TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
──あァ、朝か。
体表の神経が反応したのに合わせて瞼を持ち上げると、ドレープカーテンの隙間から差し込む光がおおまかな時刻を教える。
眠っていた、と表現していいかは微妙なところだが、床についてから十分な時間休むことのできた脳と目は不自由なく動く。
学園都市でコルキスに与えられた住居は、大商人が御用達にするような大きな宿の一画であった。二階建ての宿は一階に2つ、二階に4つの区画が存在し、部屋というよりかは平屋建ての家を並べたような構造をしている。
とはいえ
すぅすぅという寝息が聞こえて視線を下ろせば、隣には側付きの騎士であるヴィオラが年相応の少女らしさを残した可愛らしい表情で眠っていた。
ヴィオラよりひと回り年下のはずのコルキスは、研ぎ澄まされた薄い切先のような、儚さと美しさ、そして残酷さを合わせた面立ちを、ほんの少しだけ変化させて隣の少女を眺めた。どうも寝起きは、表情筋が固まってしまいがちであった。
コルキスとヴィオラの主従関係は必ずしも城主とメイドのような取り決めのあるものではなく、戦場で隣に立つこともあったため仲間のような意識が強い。
そのため自分が先に目覚めたことについては特に思うところもないのだが、果たしてヴィオラを起こすために声を張り上げるのは主として如何なものか、そんな疑問は尽きない。
毛布の下に覗く生肌を目にして、コルキスの灰色の脳細胞は答えを出した。
「……ん、……んむぅ!?」
後頭部に軽く手を添えて、バードキスで何度か合図を与えてから貪るように舌を絡める。口の中に異物が侵入してきたことへの反射か、すぐに意識を浮上させたヴィオラは驚いたような呻き声を漏らした。
ここでやめても目的は達成できているのだが、何事にも「やるなら徹底的に」という方策を取ってきたコルキスはわざと退かずに成り行きを楽しむ悪癖があった。
激しさを抑え柔らかくした舌先で相手の舌を包んでやると、意識の覚醒しきっていないヴィオラは簡単に蕩ける。息は荒くなり、驚きで硬直していた手足はゆっくりと弛緩していく。
だがそこでほんの一握り残っていた理性があったのか、突如目を見開いたヴィオラは、コルキスの胸元を両手で押し返して顔を背けた。
「ごっ、ご容赦をコルキス様……! 先程から幾度となく果てておりますゆえ……」
「ん、そうだな。朝だ、起きろォ」
「ふあ……?」
とりあえずは起こせたと判断したコルキスは、口元の涎を指で拭ってから立ち上がってカーテンを開いた。布ひとつ纏わぬ裸体を、朝日が照らす。
どうやらヴィオラはまだ昨夜の途中で気絶していたと思っていたらしく、身を起こして、窓の外の光を見て、ようやく合点がいったとばかりに、顔を赤く染めながら毛布を首元まで持ち上げた。
「……コルキス様。せめて、窓辺に立つときはお召し物を」
「外からは見えねェよ。それに、見られて恥ずかしいモンもねェしな」
そう答えながら、差し出されたガウンを渋々と羽織る。
心情として裸を晒すことに対する抵抗はほとんどないが、お淑やかな留学生のお姫様という外面を壊す可能性があることは重々承知していた。
「……いい天気だなァ」
「ええ。左様ですね」
「あァ……」
雲ひとつない、という表現は嘘になる。
けれども、程よく日差しを遮る白雲と、その隙間から覗く少年の瞳のように青く澄んだ空を以てして、良い天気という言葉しか感想は許されないようであった。
「んで、休日ってどうすンだ」
「さあ……?」
だが残念ながら、その天気の活かし方をコルキスは知らなかった。
事の発端は、コルキスの生活習慣が彼女の研究室の教授、タゲリ導師にバレてしまったことにある。そもそもとして彼女自身がその生活習慣をそこまで異常なものでないと認識してしまっていたこともあるが。
平日は早朝からヴィオラと訓練に勤しみ、日中は講義や研究、帰宅後は夕食を食べてすぐ床に就いてしまう。
学園都市で休日とされる講義のない日には、一週間で学んだ内容を報告書としてまとめることなどに時間を費やし、ソートエヴィアーカに持ち帰るための資料を編纂する。講義内容に限らず追加で資料を調査することもあるし、もはや研究と呼べる行為だ。
当然訓練は欠かさず、むしろ講義のない分平日よりも多くの時間を費やす。また留学しているからといって本国の情勢を忘れて良いわけもなく、独自のルートから得た情報を頭に入れる時間も必要になる。そうする内に休日が終わり、また平日に戻る。
わざわざ全てを語ったわけではないが、ある程度生活習慣の検討をつけられてしまった結果、二週に一度は身体と頭を休める日を設けることを矯正されるようになってしまった。
今日はそうして設定した休日の二度目になる。一度目の休日は休み方を知らないがためにあまりにも残念なもの(タゲリ評)になってしまい、二度目の休日はもう少しマシなものにしようといくつか調査はおこなった。
「……買い物なァ。一日使う買い物を毎週するってのが分かんねェ」
「市井の情報を追跡調査する、ということが一般的な目的のようですよ」
誰もそんな事は言っていないのだが、ヴィオラが研究室などで聞き取りをおこなった結果の結論がそれであった。
友達とお茶をするのが楽しい。
流行りの服を眺める。
街を散策していると気分が晴れる。
美味しいグルメとの出会いを求めて。
娯楽とは関わってこなかったコルキス達では、それらの中心がトレンド調査以上に個人の興味の追求にあることに気付けなかった。
とはいえ、興味もまずは発掘から見つかるものだ。分からないから真似してやってみるというのは、本来であれば何ら間違った結論ではない。
本来であれば。
「……付けられていますね」
朝食を適当なカフェテリアで摂ったあと、まずは服屋にでも行きましょうと歩き始めてからしばらくしてヴィオラが呟いた。
おおかた自分のことを疎んでいる貴族の手の者だろう、とコルキスは検討をつける。貴族本人はソートエヴィアーカにいるのだろうから、早馬の行き交う距離でもあるまいし、ある程度計画された尾行だ。
流石にこのタイミングで殺そうとするのはないと思いたいが、獣がどんな損得勘定をしているのか人に予想のつくものではない。ヴィオラが武装していないからといって好機だと思っているのかもしれないし、貴族関係なくただのテロリストの可能性もある。
めんどくせぇなァ……。思わずそんな感情が顔に出てしまいそうになるが、なんとか外面を取り繕って、溜息だけついた。
「ヴィオラ、任せます」
「はい。では、先に店で試着などを楽しまれていて下さい」
店に入り、自分に合う服はないだろうかと店員に声をかけてから、ヴィオラだけ店の外へ出ていった。
大きな店ともなればコルキスの顔を知っているらしく、手を揉みながらいくつか試供品を持ってくる。
側付き以外に着せ替えられることを好まないコルキスは、自分の手で着替えるからと言って試着室でいくつか試していく。
店員のセンスも悪くはないのだろう。コルキスの外面のイメージに合った、ロングスカートの清楚な印象のものが多い。
正直なところ楽しめている気はしなかった。そも、大抵の服は着れば似合ってしまうわけで、見慣れた
だが、2着3着と試す内に、ひとつの楽しみ方をコルキスは見つけた。
アンブレラに似合う服を探すのだ。
きっと、一番美しいのは一糸まとわぬ姿である。
それでも、極上のワインを知ってなお地方のワイン造りを支援した先々代の王のように、極上とは別ベクトルの味わいが存在する。
どんな色合いがいいだろうか。どんなシルエットなら映えるだろうか。
若干コルキスには合わない、しかし確かな方向性を持った注文をつけてくる彼女に店員は首をひねりながら商品を運んだ。
しばらく色々と試していると、試着室の仕切りの向こうから、ようやく店員以外の声がかけられた。
「コルキス様、ただいま戻りました」
「……お疲れさまです。黙らせたのですか?」
「いえ、お話をして、お帰りいただけました」
まあ、いっか。どうでも。
ヴィオラを見る限り多少は荒事になったのかもしれないが、彼女自身は怪我をしていないようであるし、尾行していた者達がどうなろうが知ったことではなかった。
「ヴィオラ、私、服屋での買い物の楽しみ方を見つけました」
「本当ですか? お聞かせ願えますか」
「ええ、まずはですね……」
世の中、どうでもいいことや下らないことが多すぎる。
けれども本当に腹が立つとしたら、そんなことが存在する事実よりも、それに思考を割いて、時間を割いて、心を割いて、割いた分がすべて無為に奪われることだ。
ならばと、コルキスは一人の少女のことを語った。
珍しく笑顔を見せる主に、ヴィオラはこれが休日かと納得し、微笑んだ。
時間がなくて眠いからボツにしたネタ
騎士「粗茶です」
姫「ありが……ウ゛ッ(吐血)」
騎士「ニヤリ」
姫「……寝返りか。さっきの尾行に何か吹き込まれたか?まあ、そっちのが賢いかもなァ」
騎士「……今までお世話になりました」
姫「私を裏切ンなら最後まで……グフッ」チーン
姫「……な〜んてね!」
騎士「イッツソヴィアカジョーク!」
姫・騎士「「HAHAHA!!」」
姫「……いやァ、暇だな」トオイメ
騎士「……ええ、左様ですね」トオイメ