秘封二次創作「秘恋映すは少女の瞳」   作:八雲春徒

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こんにちは
お待たせいたしました。前回は卯酉東海道より東京までの旅路を描きましたが
今回は東京でのお話です。オリジナルの展開になるので少々文章の稚拙さが目立つかと思いますが、よろしくお願い申し上げます。


それでは


第四話 「思いは幾多、旧都に眠る」

 

 第四話 「思いは幾多、旧都に眠る」

 

 

 

 

 

 

 霊都東京は想像以上に霊都らしい様相を成していた。

 

 卯東京駅の駅舎は随分と古めかしく見えるが、赤レンガと白い大理石で作られたそれはまるで遺跡のような存在感を放っていた。実際に何百年と改修工事を重ねながら使われてきたらしい。

 

 駅前の広場で駅舎を見上げながら、俺もメリーも未知の都の風景に息を飲んでいた。俺たちの住む京都とはその方向性や雰囲気は違えど十分に都会に見える。旧都なのだから当たり前ではあるのだけれど。

 

 蓮子の家は中心街から外れた。どちらかといえば郊外に位置する場所にあるようだ。そこまでいけばもう少し廃れた旧都のノスタルジーを感じられるかもしれない。

 そういえば蓮子はどこに行ったのだろう。

 何か言っていた気がするが、聞き逃していたみたいだ。

 ベンチに腰掛けぐるぐると楽しそうに辺りを見回しているメリーに尋ねてみようか。

 

 

「なあメリー、蓮子どこいったんだ?」

 

 

「ん、蓮子? 確か路面電車の時刻表を確認しに行ったんじゃない」

 

 

 ああなるほど、確かにそうだ。中心街から離れるのなら路面電車が最適だろう。

 東京には地下鉄は無いらしい。神亀の遷都による需要の激減によって全ての路線が封鎖され、ホームへの入り口は金網かなんかで閉じられているそうだから。

 俺はオカルト好きが高じてか、廃墟っていう物にも関心がある。

 以前読んだ廃墟の写真集にもそんな一枚があったような気がした。

 

 都が移れば人も移る。ゆえに建物も道路も端から朽ちていき”廃墟”が生まれるのもいたしかたないだろう。

 

 そうこうしている間にいつのもまにやら蓮子はふらりと戻ってきた。

 

 

「乗るわよ。あと五分もないわ、急いで」

 

 

「いきなり戻ってきたと思ったらいきなりだな。そんなに急ぐ必要あるのか?」

 

 

 とは言いつつ、俺もキャリーバッグを持ち上げる。メリーはベンチから腰を上げて伸びをしているようだ。座りっぱなしも疲れるのだろう。

 

「ふぁ~。もう行くの蓮子、もう少しぼおっと見ていたくはあるんだけれど」

 

 

「もっと面白い物が路面電車の車窓からは見えるわよ。さあ」

 

 

 蓮子は早歩きに、恐らく路面電車のステーションがあるであろう方向を指し、こちらを振り向いて言った。

 

 そう言われれば行くしかあるまい。俺とメリーは一瞬向き合って、その表情を確かめたが、またすぐに彼女を追って駆け出した。旅の第二幕が始まろうとしている。白く天井に輝く昼間の太陽が温かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちがついてすぐに路面電車は到着した

 カンカンとベルのような音を鳴らし到着したそれは、たった一両で乗客もまばらのようである。

 黄色と白の車体は所々塗装がぼやけ、長年利用されつづけてきた事が見た目にわかった。

 

 

「この電車よ、次の便は三十分後だから間に合って良かったわ」

 

 

「何だか楽しそうね蓮子」

 

 

 確かにいつもよりもテンションが高めに見える。何だかんだと言って故郷が懐かしいのか、いやただ単に酒が入っているからかもしれない。

 

「私、路面電車は初めてだわ」

 

 

「そうなんだな。俺はどっかで乗った気がするけど久しぶりではあるかな」

 

 

 メリーは東京旅行を随分と楽しみにしていたようで、レトロチックな車両をこれでもかと眺めていた。微笑ましいものだ。

 

 プシュー、と解放された圧縮空気がドアを開く音がした。ホームの地べたに置いたケースを持ち上げ、ぞろぞろと続いて乗車する。

 

 薄暗い車内、くすんだワイン色のベンチシートに腰掛け、荷物を床に下ろす。俺は最低限の荷物しか持ってこなかったがメリーの持つ革張りのトランクケースはかなり重そうだった。

 

 また空気の抜けるようなドアの閉まる。何と言ったのか運転手の単調な車内アナウンスが響き、車両は動き出した。

 

 

「結構揺れるわねえ」

 

 

「メリーは乗り物酔いとかするのか」

 

 

「うーん、基本はしないかなあ。そもそも揺れる乗り物にそんなに乗らないわ」

 

 

 それもそうか、ここまでくるのに乗ってきたヒロシゲもその運行は不気味なほどスムーズで静かだったし、京都の都を巡回するモノレールだってそうだ。

 

 蓮子に言わせれば”前時代的”な自動車を転がしている俺は好んで揺れを味わっていることになるだろう。

 

 窓の外に流れる景色は以前として「街」だが、京都に比べると車も走っていないに等しいし、アスファルトにもひび割れが目立つ。

 

 

「この道の悪さじゃあ車を走らせたくはならないな」

 

 

「当然ね。そもそも京都だって別に多くないじゃない。車」

 

 

「まあそうなんだけどな。それでもまだ走っているぜ」

 

 

「見ての通りひび割れてるしね。結界の裂け目だけじゃなくて、アスファルトのひびもほったらかしなのよ」

 

 

「田舎だって言ってたのはそういうことだったのか?」

 

 

 そう尋ねると、蓮子は少し考えて言った。

 

「それもだけど……。根底にあるのは精神的な未熟さ、かしらね。京都に比べたらだけど」

 

 

「何千年と霊的研究とやらを続けてきたのが京都だからな、それで嫌みったらしい性格になるわけさ、にしても故郷だってのに酷い言い草」

 

 

「ふふ、故郷だからよ」

 

 

「何だかんだで好きなのね。じゃないと帰ってなんて来ないじゃない。ツンデレね~」

 

 

 メリーにからかわれて蓮子は少し頬を赤らめていた。

 

 会話に気を取られていたので見逃していたが路面電車はすでに中心街からは離れつつあるようである。

 

 反対方向に見えては消える歩行者の群れの間隔も広くなってきたようだ。大規模な建造物は原則的に中心へと集中するものである。

 言ってしまえばそれも、中央集権国家の日本故に顕著として見られる特徴なのかもしれぬが。そんな日本も科学世紀の到来に伴って、数百数千年と積み重ねられた封建的な体制を打開すべく、地方への分権に尽力してきたはずである。

 

 故にここ東京はそんな時代の名残を残すある意味京都以上の”古都”と言えるのかもしれない。路面電車が進めば進むほど、その退廃的な表情を垣間見せる東京の街を見て、なんとなくそう思った。

 

 

「そうだわ蓮子、乗ればもっと面白いものが見られるって言ってたけど。何が見えるのかしら?」

 

 

「心配ご無用、もうすぐ”抜ける”わよ」

 

 

「抜ける? 何をだ」

 

 

「街を抜けるのよ、決まってるじゃない」

 

 

 いったいどういう事なのか。その先に何が見えるのだろうか。

 

 蓮子がそう言った直後、黒ずんだコンクリートの雑居ビル群を抜けたとき、車窓に映る風景は一瞬にして、開けた……。

 

 

 

「わあ……」

 

 

 メリーが言葉にもならない感嘆の声を上げる。

 

 車窓から見える風景、その一面に広がったのは見渡す限りの草原だった。

 

 遮るものがなくなったからか少し傾いた太陽の日差しが射しこんでいる。

 

 

「これが、その”面白いもの”か……。驚いたな。大ビル群を抜けたら大草原なんて」

 

 

 蓮子は、言ったでしょう。とでも言わんばかりに鼻を鳴らしている。そんな態度も気にならないほど、突如目の前に広がった風景は圧巻の一言であった。

 

 

「自然の力には結局敵わないもの、首都が移って。栄華を誇った東京の街も廃れていった。今から向かう郊外の住宅密集地域、そしてさっきまでいた中心街、その間に位置するこの辺は、ことごとく破壊されたのよ」

 

 

 そういう事か、後ろを見返すと先ほどまでいたであろう高層ビル群が見える。そして進行方向をみれば、少し遠くに対照的に低く、

 加えて多くの人の生活が営まれているであろうのどかな街並みが見えた。

 

 これが東京なんだな……。この緑はまるで対局を成す二つの街並みを分かつ境界のようである。

 

 黄白のツートンカラーの路面電車は青々とした平原をなおも進む。俺もメリーもそして蓮子もしばし、そんな景色を静かに眺めていた……

 

 青一色の景色、その中に一際の存在感を持って佇む巨大な影がが見えた。あれは……

 

「あれは、廃棄された環状線の一部よ」

 

 

 蓮子が呟く。そうか、あれがそうか。

 

 旧都東京の環状線の一部は廃棄され緑化している。なんて話を聞いたことはあったが実際に目にするとは想像もしていなかった。

 

 見あげるほど高い高速高架の残骸は塗り固められたコンクリートの端々から鉄筋の骨組みを覗かせているし、その表面は名も知らぬ植物のそのツタに覆われていた。

 

 まさに「遺跡」だ。遺跡とは古代の人間の営みの残響であり、その栄華と時の流れの無常さを今生きる人間に伝える、ある種の外部記憶装置だと思う。

 

 目の前に立ちはだかるそれはまさにそんな姿で、黙々と佇んでいる。

 

 古い歴史書の挿絵にあった古代ギリシアのパルテノン神殿でも見ているかのような錯覚を覚えてしまう。不思議な感覚だった。

 

 

「すごいわね……。東京って思ってた以上に刺激的だわ」

 

 

 メリーはそんな景色に釘付けのようである

 かくいう俺もそうなのだけど、不可思議な世界に夢で迷い込めるメリーにも人間と文明の作り出した所謂”産業遺跡”は俺と同じに目新しく映っているようで少し嬉しかった。

 

 

「まだまだ始まったばかりよメリー、東京観光は楽しいわ。新宿、渋谷。歴史を感じたいならうってつけの場所が盛りだくさんなんだから」

 

 

「わあ、それは楽しみね。今日行けたりするの?」

 

 

「んー、残念だけど明日にお預けね。今日はすることでいっぱいだし」

 

 

「結局、要領を得ないんだよなあ、墓参りもその遺品荒らしとやらも」

 

 

「まあ家に着いたらおのずと分かるわよ、とりあえず荷物を置かないと、でしょ」

 

 

 まあいいか。秘封倶楽部の活動なんて蓮子の思い付きで始まるんだし、このわがまま大人しく付いていく事にしよう。

 

 メリーのように相棒にはなれないけれど。

 

 環状遺跡を潜り抜け、なおも電車は進む。向かって後ろに聳え立っていたビルのシルエットも小さくなり、逆光の中に霞んでいる。

 

 草原ももう少しで終わりだろうか。

 

 

「見て、あの花……」

 

 

 メリーがそう言って窓の外を指さすので、俺も蓮子もそちらを向いた。

 

 その花は、緑の草原の中で一際鮮やかに、それでいて異様なほどに赤く咲き乱れていた。

 

 葉もなく、茎と赤い花弁だけの奇妙な花、群生する”彼岸花”が視界一面を赤く染めたのだ。

 

 

「そういえばメリーは彼岸花が気持ち悪いとか苦手とか言ってたわね」

 

 

「そうよ、苦手なの。だって形が不気味じゃない」

 

 

「まあ触りたくはないよな。あと毒があるらしいし」

 

 

「卒塔婆のほうがよっぽど触り難いけどね変な感覚持ってるわ、ほんと」

 

 

「お前は最後まで指示してただけだったじゃないか」

 

 

 蓮子は蓮台野の夜の話を蒸し返したいようである。ああ、そういえばあの墓地にも彼岸花が咲いていたような気がする。この世とあの世の境界、夢と現の境界、そして過去と未来の境界……。

 

 相対するものの接する場所こそが”彼岸”である。だとすればここは一体なんの境界なのだろうか……。

 

 

 

 

 そんな事を考えているうちに、草原も一面の彼岸花もすでに過去の景色と変わってしまったようだ。

 

 路面電車は市街地に入り速度を落としながら走っている。何十分ぶりかの車内アナウンスが響いた。

 

 

 駅についたようだ。駅とは言っても分離帯に毛が生えたような簡素なものではあるが。

 

 

「ね、面白かったでしょ」

 

 

 蓮子はシートから腰を上げ荷物を持ち上げる。振り向きざまにウインクをして言われると照れるからやめて欲しい、たまにそんな仕草を見せるのもやっぱり掴みどころがないような印象を持たせる一因かもしれない。

 

 ドアが開く。さて降りるとしよう。

 

 メリーのもつ革張りのトランクケースはやはり重たそうだった。

 

 

「持とうか? それ」

 

 

「あら、いいの? 重いわよ」

 

 

 メリーからケースを受け取る。確かにかなりの重量だ。まあ蓮子の実家までなら楽勝だろう。

 

 尤も場所も知らないわけだけど。

 

 

「その実家って近いのか?」

 

 

「歩きで二十分くらいかしらね。というか私のは持ってくれないのね」

 

「重くなさそうだからな。無理してでも持ってほしいなら良いぞ」

 

 

「別にいいわ。ほらこっちよ」

 

 

 路面電車の停車駅を離れ、横断歩道を渡る

 

 極端に車の往来が少ないからか信号はなかった。たまに運送のトラックが通り過ぎるくらいだろうか。

 

 先導する蓮子に続いて、東京郊外の町を歩く。歩道横に目をやると古びた個人商店や開いてるのか閉まっているのかわからない居酒屋などが立ち並んでいた。

 

 反対側を見ると低層の雑居ビルやマンションが立ち並んでいるようである。

 

 

「下町って感じねえ」

 

 

「まあね。もう一度言わせて貰うけど精神的に未熟な街だわ。人情も庶民性も言い訳にしか聞こえないし」

 

 

「で、京都に出てきたわけか。まあ田舎だってのは納得できるかな、息が詰まらなくていいんじゃないか」

 

 

「そうそう、たまには馬鹿になるのもいいじゃない」

 

 

「洗練されていない庶民的な娯楽ならたくさん残っているけどね」

 

 

「その点京都は厳しいからなあ、賭博場も無いし」

 

 

「あったって負けて泣き見るだけよ、あなたじゃあ」

 

 

「蓮子なら勝てるのか。得意の計算でさ」

 

 

「当然よ。とはいえ超統一物理学はすでに計算とか数式の世界じゃなくて哲学的な領域に突入しているのだけどね」

 

 

 小難しい話をされても困る。一度その超統一物理学とやらについて聞かされたのだが。一単語として頭に入らなかったのが思い出に新しい。そうこう言っているうちに路面電車を降りた大通りは離れ、住宅地の路地を歩いていた。

 

 

「ここを右よ」

 

 

 そう蓮子が言うので、立ち止まり右方に目をむけると、急勾配の坂道が上へと伸びている。

 

 

「この坂を上った先が私の実家よ。町が一望できるわ」

 

 

 中々良い立地だとは思うが。

 

 

「長くないか? この坂道」

 

 

「その重たい荷物持って登るのよ。途中で音を上げたりしないわよね?」

 

 

 蓮子は悪意を持った目でにこりと笑った。正直厳しそうではあるが、メリーの手前、無理とは言えない。

 

 

「馬鹿にするなよ、こんくらい軽いぜ」

 

 

「甘えちゃってごめんね。無理しなくていいのよ」

 

 

 強がりはバレバレのようだ。とはいえよくこんな重たい荷物を持ってきたものである。

 

 

「重いでしょ。乙女にはあれやこれやと持ち物があるのよ~」

 

 

「ふーん、の割には蓮子は身軽に登っていくぜ」

 

 

「蓮子は無頓着だからねー」

 

 

「あら、やっぱり私の荷物も持たせようかしら」

 

 

「悪かった、勘弁してくれ……」

 

 

 

 

 

 

 日の照り付ける坂道を上る。

 

 今は中腹ほどだろうか、秋であるとはいえ直射日光に晒されながら重量物を持って登っていると暑い。

 

 時折吹き付けるそよ風と、塀の向こうから生えた木々の作る木陰が涼しく感じた。

 

 二人の影はすでに小さくなっている。どうやら登り切ったようで、メリーがこちらに手を振っているのが見える。蓮子は腕を組んで頂上からの景色を眺めているようだ。

 

 さて、あまり待たせる訳にもいかないので足を速めることにする。肩と腕に重さを感じながらも小走りで斜面を踏みしめる。

 

 

 

 やっと頂上に辿り着いた……。

 

 

「お疲れ様、ありがとう。ねえ、後ろ見てみて」

 

 

 メリーがそう促すので来た道を振り返ってみた。

 

 細い下り坂が下へずうっと続いている。

 

 かなりの距離を登ってきたようだ。通ってきた道、通り過ぎたビル……。街の全容をそこからは一望することができた、が何よりその景色の向こうの山影に目を引かれた。

 

 あれは富士だ。

 

 

「まさか本物を見られるなんてな……」

 

 

「今登ってきた坂道は昔から”富士見坂”って呼ばれているの。そのまんまでしょ」

 

 

「やっぱり本物のほうが綺麗じゃないの。全体が見えないのは残念だけど」

 

 

 とはいえあの建物の数を考えると良く見える方ではある。長屋しか無かった江戸時代なら完全な富士を見ることが叶ったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「さあ、そこが家よ。とりあえず到着ね」

 

 

 蓮子の実家は坂を登ってすぐにあった。

 

 

「わあ、立派な家ねえ。蓮子ってもしかしてお金持ち?」

 

 

「貧乏ではないわ。とは言っても古いだけの家よ」

 

 

 木製の門をくぐると石畳が続いていた。その先にある建物を表現するなら「日本屋敷」が妥当だろうか、黒い瓦で覆われた二階建ての家屋である。向かって右にはテニスコート一面分はあるだろうか、それくらい広い庭が広がっていた。向こうに見える建物は”蔵”だろうか。

 

 

「ただいまー。連れて来たわよ」

 

 

 宇佐見家の大きさに見とれているうちにも蓮子とメリーは玄関に入っているようだ。俺も急いで向かう。

 

 

 

「いらっしゃい、お構いはできませんけどゆっくりしてくださいね」

 

 

 蓮子の母親であろう女性が玄関口に出てきて言う。上品で優しそうな女性という第一印象だ。

 

 

「マエリベリーです。お世話になります」

 

 

 メリーがお辞儀をして言うので、俺も場違いとは思いながら挨拶をする事にする。

 

 

「すみません……お世話になります」

 

 

「いえいえこちらこそ……。蓮子がお世話になってるみたいで……。この子変わり者だから」

 

 

「ちょっと母さん……」

 

 

「ふふ、本当に振り回されっぱなしなんです」

 

 

「ちょっとメリーってば」

 

 

 そう言って三人は笑い合っている。早くも打ち解けられたようで微笑ましい。大の男が一人いるにはやっぱり気まずい空気である。

 

 とはいっても女子大生の中に怪しい男が付いてきたというのに怪訝な顔せず受け入れてくれた蓮子のお母さんには感謝しかない、器量よしな人だと思う。

 

 

「何ぽけっとしてるのよ。荷物置きに行くわよ」

 

 

「ああ、じゃあお邪魔します」

 

 

「お邪魔しまーす」

 

 

 玄関を左に曲がり廊下、というよりは縁側を歩く。本来こちらから見るようにように造られているのか、さっきよりも庭が綺麗に見えた。

 

 

「私とメリーがこの部屋で、あなたはその隣の部屋ね」

 

 

「りょーかい」

 

 

 言われた通りに部屋のふすまを開ける。部屋の中にはローテーブルと一人分の布団が置いてあった。蓮子の母が用意してくれたのだろう。何から何まで申し訳ない。

 

 にしても一人にしては広すぎる部屋である。

 

 

「広いな、この部屋」

 

 

「広いだけで空調とか無いわよ」

 

 

「それは寒そうだな。で墓参りいくんだろう」

 

 

「ええ、用意してもらってた仏花持ってくるわ。外で待ってて」

 

 

「わかった。一服してるぜ」

 

 

「いいけど吸い殻散らかさないでよ」

 

 

「当たり前だろ」

 

 

 蓮子とメリーが廊下の奥へと消えていったのを見送り、玄関へと向かう。

 

 靴を履いて外に出ようとしていると、後ろから蓮子の母親に声をかけられた。

 

「お出かけなのね。急にお墓参りなんて言い出すものだから驚いたわ。それにあなたお勤めなんでしょう。蓮子がご迷惑おかけするわね……」

 

 

「いえ、僕なんてただの不良社会人ですよ、誘ってくれてこちらこそ感謝したいくらいです。それに振り回されるのも慣れましたから。

 それより男一人で乗り込んで申し訳ない」

 

 

「あはは、いいのよ。あの子一度も男の子連れてきた無かったし……」

 

 

「ああ、そうなんですか」

 

 

 聞かなかった事にしておこう。

 

 玄関を出て、入り口の門のところで二人を待つ。胸ポケットから煙草を取り出し、火をつけた。

 

 ここまで来るのだけで随分疲れてしまったからか、煙草の紫煙が体に沁みた。遠くには富士の影、街の全景を見渡せる。そんな景色は煙の中に霞んで揺れていた。

 

 

 

 

「ごめん、おまたせ~」

 

 

 玄関の戸がガラガラと音を立てて開き、メリーの声がする。蓮子も続いて出てきたようだ

 半分程吸った煙草を携帯灰皿に押し込んで消火する。

 

「なあ蓮子、坂の中腹にお墓あったけど、あそこでいいのか」

 

 

「ええ、そこでいいわ。着いたら話すわ」

 

 

「そうか、わかった」

 

 

 特になにか喋るでもなくさっき登ってきたばっかりの坂道を下る。墓参りにその”遺品荒らし”蓮子の事だから無関係ではないのだろう。

 

 ぼおっと歩きながら、数分も下るうちにその墓場に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 入り口にある蛇口をひねり、持参したバケツに水を汲む。

 

 その墓は墓地の中でも奥まった場所にあった。狭い通路を他の墓石に気を付けながら歩いて辿り着いた。

 

 

「ここが、宇佐見家の墓よ」

 

 

 蓮子はバケツから柄杓で水を掬い墓石を清めながら言った。

 

 

「墓参りか、最近ちゃんと行ってないな」

 

 

「行きなさいよ……。そうだライター持ってるわよね」

 

 

「当然だろ、ん」

 

 

 蓮子が差し出した線香を手に取り火をつけ墓の墓に供える。

 

 線香の独特な香りの煙が漂う中、俺たち三人は静かに手を合わせた。

 

 

「ねえ、蓮子。その遺品って……」

 

 

 それは俺もずっと気になっていた事であった。メリーの問いに蓮子は一拍呑み込んで答えた。

 

 

「そう、ここはね……。私の大叔母”宇佐見菫子”の眠る墓、その遺品を暴くために来たのよ」

 

 

 

 

 

 彼女のよく通る声が、白昼の墓場に響いた……。

 

 

 

 




ここまで読んでくださりありがとうございます。
原作には描かれなかった所を自分の妄想で精一杯補完したつもりです。
感想お待ちしております。

この小説を楽しみにしていてくださる方がいると嬉しいです。
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