TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
11区で大規模な魔法陣が発動された。
正しくは、魔法陣が大規模というよりその発動範囲の規模が、だろうが。
魔法自体は実に一般的なものであり、発動したのが学域内ということもあり大きな影響はなかったが、学生が練習で行使するにはあまりに規模が大きすぎた。
ほとんどの学生の間では都市伝説として噂されるに留まるわけであるが、一部の人間、つまり学園都市への森人の来訪を知る者たちからすれば、その都市伝説の真相は容易く想像できた。
──
「しかし、
「オブダナマには情熱的な者が集まる、と言われるほどですから」
「ハッ、ならアカの国には陰湿な者が、だなんて言われてそうだ」
母国を蔑むように鼻を鳴らす主に、ヴィオラは苦笑いを浮かべた。こんなことを言っておきながらなんだかんだ祖国を愛しているのだから、ソートエヴィアーカにはやはりどこか捻くれ者が多いのかもしれない。
伏魔殿で育ったコルキスは、しかし周りに味方が少なかった。幸いにも他の後継者候補が表立って命を狙おうとしてくるような環境ではなかったが、対人関係において優位に立つには一にも二にも情報である。味方が少なければ情報網を広げるのも一苦労で、いつしかコルキスは僅かな情報から正確な状況を予測することができるようになった。
学園都市の人間は、どうにもやり方が拙い。おそらく本人たちは各々の目的のために真面目に情報戦を繰り広げているつもりなのだろうが、コルキスが困惑を超えて自らの予測を疑うほどには明け透けに生きていた。
「いると分かった途端すぐにも人を送るもんだから、恋愛事も尻を追っかけるばかりなんだろうなァ。まァ隠されていたようだし、気持ちは分からなくもないんだが……」
学園都市によるアンブレラの守り方はどうにも非合理というか、中途半端であった。
おそらくは様々な目的が混ざってしまった結果だと分かるが、存在をまるきり隠して問題が起きても嫌だから来訪だけ通達して、しかし鼻息を荒くした導師達が突撃するのも困るからどの学区にいるかは伏せる。
とはいえ学区ごとの特性を考えればおおよその候補は割り出せるし、コルキスのいる9区には行かせたくないだろうから更に絞れる。だからあの少女を求めるならそのいくつかの学区にあらかじめ人を配置しておくべきなのだが……。
「ここのトップは化け物って聞いてたんだが、頭は弱そうだ」
もしくは、実質的な権力を握れていないか。
学園都市のほとんどの人間は
目的とは追うものではない。向こうから勝手にやってくるものだ。
必要なことは、それが自然となるべく準備をすることだけ。運の要素も強かったが最初に接触することに成功し、学園都市の雰囲気も直に知ったことで、コルキスはおおよその環境は既に整っていると考えていた。
「アンブレラ様、お待ちしていますね」
外向けの微笑みを柔らかく浮かべ、コルキスが呟いた。
9区の学生が見れば「あぁ今日もお姫様は美しい」と感嘆し、ソートエヴィアーカの城に仕える者が見れば背筋を凍らせるような、そんな笑みであった。
ただ、唯一その場にいたヴィオラだけは、その微笑みが普段のそれとはどこか異なることを感じ、知らない表情をする主に息を呑んだ。