TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
目を覚ますと、言いようのない不快感が腹を押しつぶした。
苦しさ。無性に上がっている体温。混乱する頭を回転させて絞り出した答えは、とにかく酸素が足りていないということ。
それでも息を吸うことを上手にできない。まるでそこに空気がないかのように。浅い呼吸は熱い吐息となって繰り返される。
息が吸えなくなる瞬間。それを僕は知っていた。前世を含めて、何度か経験したことがあるから。
物理的な要因だけに依らず、人は心の機微で生きるための機能を失うことがある。
でもこれは、今回ばかりは、あまりに急すぎて何のためにいま呼吸を止めてしまっているのかということが分からなかった。心は健康だったはずだ。薄々とそうではない部分もあることを感じてはいたが、それでもいま急に、こんな風になるほどでは。
体もうまく動かなかった。必死で頭を動かすと何かに包み込まれていることを理解し、その中で少し固い何かに当たった瞬間、頭の上の方から艶めかしい声が聞こえた。
「……どうかされたんですか?」
朝食を運んできてくれた宿のお姉さんが、僕とアイリスの顔を見比べながら恐る恐る尋ねた。
いつもは微笑みを
こればっかりは僕もあははと笑って誤魔化すしかなかった。語るにはしょうもなさすぎるし、当の本人がここまで気に病んでいることを蒸し返すのも悪かろう。
気まずい朝食を終え、いつもの通りお姉さんに御礼を言ってお姉さんからも御礼を返されるという謎儀式を執り行った。いや、「ご馳走様でした(意訳)」「ありがとうございました」みたいなやり取りなら客と店員のよくあるものだけど、「ご馳走様でした(意訳)」に「ご馳走様でした(意訳)」って返ってくるんよ。人間の文化難しいね。
お姉さんが食器を下げていったあともアイリスはシュンとしたままである。うーん、ご飯食べたら元気になるかなと思ったけどそうもいかないか。僕は割と食事睡眠挟むとテンション直るタイプなのだが。おい今単細胞って言ったやつ表出ろ。ちなみにえっちでもテンション直る。三大欲求に忠実だね! おい今原始人って言ったやつ表出ろ。
「アイリス、そこに座ってください」
声をかけると肩をビクつかせて反応する。できるだけ優しい声で言ったつもりなんだけどな。
指したのは、食事に使ったテーブル席でなくベッドの端だ。そちらのほうが高さが低く、立ったときの僕とアイリスの頭の位置が丁度良くなる。
「元気、出してください。気にすることありませんよ」
「……ですが、こんなことで御子様の身を危険にさらしてしまうなんて、……もしものことがあったら、巫女様に顔向けどころか、二度と森へ帰れなくなってしまいます」
……いや、まあ、マジでそうなんだけど。
おっぱいで
改めてアイリスの方を見る。
母様の娘とはいえ(意味深)、母様に育てられた(意味深)僕はそこそこ発育が良い。この世界の平均は知らないが、平均以上ではあるだろうし、服を着ればそれなりの凹凸が曲線美を生む。
しかしアイリスと比べられれば、もはや格が違うとしか言えない。だって、僕の頭と同じサイズあるのだ。何がとは言わんが。僕の頭が2つあるのだ。なんでこれで下品にならないんだろう。
これに埋もれて死ぬというのは、案外世の中の男の多くは望むのかもしれない。
乳に包まれて窒息死。孫に囲まれて安楽死と同じくらい、幸せな死に方ランキングで上位に入りそうだ。
──前世の死に方も、一応は窒息死に入るのかな。多分。
それなら、同じ窒息死なら僕だって乳の方を望む。
「……もう」
ベッドの端に腰掛けたアイリスを、僕は立ったまま抱きしめた。
頭の位置が、丁度僕の胸の高さにある。僕のじゃ顔全部を包み込めるほど大きくはないけど。
固まってなされるがままのアイリスに語りかける。
「ただ、これだけのことじゃないですか。抱きしめたことを反省なんてしなくていいんです。誰かを抱きしめることは、きっと、人と人が生きていくために大切なことですから」
僕はそれに何度も救われたから。
もちろん、それで死ぬのは洒落にならないんだけど。
でも、間違っても「二度と誰かを抱きしめることのないように」なんていう結論は出さないでほしい。
いま考えるべきことがあるとしたら、今後寝るときにどう気をつけるかみたいなところだけで──
「……ありがとう、ございます。御子様。それで、その……」
「ふふ、いつもとは役が逆ですね。どうされましたか?」
「血が……」
ファッ!? このタイミングでいつもの鼻血が出てきてるんですが!?
「ど、どうしよう」
「離れるとシーツにまで……」
「オネエサーンッ!!」
身動き取れなくなったので、胸元で広がっていく赤色を見ながら宿屋のお姉さんコール。
とりあえず拭くものと替えの服を持ってきてもらって、アイリスと一緒に滅茶苦茶ごめんなさいした。布についた血というのは結構落ちにくいのだ。
まあ慣れてますので、と言って僕の赤く染まった寝間着は回収された。洗濯するんだろうか。というか流血に慣れている宿屋ってなんだ。
一段落してから、そういえばとアイリスに話を振った。
僕はこれでもそこそこ肉体的に鍛えている身なのだが、一体どうしてアイリスに抱きしめられて身動き一つ取れなかったのだろう。普通に考えて、よほどの力で抱きしめられていなければ振りほどけたはずなのだが。
「……? 乳母、ですから……」
そんなこと聞かれても困るみたいな顔された。
そんな顔されても困るんだよなぁ……。
そもそも振りほどければ問題にすらならなかったのだ。
僕は結構、魔法も含めて自分の能力に信頼を置いている。
「あの、僕ってもしかして、虚弱ですか?」
「いえ……訓練されていた頃から拝見しておりますが、一般的な男性より屈強かと……」
一般的な男性より屈強でも勝てない乳母is何? メルゴーの乳母?
いや、もしかしたら僕の体が本能的におっぱいから離れまいと力を制限していただけかもしれない。正直自分を省みると、アイリスが怪力ゴリラという説よりよほどありえる気がする。
「あ、そういえば」
「どうかなさいましたか?」
「あー、……えっと」
ふと気になったことがあり聞こうとするが、よくよく考えると恥ずかしいことだった。
口に出すか迷う。ここまで言った上で「なんでもない」は話がめんどくさいやつみたいで嫌なので言うべきなのだろうが、いざ言葉にしようとすると恥ずかしさが何倍にも増えてきた。
というのも、僕の方からアイリスを抱きしめるということはしばらくしていなくて、僕がアイリスに抱きしめられたときのような安心感はあっただろうか、と気になったのだ。
アイリスのフカフカの体に包まれると本当に安心する。それはきっと、幼い頃の経験とかも含めて。
でも僕はアイリスほどの包容力はないし、さっき頭を抱きかかえたのだって、もしかしたら洗濯板に頭ぶつけたくらいの感情しか生まれなかったかもしれないのだ。
「……その、や、柔らかかったですか」
一文字ごとに脳内が羞恥心で染まっていき、最終的に胸を腕で隠すような体勢になった。
ボッという音が鳴る。顔が赤く染まるとか、そういう擬音表現ではなく。
いや、赤くは染まったのだ。鮮血だった。アイリスの鼻から致死量かと思う勢いで飛び出した。
アイリスは真顔だったが、ひとたび鼻血を破裂させてからそのままクラリと倒れた。
「オネエサーーンッッ!!!」
このあとさっきのが比にならないレベルで頭を下げた。
たくさんお掃除した。