TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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小学校は足が速い男子がモテて、中学校はノリのいい奴がモテるんだっけ。僕中学の頃よく告白されたよ…男子校だけどな!(ブチギレ) 男相手に「君を守りたい」とか言ってきたからなあいつら。

 嫉妬……ではないのだろうとクラムヴィーネは考えた。

 恩師であるハマシギ導師の要求を受け、アンブレラを呼ぶべく一歩目を踏み出した直後の思考である。

 

 魔法使いが作ったこの国(学園都市)では、その魔法使いたちに対する敬神的とすら呼べるまでの感情が存在し、故に魔法の能力に個人の価値の大部分が決定される。

 もちろん一つのファクターだけでは定まらないのが人間関係というものであり、社会的には一族の地位や立場、人柄なども判断材料となる。

 しかし例えば子供たちの社会のように、とても狭く、経験も乏しく、単純な価値観に縛られがちな世界では、ほとんど魔法の能力だけで人気者やいじめられっ子が決まった。あるいは、スクロール(使い捨ての魔法陣)をばらまくことで友達を増やした親のすねかじりもいたかもしれない。

 

 そういう意味で言えば、クラムヴィーネは昔から地位の高いほうの立場であった。

 純粋に脳の処理能力が高かったのだろう。魔法に限らず、多くの事柄において優秀と評される結果を出すことができた。

 驕り高ぶらず、むしろクソ真面目な性格に育ったのは偶然だろう。処理能力の高さからまとめ役を任されることが多かった彼女は、目的合理性に基づき、任されたからにはとその役目を全うした。それが、たまたま「ウザいやつ」として認識された。

 

 凄いのは分かるけどなんかウザいから、煽てるのでなく関わらないようにする。それが彼女の周囲で起きた結果で、有り体に言ってクラムヴィーネは避けられるようになった。

 なった、というより、クラムヴィーネからすればそれが普通だった。世の中はそういうもので、騒がしくなくていいし、無視されているわけでもなく、困ることがなかった。

 だから、世間一般から見て自分に足りないものに気付くことなく成長した。

 

 困るようになったのは、スクールの卒業近くになった頃と、研究室に入る段階になってからだ。

 彼女の世界はあまりに自己完結しすぎてしまっていた。他者と最低限しか関わらないがゆえに、その才覚は独創的な内の世界を拡張することに用いられ、優れた哲学や知識を持ち合わせていても、そもそもの物事の認識する様式が一般的なものとズレてしまった。

 

 スクールでそのズレが露見しなかったのは、スクールで扱うレベルの課題はせいぜいが数式や術式をこねくり回せば解決できてしまうものであったからだ。

 しかしスクールで一般的に行われる卒業制作。その発表の場において、クラムヴィーネは酷評を浴びた。

 

『何を伝えたいのかわからない』

『論理の飛躍がないか?』

『術式の解釈が自己流すぎる』

 

 クラムヴィーネも困惑した。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

 クラムヴィーネの術式の扱い方は、導出される陣記述は、必要十分条件は、すべて彼女の脳内では自明なことであった。説明のための補助式を用いる以前に、彼女にはそれが「正しい」と分かってしまっていた。

 しかし残念なことに、ほとんどの人間にとってそれは理解できない出力だったのである。魔法学というものがまだまだ手探りで、厳密性に欠く分野であったことも影響しているかもしれない。

 

 卒業してその後研究室に無事入ることができたのは恩師のおかげである。

 彼はクラムヴィーネの特異性を見抜き、他の研究室に取られてしまわぬうちにと囲い込んだ。

 そうしてラボに参加したクラムヴィーネに「キミは世の中とモノの認識の仕方が違うから、まずは人との話し方から学ぼうね」と伝え、クラムヴィーネがいくらか自己肯定感を失ったものの、今では導師の号を得るまでに至った。

 

 そんな恩師が、ぽっと出の女に強い関心を抱いている。

 その状況に対し「嫉妬ではない」と言えたのは、相手が相手だったからだ。

 

 もはや「女」などと呼んでしまうことこそ畏れ多い。

 悠久と共にある魔霊種。幽かなる精霊。その王族の娘と推測されている少女。

 その保有する魔力はこれまで記録されてきた森人のそれを大きく上回り、当然人類に属する導師では比較対象にすらならない。存在そのものが都市機能のキャパオーバーを引き起こしかねないが、絶好の研究対象である彼女を追い払えるわけもなく、一度白樺の止り木にて【圧縮】の習得を求める運びとなった。

 

 加えてその容貌。これに関しては、表現ができなかった。

 美しいということ。愛らしいということ。蠱惑的であるということ。無垢のようであること。こうした言葉で表現したつもりにはなれても、本当の意味で正しく形容できる言葉をクラムヴィーネは知らなかった。

 彼女に対して抱ける感情は、きっと愛情か恐怖だけだ。

 いま現在クラムヴィーネが性犯罪、加えて国家反逆罪に手を染めていないのは、まだ恐怖の感情が愛情を上回っているからだ。理外のものに対する恐怖。それが、未だ理性を支えている。

 そしてそれすらも脆い堤防にしかなり得ない。

 

「アンブレラさん、少しお時間よろしいですか」

「うぇっ……!? は、はい……どうされましたか?」

 

 先ほど見かけたからまだいるだろうかと思い、食堂に入って名前を呼ぶと慌てたような反応が返ってきた。

 こちらに尋ね返す際の笑顔には屈託がなく、それだけで少しずつ恐怖の情が奪われていくのを感じる。どう足掻いても、愛情を、情欲を煽るように生物として設計されているようである。

 

 先日気絶した後の体調などについて先生(ハマシギ)が診てくれるらしい、などと説明すれば、アンブレラはやや申し訳なさげにしながら立ち上がってこちらへと近寄ってくる。警戒心の欠片もなく。

 加えて、離れていく彼女に少し寂しそうな表情をしたイフェイオンの姿で、なぜだか優越感を得ていたことにクラムヴィーネは気が付いた。つまりは独占欲に近い感情が生まれたのだ。

 

(恐怖と愛情の天秤が後者の側に傾いてしまったら、私はどうなるのでしょうか……)

 

 これは元々期待していたアンブレラと関わることでの変化とは違う。クラムヴィーネの中に残っている恐怖は、もはやそれくらいのものだけかもしれなかった。

 


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