TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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確かエルフは魔力で細胞がコーティングされてるから疾病に強いみたいな設定がありましたが、それはそれとしてお医者様プレイはしています。


お医者さんごっこって良いですよね。前世ではついぞしませんでしたが、母様とは沢山シました。「症状」を自分の口で言わせるのとかゾクゾクする…いやこれごっこじゃなくてプレイか?

 白妙の止り木には食堂がある。

 一体どのような流通システムが形成されているのかは知らないが、まるで小学校の給食のように、どこかで作られた料理が運ばれてきて、それを配膳したら残りはまたどこかへ運ばれていく。

 とはいえその形態上、運ばれてくる料理はそこまで手の混んだものというわけではなく、シチューやパンのような簡単なものであることが多い。味は普通だけれど、僕はわりと舌がバカなので何でも美味しく食べられる。舌の感覚自体は鋭いほうだと思うのだが、味の違いに回す頭がないのである。バカなのは舌でなく頭だったかもしれない。

 

 食べる量は胸の大きさに比例して……ということもなく、僕もいーちゃんもアイリスも全員同じくらいの量を食べる。いーちゃんは気持ち少なめかもしれない。一体アイリスの胸はどこから養分を蓄えているのだろうか。

 

 また、水についても水道が引いてあるわけではなく運搬されてくる。聞けば都市部は水道(に近いシステム)が整っているらしいから、ここが世間から隔離されているのだ。

 貯蔵して足りない分を補充するようになってるそうで、今のところ水が足りなくなったという話は聞かない。お湯は使えないが水浴びだってできるのだ。やっぱ三大国家とか呼ばれるくらいには先進国なんだろうなぁ。

 

 しかし学園都市における水道設備は制御に魔法が関わるらしく、そういった要素を省くために作られた白妙の止り木という施設ではもう少し原始的に水を扱う。つまりは小さなタンクを持ち運び、都度入れ替えて設置するのだ。

 だから食堂にあるウォーターサーバーのようなものは一時的に水が出なくなることはあって、定期的に職員の人が入れ替えるからほぼ気にはならないけれど、当然タイミングが悪ければ必要なタイミングで足りなくなりもする。

 

 そのタイミングが偶然いま訪れた。

 

 最後に水を注いだいーちゃんが「あれ、お水なくなったかも?」と呟いたのを耳にしてからしばらく。飲み込んだパンが少し大きかったらしく、水で流そうとコップを手に取ってそれが空であることに気付いた僕は、二人のどちらかの水をもらおうと視線を彷徨わせた。

 アイリスはすぐさま僕の意図に気付いたようだが、残念ながらそのコップには中身がなかった。ならばと視線をずらせば、丁度いーちゃんが最後の一杯を飲み切るべく喉を鳴らそうとするところである。

 

 幸か不幸か、その表情を見るに、いーちゃんは僕が飲み水を探していることに気付いたらしかった。

 しかし悲しいかな。コップからは既に口が離れてしまっていた。つまりは、その残る中身ももはやいーちゃんの小さな口の中である。

 

 ただ、なんというか、普通ならそれで「ハイ残念、飲み込んであとで新しい水を取ってきてもらおうね」となるのだろうが、昨夜から続く妙な距離感のせいか、目線を絡ませた僕らの頭の中にはひとつしか発想が生まれてこなかった。

 いーちゃんも水を飲み込むことはしなかった。だから、お互い同じことを考えていたはずなのだ。

 

 つまりは、口移しである。

 

 他人がそれをしていれば思うところはある。しかし、僕自身の中でおにゃのこ同士が唇を重ねるという行為へのハードルが低かったこと、またいーちゃんの場合はきっと世俗への知識の薄さ、そういった要因が思考を制限していた。

 僕は水が欲しくて、いーちゃんは口の中にまだ含んでいる。ならそれを貰うべきじゃない? と。実に論理的である。

 

 目をパチクリとさせたいーちゃんは、瞼を下ろし、口元をこちらへ向けるように顎を軽く上げた。つ、つまりはこっちから来てほしいと?

 

 逡巡していると段々といーちゃんの頬は赤みを増していった。

 乙女が瞳を閉じて待っているのである。日本男児として何を躊躇うことがあるだろうか。

 そう自分を奮い立たせ、ゴクリと生唾を飲み込んで──

 

「──アンブレラさん、少しお時間よろしいですか」

「うぇっ!?」

 

 眼鏡(クラムヴィーネ)が後ろから声をかけた。

 幸い、飲み込んだ生唾で食道の詰まりは嚥下されており、返事につまることはなかった。

 

「は、はい……どうされましたか?」

 

 脳の血管がはち切れてしまうのではないかというくらい心臓が激しく血液を送り出している。

 そんな動揺は伝えまいとなるべく自然な笑顔で振り向いたが、言葉は隠しきれない程度に震えてしまっているように思えた。

 

 タイミングが良いのか悪いのか。

 なんでも、来訪していた彼女のお師匠さまが、僕が気絶してからの体調とかについて診てくれるらしい。随分ありがたい話である。保険証も診察券も持ってないけどええのん? と思いはするが、まあ良いから言ってきたのだろう。

 

 クラムヴィーネの部屋まで来てほしいとのことで少しトラウマが蘇るが、流石に自分の師匠の前ではもう少し大人しくしてくれると信じたい。……信じていいよね? ……いや、師匠がもっとヤバくてクラムヴィーネがその性質を引き継いだ可能性も微レ存? まさかね(震え声)

 

 エルフの森で人をむやみに疑ってはいけないと学んだ僕である。

 とりあえず、今回だけは信じてやろう。今回裏切られたらコイツはもう信じない。そう思い、部屋へは一人で行くことにした。

 

 食堂の去り際、いーちゃんをチラリと見ると片方の頬を膨らませてそっぽを向いていた。可愛い(脳死)

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「はーい、それじゃあ次。……ここも痛くないんだね?」

「ええ、なんともないです」

 

 左手首の裏。内向きに腕時計を付ける人とかだと丁度文字盤が来る辺りを丸石みたいな形の道具で軽く圧迫されるが、特に押されること以上の痛みを感じることもないので平気だと返事をした。

 クラムヴィーネの師匠による診察である。語尾が「ンねっ」みたいに独特に跳ねるのが気になる。別にカエル顔とかではない。

 

 昔、弓道で手首を痛めた頃に整体の先生にこんな感じのことされたっけ。

 先程からこの人が押すところを視てみると、どうやら体を流れる魔力について、滞留しやすい部分を押しているっぽいんだよな。ツボみたいなものなんだろうか。彼には魔力が視えていないのだろうから、純粋にこの世界の医学として知られる部位を調べているのだろう。

 ある種メタのような視点で見てみると、こうした人類の知識の集積というのは中々の感動モノである。ちゃんと実際の状況に添えているのだから。

 

「フム。あまり女性の体に触れるのはよくないだろうからね。ここまでにしておこう」

「先生……良識があったんですね……!」

「馬鹿にしているね?」

 

 クラムヴィーネが目を輝かせて何事か言うが、一番良識がないのはお前だぞという気持ちに駆られる。

 チラリと視線をずらすが、クラムヴィーネの手首には何の跡も残っていなかった。当たり前といえば当たり前だが、ちゃんと癒せていたことに安堵する。

 

「そもそもヒトと魔霊種に同じ医学を当てはめていいのかは分からないがね。……ああ、診察にも関わることだから、2つほど聞いてもいいかい?」

「ええ。構いませんよ」

 

 マリョウシュ、というのは人類種に対する森人の分類だろうか。まあなんとなく内容は分かるので、そこについてはツッコまない。

 触診は終わりらしく、2つほど問診したいとのことなので頷いた。段取りがきちんとしているが、この人は結構ちゃんとした魔法関連のお医者様なんだろうか? クラムヴィーネはお師様だの先生だの呼んでいたが、医者の弟子が軽率に手首を切るとは思いたくない。

 そんなことを考えていると、クラムヴィーネの師匠は何かを測ろうとするかのように問うた。

 

「答えづらければぼかしてくれて構わないんだが……、まず、キミはどういった風に【圧縮】を習得したのかね?」


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