TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
「そちらの尾が二又に分かれた白猫は、貴女の使い魔ですか?」
「え、普通は分かれていないんですか?」
こちらの事情をかいつまんで説明し、妖精だなんだという誤解も解いてしばらくしたところで、カンナが驚愕の事実を明らかにした。地球ではないのだから尻尾の本数くらい違うだろうとさして気にも留めていなかったのだが、どうやらこの猫は異常らしい。
キミ、何者? などと問いかけるが言葉が通じるはずもなく、白猫はコテンと首を傾げてから愛くるしい鳴き声を上げた。謎は深まるばかりだが可愛いからヨシ!
……さて、どうしたものだろうか。
禁止されているのに魔法を使ったこととかは話していないし、被り物を外しているところを見られたと言っても、文学少女然としたこの少女がことさらに騒ぎ立てるようにも思えない。いやほら、小中学校くらいだと脱げコールのひとつやふたつありそうじゃん。学生とかいう生き物に対するイメージが最悪かもしれない。
とにもかくにも、中々人と交流できていない現状、こういった偶然は大事にしていきたいものである。
しかしこの少女、眼圧と言うか、めちゃめちゃこっちを見つめてくるので若干気まずい。
試しに目を合わせようとするとすぐ逸らすし、ベンチも隣りに座ってるはずなんだけど微妙に距離あけられてて心がつらい。いやまあカンナに限らず、学園都市に来る前から人間さんたちの僕らに対する態度こんなんだけど。一対一だと違和感が増すのだ。
試しに少し体を寄せてみると、同じ分だけ距離を取られる。カンナはもはやお尻半分しかベンチに乗っていない。
不満である。別に肩の触れ合う距離に来いというわけではないのだ。
「目を合わせてくれないと膝の上に乗りますよ?」
「ふぇい!? い、いやその……はい……」
頬を膨らませて不満をあらわにすると、ようやく諦めたのかおずおずと顔をこちらへ向けた。
ニッコリと笑みを浮かべ、座る位置を元に戻す。それに合わせ、カンナもやっと普通の距離に腰を据えた。
「……導師の方々はやはり賢明です。貴女がここの学生と普通に関わっていたら、今頃周囲の学区も巻き込んで何かしら騒動が起きていたと思いますから」
「騒動? 皆さん研究ばかりしていると聞いていたのですが……」
「そんな真面目な人ばかりではないですよ、私も含めて。この間だって、隣国の王女様が留学してきたからって隣の学区まで見物しに行ってるんですから」
あれ、そうなのか。研究キチの巣窟かと思っていたけれど、私立文系みたいな感じもあるのかな。
隣国の王女というのはコルキス様のことだろう。華やかなお姫様なのにどうにも雰囲気がえっちなあの人が留学、もとい転校してきたともなれば、男の子たちのテンションが上がる気持ちも分からなくもない。一体どれだけの風紀を無自覚に乱したことやら(呆れ)
学園都市に来ればすぐにコルキス様と再会するものかと思っていたがそうでもないらしく、今のところ会話は疎か姿を見ることすらない。
まあそこそこ学区の数も多いから、配属先が違うのも頷ける。一応学区を跨いで講義を受けることもあるらしいから、そのときが次の機会だろうか。
伝統的な日本人的思考回路からして、長いものに巻かれることは多くの場合役に立つのだと理解している。普通に素敵な人だし、何やら本国の方は権力争いが大変らしいが、仲良くして悪いことはあるまい。
エルフは外の世界に太い繋がりや財源を持たないので、小さな友人関係でも将来良いことがあるかもしれない。
「アンブレラ。貴女の顔って、ずっと見つめていられるくらい魅力的なんです。話すときの小さな表情の変化さえ愛おしく感じてしまう」
「……ありがとうございます。父様と母様に感謝ですね」
「だからこそ、素顔を晒して生活すればきっと毎日嫌になるくらい人が群がってきたでしょう。もしくは、遠巻きに。あの王女様も連日の恋文や告白に辟易していたそうですし、貴女の場合は最低限周りを防いでくれる側仕えもいないのでしょう?」
側仕え。コルキス様で言うところの、あの女騎士の人みたいな存在だろうか。
カンナの指摘にコクリと頷いた。アイリスが身の回りのことを助けてはくれるが、むしろアイリスだって異性から注目される存在なのだ。あのおっぱいに反応しない男はいない。何ならおにゃのこだって驚いて反応してしまうまである。
個人的には告白というものはお互い関わって中身を知ってからするものだというイメージなのだが、かつて噂に聞いたところに拠れば、中高生くらいだととりあえず第一印象にすべて頼って告白、そのまま付き合って一週間で別れる、なんてのもある話らしい。
童貞ピュアチェリーと笑うなら笑ってほしい。いやだって意味わからんよ。一週間って、逆に別れる判断材料すら揃わなくない?
童貞だからピュアでロマンチストなのだし、ピュアでロマンチストだからいつまで経っても童貞だったのだ。いまや、そこらの男よりおにゃのこの体に詳しくなったけど。
なにはともあれ、これからも顔を隠してひっそりと生活していくのがよかろう。交流以上に、探求という目的のためにあの森を出たのだから。
「それじゃあカンナさん。僕のことは……秘密ですよ?」
人差し指を立てて唇に当て、小首をかしげてからかうように囁く。
今度はカンナがコクコクと首を縦に振った。
しばらく食い入るように僕を見つめたカンナは、唾を飲み込み、胸に手を当てて言葉を発した。
「あっ、あの、その代わり、ひとつお願いをしてもいいですか?」
「お願いですか? 僕にできることであれば……」
「絵を。貴女の絵を、描かせて、いえ、描きたいの」
意外なお願いに一瞬固まる。
絵。アイリスがやっているように、ということだろうか。
「貴女を──アンブレラという概念を表現できれば、きっと私は進めると思うんです。だから……」
「ええ、構いませんよ」
「ほんとっ?」
結局のところ僕は「作る人」とやらではないから分からないが、さほど難しい頼みでもなかったのですぐに頷いた。
いい機会だろうから、カンナが絵に長けているのならアイリスに少しアドバイスや技術を教えてやってほしい、と今度はこちらからお願いすると、カンナはもちろんと首肯した。
かくして、将来幾度も頭を抱える原因となる小さな絵描きとの出会いは、これまた小さなベンチの上で始まったのであった。