東京旅行編の最後の話になります。
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それでは
第六話「終わりなき旅を夢見よう」
「あー、まじで吐きそう……」
「だらしないわねえ、私はまだまだ飲めるわよ~」
「もう勘弁……、負け……負けで良い……」
「もう……蓮子に合わせてたら体が持たないって何度も言ったのに……」
ぼんやりとした橙色の街灯が揺れる路地を蓮子に肩を貸され歩いている。
少々意識が混濁しているのは飲みすぎたせいで間違いないだろう。足にも力が入り辛くなっているようだ。
メリーの忠告を真面目に聞いておくんだったな、なんて考えながらここまでの経緯を思い出していた……。
宇佐見家の蔵で”遺品捜索”の大義名分を借りた活動を終えた俺たちは慰労会という事で
蓮子に案内されながら坂を下り切り路地を抜けた先の飲み屋街、もとい横丁に繰り出した訳である。
狭い路地裏を抜けた先に広がったのは、まさに異世界と形容しても良いような光景であった。
長く続く細い路地にぶら下がる無数の赤提灯が黒いアスファルトを赤赤と照らしている
暖簾の向こうからは酒気を帯びた話声やら笑い声が絶えまなく聞こえてくるので、飲まぬうちから酔ってしまいそうな程であった。
そもそも横丁と呼ばれるような居酒屋街は戦後の所謂”闇市”に端を発したものだそうで、古くからその土地の文化や人々と結びついてきたものなのだそうだ。
俺たちの住まう京都にも昔は多く点在していたらしいのだが、科学世紀に突入するに伴い消滅の一途を辿ったのだとか……。
もちろん京都にも酒を出す店は多くあるのだけれど、赤提灯をぶら下げた”大衆酒場”と呼べるような店はもう滅多に見受けられなくなってしまった。
だからこそなのか、目の前に広がる横丁の風景は何か懐かしさや憧れに似た感情と、食欲そして飲酒欲を掻き立てる。
旧都のノスタルジーは路地裏にこそ存在しうるのだ。
さて。
やきとり、おでん、などと文字の浮かんだ提灯が並んでいるものだからどの店に入ろうかなんて早急には決められないものである。
迷いに迷って入ったのは一軒の海鮮居酒屋だ。
どうにも天然の魚介料理を味わえる店らしく。
「本物が食べられるわよ」
と蓮子がはしゃいでいた。まあ合成食品が主流になった科学世紀の現代っ子だから仕方がない、俺とて数える程も本物の海鮮など口にしたことは無いのだから……。
暖色の照明に彩られた店内は居心地の良さそうな感じである。
数人の客が座っているカウンターの向こうには所狭しと一升瓶が並んでいる。地酒だろうか。
テーブル席に通された俺たちはとりあえず生ビールで乾杯し、刺身盛りに江戸前寿司と本物の海鮮料理と地酒を堪能した訳である。
さて、海鮮は美味かったがまだまだ飲み足りないと蓮子が言うので
二軒目に選んだのは焼き鳥屋だ。
まだこの時は酒も大して回っていなかったし、何より蓮子と飲み比べという事で、ビール、ハイボール、チューハイと安い酒をこれまたリーズナブルな合成の鶏肉を使った焼き鳥を肴に浴びるように飲んだ……。
さてもう満足と、かなり酒も回ってきたところで、そろそろ帰るかと提案したのだ。メリーも概ね賛同……。
というところであの会長は
「飲み足りないから三軒目行きましょう」
などと言いだしたのである。メリーは止めたのだが、俺もくだらない意地を発揮して千鳥足で三軒目に向かった……。
という所で一旦記憶は途切れてしまっている。”酒は飲んでも飲まれるな”を信条としてきた俺が初めて酒に飲まれた瞬間だ。
「女の子の肩借りるなんて情けないわね、この先にコンビニあるから水でも買いなさいあと酔い止め」
「で、蓮子はまたお酒買うんでしょ……」
「当たり前じゃないメリー、一緒に飲む?」
「飲むわけないでしょ……」
メリーは終始マイペースに飲んでいたように思う。彼女の言い草から考えるに蓮子に付き合って俺と同じような末路を辿った事があったのかもしれない。
にしても俺はハイペースが過ぎたので反省している。
秋の夜風の冷たさに朦朧とした意識も引き戻されてきた。
いつまでも肩を借りているのは確かに情けないので、そろそろ自分で歩く事にする。
「もう大丈夫だ、ありがとう」
「あらそう、別に無理しなくていいのよ」
「頭冷えて来たし平気だ、すまないな」
「別にいいわよ、楽しかったからね私も……こんなに羽目外して飲んだのは久しぶりだしたまには馬鹿になるのもいいわねえ、あははは」
「確かにこんな時くらいしか羽目外せねえのは間違いないけど、元から馬鹿なのが馬鹿になろうとすると……こうなるんだぜ」
「自分で言ってれば世話ないわよ、お酒でも頭脳でも私には敵わないから諦めなさい」
「それは認めるけど、いつだって自分が優秀な人間な前提で話すのは感じ悪いぞ」
「そうじゃないと秘封倶楽部の代表は務まらないもの、何を今更、ね」
「ごもっとも、あー頭いてえ……」
「ご機嫌はいいけど二人ともバカみたいに飲みすぎよ、若いうちから肝臓壊しても知らないんだから……」
蓮子は気持ちよく酔いが回っているようでご機嫌である。まだ飲むというのだから驚きというか最早敬服さえ感じる酒豪っぷりだ。
まあそんな彼女もいつかは限界を知るだろうしその時は笑ってやろう。そんなことよりもメリーの言葉が耳に痛い帰り道だ。
そんな話をしているうちにコンビニにはすぐ到着した。
蓮子は酒を物色しているようだったが放っておくことにしてさっさと水と薬を買って外に出る
もう九時半か。秋の夜更けは冷えて仕方がない。酒が抜けてきたからか余計にそれを感じてしまう。
冷たい水を喉に流し込むと身震いがした。これならコートでも着こんでくるべきだったかもしれない。
自動ドアが開いた。出てきたのはメリーだけである。蓮子はツマミでも選んでいるのだろう。もうしばらく待ちそうだ。
「蓮子は?」
「まだ物色中よ~、ていうか本当に大丈夫なの?」
「ああ薬も飲んだし大丈夫だって、ちょっと頭は痛いけどな……」
「それ大丈夫って言わないわよ……」
「はは、まあな。帰ったら即行で寝ることにしよう。心配してくれてありがとうな」
「ふふ、余りにも辛そうだったからね。それに蓮子と飲む恐ろしさは私が一番知ってるもの」
「恥ずかしいとこ見せてしまったな……。次は自重するぜ。その言い草だと俺みたいな目にあったのかな?」
「まあね……。でも吐いたり道路脇で寝たりはしてないわよ」
「思ってないって、でも苦労するよなあ、俺よかよっぽど振り回されてるだろうし」
「んー、でも慣れちゃったから。それに結局面白いじゃない」
「そうだな……。あ、出てきたぞ」
蓮子はやっと買い物を済ませたようである
彼女が手に下げるビニール袋にはロングサイズの発泡酒三本ほど、とツマミ類がぎっしり詰まっている。
「蓮子も来たことだし、帰りましょうか」
「またあの坂登んのか……」
「荷物がない分楽じゃない、早くお風呂入って晩酌したいわー」
「そうかい、俺はとりあえず寝る」
「情けないわねえ、ほんと」
また街灯の照らす道を歩く
宇佐見家に続く坂は相変わらずの急勾配だが登らないことには帰れないので堪える事にしようか……。坂の向こうの夜空を見上げる。
見えないこともない星が東京の夜空に輝いていた。
携帯のアラーム音に目が覚める。
まだ暗いようなので勿論朝ではない、飲みから帰った俺は二時間後にアラームを設定したかと思えば、そのまま爆睡していたようだ。
枕元に転がったペットボトルの水を手繰り寄せ、飲み干す、ぬるいが少しは目が覚めた。まだ頭痛は残るが……。
ふすま越しに隣の部屋に明かりが付いていることがわかるので二人は起きているのだろう。何をしているかは知らないが、とりあえず縁側にでて煙草でも吸おうか。
重い腰を上げふすまをがらりと開いて外に出る。
月が出ているようで縁側から見える庭は青白くぼんやりと光っていた。
縁側に腰を下ろす、すぐ目の前が庭なので一服しても問題ないだろう。さすがに部屋で煙撒くのは憚られる。
取り出した一本を咥え、火を着ける。が、少々火の着きが悪いのはオイル切れのせいだろうか
電子ライターなら滅多に無いことだが、オイルライターを愛用する以上仕方がない。
やっと着いたタバコを一ふかし……。見あげると見事な満月が浮かんでいる。なるほど星も霞む訳だ……中秋の名月と呼ぶには少々時季外れではあるが、美しいと思った。
一服しつつ、ぼんやりと今日の一日を振り返る。ヒロシゲの富士と海、大草原の環状遺跡、古蔵に眠る超能力少女の記憶そして赤提灯の酒場もすでに記憶の中の景色になってしまった。今更ながら時間の経過は早いものである。
「そういえば忘れていたな」
ポケットに手をやると、あった。
宇佐見菫子の遺品を片付けていた時にひらりと落ちてきた紙切れである。確か何か文字が書いてあったような……。
開いて見る。この月明りの下なら読めるだろう。
「is Bisque Doll……」
ビスクドール、陶磁器の人形がどうしたというのか。isの前が破れてしまっているのでわからないが誰とかどことかいつとかが書かれていたのだろう。
恐らく本に挟まっていたものなので、本の内容に関した栞かメモのような物だったのかもしれない。
尤も残された本の隅々までを読破した訳ではないので断定はできない訳だが……。
そういえばこれも一応遺品になるので蓮子に返しておくべきか……。とぼおっと煙草を咥えていたのだが、長らく呆けすぎたようで火はフィルターを焦がしている。
「熱っ……」
すぐに携帯灰皿に押し込み事なきを得たが唇を火傷する所である。
ガラガラとふすまを開ける音がした。
「何してるのー?」
「蓮子か、見ての通り一服してたとこ」
「どうりでなんだか煙草臭いわけね、あら……月明りが眩しいわ」
蓮子は俺と同じように縁に座る。片手には缶チューハイを携えて、だ。
「お前は酒臭いな。メリーは?」
「失礼ね。メリーは読書中よ」
「そうか。あ、ビスクドールって何だと思う?」
「陶磁器の人形、いきなり何?」
「まあそうなんだけど、これ蔵にあった本から落ちたんだ」
蓮子に紙切れを渡す。缶を大きく傾けながら片手間に受け取った。
「うーん、確かに書いてあるわね。何かのメモ書きじゃないの」
「普通の感想だなあ、俺もそう思ったけどさ……。とりあえず返しとくわ……それ」
「悪かったわね……。いつもの宇佐見蓮子でも同じ事言うはずよ、別に持っててもいいのに」
「なんだ、いつも通りじゃないのか? ていうか紙切れとはいえ遺品だろう」
「お酒入って上機嫌の宇佐見蓮子よ。でも紙切れだからねえ」
「まあ蓮子の好きにすればいいよ」
夜空の月は静かな庭と縁側とを天頂から照らしている。
軒下の月影の下、宇佐見蓮子は夜空を見上げて呟く
「0時ジャスト! 明日になったわ」
「もう今日だけどな、んでさっきまでの今日が昨日になった訳だ」
「どうでもいいわ。それより……面白かったでしょ、東京」
「ああ、楽しかったよ。ビルの向こうの大草原も、超能力者の遺品探しも、記憶飛ぶまで飲んだのも初めてだったからなあ……。まだ頭痛いし……」
「走馬灯みたいな言い草ね。頭痛は自業自得……吸わないの?」
「総まとめと言ってくれ……。気を遣ってやってたんだがな。いいなら吸うけど」
「どうぞ、私は飲む」
少し距離を空け、点火して、吐き出した。
冷たい風が塀の向こうへ紫煙を運んでいく。
穏やかな時間である。
しばらくの間、何か言うわけでもないままに、そんな時間は流れていた。
灰も落ち切った頃、そんな静寂を終わらせたのはガラガラとまたふすまを開く音である。
「さっきから二人とも何話してるの~?」
メリーはひょいと顔を覗かせる。
「うーん、ビスクドールの話?」
「なんでいきなり人形なのよ……。そーいえば私の実家にもあった気がするわ、人形」
「どんなの? あとメリーの実家てどこだったかしら?」
「西欧よ。片目が外れた姿が最後の記憶かしら……。驚くことに幼い日の私はそれで遊んでいたそうよ」
「うわあ……メリーらしい話ね」
メリーもまた蓮子を挟んで向こう側の縁に腰を下ろす。月明りの縁側に三人の影が並ぶ
「そういう蓮子の家だって髪の伸びる日本人形とかありそうじゃない」
「おいおい……何か怪談じみて来たなあ、嫌いじゃないけど季節外れじゃないか……」
「それもそうねー。怪談なんてしなくても十分涼しいもの……。それより大丈夫なの? 帰ってすぐ寝ちゃったから心配だったの」
「ありがとうメリー、二時間も寝たんでほぼ全快だ。ずっと読書かい?」
「あはは、あなたが爆睡してる間に私も蓮子もお風呂済ませちゃったわよ。それから私
は読書、蓮子は見ての通りね」
「見ての通りだな、さて……俺も風呂行こうかな……」
俺がそう言って立ち上がろうとすると蓮子は何か思い出したように、神妙な面持ちで声を上げた。
「そうだ、忘れてたわ」
「「なにが?」」
図らずも俺とメリーの言葉は重なる。蓮子は続けた。
「あれからずっと考えてたのよねえ、持っていくとは言ったけど。”これ”をどうするか……」
蓮子が無造作にポケットから取り出し、少し西向きに傾き始めた月光に翳したのは五枚組のカード。
宇佐見菫子のESPカードである
「どうするって、お前が受け継いだものなんだから大事に持っていればいい」
「ふふん、それは辞めよ。はい」
蓮子はそう言って一枚のカードを俺に、そしてまた一枚メリーに渡した。
「本物の超能力が込められたESPカード、この世に二つと無い魔法道具よ。それをね、私達秘封倶楽部の会員証にしようと思うの」
また突拍子も無い事を言い出したので唖然としてしまう。我らが会長宇佐見蓮子は仲間の証だとか結束だとかに執着するような性格だっただろうか。
酒が入っているせいかもしれないな。と思う。
メリーもやはり俺と同じ感想を持ったのか笑っている。
「あはは、あなたらしくないわね蓮子、酔ってるの?」
「何よメリー、どうせ持ってたってマジックアイテムの無駄遣いじゃない。それに異能オカルトサークルの証には持ってこいでしょう」
蓮子はまた缶を大きく傾け、一息ついてしたり顔である。
もう少し異論を呈したい気持ちもあったが何だか意味不明が過ぎて、むしろ説得力があるので俺も納得してしまった。
「無能の俺にもくれるんだな、柄は十字か」
「あなたはついでよ」
また酷い言い草である。
「私のは……波かな? やっぱり歪んで見えるわねえ。というかどういうセレクトなの?」
「二人のは適当、ちなみに私は”星”ね。無くさないよーに」
「はいはいわかったわ蓮子、持ち歩くのは気が引けるけど」
まあ確かに遺品だし、メリーの目からすれば異質に見えるのだから仕方ないか。
俺には何も見えないが、この一枚に神秘が封じられていると思うと感慨深い物がある。
「ご利益ありそうだし財布にでもいれとくかな。それなら無くさないだろう」
「勝手になさい、私はもう十分飲んだから寝るわ。起きたら東京案内だしね」
自分から話を初めた癖に全くもって雑な終わらせ方である。まあそのくらいの方がこっちも気楽だし助かるか……。
「私もそうしようかしら。楽しみね~蓮子の東京ツアー」
「そうだな。しゃあ今度こそ風呂入るか」
「もうシャワーしかないけどね。おやすみ」
「おやすみなさい。また明日」
「別にシャワーで構わないぜ。おやすみ」
そう言うと二人は部屋に戻っていった。
俺も汗を流してさっさと寝る事にしよう。
レトロスペクティブな東京旅行はまだ終わっていないのだから…………。
「楽しかったわね東京、お土産もたくさん買ってしまったわ」
駅のホーム、その喧噪の中で金髪の少女メリーは言った。両手には大きな土産物の袋をぶら下げている。彼女の両手が塞がっているのは、もちろん俺が重たいトランクを持っているからだ。
朝から頭痛を訴えながらも東京案内を成し終えた蓮子はさすがに疲れたのかベンチに座って休憩中である。
昼過ぎの卯東京駅は少し混んでいるようだが、行きかう人々も俺たちと同じように東京を観光して帰る所か、出張の通勤客もいるのかもしれない。何にせよもう少しで俺の週末旅行も終わりである。
ヒロシゲが着くまでのしばしの間、急ぎ足な東京ツアーでも思い返しながらのんびり待つとする。
蓮子の母に見送られ宇佐見家を後にした俺たちは、再び路面電車に乗って東京の街へ繰り出した訳である。
蓮子に導かれるままに向かったのは東京観光の大定番「浅草」である。
浅草寺は表参道の入り口側、通称「雷門」で有名な風雷神門を抜けた仲見世通りの商店街は午前中から多くの観光客で溢れていた。
商店街の土産屋や食べ物に目を魅かれつつも、とりあえず参拝と本堂に向かった。
常香炉の煙を浴びて参拝、が終われば踵を返して商店街へ戻る。
仲見世もそうだが浅草周辺には屋台というかテイクアウトの飲食店が多く集まっている
昨夜飲みすぎて頭が痛いと言っていた癖に缶ビール片手に買い食いを楽しんでいる蓮子によると、東京ではその昔、食のテーマパークが流行った時代があったそうだ。全国各地の所謂”ご当地グルメ”を集めただけの何とも単純なテーマパークだが東京の人間には思いのほかウケたらしい。
首都であったころの東京には日本中、いや世界中から美食が集まっていたのかもしれない……。そんな事を考えながらその名残を感じさせる屋台を回るのも乙だろう。
そんなこんなで蓮子の蘊蓄披露もありながらの東京観光。
そんな調子で新宿、渋谷と東京の名所を新幹線の時間に追われながら回った。バタバタして疲れたがやはり新鮮で刺激に尽きないそんな午前中であった……。
アナウンスに意識を引き戻される。
もうすぐ帰りの新幹線が到着するそうなのでベンチでぐったりの蓮子に声を掛ける。
「もう着くってさ、行こうぜ」
「言われなくても聞こえてるわよ。あー疲れた」
そう言って蓮子は渋々立ち上がる。
ホームドアの前で蓮子、メリー、そして俺が並んでいる。何だか懐かしい光景だ。尤も昨日見たばっかりな訳だけれど。
違うと言えば反対方向が閑散としていることぐらいか、まだ昼過ぎとはいえ京都行にはそこそこの人数が並んでいる。
「やっぱり混みそうねえ、憂鬱」
「行きでも同じような事言ってたでしょメリー」
「帰りは混みそうって言ってたな。当たってるじゃないか」
チャイムが鳴った
”卯酉新幹線をご利用頂き、ありがとうございます。間もなく十二番線に十三時三十分発、ヒロシゲ36号が到着いたします”
トンネルの向こうから白い車両が姿を現す
さて旅もついぞや終焉である。
ホームドアをくぐれば、懐かしきカレイドスクリーンが一面に広がる車内。
車両の端、接合部その横の座席、座り終えたところでアナウンスが響き、車両は動き始める。
「カレイドスクリーンの海が懐かしいわねえ」
「昨日なんだけどもっと昔の事のような気がするわ……」
「53分もすれば懐かしの京都よ、さあ私は寝ようかしらね」
蓮子は座席を倒し、居眠りの準備は万端なようだ。かくいう俺も何だか疲れてしまったので少し眠るとしよう。
「俺もそうするか……。東京案内お疲れ、蓮子」
「はいはい、荷物持ちお疲れ様。寝るからもう話しかけないでね」
そう言って秘封倶楽部の会長は目を閉じた
「ごめんなメリー、着いても寝てたら起こしてくれ」
「わかったわよ……。はあ、暇ねえ」
カレイドスクリーンの暖かい日差しの中、心地よい微睡みを感じて 目を閉じる。
瞼の裏にはその光の熱感を伴って一日と少しの旅の情景が浮かんでいた。これじゃあ本当に走馬灯みたいだ、なんて寝落ちかけの意識で嗤う。
そして、こんな旅が永遠に続けば……
そんな夢を見た。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次は大空魔術を題材に書いていくつもりです。
感想などいただけると助かります。
それではまた。