TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
現代日本に生きていれば、嫌でもお金というものを認識する。
子供が駄菓子屋でお菓子を買うことすら、予算内でのやりくりというものを学ぶ。小学校の算数では噴水の周りを走る兄弟や時計と同じくらいお金の増減を計算するし、社会で生活するためにはあらゆることに対し金銭の交換をおこなう。
けれども、逆に言えば僕の中でのお金に対する理解はそこまでが限界だった。高校生。アルバイトもしていなかった。浪費癖があるわけでもないから、本当に駄菓子屋とか本屋止まり。
つまり、生きていくためにお金を払う、ということについて考えた
物々交換のその先。市場経済の基盤を成し、信用を具現化した道具。
頭では分かっている。本には嫌というほど書いてあって、生きていれば想像もできる。
けれども、経験による裏打ちのない知識とは仮初に過ぎないものだ。
小学生は年度初めに配られる教科書がどれだけの価値を持つか考えないだろう。
配られたから、持っている。授業で使うから、捨てないでいる。
結局、合計して30年近く生きているはずでも、そのすべてが「子供」としてでしかない僕は、やはり子供から脱することができないらしい。
講義室の席に座って、先生が来るのを待つ。
肌触りの良い制服は、旅のために服など荷物を減らしていた僕らにとってはありがたく、カンナ曰く可愛らしい見た目が他の学区の生徒からも人気らしい。制服は学区ごとにあったりなかったり様々らしいが、教授や研究内容を一切考えずに制服のためだけに配属先を希望する生徒が例年あとを絶たないとか。そういう人は結構な確率で落とされるらしいけど。
日本と違って四季のような寒暖差の少ないこの地域は、人によっては通年でこの制服を着ていられるそうだ。寒さの厳しい時期は更に羽織ることのできる上着もある。
聞けば、やや厚手の布の一部には魔法を使った繊維が織り込まれているとのこと。普通に汚している人を見たことがあるのでファンタジックな自動洗浄機能なんかではないと思うが、まあ撥水加工とか防腐加工みたいなものだろう。
少なくとも、安物ではないことが分かる。
ちゃんとしたコートよりも少し高いと見積もれば、2万円は越えそうだ。
手持ち無沙汰に教本の頁をめくった。
泊まっている宿も、取っている講義も、その教科書も。どれも、クラムヴィーネからの提案を受けてあれよあれよという間に決まっていた。最低限これらの授業を取っておいたほうが現代の魔導技術を理解しやすいですよだとか、安全の関係上ここかあそこのホテルで生活してくださいだとか。
まさか彼女が費用を支払っているわけではないだろう。彼女の所属する研究室か、あるいはこの学区のお偉いさんか。……流石に、この国ってことはないよね?
魔法のために発展の仕方が前世の世界とは違うから活版印刷があるのか分からないが、必要最低限の図表が印字されているあたり教本も安いものではないはずだ。ノートというものはなくて代わりに適当な紙束を紐でまとめて使っているが、筆記用具はインク式のものが支給されている。
教科書が6冊ほど。合わせれば万は行くだろう。
筆記用具は消耗品だし書籍に比べれば値段は張らないだろうが、月千円くらい?
などなど考えているうちに講義が始まった。
学費こそまったく意識したことのないものだからどれだけのお金がかかるか見当を付けにくいが、アルバイトじゃあるまいし時給数千円はあるのだろう。あ、でも先生が一人で生徒が複数だから先生のお給料からは考えづらいなぁ……。
大学……大学の学費ってひと月どれくらいなんだろう……。数万円だとは思うんだけど、大学行ったことないから分かんない……。
まあ、全体的にガバガバな計算してるからそこは誤魔化すとして。
あとは、お昼ごはんと夜ご飯。
僕だけに限らず学園都市の学生については、お昼は食堂で定食を無料で注文できる。というかまあ、学費に含まれているのだろう。
人のいないところで伸び伸びとこれを食べるわけだが、大体五百円前後だろうか。
夜は大体朝と同じ。
昼もそうだが、不特定多数の前で顔を晒すことがないようにするため、お店で食べるようなことはまったくない。まあ外食する人生は生きてこなかったから、不自由がすごい負担〜、みたいなことにはならない。どこぞで食べた肉寿司はすごい美味しかったけど……。
そんな感じで。
目に付くものを、とにかくどれも日本だったらどれくらいかかるか考えれば、少なくとも寝床だけで月30万近くて、全部合わせれば40万円を越しそうだ。
それを、学園都市というひとつの大きな共同体が、僕やアイリスという個人に対して無償で提供するという。
日本は確かアルバイトの時給が千円前後だったはずだ。だから、一日中バイトしたって賄いきれない。
一体僕らに何を期待されていると言うのだろうか。
投資とは、利益が見込まれるからこそ現実に与えられるものなはずだ。
けれども、学園都市が僕に求める価値、それをどうすれば提供できるのかまるで分からなくなった。