TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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小さい頃の自分の声って普通に忘れるよね。たまにはメモリアルムービーでも撮って、定期的に見返したほうが良いのかもしれない。うーん見返してみると凄い頭悪そうだな小さい頃の僕!

 学校とは学びの場所である。

 

 小賢しいボッチ(高校時代の僕)なんかは「だから学業に専念してさえいれば友達がいなくても悪くない」と続けるのだが……悲しいかな、科目だけでなく、社会性というものもまた学びの対象であるらしい。

 また学びという免罪符があれば何をしても許されるわけでもなく、「悪いことをしたら怒られる」ということを学ぶ場でもある。

 そう考えると、何を課されようが学びの対象たりうる気がしてきて、結局は教える側の裁量に依存した収容所のようなものなのかもしれない。悪く言えば。

 

 人生と言うは学ぶことと見つけたり、レイン。などとまた碌でもないことに思いを馳せているのは、カンナとアイリスが二人で話し込んでしまって暇だからだ。

 ルーナに言えば「学ぶことは本質でなく、何故学ぶか、その選択こそ人生じゃろう」などと返ってきそうだ。いやまあ、分かった気になっているだけで、神様の胸のうちなんて僕にはトレースできないものかもしれないけど。

 

 ……神様。あれ? 神様だよね一応? なんか碌でもないことばっか言って、碌でもないことばっかしてる気がするけど。

 流石に、それなりに濃い目の生活を14年ほども続けていれば昔の記憶が薄れてくる。なんか生まれ変わりどうこうの会話をした記憶はあるんだけど、そのときに感じた神々しさみたいなものがもう思い出せない……。最初はなぁ……、「うわすごい神様だ!」みたいな感じだった気がするんだけどなぁ……。今じゃただの裸族だもんなぁ……。

 

 だというのに未だに大柄の男性にビクついたり、雨の日が嫌いだったりと、前世から受け継いだまま消えない記憶もあるのだが。

 家族や、いくつかの人の名前はまだ思い出せる。好きだった芸人さんのコンビ名とかも。自分が稽古していた弓道場の流派の名前や、あとは都道府県。

 

 人が最初に忘れる記憶は声だという。あとは、死ぬ時にいちばん最後まで残る感覚は聴覚だとか。どっちもどこで聞いた話か覚えてないし、だから何というわけでもないけど、まあなんかアレだ、エモいね(適当)

 母の声はまだ覚えている。忘れてしまいたいような泣き声を、だからこそまだ忘れていない。

 あれ、でもあいつの……自分(にいろ)の声ってどんなんだったかな。結局ろくに声変わりもしていなかった気がするから、テノールボイスだったんだろうか。

 

「〜♪」

 

 軽くハミングしてみたけれど、当然聞こえてくるのはレインの声だった。

 違う、こんなではなかったと思う。彼の声はもう少し低めで、薄っぺらで、なにかに怯えるように震えていた。

 

 レインの声は美しい。

 厚みがあって、それなのに透き通っていて、底まで見えそうだと覗き込んでみればどこまでも深く、しかしそれに気付かせることなく人を誘い込む。

 自画自賛というよりは、再確認みたいなものだった。歌うために血を練らせた一族の末裔なのだから、そこを否定しても仕方ない。

 

 ふと、隣の話し声が止まった気がして顔を向けると、こちらを見つめるカンナとアイリスがいた。絵の講評についてはもう終わったのだろうか。

 

「……。……あ! ど、どうぞ続けて続けて」

「いえ、続けてと言われましても……」

 

 お構いなくみたいなジェスチャーをされるが、別に何かを歌っていたわけでもなく、むしろこちらが暇つぶしをしていた立場なので困ってしまう。

 とはいえ、この空気で歌うのを止めたら気まずい空間になることをコミュ力つよつよになった僕は予想できていたので、言われるまま適当に続きを口ずさんだ。

 

 血が。本能が、美しい音の並びというものを教えてくれる。

 そのままフレーズを付けてやれば、きっと即興で一つの曲となることだろう。

 もっとも、美しい音イコール正解の音ではないのが面白いところだけれど。本当に良い曲を作ろうとすれば、そのための作業はどこまでも地道で泥臭いものになる。

 母様はきっとそういうことも好きだった。僕は、そうして母様と一緒にいるのが好きだった。

 

「貴女達って、目立たないために顔を隠しているんだったかしら?」

 

 歌い終わり、呆けて母様に想いを馳せているとカンナが問うた。

 僕もアイリスも、目立って喜ぶタイプでもなければ、落ち着いた雰囲気を好む。それとは別に学園都市から言いつけられていることでもあるのだけれど、概ね合っていると首肯した。

 

「だったらアンブレラ。貴女は顔を隠すだけじゃなくて、人前で歌わないようにすることも必要だと思います」

 

 苦笑する。

 時折、息をするように気分に任せて歌うことがあるから、僕を黙らせるにはそれこそ猿轡が必要かもしれない。

 

「でも、アイリスやカンナのように素晴らしい絵を描いていてもさほど目立たないのであれば、歌も似たようなものではないでしょうか?」

 

 そう首を傾げた僕に、カンナは悔しいですけど、と答えた。

 

「音って、特別なんです。ずるいんです。音楽も絵画も脚本も、芸術に貴賤はないと思いますが、音だけは本能に近い場所にあるんです」

「本能に近い場所?」

「人でなくても歌うことがあるでしょう? それくらい、歌は原始的で普遍的で、誰かの心に簡單に触れてしまえるんです」

「……ああ、なるほど」

 

 それは、奏巫女が奏巫女たる所以(ゆえん)だ。

 お七夜の時に僕が見出した、奏巫女の存在意義に近い部分のことだと分かった。

 

「そう、ですね。人前ではなるべく気を付けたほうが良さそうに思います」

 

 それでも、歌いたいときは勝手に歌うのだろうけれど。

 僕の返事に、カンナは苦笑いした。きっと彼女も分かっているのだ。

 

 絶対に絵を描かない。自分だったらそんな約束はできないだろう、と。

 




触覚:物理(力学)
聴覚:物理(波)
視覚:物理(光学)
味覚:化学反応
嗅覚:化学反応

進化の歴史に合わせて上から下に(段々複雑な方に)能力を獲得したみたいな話が好きです。
本当に美しい音楽って誰が聞いても美しいって分かるんですが、絵や文章ってその限りじゃなくて教養が必要だったりするんですよね。
だからこそ、誰が見ても読んでも美しいと思う絵や小説を求めている気もします。

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