TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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学園都市編
設定厨を拗らせると、軽率に魔法を採用するたびに魔法を使った軽犯罪への対処がどうなっているかとか考え出して大抵めんどくさい話になる。


 

 

 

 学園都市は研究都市だ。

 

 《古の魔法使い》が自らに付き従う人々のために与えた楽園。国の定義には当てはまらないが、その経済規模、また外交能力などから人類の三大勢力に数えられ、細かい話を気にしないような者であれば「あの国は〜」だなんて呼んでしまうこともある。

 

 あまり知られていないことだが、第一の目的は研究でなく「人類に魔法を残すこと」そのものにある。次点に魔法の発展を目指した研究、人類の生活水準の向上などが続く。

 とはいえその目的の中核はすべて魔法に繋がる。国際化に伴い、人権や倫理に反するような研究はかなり忌避されるようにはなってきたが、国民(都市市民)の生活を守ることは学園都市オクタ・デュオタブオーサ・オブダナマの命題には上がらないのだ。

 

 であればこそ、学園都市で生まれた者の中には、本来であれば多大な評価を受けたであろう人物が、その才覚の方向性のために燻っていることがよくある話だった。

 

 カンナ・アルタイズもそんな不遇を受ける一人であった。

 人並み外れた空間認識能力を持つ彼女は、時代や場所が違えば美術界に遠近法を持ち込んだ最初の人物となっていただろう。色覚も鋭く、立体的で深みのある絵画を生み出せることから、少女の頃までは近所どころか街で噂されるようなお絵かき少女だった。

 しかし、成人してからも好き勝手に絵を描いて生きていけるような環境は学園都市にはない。外国であればパトロンがついてもおかしくなかったが、学園都市の人々の常識では「それで、その絵がどう魔法に役に立つの?」という話になるのがせいぜいであった。

 当然、学園都市で育った彼女もそれと同様の哲学を持っていた。もちろん美術への愛情は溢れんばかりであったが、10を越えたあたりから「さて、絵とは別にどうお金を稼ごう?」と考えるようになっていった。

 

 大好きな絵を描き続けるだけでは生きていけない。そう悟りながらも、彼女は自分が比較的幸運であることを知っていた。

 人並み程度には、魔法の才能があったのだ。

 

 まず大前提として、魔法は戦闘に用いることはできない。どこぞのポンコツのように、オナシャースと唱えたら山が崩れる、気合を入れたらスタントマンもビックリの身体能力が発揮される、……それらは文字通り、人類の理外にある「魔法」なのだ。

 しかし研究するだけの価値がある。風呂に水道、豊かな農作物。これらは魔法の研究あってこそ(もたら)されるものだ。

 

 こうした魔法陣を起動させられるだけの魔力を持ち、また入出力と操作が可能である──これが俗に言う「魔法の才能」である。

 魔法の才能さえあれば、学園都市では将来に困らない。才能を磨けば導師にだってなれるかもしれないし、研究職や設備の管理者など引く手あまただ。

 

 ()()()()()()()というものについてもカンナは理解していた。だからこそ、魔法の才能がある自分は恵まれているのだと自覚し、それを役立てた将来を思い描くようになったのだ。

 

 そうして、周りの他の子達と同じように、あまり深く考えることもなく学区のスクールに入学し、そのままスクールから自動的に上がっていける研究室へと配属された。薄々と自分には導師を目指せるほどの才能がないと気付き、学位だけ取ったら就職しようと考えるようになった。

 仕事は生活のためと割り切っていたからこそ、研究に情熱的になるわけでもなく、空き時間にはとにかく絵を描いた。故に友人は少なかったが、意にも介さず昼休憩の合間には静かに絵を描ける場所を探して放浪した。

 

(植物……なんでもいいから木を描きたいな。この辺で良い場所あったかな、B棟側の広場がいい感じに生い茂ってて人通りも少なかったっけ)

 

 そんな事を考えていると、廊下だと言うのに中々前が見えなくなる。人影が目の前まで近付いて初めて気が付いたカンナは、「あ、ごめんなさい…」と口を開いて慌てて道を譲った。

 

(……って、うわ、でかいなこの人。180ある? ……ン? んんっ!? は、え、でか。え、OPPAIでかくない!? んぇ? 論理的に無理なOPPAIしてなかったいま?)

 

 本来なら、他人に意識を割くことなど滅多にしないカンナである。

 しかし、普段中々見ないような高身長であったことに目を引かれ、続いて一瞬横切った時に視界に映ったありえない胸部の質量に二度見を余儀なくされた。

 女として負けたとか、興奮だとか、そういう次元からは全く別のNANIKAがあった。

 

(え……だって、あんな幅あったら、こう手を添えて……あっ)

 

 一瞬で脳裏に刻まれた質量を幻視し、自分の胴の前に手を上げてスカッと空振ったことでようやくカンナは現実に戻ることができた。

 あれは果たして現実だったのか? 一瞬しか見なかったから、その大きさを見誤ったのではないか? そう思い振り返って先程の人物が歩いていった方を見やるが、早足だったこともあり、既に姿は見えなくなってしまった。

 

「あれ、何か落ちてる」

 

 その代わり、一枚の紙が床に取り残されてしまっていることに気が付いた。

 先程の女性は急いでいたようだし、落としたことに気付いていないのかもしれない。次会った時に話しかけ(胸を確認し)やすくなるだろうから、そっと取り残された紙を摘み上げた。

 

 ──そして、衝撃を受けた。

 そこには、概念としての「妖精」がいた。

 

「なにこれ……」

 

 技術的な観点で言えば、パース、線の粗さ、まだまだ改善の余地はある。それにしても学園都市の人ではそう多くないであろう領域に達していたが、問題はそこではなかった。

 

 問題は、これを創造せしめたところにある。

 

 つまり、発想力が怪物染みていた。この絵に描かれた「妖精」は実在しない。少なくとも、人類に観測できる存在ではないだろう。

 それを絵に起こすということは、これを描いた人物は、人類の最高峰、あるいはその領域すら越したレベルで美というものを認識できている。

 

 空間認識や色彩感覚が多少優れている自分ごときでは及ばない。

 たった一枚で、絵描きとしての才覚の違いを突き付けられた。

 

 追いかけようとしたが、やはりとっくのとうに姿は消えていて、カンナは立ち尽くすことしかできなかった。

 しばらくして思考を再開して、しょうがないから、当初の目的通り絵を描ける場所を目指すことにした。

 

 

 

 

 そしてカンナは、妖精の実在を観測することになる。

 

 

 

 

 


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