TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
人にはヒトの乳酸菌、という言葉がある。
結局生き物にとっての最適な状態とは自然のままに従うことであり、つまりはママに従うことが幸せで、やっぱり母様が大正義ということ……だ? なんか結論がバグったな。
やり直そう。
みんなちがって、みんないい、という言葉がある。
人それぞれ違いというものは必ず生ずる。それは生物としての種の違いや個体差もそうであるし、たとえ肉体の特徴が完全一致したとて、まったく同じ景色をまったく同じ座標から眺めることはないのだから、経験という形で差異は生まれる。
だからこそ、自然に起こりうることであるからこそ、そこで優劣を付けるというのは公平性に欠く。一見劣っているようなことだからといって別の場面では長所となりうるかもしれないし、大切なのはまず第一に相手を尊重しようとする姿勢なわけだ。
とは言えあらゆる点で蔑まれた人間に「みんな違ってみんな良いんだよ」と言っても響くわけがなく、さも寛容で優しく温かみのある言葉に見せかけて、その実やっていることは思考の放棄である。現実にはどうしようもなく「わるい」ひとだって存在するわけで、彼に必要なのは思考停止した全肯定でなく現実味のある働きかけで……ある?
いや引用文否定してどうすんだ。
……なんかそれっぽい有名な言葉引用したらそれっぽい語りができるかと思ったけれど、そもそも結論を決めず話し始める僕に適切な言葉が選べるわけがなかった。
はい止め! なんかそれっぽい語りすんのおしまい! できません!
仕切り直し!!
どうやって【圧縮】を覚えたか。
クラムヴィーネの先生とやらに問いかけられ、まず僕が考えたのは「圧縮ってなに??」ということであった。
全体的にスペックの良いこの体、しかし中身が僕なので、優秀な記憶容量も中身を引き出すのが下手すぎて意味をなしていなかった。少し考えて、そういえば脱走したあとに院長先生が何か言っていたなと思い出した。
あれだよね。この、魔力を漏らさないようにする方法の呼び方。
エルフたちの名前をすべて覚えるためにかなり努力したように、昔から単語を覚えるのが苦手である。一応、その努力の甲斐あって人の名前についてはかなり覚えられるようになった。
しかしこの【圧縮】とやら、実のところエルフとはとことん相性が悪い。
エルフとはってか、魔法そのものに対して相性が悪い。やってみて初めて実感したが、アイリス曰く溢れたものを注ぐという行為、これがとにかく気持ち悪い。マスク買い占めを自分がやらされるみたいな気持ち悪さ。例えが下手すぎる。
そんなわけで、「どうやったの?」と聞かれて「いやそもそもなんでこんな気持ち悪いことするんですか?」と言いそうになってしまったが、僕とて良識のあるエルフ。
いきなり目の前で手首切る眼鏡だったり、人目も気にせず全裸で生活したがる馬鹿神だったり、ああいった駄目な大人とは違って常識を備えている。これまでの経験から考えれば、人間が利便性のために結果的に変な魔法の使い方をしてしまうことだって想像できた。
想像ができれば、不満だってぐっと堪えられる。僕は公共の福祉を重んじるタイプなのだ。
ここまでで考えたのが、冒頭で失敗した語りだ。
なんだろ、言いたいことをまとめれば、人間には人間のやり方があるよねってことだろうか。ちょっと違うかもだけど、だいたいこんな感じ。
さて、いくら優秀な身体に生まれたからと言って、これだけ考えていて実はコンマ2秒でした! とかのバトル漫画みたいなことはない。問いかけられて黙ってしまった僕に、クラムヴィーネの先生(ハマシギ同志と言うらしい)が不安げな顔で伺った。
「……秘匿したとて責められないことだけれどね。知識欲がないと言えば嘘になるけれども、キミが意識を失った理由、これを考えるためには必ず要することになるだろうから、話してもらえないかね?」
「……っあ、いえ、どう話したものかと考えてしまったのです。隠すつもりはありませんよ」
「そうかね。いやなに確かに、感覚的なことで説明が難しいかもしれない」
なんだろ。隠す人もいるんかな。
まあ魔法に特許とかないだろうし、これも一つの技術だって言うならありえるのかな。
「参考までに、他の方は普通どのように覚えるのでしょうか?」
「普通……普通かね。普通の人はそもそも覚えることがないんだよ」
「はぇ?」
ハマグ……ハマシギ先生は慣れた口調で話し始めた。
曰く、そもそも【圧縮】は学園都市でも一部の人間しか必要ないような特殊な技術であるという。
学園都市の人間は、その国(とあえて呼ぶ)の方針からしてほとんどの人が子供のうちに魔法の扱いを学ぶそうだ。
魔力を認識することができれば、何らかの形で魔法の研究に携わることができる。さらにはその内から体質(ほとんど血筋らしいが)や訓練によって保有する魔力量を大きく増した者が現れ、上位の研究者として研究室を任されたり教授となったりする。
実力主義社会つら…と思いながら聞いていると、そうした上位の研究者について「同志」と呼んでいるらしい。実力がなければ同志認定すらされないのである。カワイソス。
ということは、院長はともかく、クラムヴィーネなんかも上位の研究者というわけだ。マジで? この国滅びない? という言葉はぐっと飲み込んだ。
驚いたのが、「訓練によって保有する魔力量を増す」と言ったが、
地球の人類からしてそうだけれど、人はその脆弱さを桁外れの試行錯誤によって補っていくらしい。遥か昔にとある科学者が発見した「人の魔力量は増やせる」という研究結果に基づいて、荒削りではあるが
「まあ、彼のような天才はそうそう現れないのだがね。その時代に発表された論文の至るところに共同研究者として名前が載っているそうだ」
アインシュタインとかニュートンみたいな人がこの世界にもいたわけだ。
エルフは長命だから研究者に向いてそうに思えるけれど、知識欲とかほとんどない(父様を除く)から人間みたいな発見は中々しないだろうな。だからクロさんとかが外の世界の調査をしているのかもしれないけど。
なにはともあれ、人間の間では魔力量を拡張する手法が確立されている。
勿論それは効率の良いものとは言い難い。となればその増え方には個人差が大きく表れ、才能の世界にはなるが、100人に1人いるかどうかといった具合に特別優れた者が出てくるという。
そうした場合、何もしていなければ身体から魔力が漏れ始める。体の保有可能量を越すのだ。エルフの場合で言えば、それが標準である。
僕が白妙の止り木に来た理由と同じく、魔力が漏れてはインフラ諸々で困ったことになる。
だから彼らは修行して【圧縮】などを覚え、晴れて上位の研究者として尊敬の念を向けられながら研究に勤しむようになるのだ。すごい。えらい。
「つまりはだね、導師になった人間は誰しも【圧縮】が必要なかった時代があるのだよ。だからこそ、【圧縮】に関しては魔力が増えたあとに覚えた『漏れ出る感覚』を防ごうとすれば比較的楽に習得できるわけだ」
「僕らの場合はその感覚がないから、習得が困難になるというわけですね?」
「……いいや、魔霊種の【圧縮】に関してはある程度資料がある。ただ、キミくらいの魔力量になると果たして『漏れ出る』のを防ぐことで【圧縮】ができるのか検討つかないのだよ」
ああ、まあ、実際アイリスに言われたようにやったら駄目だったしね。
そうして手法を変えた。だからこそ、僕は彼らの言う【圧縮】に対して気持ち悪さを感じるようになったのかもしれない。
「バケツがあって、辺りに水が溢れていればバケツから漏れ出たのだと分かる。ね? けれども、バケツの辺りにあるのが湖だったらどうだい? それはバケツから漏れ出たのかね、そもそも、バケツに入れ直せるのかね」
なんと説明するのが良いのだろう。
相手は前世で言う科学者だ。魔法の理論屋である。そんな人に対して、感覚的な理解のうちからそれっぽいことを伝えたとして、誤解を与えないとは思えない。
だから、ひとまず違うと分かっていることについてだけ述べることにした。
「……ええとですね、ハマシギ同志」
「う、うむ」
「貴方が分かりやすい喩えとして用いただけというのは理解していますが、──そもそも、人はバケツではなく、魔力も水ではないのですよ」
馬鹿にしているのではないと伝えるために柔らかく微笑みながら言葉を紡ぐと、彼は神妙な顔をして頷いた。まあ多分、伝わった。
僕の前世から持つ知識と、この世界の人の持つ知識。
森人としての認識と、学園都市の人間の認識。
そういった違いを考えると、僕のやり方についてちゃんと理解してもらえるよう説明できる気がしない。口下手で失敗するのは流石にもう懲りてきた。
ただ、人は容れ物ではなく、魔力は
そこの認識がもしも間違っているのなら、僕がどう説明してもうまくいかないだろう。だから、今はそれだけを伝えることにした。