TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
叱られた経験、というものを思い出してみる。
カンナに言った通り、なにもこれまでの時間全てで叱られたことがまったくないということはない。
前世では何かと無防備だの注意散漫だの、両親親族教師警察etcにガミガミ叱られて「チッ、ハイハイ分かりましたようっせーな(反抗期)」と思うこと幾星霜であった。なお怖くて口には出していない。
そもそも未だに納得行っていないようなことばかりだ。僕は人と話すのに夢中になるようなこともない(話す相手がいない)から道を歩くときだって交通安全には気を使っていたし、ぼっち特有の対人センサーは常にビンビンだった。車の急接近を許したのなんてハイエースされかけたときくらいなもので、その他恐怖を感じた体験なんて大型犬に吠えられるかカラスに虐められたときだけだ。
しかしまあ、現世に生まれてからというもの、前世からのアドバンテージとして物心や倫理観(貞操観念☓)は既に備わっており手のかからない子供扱いだったし、見た目や立場も相まって叱られることはまるでなくなってしまったように思う。
ヘリオが例外かもしれないけれど、あのドM淫乱ロリとは付き合い方が付き合い方だったし……。
それでもこの間まではクロさんがいたから、お花畑な脳みそも鳴りを潜めて気を引き締められていた。機会が減るからこそ、叱ってくれる人というもののありがたみが増すものである。
さて。
まあ、うん。認めよう。
灰となった僕のもうひとりの母さんのことを思い浮かべて。
薄氷のような脆い笑顔を振りまく、可憐な病児は今も生きているから。
この世界は、僕に甘い。
この世界は、たまたま、選ばれたわけでもなく、であれば時に毒となりうるほど、僕だけに生温い。
もちろん他にも似たような境遇の人はいるかもしれないけれど。
そのことに対し無自覚でいるのは必ずしも悪いことではない。と思う。
でもカンナは、そうは思っていないのだ。ノブレス・オブリージュに近い思想なのか、彼女独特の哲学があるのかは知らないけど。
そして僕も、直接そこまで言われて、それでもなお無自覚に益を享受できるほど面の皮は厚くない。
「それは、僕だからですか? それとも
覆面越しにカンナの目を真っ直ぐ見上げる。
こちらの表情は見えていないだろうけれど、僕の返答をじっと待っていたカンナは一瞬目を瞑った。
「……与えられた正解は、きっとまた間違えるわ。正解が明日には嘘になることもあるでしょう。だから、まず自分の中でひとつ答えが出るまで考えなさい。大事なのはどうしてそれが答えなのか、だから」
「へぅ……」
「情けない声出さないの。叱るってことは、貴女が答えを見つけられるって信じてるってことなんだから」
助けを求めて後ろをチラリと向く。
しかしそこには誰もいない。そうだった。アイリスは扉の外側なのだ。いつも静かに佇んで、なんだかんだと僕を甘やかす乳母は今はいないのである。
カンナは再び黙ってじっと待っている。信じていると言われて少し動揺したが、それでもただただ困ってしまう。
だって、そもそもどうして人間がエルフにこんな丁寧に接して、時にビクビクしながら、多くない富を無条件に差し出すのかまるで分からないんだもの。
大昔に人を救ったことがあるって言っても百年とかそれくらい前の話だろうし、人間の中では御伽噺程度になっていてもおかしくない。そうしたら、エルフなんてただ見た目が人に似ていて美形の、森に住んでいる生物の一種でしかない。
……と、いうか。
「……人間のみなさんは、僕らにあまり強気に出れない、あるいは出たくない。これは合ってますよね?」
「そうね。大体がそんな感じよ」
「えっと、じゃあカンナの言う『僕を叱る』のって、あまり歓迎されないというか、タブー寄りなのでしょうか……」
「そうね。一部の大人なら、頭を抱えてそのまま倒れるかもしれないわ」
えぇ……(困惑)
その「一部の大人」とやらの反応も気になるけれど、彼女も彼女でタブーをさらりと犯しているのか……。
「だって、最悪人間がどうなろうと知ったこっちゃないもの」
「えぇ……」
遂に困惑しすぎて声に出た。
悪びれもしないカンナは、フンと鼻息を荒げる。
「この世で一番大事なことなんて、たったひとつよ。──絵を描くこと。何よりも美しい、この世界と同じ価値を持つ絵を描くこと。ただ、それだけ。逆に、どうして
「いやでもほら、皆さんが培ってきた文明があってこそ自由に絵が描けるわけですし……」
「それは、そう」
「えぇ……」
思いきり「作る人」寄りの人種なことは分かってたけど、下手したらアイサ姉妹より極端なタイプかもしれないこの人。
頼れるお姉さん気質だなと思っていたのだが、まだこんな深淵が……。
「とにかく、私は美しいものが描きたいだけなの。それなのに、美しさの指標である貴女がしょうもない人だったら困るじゃない」
「理想を他人に押し付けるタイプだぁ……」
「失礼ね」
唯我独尊なところを見せつけたカンナは、少し恥ずかしげに口元を手で隠しながら、それにと小さく続けた。
「それに……その、と、友達、なんだから、悪いところは一緒に直せたらな……って」
「もしかして友達すごい少ないですか……?」
「失礼ね!?」
すいません冗談です、とからかうように笑う。
僕も僕とて友達はそう多くないし。
だから。数少ない友達が真剣に向き合ってくれているのだから。
僕の中での答えというものがひとつ見つかるまで、少し真剣に見つめ直してみることにした。