TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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ど う し て こ う な っ た (3回目)


え…母様? かあさま、うそだよね? ねえ、その女、だれ? かあさま、かあさま、かあさま…かあさまああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!???(絶叫)

「サルビア! 聞いてくれ、お告げだ!」

 

暖炉の前、戯曲を元にした物語を読みながら寛いでいると、夫のマルスが飛び込んでくる。5年ほど前のあの日が再現されているようであった。

どうしたことかと驚くが、その「お告げ」に関しては心当たりがあった。

 

「なに、君も同じ夢を見たのかい? ならこれは、本当に神の思し召しなのかもしれないな。あの声はボクがお七夜で聞いた命名神の声とは違ったけれど、誰なんだろう」

 

マルスはそう信心深い方ではない。けれど、同日に同じ夢を見たとなれば不思議に思う気持ちも出てくるのだろう。

魔力には未だ底知れぬ力が隠されている。腹の子を介して魔力的な繋がりのあるテレサとマルスならば、同じ夢を見ることがあるのかも知れない。

テレサはお告げの中で伝えられた仮名が妙にしっくり来たので、それを腹の中にいる我が子に付けてはどうかと提案した。

 

「うん、そうだね。幸い男の子でも、女の子でも使えそうだ」

 

仮名は本来お七夜までじっくりと夫婦で考えるものだ。しかし、テレサはどうにもその名前以上に良い言葉が見つからないような気がした。

神様がくださった名前なら、きっと恵まれたものなのだろう。

 

気がつけば、そこにマルスは立っていなかった。

この時はもう少し続けて会話を交わしたはずであるのに、夢の場面は切り替わってゆく。

 

マルスの代わりに立っていたのは(マナ)であった。いや、正確には違うような気もする。目をつぶればそこにマナがいるような気がするのに、実際には黒髪の少女が立っている。

目はぱっちりとしていて、それを強調するように睫毛が長い。黒色の髪というのは見慣れないものであるはずなのに、短めに切りそろえられたそれを美しく感じた。

 

中性美、とでも言うのであろうか。見ようによっては男性にも見える彼女は、そこで泣いていた。

慰めようとしても手が届かない。もどかしさを感じるテレサの前で、少女は誰に向かってか、しきりに謝罪の言葉を口にしている。

 

ごめんなさい、ごめんなさい。

 

弱々しい、自分の娘は決して見せることのなかったような姿だ。どこか感じる娘と黒髪の少女の共通点に、慰めてやりたい庇護欲に駆られる。

よく見れば、身体には痛々しい傷跡があることが分かる。打撲傷、口元の赤い血、震える身体。それでも、ごめんなさいと唱え続けることだけはやめない。

そんな少女の隣に、いつの間にかマナが立っていた。おおよそ少女と同じくらいの年頃に育った姿だろうか、可憐で、かつそれを穢すことのない強さをその身に兼ね備えているように見える。

 

そして、マナが少女を殴り飛ばした。

 

「うぇっ!?」

 

思わず呆気にとられる。

まるで質量がないかのように軽やかに吹っ飛んでいく少女は、地面に落ちる前に土くれのようになって消えてしまった。

殴り飛ばした張本人である愛娘は、造作も無いとでも言うかのように手首から先をプラプラと揺らし、鼻を鳴らした。その凛々しい姿に見惚れ、下腹がキュンと熱くなったのだが、飛ばされた少女の方も心配でチラリと目線をやった。遠くで、自分の名前が呼ばれているような気がした。

 

「テレサ、こっちを見て」

 

よそ見したのがバレたのか、両頬を左右の人差し指で挟まれ顔を固定された。ぽ、ぽ、ぽ、と触れられた場所から顔が熱くなる。

マナがにへらと(わら)った。

 

「うん、やっぱりテレサはかわいい」

 

今までの生活の中で見たことのない種類の表情であった。なにか悪戯を企むときの表情に似ているが、それよりもずっと純粋さが表れていて、視線だけでなく心も奪われてしまう。

いいや、元から私の心は、私の全ては彼女のものだ。テレサは悟った。

 

この辺りで、テレサは自分が夢を見ていることを理解しつつあった。それで、現実世界のほうが少し大変なことになっているかもしれないということも。

けれど、こうして誰もいない空間で愛する人と触れ合い、会話できることは幸福そのものであったのだ。いまいち理性の働かない状況で、それを捨てることは中々難しかった。

マナに言葉をかける、返ってくる、笑顔が溢れる。そのやりとりの最中は、会話以上に「すき、すき、大好き」という気持ちだけが募ってしまい、内容など覚えていられないほどであった。

 

送り出そうとしてくれているのだろうか。マナは最後に、照れくさそうにしながら言葉を紡いだ。

 

「いっぱい心配かけてるかもしれないけどさ……僕は、テレサと父様のたった一人の子供なんだ。それなりに魔法だって使える。だから、心配しないで。陰気な雨になんか負けないで。安心して……見ていてよ」

 

 

 

 

「僕が、世界を奏でるところを」

 

 

 

 

その言葉だけで、胸が一杯になった。彼女はその言葉の意味を自分で理解できているのだろうか? いや、そもそも夢の中の出来事ではある。しかしその言葉は、あまりにも奏巫女(かなでみこ)の本質に近かった。

そうだ。何を心配することがあるのだろうか、それは彼女の信頼への裏切りではないか。

たかだか半日くらいが何だというのだ。かつては半日以上彼女に飛ばされ続けたこともあった。それと比べれば、途端に自分の心配が馬鹿馬鹿しく感じられてきた。

 

「ありがとう。私はもう行くよ。もう、行ける」

 

そう伝えれば、マナが少し寂しそうに笑う。そんな愛娘に背を向け、ゆっくりと足を動かし始めた。

どこからか聞こえていた声が段々と大きくなる。それは、自分の名を呼ぶ声だ。

 

世界に光が増えていく。

まばゆいほどの希望の光。

 

キミがくれたものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(かんなぎ)一族の専属乳母、イドニ=フェリシア・ルイーザは、自身の豊満な胸を組んだ腕に乗せながら呆れていた。

御子の命名式が終わらなくて不安になるのは分かる。現に、民衆の間にはギスギスとした空気が生まれつつある。とても祝い事という雰囲気ではない。

 

しかし、しかしである。巫女の生命の一大事と言われ、背中を突っつかれながら貴賓室へ詰め込まれてみれば、キバタンは暴れまわっているし、巫女(サルビア)は気を失っているし、護衛のものはワタワタ慌てるばかりなのである。

こいつら、ガキか?

 

「う、うううう、うばっ、乳母様! みっ巫女様がああぁぁぁ……」

「フェリシア! サ、サルビアは大丈夫なのか!? それにあの子がまだ……」

 

うーん、頭痛が痛い。それ以外に言葉が出ない。

 

「落ち着きなさいな……。御子の件はアタシにも分からないけど、こいつ(サルビア)がこんなんでくたばるタマじゃないだろう?」

 

そう言って、気絶する巫女のほっぺたを名前を呼びながら人差し指でツンツコ突く。

 

「サルビア―。サールービーアー。気絶してんじゃないよまったく。ほら起きろー」

 

本来ならば巫女にして許される行為ではないのだが、そこが乳母の特権階級たる所以である。仮に止められたとしても、医療行為だと言い張れば許される。先代から教わったのだ、医療行為なら何をしても良い……と。

 

「サルー。ビアー。おら早くしないとアンタの愛娘奪っちまうぞ?」

「ばか言うな」

「うわ起きた!?」

 

巫女の名前を出せば、驚くほどの速度で、突いていた人差し指……ではなく、己の豊満な胸を掴まれた。

 

「なんだこの駄肉は……」

「喧嘩売ってんのか?」

 

パッとすぐさま手を離したサルビアに、まるでお前の胸に価値はないと言われたような気分になる。確かに肩は無駄に凝るし邪魔だが、こいつの娘にはかなり好評なのだ。

気を失っていたにしては晴れやかな表情でサルビアが立ち上がる。その姿からは、もうどこにも不調がないことがハッキリと見て取れた。

そんな巫女に、キバタンが恐る恐る尋ねる。

 

「サルビア……元気になってくれて嬉しいんだけれど、マナが……」

 

そんな彼の背中をバシッと叩いて、奏巫女は微笑った。

 

「ばかもの……私とあなたの娘だよ、心配いらないさ」

 

背中から伝わる痛みと熱、そしてどこか痺れるような感覚に、キバタンはパチクリと瞬きをする。

 

「サルビア……ボクは、もう一度君に惚れてしまったみたいだ」

「私は夢中になっているお姫様がいるんだ。悪いが、あなたは2番目」

「ならボクのほうがマナを愛してるさ」

「さて、どうかな?」

 

うーんこのバカップルにして親バカ……とフェリシアは再び頭を抱えたくなった。というか、この部屋にいる全員が同じことを感じただろう。あー、あの女護衛は違うな。私も結婚したいと思ってる顔だ。お幸せに。

こんな空気の中にいてたまるかと、フェリシアはサルビアに問いかけをした。

 

「さて巫女様、どうするつもりだい?」

「く、ふふふ。決まってるだろう、私は奏巫女だよ?」

 

 

 

 

「歌を歌うのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の演目が途絶えてからすでに30分近く経った。練習が行き届いていなかったのだろう、最初の数公演に比べれば、最後の方はあくびが出るものであった。

観客たちのフラストレーションは溜まりきっている。そして、不安も。

 

しかし、舞台袖に近い席の者たちは、にわかに舞台裏の方の雰囲気が変わっているのを感じていた。

なんというか、先ほどまでと違うのだ。熱気……そう、熱だ、じんわりとした熱を感じる。

 

そして、一人の女性が舞台に立つと、場内の空気は一変した。

 

「あれ……」

「え、巫女様……?」

「髪を、左右二つに結っていらっしゃるぞ」

「あれは祭事の衣装なのでは……?」

 

すぅ、とサルビアは息を吸った。拡声用の魔法具を口元に付ける。

 

「みんなあぁぁぁあああ! 盛り上がってるかぁぁぁい!!」

 

……まさかの事態であった。

 

誰も咄嗟に反応できず、反響する巫女の声以外には静寂しか残らない。

いや、わずかに若い者たちはオーなどと小さく応えられていたが。

しかし、何かとんでもないことが起ころうとしている、ということだけは辛うじて理解できた。

 

「んーー、聞こえないね。もう一回……盛り上がってるかぁぁぁい!!」

「「「お……ウオオオォォォ!!」」」

 

今度は多数の者が叫んだ。訳も分からずに。

 

「私の娘ね! 可愛いんだよ! 婿とりたくないくらい可愛いんだよ! 可愛すぎて、神様も長く喋っていたいみたいだから、私待ってるあいだ、歌うね!!」

「「「オオォォォォォオオオ!!」」」

 

まさかの奏巫女によるゲリラライブである。

誰もが先ほどまでの鬱屈とした感情を忘れていた。いや、覚えていても、何か察したとしても、それ以上に巫女の生の歌声と演奏をこの巨大な会場で聴けることに興奮したのだ。

 

「バックダンサーは私も大好きなアイサ姉妹がしてくれるって! ありがとー!」

「「「ありがとおおおおおおお!!!」」」

「「ヒッ」」

「狂気の民衆(オタク)……」「こ、怖い……」

 

怯えるカワアイサとウミアイサを他所に、笑顔振りまく奏巫女(サルビア)は腕を一振りする。それだけでどこからともなく空気が震え、音楽が鳴り響いた。

 

「私の天使様が出てくるまで何日でも続けるよっ! さあさ疲れた人は警備員へ! かけ声(コール)を忘れてないかな? さるびあー!?」

「「「最高ぉぉぉぉぉおおお!!」」」

 

 




悲劇「…グフッ………なん、だと…?」

奏巫女母様「悪いね、娘のお披露目会なんだ」
民衆「(」’ω’)」オォオォオ!!!ウウゥゥアアォオ!!!!!!」
天使様「かあさま最高ぉぉぉぉぉおおお!!」

**連絡欄**
ツインテ祭事装で奏巫女(アイドル)する118歳かあさま……うわキッッッッ……う、うんうん、それもまたアイカツだね!
10000UAありがとう!
感想もたくさんありがとう!

特に話に影響させるつもりはないけど、兄貴たちの物語展開の好みを知りたい!きっと千差万別だよね。

  • 急展開でシリアス&エロス
  • 急展開でまったり&えっち
  • 緩展開でシリアス&エロス
  • 緩展開でまったり&えっち
  • ちんちん(結果開示しろ)

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