TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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世界は魔力で満たされている。エルフは存在そのものがほぼ魔力みたいなところがある。⇒そうか、僕が世界だったのか…(脳死ポンコツエルフ)

 脳死エルフ、あるいはポンコツエルフという電波を受信した。

 

 まあ、低めに見積もっても僕のことではないだろうからまったくキレたりとかそういうのはないのだが、可哀想な呼び方をされているエルフがいたものである。

 お花があれば「お花だ〜」となるし、ちょうちょが飛んでいれば「ちょうちょだ〜」となる僕だが、ちゃんと頭を使ったことも考えている。

 

 たとえば、自分が一体()なのか、とか。

 

 自我というよりは自己に関する話だ。哲学の話題としては古今東西どころか山手線ゲームにだって出てきてもおかしくない普遍的な内容だろう。いや何言ってんだ僕は。

 しかし、肉体と精神のことさえ考えていればよかった地球に比べて、この世界では魔力とかいう訳分からない要素も自己に関わってくる。

 一番単純な理解は、水みたいなものだ。体内を巡る水は自分の一部かもしれないが、汗や排泄を通して外部に出るし、飲み食いすれば自分の一部に戻る。他にも、酸素とか、もろもろの栄養素とか。

 でも、常日頃言っている通り、()()()()()()()()()()()()()()()()。だから、僕は魔法に対し「使う」という意識はあまり持たない。お願い、あるいは対話のようなものとして捉えている。これは他のエルフも似たような感覚だろう。

 これがそれこそ精霊のような形の分かりやすいものだったら完全に他者として捉えられるのだろうが、……残念ながらこの目に映るのはぽわぽわした塊である。森を出て分かったが、緑色じゃないものも沢山ある。

 

 だから、日本人としての常識で語ると、意志の介在する不定形の物体を体内で増やしたり減らしたりする訳の分からない話になり混乱する。

 血液が全部赤色のスライムだったらと考えてみてほしい。普通に怖いだろう。そして、それを自己として認めるなら、地球の哲学以上に「自己ってなんなの??」という疑問が生まれてしまうだろう。

 

 それに加えて、転生だの、偽られた真名だの、僕の周りには自己を問い直したくなるような要素ばかりなのだ。

 揺れて揺れて、蕩けて、水にでも浸されればそのまま溶けてしまいそうだ。

 

 ただ、ひとつ。レインも、にいろも、この体の産毛一本から、芯の魔力まで。

 すべてを捧げて、すべてが愛する人がいるから、自分が何かわからなくなっても自己を見失うことはないのだろう。

 

 

 

 


 

 

 

 

「自我が混濁したのかもしれないですね」

 

 クラムヴィーネが「先生」と慕う人物、ハマシギはきっぱりとした口調で言った。

 なぜだか、先程【圧縮】について言葉を交えてからというもの口調が丁寧になっている。もともと荒かったわけでもないのだが。

 

 【圧縮】に関する話は途中で終わり、次にハマシギ先生から問われたのは脱走についてだった。院長からかクラムヴィーネからかは知らないが、白妙の止り木における僕の生活についてはおおよそ聞き及んでいるらしい。

 責めるつもりは一切なく、純粋な疑問であると前置きをした上で「なぜあの施設に向かったのか」と問われた。適当に歩いていて着いてしまうような距離ではなく、僕が知らないはずの場所を目指した理由が分からなかったのだ。

 

 これまでの会話からある程度は彼を信頼できると思った僕は、正直に「意識を失っている間に夢で見ました」みたいなことを言った。それを受けてハマシギ先生が出した結論が、自我の混濁、というものだった。意識の混濁ではない。

 

「我々は、魔霊種の中でも特に森人のことを幽かなる精霊と呼ぶのですがね。ヒトに近い見た目でも、ヒトとはまったく構造の違う存在と捉えているのです」

「……あ、あの、楽な話し方で構いませんよ?」

「そうかね? であれば普段どおり学生への講義のように語らせてもらおう」

 

 なんだか窮屈そうだったから敬語じゃなくてもいいよと言ったら、堂に入った話し方で流暢に語りだした。というか学生って、そうかこの人ほんとに先生なのか。

 人間からすると、森人自体が精霊らしい。そっか魔力が精霊じゃなければそりゃ僕らが精霊扱いされるよな……。本体が肉体か魔力か怪しいもんな。

 

「動物の本体はここ、脳だ。腕が取れても脚が取れても生きていけるのだけれど、脳が少しでもやられてしまえば簡単に壊れてしまう。キミ達がどれだけ動物に馴染みがあるかわからないが、それはいいかね?」

 

 一応はエルフと人間の常識の違いを考えながら話してくれているらしい。人間にとっての常識を、ゆっくりと確認を取りながら話してくれる。

 

「だがね、今となっては調べようがないのだけれど、かつての人類が森人から教わった記録として、キミ達は脳、あるいはいくつかの体の器官が壊れることは、自我の存亡に対し致命的なものとならないらしい」

「それは……確かに、僕らでも普通に過ごしていては知りようがないことですね。ああでも、年を取っても痴呆が生じないのは関係あるかもしれません」

「本当かね!? ……いや失礼、我々はキミ達に関する知識が不足していてね、そういった些細な情報でもとても興味深いのだよ」

 

 武術を教えてくれたシロ先生とか300歳近いはずだけど普通だもんなぁと思い出しながら話すと、興奮したハマシギ先生が身を乗り出してくる。こういう知識に貪欲な学者の感じが父様に似ていて、なんだか無性に懐かしくなった。

 

 細胞が魔力に保護されているから、とひとくくりに考えてしまっていたことだが、長命(というかほぼ不老)のエルフが認知症だとかに悩まず過ごしていられるのは別の理由があるのかもしれない。

 

「話を戻すと、キミ達森人は肉体よりも魂……失礼、魔力の方に依存しているという説がある。そうなるとだね、普通は【圧縮】を必要としないことを考えれば、その魔力は世界に偏在している……つまり、キミ達は生き物であり、世界そのものでもある、そういう話が生まれてくる。ね?」

 

 そうか、僕が世界だったのか……(思考停止)

 

 唐突な話の流れに「ね? じゃねえよクソジジイ」とにいろが悪態をつくが、レインちゃんは母様の血を引いたスーパー清楚美少女だからそんな事言わない。駄目だ自分で言っててスーパー(店舗)にしか思えない辺り結構困惑してる。

 何言ってんだろこのオッサン……。

 

 とは言え、夢でのあの自分じゃない何かになっている感覚といい、笑い飛ばすことも中々できない。

 やめろよ……。人が自己とか真名とかそれでも変わらず愛する人とか思い悩んでるところに「いや君は世界なんだよ」とかいうトンデモ理論ぶつけて、しかもワンチャン納得しそうにさせるのやめろよ……。

 こちとら脳死ポンコツエルフなんだから手加減して(懇願)

 

「その状況で自我があるということ、それがキミ達が精霊と呼ばれる所以で、魂に関する理解を深める一助にもなるだろうね。またキミが気絶してしまったのも、【圧縮】によって生物としての在り方に影響が出たことが考えられる」

 

 影響が出るって想像つくなら、んな危ないことやらせるなよぅ……。

 

「キミがこれから学園都市でどんなことを学ぼうとするのかは分からないがね、今話したようなキミ達の体の構造や魂について調べたいのであれば、私の研究室に来るといい」

 

 そう言って、ハマシギ先生による診察は終わった。

 あの……マジで結論「君は世界なんだよ」で終わりなんですか……?(震え声)

 




話の進行のためにカットしていますが、
「自我の存亡に対し……」
「ジガのソンボウとはどういう意味でしょうか?」
「ああ、ジガは〇〇という意味で……」
みたいな会話が挟まっています。日常会話なら問題なくなってきましたが、語彙力は日本語に置き換えると多めに見積もっても中1くらいです。

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