TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
人生において、反省文というものを書いたことがある人は如何ほどいるのだろう。
漫画なんかではよく反省文何枚〜といった表現を見かけるが、生まれてこの方反省文というものを読んだことなく、そのテンプレートすら知らない。
悪いことをしたらごめんなさいをするのは当たり前だ。しかしA4(B5でもいいけど)用紙何枚分もごめんなさいと書くのはいささか猟奇的が過ぎるのではないだろうか? 心をえぐる系のアニメで、取り返しのつかない失敗をした主人公が心を壊すシーンと大差ない。見たらヒエッってなるやつ。
ところで、本当に心が壊れたときは、脱力感にペンを持つことすらままならないんじゃないだろうか。完全に絶望したら、言うことも書くことも、あらゆる行為ができなくなりそうなものだ。
暴走(?)した魔法陣クンについてお叱りを受けた僕らは、反省文ではないが、ある程度の規模の魔法を使いたいときに出す提出用紙の書き方についてレクチャーを受けるべく、後日呼び出されるなどしていた。
「……暴走ではなく【共鳴】と呼ばれる現象なのですが、専門とする学生でなければ学びませんからね。歌いたかっただけとのことですが、自作の魔法陣より貸し出されている防音室などのほうが……」
などなど。
ためになることも、お小言も、色々と頂いた。
「……うーん、分かったわ」
ようやく解放されたところで、目を鋭く尖らせたカンナが僕に向かってビシリと指を差す。人を指差してはいけませんよ。エルフだけど。
「格好つけるときは良いのよ。それより……アンブレラ。今から貴女には、叱られてもらいます」
「えっいま叱られたばかりですが……」
「……」
分かってねぇなとでも言いたげに、大げさに肩をすくめられる。
都合のいい小部屋に連れ込まれ、正座した僕に仁王立ちのカンナが向かい合った。アイリスは僕を庇ってしまうからと部屋の外で待たされている。
被り物を外して横に寝かせると、少し厳しめの口調でカンナは話し始めた。
「アンブレラ。貴女、ちゃんと叱られたことないでしょう」
「……あり、ますよ? 凄く昔かもしれませんが……」
「それ本当? まあ、叱られたことが有るか無いかは抜きにしても、まずは自分がどう見られているかを考えてみたほうがいいわよ」
「どうって……」
最後に叱られたのはいつだったろうか。注意されることはあっても、明確に叱られたと言えるようなことがあったのは、この体に生まれる前かもしれない。その頃の記憶も、もはや曖昧になりつつあるけれど。
「考えてもみなさい。私達の不注意で、魔法は建物ひとつを飲み込みかねないほど広い範囲にまで及んだのよ? もしもあの庭園が病院の隣にあれば、それこそ医療用魔道具が故障して亡くなった人だっていたかもしれない」
「それは……本当に、僕が迂闊だったと思います……」
「いいえ。そのことを責めるつもりはないし、むしろ私だって叱られる側よ。考えてほしいのは、あのね、どうしてそれだけ危ないことをしたのに、私達は少ししか注意されなかったと思う? 申請書類なんてバカバカしいじゃない。どうして私達は今後の魔法陣の使用を禁止されなかったの? どうして事務局の人は困ったような顔をして説明するだけだったの?」
「へう……。ひと、人間のみなさんは、優しい人ばかりだから……?」
物凄い剣幕で、しかし淡々とした口調で紡がれる言葉に上手い返答が出てこなくなる。
顔を俯かせて目線だけでカンナを捉えると、ウッとたじろいでから、頭を左右に振って彼女は息をついた。
「そんな素直な生き物じゃないわよ。もっと、卑怯で、打算的で、独善的で、弱々しい存在だと思いなさい。そんな人間が、貴女にとって優しく映るのは何故? 貴女は誰? 人間はどうして貴女を責めない?」
そんなことは知っているよ。僕だって
だけどそれでも優しさだって兼ね備えているだろう。美しさだってあるだろう。人間とかエルフとかじゃなくて、それが人だろう。
僕は──
「──それと」
「わぷ」
唐突に、外していた被り物を顔に押し付けられた。
思考が中断される。なんだ一体。
「貴女、叱られてる間これ付けてなさい」
「え、でも、こういうときに顔を隠すのはマナー違反って聞いたことが」
「そんな綺麗な顔で! 目を潤ませて! 上目遣いで! 怯えて悲しそうな顔しながら話聞く方がマナー違反よ!!」
「ごめんなさい……」
「しょんぼりして涙声出さないの! 甘やかしたくなるでしょ!」
割とちゃんと理不尽だ……。
渋々被り物を付け直し、再度居住まいを正した。
学園都市には都合のいい小部屋が沢山あります。
ただし1/3の確率で初等魔法陣が、1/2048の確率で肉体的に影響を及ぼす可能性のある魔法陣が設置されているので、入室の際は必ずノックをしましょう。
今までに致死性の小部屋は2つ見つかっています。