TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
寝相には性格が出ると言う。
まっすぐ手足を伸ばして気をつけの姿勢のように眠る人はリーダータイプ。うつ伏せで枕を抱え込むのは自由人、胎児のポーズなら内向的など、まあ納得できる部分もあるし血液型占いよりはアテにしてよいだろう。
僕はと言えば、大抵誰かと一緒の床について抱き枕にされるパターンが多いため気をつけのような姿勢になりがちだが、絶対にリーダーには向いていないと思う。いやでも奏巫女は皆を束ねる役職だし実質リーダー……?
すべて投げ出して一人引きこもった時は膝を抱えるように丸まっていたし、内向的な可能性もある。まあ、こういうのってうつ伏せみたいな一部の特殊な例以外ありがちな性格に判定されるものか。誰だって内向的な部分は多少あるだろうし、生きていたらやりたくなくてもリーダー役を振られることだってあるだろう。
夜分に、アイリスに後ろから抱きかかえられた状態で目を覚まし、そんなことを思った。背中に当たるこの巨大なナニカの感触に、最近はもはや愉悦ではなく肩が凝るのではないかという心配の気持ちの方が強くなってきているのは成長だろうか。でも初見のおにゃのこ相手にはまだ童貞くさい反応になってしまいがち。やはり男の子相手の方が距離を詰めやすい。
正面にはいーちゃんの愛らしい寝顔が据えられている。小さな寝息も可愛らしいが、なにより寝るときは抱きつこうとするのに結局胎児のポーズに落ち着いてしまうことが庇護欲をそそる。
女子用の大部屋にはたくさんのベッドがあるというのに、結局一番大きなベッドで三人一緒に眠っている状況になんだかなぁと苦笑した。まあ、僕としては役得ですが……。全然関係ないけど、「まあ」と話し出す人は他人を見下しがちらしい。絶対そういう分析している人間のほうが他人を見下している。
体力は多いほうだから、こうして夜中に目が覚めてしまうと寝直すのに苦労する。結局は身体が「もう休まんでええで」と言っているわけだから。
とは言えアイリスの抱擁は中々に力強いものであるし、抜け出せないとなれば目の前で赤子のように眠る美少女を鑑賞、もとい愛でるくらいしかできることもなくなってくる。
そっと髪を撫でると、石鹸の香りと女の子の匂いが混じって甘く漂う。女の子の髪触るのってなんかドキドキするよね。
「あさぁ……?」
「……あ、起こしてしまいましたか。まだ夜ですよ。どうぞ、ゆっくり眠りましょう?」
何度かゆっくり頭を撫でていると起こしてしまったようで、薄目を開きながら寝ぼけた口調でいーちゃんが問うた。
ひそめた声をかけながらもう一度生え際から髪を梳くと、目を細めて鳴き声のような相槌が打たれた。このフとンとムの間みたいな音なんて表現すればいいんだろうね。可愛い。
「もうちょっと……こっち……来てー……」
「えぇと、いま動けなくて……」
「んうぅ……」
アイリスに拘束されてるんですぅと伝えたいものの、ほとんど目を瞑っているいーちゃんには伝わらなかったのだろう。不機嫌そうに鼻息を鳴らしてズリズリと這いずり寄ってきた。
僕の首元に顔をうずめたいーちゃんはそのまま眠るのか沈黙してしまうが、こちらとしては心臓に悪い状況だ。
もちろんこのくらいの距離感は初めてじゃない。が、それでもこちらはシラフなのだ。心の珍棒が起き上がってきてしまうのだ。可憐な少女が脚を絡ませて正面から抱きついてきたら勝手に高鳴りだすクソ雑魚心臓持ちなのだ。
ま、まぁね? 慣れたものだし? このくらいなんとも──
「とおざけてる?」
──おや。
眠るのかと思われたいーちゃんだが、寝言とは思えない感情の乗った言葉を漏らした。
遠ざけている? 今は本当にたまたま動けないだけでして……。
「今じゃなくて、最近ずっと……。ちょっと、よそよそしいよ。……卒業しちゃうから? もう会わないから、忘れちゃうの?」
「そんなことありませんよ。ほら、卒業したあとも定期的に会いに来ると話したじゃないですか」
「会いたいから? ……それとも、ギム?」
ギム? ぎむ、……義務?
当たり前だろうと頷くはずが、唐突に飛び出してきた言葉に思考が止まり否応なく黙ってしまった。
恐らくは、黙るべきでなかった。
けれど分からなくなってしまったのだ。物事に優先順位を付けて、次善策を与えて。それは、ただ純粋に会いたいという感情による結論だろうか。哀れみや、情を含んではいないか。院長に仲良くしてやってほしいと言われて使命を帯びていやしないか。
だって、最優先じゃないのだ。後回しにした。それって、やりたいことじゃなくてやらなくちゃいけないことになってないか?
いや、世の中きっとそんなことばかりだろうけど。だけど彼女との関係にそんな欺瞞──
鼻をすする音を聞いた。
──っ、あ。
泣かせたら、それはもう、駄目だろ。
虚飾を持ち込むのが間違っていることくらい分かる。
だけど、他に何か。何も。
……ただ、思考より先に彼女を抱きしめたこの身体は確かだ。
キミが大切であることは嘘ではないのだ。
イフェイオンは泣かない子だ。
喜怒哀楽が薄いわけではない。よく笑うし、怒るときは怒る。どちらかと言えば穏やかで、朗らかな女の子だ。
その境遇を感じさせないほどに悲しむ姿を見せることがないのは、それだけ家族からの愛情を注がれているからだと思っていた。けれど、それは違うのだ。
意識が半覚醒状態で、感情が露わになりやすい状態だったからだろうか。黙っていたのは僕の言葉を待っていたのでなく、そうしなければ溢れてしまうものがあるからだ。
少し痛いくらいに僕の方へ抱き寄せると、首元に顔をうずめるイフェイオンは二度三度身を震わせ、零し、拾おうとして、よりいっそう零してしまう、そんな不慣れな泣き方をした。
「……やだっ、よ。こわいよ。……さみしい、よ。きらっ、わ、ないで。忘れ、ないで……。うっとうしがらないで……」
泣き方を知らないかのように、しゃっくり混じりの浅い呼吸、とぎれとぎれに零していく。
「負担にっ……、なる、の、いやなの。なのに、だめっ、だから……。おか、さんに……きらわれ、たくっ……、あーちゃんに、……きらわれたく、なく、て……」
でもきっと僕のほうが泣いていた。
いーちゃんの声が滲むたびにいっそう強く抱きしめて、共感なのか何なのかさっぱり検討もつかない涙を溢れさせた。
慰めの言葉は出ない。
でも、こうして泣いていることも、抱きしめていることも、本当だ。
他には、他にも、本当があるだろうか。
「…………帰る
一節、子守唄のように低い声で唄った。
拍子に合わせて背中をさすれば、いーちゃんの震えが少し弱まった気がする。
暖炉の裏の秘密の手紙
何度も聞いたよ暮れ六つ汽笛
巡る季節と踊ろうか 小川を越えたあの丘で さあ
帰る故郷はどこかにあるかい
忘れた言葉を思い出せるかい
帰る故郷がどこにもないなら
此処が明日のおまえの故郷だろう
「……知ってる、歌、だ」
「えぇ。旅の途中で、このあたりで愛される歌だと教えてもらいました。優しくて、よい歌ですよね」
いーちゃんの呼吸が落ち着いてきたのが分かった。
僕はもう一つだけ、本当があったことを思い出した。
「……歌を、歌うのが好きです。僕は歌が好きです。ですが、一人で歌っているだけでは物足りないでしょう。歌は誰かと一緒でなくては」
「……うん」
「約束しましょう。一緒に歌うために、僕はいーちゃんを何度も尋ねに来ます。他に一緒に歌う相手はいませんし、増えそうにもありません」
気持ちと義理が混じったとき、人は約束を結ぶ。
約束を結んだ理由が義理であったとしても、約束を守ろうと思うのはその人自身の気持だから。
何よりも心を大切にする。
だからこそ、約束というものがあるのだろう。
「……破ったら?」
「決まっていますよ。針千本を飲むんです」
「……ひひ、なにそれっ」
泣いて消費した体力の分か、抱き合っていることの温もりか、ゆっくりと微睡みが近付いてくるのを感じる。
「……ねえ、あーちゃん。大好きだよ」
はい、僕もですよと答えられたか、それともその言葉自体が夢だったか。
目が覚める頃には、すっかり分からなくなってしまっていた。