TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
時に、エルフとはニートの才能に恵まれた生き物である。
そう考えるとガンジーの亜種みたいで少し格式が高く思えてくる。いや低いか。でも暴力も仕事も大半の人にとって嫌なものだから、それをやらないという点で共通している。仕事しなければ飯もなくなるし、自動的にハンガーストライキもできるよやったねニート!
とはいえ、実のところ仕事というのは飯の種以外の意味でも人間にとって必要だったりする。
承認欲求とかに近しいものがある。あるいは存在意義。存外、まともな精神でニート生活をできる人というのは稀有なもので、特に人との交流もなくニートをできる者は世の中で一握りだ。というか一握りじゃなかったら、人類という種は自然淘汰で消えているだろうけど。
これはきっと、人が賢いからこそ生まれてしまったものだ。
つまり、考えてしまうのだ。「今死ぬのと将来死ぬの、何が違うのか?」と。
その今から将来までの間に何かを変えなければ、なにかしら苦しい瞬間に、自分から死ぬという発想が鎌首をもたげる。
愚かであればあるほどその思想から解き放たれる。だからまあ、わざと愚かに生きたがる人というのも一定数いる。そういう愚かさを嫌う人もかなりの数いる。
愚かであるか、考え続けるか。大きく分ければ、人の生き方はこの2つな気がする。
しかし、ニートの才能は答えるのだ。「今死ぬのも将来死ぬのも、同じじゃない?」と。
だから才能というより実は環境なのかもしれない。何も違わないと自分の中で答えを出してなお生き長らえるのは、わざわざ死を選ぶほど困窮しないからだ。
外界から隔絶した森の中。体質上、病も流行らない。
最強のニート培養環境の完成である。
あるいはただ愚かなのかもしれない。思い当たる節は……(目逸らし)
しかしきっと、問われれば理解した上で返すだろう。「私は今の生活を気に入っていますよ」と。
もちろん、常々言っていることだけどデメリットもある。
外界からの干渉に弱いのもそうだし、発展がないということもある。必要は発明の母だからだ。
ゲームとかだと初期ステータスは良いけどあとから技とか覚えれない系の種族。玄人には嫌われる。
とまあ、前置きが長くなったけれど、とにかく言いたかったのはエルフニート適性高すぎ問題のことだ。
具体的に直面している問題に言い換えると、僕もアイリスも自分の生活圏外のことについて何も知らなかった。僕らはクラムヴィーネに案内された宿で寝泊まりして、人通りの少ない緑道をしばらく歩けばそのまま学域に入っている。あとは講義のある教室を回るだけだ。
いわば、幼稚園と自宅を行き来するだけの幼稚園生状態。近所の商店街行ったらそれだけで迷子になったと勘違いする。というか多分迷子になる。頭の中に地域の地図がないと、たとえ近場でもとんでもない秘境に紛れ込んだ気分になるんだよなぁ。特に電車とか使ったことなければ距離に対する感覚ないし。
「学区を案内!? えっ、えへっ、もちろ……あ、でも日中は仕事がぁ……」
こういうときの常套手段といえば宿の人に頼むことらしい。アイリスがクロさんから預かった手帳に書いてあったらしく実践してみるも、宿のお姉さんには断られてしまった。人徳ぅ……ですかねぇ……。
実際、ここの宿は規模の割に働いている人が少ないように思う。役割ごとにどれだけ人が割かれているのか知らないが、店番だけでなく掃除や買い出しもお姉さんがやっているなら時間はなさそうだ。ですよね、大丈夫ですよと微笑みながら目を伏せると、お姉さんは意を決したように拳を握った。
「……ちょっと待っていてくださいね」
「え、は、はい」
食べ終わった朝食の皿を下げていくお姉さんを見送ってしばらくすると、トットットと勢いの良い足音が聞こえ、片手を胸の前で握ってガッツポーズをしながらお姉さんは戻ってきた。
「──勝ちました!」
やり遂げた表情に、「何に?」とは聞き返せなかった。
なにはともあれ、まずはこの学区の案内と、他の学区への行き方を付き添って教えてもらえるらしい。