TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
(絵の才能もない。魔法の才能もない。多少人より優れていても、中途半端なのが一番しょうもなく思えてくるよ)
多少の驕りがあった。幼い頃からもてはやされ、自分の才能にあぐらをかいていた。
努力がなかったとは言わない。葉脈の流れ方や革と綿布の質感の違い、観察を重ねて表現できるようになったものは多い。けれど、たかが
芸術の至高を目指すのなら、表現力だけでなく、感性も求められる。前者は後天的にも身に付くが、後者はほとんど先天性のものだ。そしてカンナには、感性が足りていなかった。
陽に透かすようにして、妖精の描かれた
(あとは愛嬌も、ない)
別に、誰からも愛されたいとは思わなかった。人と関わりすぎても煩わしいし、家族が十分愛情を満たしてくれる。そして自分には、家族と絵、愛を捧げられるものが十二分にある。
たとえ独りでも、絵を描いていられれば幸せなのだ。ひとりで歩んでいける。魔法も多少使えるから、きっとお金にも困らない。ああなんて私は幸せものなんだ! ……そう結論を出して安定しきったところで、絵に、芸術の神様に愛されていないという事実を突きつけられた。
ただ、侘しい。
(何もなくなっちゃったなあ)
だからといって絵をやめるわけでもないし、研究室を中退しようとも思わない。惰性で生き長らえていくのだ。しょうもない。
この妖精を描いた誰かは、何を思って描いたのだろう。これだけ恵まれた才能があれば、こんな悩みに煩わされることもなさそうだ。
(でも……なんでウチの制服?)
そこだけはよく分からなかったが……フェチズムの問題だろうか?
普通、天使や妖精など、空想上の存在を描く場合は縫い目のない白い衣服を纏わせることが多い。純白は純潔と無垢を表し、無縫は現世との隔絶を表す。まあ、普通とか言っているから芸術の神様に愛されないんだろうけれど。
そんな事を考えながら、目指していた場所へ到着した。
元は広めの温室だったという広場。過去にやらかした研究者がいたらしく、謎の急成長を遂げた植物たちは温室を突き破って領土を広げ、小さな森に近いものが生まれてしまった。温室は森の入口となり、ガラスは風化で失われ、鉄柵だけが形を残している。
研究者は「み、緑は多いほうがいいから……(震え声)」と言い残したという。頭のてっぺんからは双葉が生えていたそうだ。導師となるような研究者は、何故か体から異物を生やしていることが多い。
気味が悪いからと誰も近付かないが、かつての温室の名残でベンチがあったりして、カンナは1人でゆっくりできる場所として気に入っていた。
そんな場所に、誰か他の人がいる。
いつも通り足を踏み入れようとしたカンナは奥から聞こえてくる物音に気付き、息を止めるほど驚きながら、咄嗟に体を木の裏に隠した。
「……はいにゃ、はいにゃ、……残念こっちニャ!」
甘やかな少女の声がして、ひとまず息を撫で下ろす。少なくとも、頭に双葉を生やした研究者の亡霊ではなさそうだ。
そうっと顔を覗かせる。まず視界に入ってきたのは飛び跳ねている白猫で、空を飛んでいる何かを掴もうと躍起になっているようであった。微笑ましい光景だが、よく見ると尻尾が分かれている。
ね、猫又……? と困惑しながら、もう少しだけ顔を出す。好奇心と恐怖心が入り混じるが、それでも、このいつまでも聞いていたくなるような涼しげで柔らかい声の主が気になった。
そして、今度は本当に息が止まった。
そこには本物の妖精がいた。
絵画は嘘だった。
帆布の似姿は、
あまりに細いためか、陽光に透かした髪はもはや白髪と呼べるものだ。
風に揺れても絡まることなく、時折動きが止まるとようやくそれが金糸であることに気がつく。遠目でも、その柔らかさがよく分かった。
優しく薄められた瞼、その隙間から輝く瞳は妖しく朱に輝いている。
そんな双眸が、チラリとこっちを向いた。
バッチリ、しっかり、完璧に。互いの瞳は、交差し、互いを映す。
「……うぇっ!?」
妖精は、硬直し、紅潮し、凝望に面隠した。
有り体に言って、恥じらうように顔を両手で覆った。
「えぇ……」
絵描きは困惑した。
学区の規模はあんまり考えてないです。州くらいにすると都合が良い気もしますが、場合によっては県くらいかもしれません。