TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
「やあ」
「ヤ、こんにちハ」
朗らかな挨拶が交わされた。
雀も跳ねて遊びたくなるような気持ちの良い天気の下、青々と茂る芝の公園で二人の人物が向かい合っていた。しかしそんな陽気にも関わらず、他の人間の姿は影ひとつ見えない。
特徴的な刺繍の入ったポンチョのような羽織物から、二人が導師であることは遠目からでも分かっただろう。
一人は優しげな笑みを浮かべた男で、もう一方はそもそも顔というものがなかった。マネキンのようなのっぺらぼうにサングラスを着け、声の代わりとなる音声は喉元の機械らしきものから発されている。
不思議な、もはや不気味な組み合わせの二人だが、他の人間が見れば「まあ導師様だから」と言って納得してしまうだろう。学園都市の人間は、見た目に関しては割と寛容であった。
「立ち話も何だから、あちらの木陰にでも」
「オヤ、これはありがたイ」
木陰の、虫の一匹もついていない綺麗なベンチに一定の間隔をもって腰掛け、向かう方角に聳え立って見える大樹を眺めながら二人は交互に口を開いた。
「……11区ニ、いらっしゃるようですネ」
「ええ。お会いできるのが待ち遠しいです」
「本当ニ。お上もよく隠したものダ」
「隠していたわけではないでしょう。ご挨拶するための経路をすべてなくしてしまっただけで」
「魔導の頂たる者ガ、まったク嘆かわしいことばかりなさる……」
どうやら二人は尋ね人を見つけたらしく、あふれる悦びを上手く隠しきれない様子で上機嫌に話している。
「アカのオヒメサマは、確か9区でしたカ。接触しまスかね」
「するでしょう。それどころか、既に一度接触しているはずです」
「けれど留学の予定ハ、ドローネットが──失礼、ドローネット様がお見えになる前からでしたよネ? あの国の人間ハ、中々どうして手が早イ」
相手の雰囲気の変化を感じ、のっぺらぼうは慌てて「様」を付け直した。
優男はコホンと咳払いを挟み、またいつもの調子で笑みを張り付ける。
「敵地でしょうに……まあ、舐められているのでしょう。実際あの国の中央は魑魅魍魎が跋扈していますからねぇ」
「舐められているだなんて、いけませンよ。人類の同胞ではないですカ。仲良くシましょう! キズナ、大事ですよ」
「あなたがそれを言うと……」
ははは、とお互い作ったような笑い声を上げた。調和を掲げた、楽しげで素晴らしい会談である。
優男が大樹に向かって祈るような姿勢を取ると、のっぺらぼうも合わせて同じように腕を掲げた。
「まずは良いお導きを祈りましょう。どうか、レークシア様の加護があらんことを」
「エエ。レークシア様の、加護があらんコトを……」
しとしとと雨が降っている。
実のところ、雨の音は好きだった。家の中で屋根を叩く雨音を聴くと心が安らいだ。
休みの日に、外から遊ぶ子供の声が聞こえてくると寂しくなるから。
今日もみんなは公園で遊んでいるのだと思うと、苦しくなるから。
だけど、雨の日だけは家にいても許されるような気がして……好きだった。
でも濡れるのは嫌なのだ。寒いから。寒いのは嫌いだから。
だから、傘を差している。
客席の合間に立ち尽くして、肩を支えに差している。
「いかないと」
舞台へ向かった。
客席には誰もいなかった。
舞台の奥には大樹の根が張っていて、なんだか近寄りがたいそれを避けるように進むと、懐かしい射場があった。
当然更に先には
矢道にはどうぞ使ってくださいとばかりに雪駄が一足。記名された名はもはや掠れてしまっているようだ。
けれど僕は動かなかった。
ただじっと、的を見つめていた。
この傘は、雨の降る矢道を歩いていくために持っているはずだった。
けれど僕は動かなかった。
ただじっと、的を見つめていた。
しばらくして、垜横の看的所に何かがいることに気がつく。
暗くて狭いその空間は、ここからでは中までよく見えない。
どうして出てこないのだろう、と思った。
それから、どうして待っているのだろう、と思った。
誰を待っているのだろう、と思って、僕を待っているのだと理解した。
「でも、思うんです。その
声を張り上げたから、きっと聞こえたはずだ。
当たり前のことだ。僕は雑用係ではないし、どうしてあんな奴のために行かなければならないのだろう。
僕はレインだ。
神事のために弓を引くことはもはや必要ない。
レインは、歌うのだ。ちっぽけでしょうもない神様のために。
「そうだ。どうして僕は傘なんて差しているんだろう?」
レインはエルフだ。
エルフは誰ひとりとして傘なんて使わない。
そもそもとして、こんなビニール傘。僕の世界にはありやしない。
「そっか。これも、お前のものなんだ」
傘を畳んだ。そして、返すように雪駄の隣に立て掛けた。
立て掛けて、手から離す瞬間。
離しちゃいけないものを離してしまった気がして、反射的に手を握った。
暗闇の中、目をゆっくりと開いた。
見たこともない天井が広がっていた。
体は動くようだったから身を起こすと、隣で金髪のとても整った顔立ちの女性が静かに寝息を立てている。耳は尖っていて、中性的な顔立ちの割に女性だと即座に分かったのは、その如何とも形容し難い大きな胸の膨らみのためであった。
「……えっと、どなた、でしょう……?」
動物的な本能か、あるいは理解の外にある物体への好奇心か。
おそらく性欲などとは違った部分で、気が付いたら手が相手のお胸へ伸びていた。
「ま、まあ同性ですし……うわぁ、ふかふか……」
誰に向けてでもなく言い訳をする。
すると、寝相なのだろうか。腰のあたりをガシりと掴まれ、わわわと言っているうちに抱き枕にされてしまう。丁度顔の位置に大きな大きなそれが当たって、温かいような、気が動転するような、様々な感情が入り混じって乱れた。
「こ、これは……良いのでしょうか……?」
知らない女性の胸に顔をうずめているわけで、本来は色々と確認しなければいけないのだろうけれど、抵抗するすべがない。
などと呟いている間にも温もりに意識が薄れていって、ほとんど強制的に眠りの中に落とされてしまった。
すやぁ……。
「……御子様、御子様。朝ですよ」
「んみゃ……」
「ほら、ばんざいしてください」
「んー……」
朝。なんだかいつもの悪い夢を見ていたような気もするが、特にうなされて起きた覚えもないし、目覚めもそこまで悪くない(パッチリ目が冴えているとは言っていない)し、いつもどおりアイリスに促されるまま朝の支度をする。
ばんざいして、ひとまず上は一糸まとわぬ姿に。
「はい、髪を梳かしますから、じっとしていてください」
「んー……、ありがとぉ、ござぁまふ、アイリス……」
支度といいつつ、かなりの部分を任せきりである。
アイリスは見た感じもういつでもどこでもなんでもできますって感じなんだけど、一体どんな生活リズムでいつ起きたらここまで朝からキビキビ動けるのだろう。
僕はと言えば、ちょうどこのあたりで頭が覚醒してくるのに。
「では服を着ましょう」
「はい…………ん? 最初に脱いだ必要ありましたか?」
「?」
アイリスが不思議そうな顔をしている。あれ、なんか変なこと口走ったかな……。
やっぱり、頭が働くようになるにはもう少し時間が必要なのかもしれない。