東京旅行編の続きでございます。
このお話では秘封倶楽部初代会長の彼女についてを描きました。
それでは
第五話「秘めし記憶は埃の下で」
宇佐見菫子、その名前を初めて耳にした瞬間であった。
「大叔母、っていうと蓮子のおじい様かおばあ様の兄妹なのかしら?」
「ええ、私のお祖母ちゃんの妹よ」
なるほど、今俺たちが手を合わせている墓の下にはその”宇佐見菫子”という人が眠っている訳か。
「それはわかったんだが、どうして今その人が出てくる?」
聞いているのか聞いていないのかわからないが、蓮子は静かに続けた。
「私お祖母ちゃんっ子でね。本当に可愛がって貰ったのよ。たった一人の孫だったからってのもあるんだろうけど」
蓮子は少し、昔を懐かしんでいるようである。よっぽどその祖母の事が好きだったのだろうか。
しかしそれがどうしてその宇佐見菫子という人物にどう関係してくるのかはまだわからない。
「それで、そのお祖母ちゃんなんだけど、最近亡くなったの」
「そういえばそんな話していたわね。柄にも無く落ち込んでいたのは覚えているわよ」
メリーが言う。つまり俺が彼女達に出会う前の話だろうか。
確かに誰かが死んで落ち込んでいる彼女の姿など想像もつかない。が、彼女にだって親しい人の死、そんな傷心に涙する時があったって良いとも思う。
「そうか……。お悔み申し上げるよ」
「そんなの別にいいわ。長生きはしたほうだし。彼女自身、幸福だったと言っていたからね……。たった一つその”隠し事”を除いては……ね」
晴天の下、立石群のその中で街に背を向け小さな墓石を見つめる三人、風が吹き線香の煙を揺らした。もう半ば程まで白い灰に変わってしまってはいるが。
何となく、蓮子の話の終着点がみえてきた気がしなくもない。
「で、その”隠し事”聞いたんだろう。内容はその宇佐見菫子さんについて、とか」
「ええその通りよ。ここからが大事、しんみりしてないで真面目に聞きなさいよ」
「しんみりは真面目じゃないんだな」
「当然よ」
「やっぱり蓮子は蓮子ね~。じゃあ聞かせて貰おうかしら」
こほん、と蓮子はそれらしく咳払いをして話しだした。
「そのお祖母ちゃんが亡くなる前にね。私を呼び出したの、その時に初めて大叔母”宇佐見菫子”の名前を聞いたわ。若くして亡くなったようだから私が知らないのも当然なんだけどね」
やっぱりしんみりしそうな話ではあるが、当の蓮子はさっきとは打って変って平常運転で淡々と続けるので、俺もメリーもいつも通りに彼女の話を聞いている。
「続けるわよ。多分彼女は自分の死期を悟った、それでずっと秘め続けてきた隠し事を打ち明けたかったんでしょうね。で……その内容。祖母の妹、宇佐見菫子は……」
「”超能力者”だったみたいなの」
…………。想像の斜め上を行く話である。
要するに蓮子の大叔母は超能力者であり、その姉であった蓮子の祖母はそれを死の間際まで隠し続けていた。ということか……。
「あら、面白そうな話ね。詳しく聞かせて欲しいわ」
メリーはやっと蓮子の真意を知れたからか楽しそうだ。
よく考えれば蓮子の瞳もメリーの瞳も超能力と呼ぶに相違ないものである。むしろその話が本当であれば、少なくとも蓮子の能力はその”血”に由来しているのでは……。などと
考えてしまう。
「嫌と言っても話すわよ。戻ってからね」
次第に興味が湧いてきた。さてその真実はと考えを巡らせつつも、墓地を後にしてまた坂道を登る。ふと腕時計をみると長針と短針は午後一時を指していた。
さて、見あげた先にあるのは黒い三角屋根を戴く宇佐見家の「蔵」である。
実際に前に立って見てみると、変色し所々剥離した漆喰壁に漆塗りが落ちた艶の無い蔵戸、と家本体よりも経年の劣化が見える。
蓮子によると家は何度かリフォームはしているが、蔵の方は手付かずで入り口付近は物置になっているそう。なんとも無防備な事に鍵の類は一切掛かっていない。
蓮子含めご存命の宇佐見家の人々でここに何が収められているのかを正確に把握するものはおらず
ほぼ未知の領域ではあるが、蓮子が祖母から聞いた話を頼りに、今まさに”遺品荒らし”改め”遺品捜索”が始まろうとしている。
蓮子が祖母から聞き、俺とメリーが蓮子から聞いた宇佐見菫子に纏わる逸話を要約するのであればこうだ。
”これは今から一世紀近く前の話である。宇佐見菫子という少女は孤独な娘であった。それも孤独になったのではなく、敢えて孤独であろうとしたのである。
友人も作らず、家族とも最低限の会話しかしない。部屋に籠っては怪しげな研究に浸っていたそうだ。
しかし彼女は拗らせていたわけでも血迷っていたわけでもない。絶対的な根拠と自信があっての行動だった。
視点は移る。
菫子の姉であった蓮子の祖母、確かに偏屈で理解され難い性格を妹はしている。しかし彼女にとってはたった一人の大切な妹だったのだ。
例え心を開いてくれずとも、彼女を気にかけ続けていたのだそう。
そんな彼女はある時、魔が差したのか妹の部屋を覗き見たことがあった。
そしてそこで妹が所謂「超能力」を使える。という事実を知ったのだ。
そして理解した。
妹が孤独にこだわるのは異能を行使できるが故の全能感、それに伴う他者との差異を自分は特別であると驕ってしまったからなのだと。
しかしその事実を知ってなお彼女は妹を思い、守ろうと思った。
人とは違う力を持ったが故に歪んでしまった彼女がせめて自分の望むままに求めるままに日々を過ごせるように。笑っていられるように……。
それだけを願い、秘密を抱いて生きてきたのである。その思いは例え妹が死んでも揺らがなかった……”
こんなところなのだが、何とも切ない話ではないか……。
とはいえまた湿気た表情をすると蓮子が怒るので切り替えていこうと思う。
「私は秘封倶楽部の宇佐見蓮子よ、秘密を託されたんだから暴かずにはいられない。お祖母ちゃんの為にも真実を解き明かしてみせるわ!」
蓮子は蔵戸の前でそう見栄を切る。やる気は十分のようだ。結界暴きとは違い地味な活動ではあるが、ようやく秘封倶楽部らしくなってきたというものである。
「じゃあ、始めるか」
「ホコリ被るのは嫌だけど仕方ないわね」
手付かずだった蔵がついに開け放たれる。
光が差し込む、薄暗い蔵の中は想像以上に大量の物で溢れていた。人一人通れるほどの通路をいくつか残して、角材で作られたような木製の棚に段ボールや木箱がぎっしりと詰まっている。
「この中から見つけるのかよ」
「せめて大まかな場所でも分かってればねえ……」
「そこでメリーの目じゃない。超能力者が使った物なら何らかの結界を持っていてもおかしくないでしょう」
「どんな理屈よ……。今のところさっぱりだわ。手に取ってみればもしかしたら」
「メリーに見せてどうするんだ?」
「例えばその物に宿った記憶を”視る”とかね」
「おいおい……。出来るのかよそんな事……」
「多分ね……。そこに境界さえ見いだせるなら」
蓮子が言うのだからそうなのかもしれないが……
メリーの能力はあくまで結界の裂け目やほつれ、物質界と非物質界の境界を認識できるくらいだと思っていた。いやそれでも霊感どころではない異質な能力ではあるのだが、記憶の世界にまで干渉できるなんてまるで……
まあ考えてもしかたあるまい、とりあえずしらみつぶしにこの箱を開けていくしかないだろう。
「どうする蓮子? 大切な物を保管しているのなら段ボールの優先度は低いよな」
「そうね……。私も同意見だわ。けど段ボールを除外してもかなりの数よ」
「とりあえず、適当に出してくか」
一番下に見えた細長い木箱を取り出してみる。触った瞬間に分かる程に埃の層が箱の蓋部分に付着していた。マスクと雑巾を用意しなければ無さそうだ。
軽く埃を払い落し、メリーに手渡す。
「蓮子、開けるわよ」
「いいからどんどん開けてきましょ」
メリーは勢いよく木箱を開く、舞い上がった煙を吸い込んでむせてしまった。
「ご、ごめんなさい。ついテンション上がっちゃって」
「大丈夫、なんだろうそれ、巻物か?」
「どう見ても掛け軸じゃない」
「冗談だ。開けてみようぜ」
冗談とは言ったがこの蔵なら巻物の一つや二つ出てきそうなものである。
古そうな蔵から出てきた物なので期待しながら掛け軸を開いてみた。
残念なことに、どこにでもありそうな夕焼けの富士が描かれただけのシンプルな品物である。多分価値はほとんどないだろう。
「これならヒロシゲの富士のが綺麗ね……」
「ちょっとメリー、目的が違うわよ。見つけるのは価値のある骨董品じゃないの」
「わかってるわよ~。とりあえず口を覆えるものと雑巾と脚立がいるわね」
「それが言いたかったんだ」
「わかったわ。持ってくるからテキパキ働きなさいよー」
さてここからが大変である。
俺が箱を下ろし、二人が中身を確認していく。という作業を繰り返すのだが、棚の最上段の箱を取るには脚立を使わなければならずしかもその脚立が不安定と来たもので相当な恐怖を強いられることになった。
何十の木箱を開けただろうか。箱を開けて出てくるのは、掛け軸、壺、仏像、鉄器、古書など様々であったが、どれも宇佐見菫子の遺品ではなく、素人目でも価値は見込めないような物ばかりである。
蓮子曰く”祖父が趣味で集めていたガラクタ”との事である。
「ダメだ……腰も腕も限界……」
下ろし続けた木箱の中にはかなり重い物もあり、体の節々は軋みを上げている。
床には数十個の大小の箱が散らばっているがどれもハズレだった物だ。
「曜変天目でも出てくればテンション上がるんだけどなあ」
「現存が確認されてるのがたった三点とかでしょう。うちの蔵にあるわけないわ」
「まとめて鑑定に出せばちょったした金にはなるんじゃないか」
「面倒くさいからいいわよ」
遺品捜索を始めて二時間弱ほど経っただろうか。俺も蓮子もメリーもすでにヘトヘトであった。
とはいえこんなところで諦める訳にはいかない。絶対に”超能力少女”の秘密を暴き出さねばならないという連帯感というか、義務感が芽生えつつあった。
すでに午後三時を回っている。日が暮れる前には結果を出したいところである。
「よし、良いわ。日が沈むまでに見つかったら今夜の飲みは私の奢りよ」
「言ったわね蓮子。ねえ私も手伝うわ箱を下ろすの」
メリーはその辺に立てかけた脚立に手をかけて言う。あまり彼女に肉体労働をさせるのは忍びないのだが。
「結構しんどいんだぞメリー、大丈夫なのか?」
「囁くのよ、私の瞳がね。それにこれだけ選択肢を削ったんだもの、もう見つかるわ」
メリーは俺の目を見て自信ありげに言うのである。
このまま端から開けて行ったところで埒があかないの疑うべくも無いし
彼女の不思議な瞳と第六感に賭けてみようか。
「ならメリー、どれを開ける?」
「んー。じゃあこの棚の最上段、端っこにあるアレにしましょう」
メリーが指さしたのは木棚の最上段、梁のギリギリに置かれている箱? であった。風呂敷のような物で覆われているため中身は確認できない。
脚立を移動させて、登る。相変わらず不安定だが仕方ない
天板に足をかけたところでやっと手が届いた。
「下で受け止めてくれるかメリー、かなり重いぜ」
「わかったわ、まかせて」
白っぽい布で包まれたそれは想像以上に重量があった。腰を痛めかねないので慎重に持ち上げメリーに手渡す。
「あー本当に重いわねこれ」
メリーはそれを床に下ろした。俺も脚立を降りる。
「取るわよ風呂敷」
蓮子はかかっていた風呂敷の結び目をほどき中身を露わにした。
それは黒い革製の巨大なボックスである。横幅は1.5メートル、高さは50センチメートル近くあるだろうか。長方形で人一人くらいは入れそうである。
「なかなかそれっぽいな」
「ふふ、私の目は間違ってなかったって事ね。ただ、鍵掛かってるのがね……」
黒い箱には大きな南京錠がぶら下がっている。ダイヤルは無く鍵で開けるタイプのようである。
「蓮子、鍵は?」
「持ってないわよ」
「平気な顔で言うなよ、開かないじゃないか」
「とりあえず、これで試してみる?」
蓮子は壁に掛けてあった鍵束を取って見せた。十数本の鍵があるが、はたして合う物があるのだろうか。
蓮子から受け取った鍵束を南京錠の鍵穴に挿していく。
小さ過ぎるもの、大きすぎるもの、刺さったはいいが抜けなくなるもの……。と全部の鍵を試したのだが結果は全部ハズレであった。
「こうなると、もう壊す以外に開ける手段は無いかな……」
そうこうしているうちに四時前である。古びた蔵の格子窓からかろうじて射しこんでいる日差しも傾き始めたようだ。
よく考えると今は秋なので日が早いのも仕方ない。
「いいわ……、壊しちゃいましょう。多分これだと思うし」
「本当にいいの? 私が適当に選んだのよ」
「メリーの直感を信じるわ。超能力者は引かれ合う。ってね」
「なによそれ……」
「結局壊すのは俺なんだけどな。そこの工具箱取ってくれるか」
蓮子は足元に転がっていた工具箱をこちらに寄越して言う。
「はい、でもどうやって壊すの?」
「サンキュー。前に何かで読んだんだけどさ、こうやってスパナを二つ使うんだ」
南京錠のU字状になったつるの間にスパナ二本の先端部を噛ませる。あとはテコの原理の要領で内側へ力を加えれば簡単に破壊できる……らしい。
「そんなのどこで読むのよ……。泥棒稼業でも始めるつもりかしら?」
「そんなんじゃないさ、ライフハックってやつ、壊すから離れてろよ」
握るスパナに思いっきり力を込めた。
ガキン、と甲高い金属音を響かせて真鍮製の南京錠のつるは砕けた。
「わあ、本当に壊れたわ」
「便利だろメリー、覚えとくと便利だぜ、さあ開けてみようか」
南京錠の残骸を除き、黒い箱の蓋に手をかける。さて、パンドラの箱を御開帳だ。
蓋を開け放つ
「本、本ね……」
蓮子の言う通り箱を開けて目に飛び込んできたのは”本”である。いや本しか見えないそれもただの本でなく……。
一番上の一冊を手に取ってみる。
「エリファスレヴィの”高等魔術の教理と祭儀”だな……」
「読んだことあるの?」
「ちょっとだけ、でも教理編の冒頭数ページで諦めたよ。そもそも基督教圏の人間向けに書かれた物だから、多神教国家の日本に生まれた俺にはなかなか……」
メリーは俺の持つその本を横から覗きこむ
「でも面白そうじゃない、読んでみようかな」
「おすすめはしないよ、今から魔術を身に着けようってんなら別だけど、メリーは正真正銘本物の”魔術師”じゃないか」
「まーそうなんだけどね」
くるりと件の箱のほうに向きなおる”魔術師メリー”
蓮子は本を取り出してはじっと表紙を見つめたり、パラパラと頁をめくったりしている。
俺もその確認作業を手伝うとしよう。
さて、その箱から出てくるのはどれも”それっぽい”ものである。
魔術、降霊術、錬金術、占星術など、かつてヨーロッパでオカルティズムと称された非理性的な学術書達に加え、都市伝説なんかの書籍も見受けられた。
それに”超能力”に関しての本も……。
「超心理学概説、JBラインの著書だ」
「近代超心理学の父だっけ、名前だけ知っているわよ」
メリーもまた書籍の山を物色しているようで、目線は変えないまま答えた。
「メリーは相対精神学だもんね。そんなオカルトに片足突っ込んだような内容までするなんて初耳だけど」
「それも京都の霊的研究の成すところ、だろう。悲しい事にラインの研究は晩年になっても”科学”とは認められなかったそうだ」
「でしょうね。結界暴きと同じで認めてしまえばそれこそ均衡が崩れるじゃない。というかどうでもいい事ばっかり詳しいのね」
「別に詳しかないって、名前くらいなら娯楽的な嗜好の月刊誌にだって載ってる。俺は対して知らないことを知ったように話すのが得意なんだ」
「自慢にならないわよそんなの。それよりも手がかりがこれだけじゃあね……」
「そうだな……」
確かに、この本が宇佐見菫子の残したものであることは疑うべくもないだろう。しかし今のところ証明できたと言えるのは彼女が非科学的神秘の世界に深い関心を持ち、熱心に研究していた。それぐらいである。
彼女が真の超能力者だったと断定するにはあまりにも早計な、心もとない根拠しか現時点では揃っていない訳だ。ネクロノミコンでも出てくれば話は別かも知れないが……
もはやこれまでか、と諦めかけたところでメリーが何かを見つけたようだ。
「二人ともこれ見て……」
そう言ってメリーがこちらに差し出したのは五枚組のカードだ。
「これって確か、E……なんとかよね……」
「ESPカードだな。さっき言ってたライン博士が作った、ESPつまり超感覚的知覚の実験に用いた物らしい」
ESPカード、またはゼナーカードとは超心理学者、JBラインによって考案された超感覚の存在を確かめるための実験である。
五種類のカードには丸、十字、波、四角、星の図柄が描かれていて、その図柄を当て統計をとるという簡単な実験である。とはいえやっと出てきたマジックアイテムだ。
「ふーん、おあつらえ向きではあるわね。メリー、もしかして何か見えた?」
メリーは小さく頷いた。
「ええ、このカードだけ異質なのよ。なんだろう、力場というか歪んで見えるの」
「それじゃあ”当たり”ね。さて覗ける? その結界を」
メリーが言うのであれば間違いないだろう最後の最後で当たりを引いた訳だ。尤もあまりにも時間がかかりすぎたためか感動や驚きというより安心に近い心持ちである。
とはいえ本当にESPカードから所有者「宇佐見菫子」の記憶だとかそういった類の情報を引き出せるのであればやぶさかではない
「んー試してみるわね……」
メリーはじいっとカードを見つめる。もちろん俺にも蓮子にもただのカードにしか見えない。蓮子はかなり期待しているそぶりだが俺はもう正直満足である。
メリーの目が映したのだから蓮子の大叔母である宇佐見菫子が超能力、それに類する異能を行使できた事はもはや証明できたといえるだろうし……
メリーはしばらくカードを睨んでいたのだが、突如ため息をついて視線をこちらに向ける。何だか申し訳なさそうな眼差しなので何となく結果を察することができた。
「ごめんなさい、ダメだったわ……。カードに込められた力が強いからかしら……」
「そんな事だと思ったぜ、でもその大叔母さんが何らかの超能力を使えたのは間違いないし、いいじゃないか」
まあ会長がどう言うのかは分からない訳だけど、しかしもう五時も過ぎている。日は沈んでいないようだが外は暗くなり始めているし肌寒い。
蓮子はしばし考え込んでいった。
「うん、そうね。私ももう満足よ、二人ともお疲れ様 ありがとう」
なんだかおおよそ蓮子らしからぬ台詞である。彼女の事だからこのまま夜が明けるまで捜索を続けさせようとするものだと思っていたので少し反省した。
「蓮子らしくない台詞ねえ、本当にもういいの?」
「十分よ、祖母の話してくれた事の裏付けは取れたしね。さてとっとと片付けて慰労会も兼ねて飲みに行きましょう。勿論私の奢りよ!」
「っしゃあ飲むかー。ていうか蓮子が単に飲みたくなっただけじゃないのか……っ」
蓮子に横腹を小突かれる、結構これが痛い
「あなたにツケてもいいのよ、社会人だし」
「悪かったって、さあ片付けよう」
とりあえず積みあがった本を箱へと戻していく。
目的も達成できたし、蔵掃除にもなったので思い残しはない。
秘封倶楽部の活動としては少々地味かも知れないがたまにはこんな回があっても良いだろう。
それに俺もメリーも蓮子の”祖母の言葉の虚実を知りたい”という願いを叶えてやるために埃に塗れた訳なので、当人が、満足ならそれで良い。
「蓮子、そのESPカードはどうするんだ?」
「持っていくわ、大叔母から祖母へ……そして私が受け継ぐのよこの秘密を」
「そうだな、それがいい」
最後の一冊を収納し終え、箱の上から新しい南京錠を掛ける。今度は四桁のダイヤル式だ。
蓮子がパスワードを設定したらしい。
再び不安定な脚立を登り、元あった場所にその”遺品”を収める。
本に挟まっていた物か、何やら紙切れがひらりと手の中に舞い落ちた。
文字が書かれているようだが、暗くてよく見えない。
「どうしたのー?」
蓮子が下から呼びかける。
「何でもないよ、さあ行こうぜ」
紙切れをポケットに押し込んで脚立を降りた。
蔵を出て空を仰ぐ、久しぶりの外気と肌寒さが心地よかった。時刻は午後六時、蔵に籠っている間に随分暗くなってしまったようだ。
空は青のグラデーションに染まっているまさに黄昏時、トワイライトである。
「ふふ、蓮子はどんな酒場に連れてってくれるのかしら?」
蓮子はフンと鼻を鳴らして答える。
「酒場なら京都は東京に敵わないのよ、黄昏の横丁で乾杯ね。倒れないでよ」
「今度こそ飲み比べだな」
「だから蓮子に合わせて飲んでたら体が持たないんだって……」
ぽつぽつ灯り始めた街灯の明かりの下、疲労と乾きを潤すべく、また坂を下る……。東京の酒もきっと美味いだろう。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
オリジナル展開という事で苦戦しながら書いておりますゆえ、こんな秘封倶楽部もありかな。と温かい目で読んでくださると本当に助かります。
感想をいただけると嬉しいです。気軽によろしくお願いします。
それではまた。