TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
魔法学。
端的な科目名だが、その言葉から内容を推察するにはあまりに抽象的なその講義。
内容はずばり「魔法とはなんぞや」、ただそれだけだ。担当する導師によって内容が千変万化するとも言われ、しかしここ数年はその担当導師の人気の高さから受講を希望する学生が後を絶たない。
そのため「基礎魔法学A」と「基礎魔法学B」を一定以上の成績で修めた学生だけが履修を許可され、よほどの天才か、ひたむきな情熱を持った生徒ばかりが教室に集まった。
そんな中、編入生という特殊な立ち位置のコルキスだが、学園長のはからいで審査を受けその結果受講が許可されていた。国家間の忖度が存在しなかったと言えば嘘になるだろうが、能力主義のきらいがある学園都市内で無能に温情をかけるはずもなく、コルキスが己の手で勝ち取った結果であろう。
人の好き嫌いがわりとハッキリしているコルキスであるが、この講義の導師の実力についてはよく認め、人間性はともかくその幅広く奥底深い知識には十分に期待していた。
何度目かの講義となるその日、付き人のヴィオラを後ろに教室へ踏み込めば、件の教授は教壇の中央の席に深く腰掛け、死んだかのように静かに瞼を下ろしていた。
その後ろの巨大な石版には、ほどよい大きさの字で一言だけ記されていた。
禁術について
たったの六字。ただそれだけの言葉に、コルキスは鳥肌が立つのを感じ、後ろからは生唾を飲む音が聞こえた。あるいは、ただならぬ教室の雰囲気があったからこそかもしれない。
席に着く。しばらくして最後の一人と思われる生徒が入室して、教室内の人数も見えていまいに教授が口を開いた。
「キミ、鍵はかけたかね」
「は」
「鍵だよ。扉を閉め、鍵をかけなさい……ホラ早く!」
「は、はい!」
突然声を荒げた教授に最後に入室した男性の生徒は飛び上がり、わけも分からずといった様子で扉の鍵を締めた。
可哀想に、汗をかきながら着席した男に教授は追撃を仕掛ける。
「キミは、禁術について何か知っているかね」
「えっ、あっ……」
「何か知っているかね」
「…………」
しかし、今度は学生は何も答えず、困ったような顔で俯いてしまう。
それを見て教授はニッコリと微笑んだ。
「上出来だよ。ああそうだとも。それが正解だ」
学生はオロオロと視線を彷徨わせ、教授の様子をじっと伺う。
教授は微笑みを浮かべたままジャケットの内ポケットに手を差し入れる。そうして現れたハンドアクスを、──防犯用の記録水晶めがけて勢いよく投擲した。
「こんなもの!!」
見事命中し、学園の設備であろう水晶は無残にも砕け散る。
ハンドアクス自体に生徒たちは怯むことはなかった。なぜなら、初回の授業で「ボクの授業は中途半端に知るのが一番危ないから、寝ている子はこれで頭をかち割るね」と宣言し、たびたび振り回すからだ。
「さあさこれでこの部屋は秘密の部屋となった! 今日のトピックは禁術だ。さてまずひとつ、禁術について尋ねられたら何と答えるか? 正解は何も知らないと答えるか黙ることだ! 禁術なんてものの存在は子供だって知っているかもしれない。けれどもその知識をひけらかせば投獄さえありうる。公然の秘密、それこそが禁術、禁忌の魔法だ!」
教授は狂ったように頭を振り回しながら叫ぶ。
いやまあ、狂っていると評価しても相違ないだろうが、とコルキスは内心毒づいた。
「キミ達は禁術についてよく知っている。ボクは禁術についてよく知っている。あああっ、言ってしまったっ。ああっ、でも何も問題ないじゃないか。だってここは秘密の部屋! アヒ、ヒヒヒヒ、ヒャヒャ。キミ達もボクもこの部屋を出れば何もかも忘れてしまうんだ! さあ今日は
学生の反応は二分される。
教授につられて狂気的な笑みを浮かべるHENTAIか、理性の欠片もない様相に眉を顰めて引きながらも隠しきれぬ好奇心で口角だけは吊り上がってしまうか。コルキスは後者で、ヴィオラは例外とばかりにうへぇというドン引きした表情を……いや、よく見れば口の端が上に行こうとピクピク震えている。
「いいかい? いいかい? まずまずね、キミ達くらい、つまりはこの教室にいられるくらい優秀な学生達は研究の道に進めば将来必ず禁忌の魔法に遭遇する。そのときに何も知らない暗愚なキミ達のママァでは最悪死に至る。死んでしまうんだ! じゃあどうして全ての学生に向けてこの話をしないかって? だってだってこの教室にさえいられない人間が禁忌に触れられるわけがないだろう!? それでも中途半端になにか教えてしまえば、死よりももっと恐ろしいことが起こる可能性だってある。ママァーー! ァアッハッハッハッハハハヒャヒャ!」
どうしてこんな人の授業が人気あるのだろう、とコルキスは心の底から思った。
だが同時に、納得もした。おそらく誰もが、「人としては関わりたくないが知識人としては世界屈指だ」と結論づけたのだ。
そんな失礼な思考を知ってか知らずか、悪魔のような高笑いをやめた教授はスンと真顔に戻って講義を続ける。
「はい。それでだね。今日話す内容は禁忌の魔法とはどのようなものかと、なぜ公然の秘密とされるか、そしてどのような場面で現れ、どう扱うべきかだ。この流れを念頭に置いて話を聞くように」
テンションの激しい高低差で最前列に座っていた学生は風邪を引いてしまった。だが幸い風邪に気付かぬ類の馬鹿のようで、目を輝かせて教授の話の続きを待った。
コルキスは頭痛を覚えた。風邪ではなく、驚異とさえ捉えていた隣国の内情が
「まず、禁術とはなんぞや。簡単だね。我らが『勇者』の扱う、転移の魔法だ。そもそもが人並み外れた能力を持つ勇者は、それを使って仲間と共に『災厄』を討ち倒してきた。遊撃部隊にとって本来難点となる補給行為を、転移は解決してみせたわけだ。……まあ現在は勇者がどこにも観測されていないわけだが、どこぞの研究者の被検体にでもされているのだろう。ああ妬ましい」
実際そのようなことがあれば学園都市は他の三大勢力含めあらゆる勢力から目の敵にされる、あるいは戦争さえ申し込まれるだろうが、心から羨ましがる声を出す教授にコルキスは憤りを通り越して呆れを覚えた。
本気で、研究のためならあらゆる倫理に背けると信じているのだ。一般的とまではいかないのだろうが、このような思考回路の人間が多くいると思えばやはり学園都市を敵に回すことは避けたいものである。厄介という言葉では収まらないことになるだろうから。
「ともかく、この場にいる学生であれば理解できるだろうが、転移という能力が存在する以上、それを模倣ないしは解析できると考えるのが学者の常というものだ。……けれどそこで困ったのが、勇者は転移に魔法陣を使わないこと。魔法陣──ここで説明するまでもないが、『魔法使い』が世界から授かった『最初の言葉』を表現するための記号の中に、転移を表現できるものが存在しないことだ」
少なくとも、現代に残るものの中には、と付け足される。
基本的に、人類にとって魔法は「手に負えないもの」だ。それを支配するための手段が魔法陣。
魔法すら支配できる手段を持つという思考はそのまま現代の人類のイデオロギーに深く関わってくるのだが、転移というものの存在に対峙したときそれが揺るがされかねず、それは禁忌などと謳われる理由のひとつにも関わってくる。
「取るべきアプローチは二種類。魔法陣に頼らない魔法の実用方法を編みだすか、時折生じる事故から転移がどのように記述できるかを探るか。後者の場合は結果的に数多の犠牲を前提としているのだが……」
概要に関しては、時折脱線しそうな気配を醸しながらもゆっくりと話が進んでいった。
そんな話に耳を傾けながら、コルキスは一人の少女に懸想した。
魔法陣という手段に囚われない彼女らの種族の場合は。……あの幼くも美しい、危うさそのもののような少女であったら、転移という魔法を一体どのようなものとして見ているのだろうか。
「……さて、時間か。終わりにしよう。……ああそう言えば、他の講義で既に聞いているかもしれないが、来週からやんごとなき身分の方が学園に加わる。学園都市全体の指針としては『普通に扱う』そうだから、キミ達も最低限失礼のないようにしたまえよ。学園都市としては、学問に手がつかなくなる者が多発する可能性を危惧しているのだがね」
講義の終了間際、教授は神妙な顔をして告知した。
ある意味爆弾のような発言だが、耳が早い者であれば既に知っている話だろう。
アンブレラが来る。
禁術について耳を傾けていたときの学生達以上に、猛々しい光をコルキスは目に浮かべた。
「……んっ、ぅう」
視界の外が明るくなっていることに気付いて、ゆっくりと瞼を上げた。
体に触れる感覚から、アイリスはもう起床していることが分かる。また、珍しく朝になってもいーちゃんが抱きついたままで、目を開けて一番に飛び込んでくるのが可憐な少女のあどけない寝顔という事実に緊張とも幸福とも知れぬ感情を得る。
ようやく寝ぼけた頭が働き出したので状況を振り返れば、そういえば昨日の夜はいーちゃんと約束を交わしたのだと思いだして、少しの気恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じた。
いつまでもいーちゃんの顔を眺めていては熱も冷めやらない。首を動かして辺りを見渡すと、ベッドのすぐ横でアイリスが座ってこちらを眺めていた。隣にはキャンバスがイーゼル(仮称)に立てかけられている。
……ど、どうしよう。何をしているんですかって聞いても絵を描いていますって返されるのは目に見えている。そういうことを聞きたいわけじゃないのに!
「あの……」
「あぁ、巫女様。お目覚めになられましたか、おはようございます」
「……はい、おはようございます。あの、その……、た、楽しいですか?」
「ええ。至福のひとときでございました」
「そうですか……。なら、よかったです……」
もうね、他に何も言えんよ。
まあ、幸せならそれが一番だからね。他人に迷惑をかけていないなら、自分が一番幸せなことをするのがいい。いや、うん。うん……。
好きこそものの上手なれというか何というか、上達速度も凄くて普通にその道の人かと思う出来だし。モチーフに僕以外を選ばないのが残念なほどだ。
「ん……、あーちゃん、おぁよ……」
もぞりと何か動いたかと思えば、ほとんど目を閉じたままいーちゃんが起きた。
まだ眠いのか頭をフラフラさせながら体を起こし、ようやく僕も抱擁から解放されたので身を起こした。するといーちゃんは支えを探すように僕の方に顎を乗せる。寝起きに弱いおにゃのこは可愛い。
「んー……」
ゆっくりと起動していくいーちゃんは、段々と思考の整理が済んだのだろう。途中まで僕に顔をこすりつけていたのを停止して、次にゆっくりと身を離し、顔を真っ赤にして俯いた。昨晩のことを思い出したのだろう。
「オ、オハヨウゴザイマス……」
「うん。おはよう、いーちゃん」
「う〜〜……、ううぅ〜〜」
僕は先程寝起きに恥ずかしがるのは済んだため、平気な顔で返事をする。
それが不満なのか、しかし顔を見るのは恥ずかしそうにして、俯き加減で唸りながらいーちゃんはベッドをペシペシ叩く。まるで不満気な猫のようだ。
「ん゛っっ……」
アイリスが呻く。見ると、またしても突如鼻血が出てしまったようである。
こんなにも病弱なのに外の世界まで連れてきてしまったことには罪悪感を覚える。そのうち吐血でもされたら僕は正気でいられる自信がない。
治そうとアイリスの方に身体を向けるが、治療を拒否するかのように手で精子……間違えた、静止をかけられた。その眼差しは雄弁で、「こちらで治しますので、今はイフェイオン様を見ていてください」と語っている。遂に辻ヒールを拒否されてしまった。
癖で治そうとしてしまったが、そもそも諸事情により現在癒やしの魔法は使いづらい状況にあった。それを踏まえれば納得はするのだが、手慣れたように鼻の下に布を当て付け根を押さえて下を向くアイリスに、何かしてやりたいという思いは自然と芽生えるものである。
「あれっ!? あ、アイリスさん大丈夫!?」
そうして彼女の鼻血に気付いたいーちゃんが慌てふためき、ドタバタと朝の支度に取り掛かるのであった。
食堂へ行き朝食を摂っていると、
僕の卒業に際して、何か準備が必要なのかもしれない。何か手伝えることはないかと思い声をかけると、目をグルグルと回しながらクラムヴィーネが答えた。
「ど、どうしてかよく分からないのですが、私のお師様……先生にあたる方が、本日いらっしゃるらしく! アンブレラ様もお話をする機会があるかもしれませんが、ひとまず私は部屋を片付けなければ先生に酷くどやされてしまうのです!」
眼鏡お前、そんな生真面目委員長みたいな面しといて部屋汚いのかよ……。
以前彼女の個室に招かれた時はそこまで汚くなかったように思ったのだが、あのときも全力で片付けていたのか、あるいは白妙の止り木に来たばかりでまだ汚れる前だったのか。
「汚しているつもりはないのですけれどね……?」
心底不思議そうに、クラムヴィーネは首を傾げた。
僕は心のなかで、彼女をそっと汚部屋リストに加えた、
魔法陣って表意文字として扱われがちですが、法則の羅列なんだから要するにプログラミング言語なんですよね。
意味単体というより、意味の集合なんですね。