TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
想像するのも難くないことだけれど、自分を偽るという行為は個人にとってかなりの負担となる。直接の負担に限らず、素の表情でリラックスできる時間が削られるという意味合いも含めて。
結局、学園都市で生活するにあたって顔の露出を減らすべく装備することになったのは、祭事用のヴェールのような被り物だった。
シスターの頭巾(ウィンなんたらみたいな名前のやつ)や
が、この世界の人々がマジックミラー号を知る由もないので、クラムヴィーネ達からは概ね高得点をいただき選ばれることとなった。よく分からない被り物を散々試着していた僕は、とりあえず最低限常識的なものなら何でもいいやと首肯した。
実際に人前で付ける時になってみると「こんなん被ってんの逆に目立たない……?」と冷静になったのだが、どうやら学園都市には1割ほど謎のパーツが生えているタイプの学生がいるらしく、ただ顔を隠しているだけの僕はそこまで注目されることもなかった。1割側に分類されてしまっているだろうことは抗議したいが。
向けられる目線の数は、これまでに比べたらかなり減ったと言ってよいだろう。むしろヤバいのがアイリス。同じようにヴェールで顔を隠してるんだけど、そのせいで余計あの胸が目立って、僕からでもみんなの視線が分かる。自分に向けられる視線には鈍感なアイリスも、流石に恥ずかしそうに身を縮こまらせている。許せねぇなぁ人類?
まあそんな日々はさておき、言いたいこととしては、僕らは結構神経質になって顔を隠しているというわけだ。エルフさん、素顔だけは晒さんといてくださいよ、と。
しかしそれでは段々と窮屈になってくる。それこそ、自室に着いていの一番に被り物を脱ぐくらいには。
だから、学園都市で生活するようになって最初に探したのが人の来ない場所だ。気を抜いてもいい場所。新鮮な空気を吸える場所。散歩も兼ねて探索し、いくつか良い場所を見つけた。あれおかしいな、コミュ力マシになったはずなのに高校の頃とやってることが変わってない……?
今日も今日とて、そうして見つけていた緑の豊かな空間で、何故かどこにでも現れる白猫を相手に戯れていただけなのに。
「うぇっ!?」
「えぇ……」
どうして……(現場猫)
木陰からこちらを伺っている少女は、狼狽するように眉を寄せて声を漏らした。
とりあえず、困ったことは3つある。
ひとつは、素顔を見られたこと。ここまでつらつらと述べたとおり、これまでの頑張りは身バレしないこと、そのためにあった。
みなまで理解したとは思わないが、どうやらエルフというのは世間と隔絶した存在として扱われているらしく、一晩限りの宿泊客ならともかく、隣人として共に過ごすには世間の常識が間に合わないようだ。僕からすれば人類って耳丸くて魔法下手だよねくらいの感覚だが、逆はそうでもないらしい。
そんなわけで、現在頑張って両手で顔隠しています。バレた後じゃ意味ない? 諦めたらそこで試合終了だろうが!!
さてもうひとつ。……これはもうどうしようもなく僕が悪いと言うかただのガバなんだけど、おそらくだが、魔法を使っているところを見られた。
いや……あの、その、顔隠すのと違って、魔法に関しては「事故ったらまずいから基本使わないでね」って言われてるんだよね。なので今彼女が見たことを言いつけられたら多分めっちゃ怒られます。はい。ごめんなさい。すぐ謝れて偉い。
でも、僕も僕とて魔法が全く使えない状況って凄い不安なんだよな……。緊急時はオッケーもらえてるけど、それでも。
なので、【圧縮】をしたまま少しでいいから魔法使えないかな、と練習をしていたのが今……。どうにかこうにか数日かけて弱い風なら起こせるようになったからそれで猫と戯れてたら、バッチリ見られた。録画されてたらエロ漫画みたいなことになるやつ。
そんで3つ目。猫と喋ってるとこ見られた。
以上。死ぬ。
なぜ僕は学ばないのか。中学の頃に一回やらかしているというのに。「残念こっちニャ」って馬鹿か雀カスしか言わんよ。でも猫と喋ってると語尾がニャになるのは普通だと思います。普通だよね? よし普通。
「あっ、あのっ、妖精様は……、猫の言葉がお分かりになるのですか?」
…………スーーッ(深呼吸)
いや、分かるわけないじゃん。全部ニュアンスだよ。
が、これはチャンスだ。時代は勘違い系主人公なのだから。
「わかるます」
「……、え、えぇっ」
…………スーーッ(深呼吸)
ほら、困ってんじゃん。なんかキメるっぽいシーンで噛んだから女の子も困ってんじゃん。なんなら察して驚いた振りしてくれちゃってんじゃん。
ここまで来て、もはや誤魔化しは諦めることにした。
両手を下ろして、困ったように微笑みかける。
「……その、僕はアンブレラと言います。貴女は?」
「あっ、カンナ、カンナ・アルタイズです」
「カンナさんですね。こちらへ座りませんか? 折角ですし、少しお話でも」
「えっ、あっ、はい!」
元気な返事だったので少し苦笑するが、その割にカンナはおずおずと辺りの様子を窺いながら慎重にこちらに近付いてきた。
そろそろ僕は珍獣扱いされていることを認めるべきなのかもしれない。