「あれは冗談じゃない~。私だって本当は羨ましいと思ってるのよ。あなたがいないと秘封倶楽部は成り立たないもの、本当に頼りにしてるわ」

 

 渾身のキメ顔で蓮子は言う。メリーがどんな表情をしているかは確認できなかった。車内販売のワゴン車が通ったからだ。

 

 さっきの話ではないが無人販売のワゴンはR2D2というよりATATに近かった。とりあえず缶ビールを三本買い、二人のほうに向きなおった。

 

 出発から約25分ほど、カレイドスクリーンには遠くには雲の傘被った富士の山が見えた。

 

「言ってる間に富士山だぞ、はいビール」

 

 二人に缶を手渡す。蓮子は受けとったと思うと、瞬く間に缶を開けぐいと飲みこんだ。

 

「朝から酒がおいしいわね」

 

「流石はうわばみね、乾杯は別にいらないけど富士山くらい見たらどう?」

 

「見たわよ、仙人でもすんでそうなくらいの荘厳さだわ」

 

 富士より酒か。再びカレイドスクリーンに目を移してみる。確かにそこに映る富士の山は荘厳で美しかった。実際の景色とは違い建物、高層ビルの類が極めて少ない事も理由の一つだろう。

 

 

「ねえメリー、リアルの富士山よりかは綺麗でしょう」

 

「うーん、綺麗なんだけどなあ。作り物の景色だと思うと少し退屈かも、旧東海道の本物の方が良いわ」

 

「同感だな、現実ではありえない美ではあるんだけど、結局リアルじゃないっていうか。絵画的な美しさがあるだけでそこに自然の神秘性が欠落している、なんてな」

 

 それっぽい事を言ってみたが。正直この富士はスクリーンよりも本物で見てみたい、メリーの言うような意味では無い。この”有り得ない”景色が”在る”それを目に焼きつけたいとただ思った。

 

「それっぽい事言わないの。二人とも贅沢ねえ、旧東海道なんて今日日セレブか東北人

 しか使ってないわよ」

 

「私はセレブですわ」

 

 メリーはそう言って笑った。彼女もまた何だかんだで美味そうに酒を飲む。

 俺もまた富士を肴に、よく冷えて割高なビールを流し込んだ。

 

 

 

 

 

 ヒロシゲで行く旅ももう半ば、卯酉新幹線は京都から東京間をわずか53分で走る。

 

 驚くべきことに全線が地下、しかも直線的に作られているそうである。

 神亀の遷都により大量の人間が東京と京都を行き来する必要が生まれ、交通インフラに限界が来る。そこで急ピッチに開発されたのが卯酉新幹線「ヒロシゲ」である。両都間は通勤圏内となりヒロシゲは瞬く間に日本の大動脈となった……。

 

「53分、早いのは便利だけど旅の情緒は少し薄れるよな」

 

「早いに越した事はないわ、より時間を取れるでしょう」

 

「そう、それだよ。結局何しに行くんだ。実家に帰省する。以外の情報聞いてないんだけど」

 

「まあ私はそれだけでも楽しみに来たけどね。東京初めてだし」

 

 メリーは意外にも活動の事は置いておいて単に東京観光を楽しみにしていたみたいだ。そのビスクドールにも例えうるような容貌とは裏腹によっぽど人間味があるように思えた。自称プランクはやっと思惑を明かすのだろうか。

 

「そうね……。じゃあとりあえず言っておこうかしら」

 

 最後の一口と缶を大きく傾け、向き直った彼女は言った。

 

「彼岸参り、よ」

 

「ただお墓参りするだけ? いいけど終わったら東京案内してね、蓮子」

 

「構わないけどその前に……。メリー東京のお彼岸には変わった風習があるんだけど知ってる?」

 

「ええ? どういうの?」

 

 にやりと蓮子はそう笑って言う。

 

「お墓参りと一緒にね。その周りの結界のほつれを見つけて、冥界参りもするのよ。お盆に帰ってくるご先祖様、そのお返しに彼岸にはこっちからってね」

 

「そうなの? それなら何で早く言ってくれなかったのよ」

 

「また墓荒らしか? 俺は全然良いけどさ、民俗学なんて守備範囲じゃあないけど……そんな風習あるのか本当に?」

 

 

「もちろん嘘。でも折角だからしましょうよ、いいわよねメリー」

 

「構わないけど、するならするって言ってくれたら良いのに。まさかそれだけ?」

 

 結局そんな風習はなかった訳だ。それに冥界参りなら蓮台野で済ませている。あれもメリーいわく夢のようなものという事だが、主観にこそ真実が在る、と定義するメリーの世界においては間違いなくリアルであるはずだ

 

 生きている間そう何回も冥界に赴くものでは無いだろう。尤も俺は件の冥界の地に立ったことがあるわけだけれども……。人から言わせれば所詮は夢らしい。

 

 

 それはさておき、わざわざ東京まで来てすることが経験済みの冥界覗きの訳はない、否それでは困るし蓮子だってそうだろう。あくまで本命のついでってところか。蓮子はそろそろ観念したようで真面目な顔で言った。

 

「そう本命、遺品荒らしよ」

 

「整理じゃなくて?」

 

「もう整理されているもの、それを引っ張り出すんだから”荒らし”じゃない」

 

 本当に訳が分からなかった。墓参りで先祖を偲んだかと思えば遺品を荒らすと言う。何やら事情があるのだろうが……。

 

 メリーを見る。意外にも平然とした表情で彼女は言った。

 

 

「わかったわよ、墓荒らしの次は、ね。でも東京案内は絶対よ」

 

「良い感じねメリー。案内はまかせて。東京巡りは楽しいわよ。歴史を感じられる建物もたくさん」

 

 まあ、相棒のメリーが良いのなら良いか。とまたスクリーンの海に視線を移した。時を同じくぼーっと景色を眺めていたメリーは急に怪訝な目をして呟く

 

「あ、今……」

 

「どうしたのメリー?」

 

「見えたのよ結界の裂け目が。それにこの辺何だか感じが違うわ。まさかスクリーンのバグじゃないでしょうし」

 

 そう言われると少し頭が重くなった気がしたが、多分プラセボ効果ってヤツだろう。悔しい事に俺には何も見えちゃいない。

 

 俺には何の力も宿らなかったのだから仕方がない。

 

「ああそれはここが霊峰の下だからでしょうね。空気も違って当然よ。メリーは過敏だから緊張が走るかもしれないわね」

 

 そういう事か。確かに富士は結界と言えるだろう。

 

 富士は名実共に日本一の霊峰だ。古からの山岳信仰では山そのものを神と崇め、畏れた。

 

 富士の山と木花咲耶姫は多く同一視されるが、それに限らず山の神というのはそのほとんどが女神であり。その神の嫉妬を買わぬようにと「女人禁制」の掟が徹底された。それもまた一つの結界であると言えるし。

 

 山梨県は牛石遺跡に見られるような環状列石群は富士を望める場所に位置し、はるか昔の縄文時代より富士は人々に畏怖され信仰の対象であった。なんて学説もあるそうだ……

 

 どんな物であれ、信仰の対象とされる物にはある種の”結界”が発生するのかも……

 

「聞こえてるわよ。でも後者に関しては眉唾な都市伝説だわ。掲示板に毒されすぎ」

 

 聞こえていたか。

 

 蓮子の言う掲示板とは俺が暇さえあれば張り付いているインターネットのオカルト掲示板の事だろう。こんな時代でも物好きはいるものである。

 

 ネットの海の片隅で今や霊的研究のパンドラボックスに封じられてしまったモノについての議論が交わされている。

 

 とはいえ確かに蓮子の言う通り信憑性の皆無な情報も多い、しかし稀にだが俺にとっての手がかりとなる”掘り出し物”も見つかる

 俺はいつかの墓荒らしの夜を思い出していた。

 

「ねえ蓮子、確かに富士山なら納得もいくのだけどね。地下に冥界の入り口がある。なんて話もあるし……。でも富士山って火山でしょう? そんなとこにトンネル掘って大丈夫なのかしら」

 

 メリーのいう事も尤もである。そもそも富士山が火山である事をを失念していたようだ

 ”不死の煙”が上がる山……。そんな話もあったか。

 

「メリーは心配性ねえ。富士が世界遺産に認定されたとき死火山になったと断定されたじゃない」

 

「まあ、そうね……あら。もう通り過ぎたみたい」

 

 メリーは納得がいかなそうではあったが、件の区間は通過したようである。相変わらずこの俺には結界の裂け目も何も見えないが。

 

 しかし幾ら距離を縮めるためとはいえ、霊峰富士の真下に穴なんか開けられるだろうか

 とはいえ富士を避けてなおかつ直線的に卯と酉を結ぶなら……。

 

「青木ヶ原、とか」

 

「樹海……ね。青木ヶ原の伝説はよからぬ話ばかりだけど。考えすぎね、そんなことはお酒飲んで忘れなさい ほら」

 

 蓮子はいつのまにやらビールを追加注文していた。ほら、と手渡されたら飲まない訳にはいくまい。樹海の下も霊峰の下も酒が美味いに変わりはない。冷たいビールと共に誇大妄想を流し込んだ。日常の度合いを超えた飲酒も旅の醍醐味だろう。

 

「大丈夫なの? というか蓮子に合わせて飲んでたら体持たないわよ」

 

 そういうメリーも飲んでいるじゃないかと言うのは野暮なのでやめておいた。

 

「まあもう少しで着きそうだし、しばらくの飲み納めだな」

 

「ん、多分今夜も飲み行くんでしょうけどね。そうだ、いまどの辺かしら?」

 

 メリーが尋ねる。

 

「ああ、多分鎌倉あたりかな」

 

「そういえばこの新幹線、鎌倉にも駅を造るつもりだったみたいよ」

 

 また聞いたことのない話である。

 

「相変わらずもの知りね」

 

「まあね、三つの都を繋いで”繋都新幹線”にしたかったんだそうよ」

 

「鎌倉が都か? あとどうせ作るなら真ん中がベターだろうに鎌倉じゃほぼ東京だ。話の脱線も甚だしいぜ蓮子」

 

「地下トンネルでどうやって脱線するってのよ。まあそんな感じの理由でお蔵入りになったんでしょー」

 

「確かに脱線は無理があるか。いやそうじゃなくて、ていうか自分で始めといて投げるな……」

 

「二人ともさっきから聞いてたら脱線とか不吉な事言わないでよー。そんな話している間にもう着いちゃうわよ」

 

 そう言われてカレイドスクリーンを見ると先ほどまで壮大な富士、青い海が映し出されていた窓の外の景色にはスタッフロールらしき物が流れていた。何だか馬鹿みたいだ。

 

「こんな風景にも権利を主張したいのね」

 

 景色に権利なんて無いと思うけれど。何よりこの景色は新幹線の名に冠されるように浮世絵画家「歌川広重」の見た東海道を基にして作られている訳なので権利を主張するのであれば彼以外にはいないだろう。

 

 ”今日も卯酉新幹線をご利用頂きありがとうございました。間もなく東京、東京です”

 

 機械音声の車内アナウンスが響く、俺も蓮子も残ったビールを一気に流し込んだ。

 

 53分の電車旅は終わりを告げようとしていた。ケースを手元に手繰り寄せる。

 

 ”DESIGNED BY UTAGAWA HIROSIGE”

 

 その文章が浮かび、美しい東海道の景色は闇に変わった……。

 

 

 

 

 

 

 

 車両が止まった。ドアの開く音が聞こえる

 

 さて、いよいよ霊都「東京」に踏み出すわけだ。53分の余韻を残しながらも出口に向かい足をすすめる。

 

 思い出したように、後ろからメリーは言う

 

「でも、どうしてヒロシゲなのかなあ、東海道なら北斎だって書いてるじゃない」

 

「んーそっちのほうが有名だからか?」

 

「それもあるかもしれないけど、違うわ。この国は北斎の狂気を良しとしなかった。それだけ」

 

「で、品行方正な歌川広重をか……。何だかなあ、まあ画狂老人卍じゃ仕方ないかー」

 

 

 くだらない話をしながら歩く……

 旅はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでくださりありがとうございます。
京都、東京間の53分の旅を私なりに咀嚼して描いてみました。
感想お待ちしております。
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