TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

143 / 181
締切ギリギリに仕上げるたびに次回は早めに手を付けようって思うけれど、結局物作りやってるような頭のおかしい人間にそんな「普通」が維持できる訳なくて今日も帰りたいと泣き叫ぶ午前5時

「ひとまず屋敷に戻り、準備が済み次第こちらへ戻ります」

 

 そう言ってコルキス殿下はとんぼ返りするように去っていった。

 本当に、アンブレラのことを耳に入れるなり飛び出すようにして来てくれたのだろう。

 

 去り際に目が合うと微笑みながら手を振られ、同性であるというのにドキリとした。

 コミュ障に手を振り返せるわけもなく、反射的に頭を下げることしかできなかったが。ああいう、会ったときや別れるときのひと仕草が友達を作る秘訣なんだろうなぁ……(実践する気はない顔)

 

 しかし、一人大物が去ったとは言え、この場にはまだレントリリー様がおわすのである。

 病院の職員の人も、どうするか困って様子を伺っている。

 

「……情けないところを見せてしまったな。さて、お主らは為すべきことも多かろう。斯様な老いぼれの、それも仮初の躰など相手にする暇もあるまい。病に苦しむ子らの元へ行ってやりなさい」

「は、はい!」

 

 有無を言わせぬ力強い言葉に、病院の職員たちは一斉に返事した。

 そのまま動き出そうとする背中に、ああそうだと鈴の音が呼び止める。

 

「お主らのおかげで、日々たくさんの者が救われている。ありがとう──愛しているよ、我が子たち。さ、お行き」

 

 目立った返答はなかった。振り向く者もいなかった。声がそう望んでいたから。

 代わりに、歩き出す職員たちの一歩はずっと力強くなっていた。

 

 一人取り残された私は、当然レントリリー様から見つめられる。

 目を逸らすのも失礼な話だが、子供の頃からの憧れとか色々な感情が混ざってつい目を合わせられなくなってしまう。

 

「……さ、あの子の元へ行こう」

 

 私が誰かとか、そんなことは尋ねてこなかった。

 白猫を通じて見ていたのか、はたまた白猫がレントリリー様なのかは知らないが、きっと大抵のことは分かっているのだろう。

 小さな背中を追いかけて、アンブレラの病室へ向かう。

 

 小さい背中。

 小柄なアンブレラよりも更に小さくて、今にも折れてしまいそうなほどに薄い。

 この背中に学園都市という巨大な国家群が支えられているのか。

 

 それはあまりにチグハグで、こちらが泣き出してしまいたくなるくらい苦しく思えた。

 

「──全部私の責任だ」

 

 呟くようにレントリリー様が言った。

 あまりに唐突で、前方から聞こえたことに気付かず自分の心の声かと思った。

 

「全部、私の責任だ」

 

 もう一度、今度は一文字ずつハッキリと聞こえるように言う。

 自分に言い聞かせているようにも聞こえるかもしれない。

 でも私には、私に一文字ずつ染み込むように言っているようにしか思えなかった。

 

 気付けば私は泣いていた。

 レントリリー様は私の頭を引き寄せて、抱き締めた。

 

 何もできなかったことは分かる。

 多分、私のせいじゃなかったのも。

 

「お主がいてくれて良かった」

 

 駅員を急かしたのも。

 今日の案内を買って出たのも。

 

 何も、悪いことなんてない。

 

「ありがとう」

 

 ──でも、友達を救えなかったら、それだけで悪たりうる。

 

 悪いことは何もしなかった。

 なら、何もしなかったことが悪い。

 

「友を救おうとした。泣くな、誇れ」

「は、い゛……」

 

 訳も分からず溢れ続ける涙は、どうやら偉大なる魔法使いが「魔法」をかけたらしかった。

 

 

 

 

「泣き止んだか」

「…………はい」

 

 背中を撫でられ続け、耳元で許しの言葉を吐かれ続け、10分ほどで落ち着いた私はようやく学園都市最高権力者のハグから解放された。

 今になってだいぶ冷や汗が出てきている。ファンクラブとかあったら刺されかねないぞこれ……。なんなら一族郎党刺されかねない……。

 

 そんな私をよそに、レントリリー様は頼みがあると言った。

 私はなかなかにチョロいので、ここまで施されてしまっては断るという選択肢が浮かばなくなっている。

 

「ソートエヴィアーカの姫があの子を手元に置きたがるのは、国としての意図がある可能性が高い」

「え、ええと、国家レベルの陰謀を阻止とか、無理ですよ……?」

「無論、そんなことは頼まん。ただあの子が傷付かないか……どうにも、ソートエヴィアーカの狙いが読めん」

 

 先程の会話の中で、レントリリー様は色々と探っていたらしい。

 相手との会話において、その本心が分かるとかなんとか。

 

「アレは、本気であの子を『大切に』思っている。ただ、その『大切』の意図までは分からない」

「コルキス様がアンブレラを利用したり危ない目に遭わせますかね……?」

 

 あのスーパーハイパー淑女コルキス殿下の何を疑っているのだろう、と問いかけるが、沈黙で返された。

 ハイ。存じております。私がチョロいだけですね。

 でもあそこまで優しくされたら信じたくなっちゃうじゃん……。

 

「私もアレも、疑いなさい。そして、友だけを信じなさい。その上で、アレがあの子をどうしたいか、傍で見極めてほしい」

「まあ安全な範囲であれば、……ん? ……アレっ? あの、それって、もしかして私もアイリスさんたちと一緒にコルキス様に厄介になれと?」

「なに、少なくとも数日であれば断りはすまい」

「あ、ありゅぇ……??」

 

 あのぅ……、そ、そろそろ、帰して……?

 だ、だめ? そっかぁ……。

 

 

 

 


 

 

 

 

「あァ〜〜、クッソ、久しぶりにミスったァ……」

 

 自分にしては珍しく、覇気のない声を漏らしてため息をつく。

 

 アンブレラが自分を訪ねてくるというところまでは想定通りであった。このタイミングか、あるいはもう一つくらい仕掛けて彼女を手に入れる下準備を終えられたはずだったのだ。

 しかし、記憶喪失というのは流石に予定にない。情報が届いた瞬間、これは間違えられない場面だとほぼ反射で動き出し、病院までの道中でプランを組み立て直した。

 

 実際に先ほどのやり取りでも言ったが、アンブレラ、ひいては森人の記憶喪失なんて、人類みんなが顔を真っ青にするような状況だ。

 彼女が自ら転送門を使ったとか、未だかつて例がないとか、そんなのはどうでもいい。

 結果だ。結果が全てだ。森人がお優しくて過程も鑑みてくれるような種族なら良いが、もしもそうでなかったとき──人類に対し敵対でもされたとき、その言い訳がいったい何を救うだろう。

 コルキス個人の目的とか、ソートエヴィアーカとしての目的とか、そういった話度外視で、一人類として学園都市に責を問いたくなる。

 記憶喪失という結果で首の皮一枚が繋がっている。まだ挽回できる。胃のあたりがずしりと重いが、一番の最悪ではない。

 

 わざとではないかとも疑ったが、流石に事故なのだろう。

 学園長レントリリー。今回彼女が出てくる必要はなかったはずだが、焦りで我を失ったらしい。

 

「しかしまァ、噂通りのバケモンではあった。なのにあんなにカワイイ面してるもんだから、その顔歪ませようとつい口が滑ったかね」

「……魔力の量に関しては、アンブレラ様以上だったでしょうか?」

「いやァ、そうとも限らん」

 

 側付きの騎士、ヴィオラの問いかけに首を振る。

 コルキスとヴィオラは【圧縮】とやらを覚える前のアンブレラ達に会っている。魔力の扱いを一般的な人間よりは理解しているからこそ、平常時のアンブレラから発される魔力の圧を敏感に感じることができた。学園都市で「導師」と呼ばれる者たちならその異常性をさらに理解できたのだろう。

 だからこその、その圧と、先ほど自分に向けられたレントリリーの圧を比べたヴィオラの発言だ。

 しかし考えるべくは、レントリリーは指向性を持たせて、かつ意図的にぶつけてきたということ。アンブレラは全方位に、しかも無意識に魔力を垂れ流していただけなのだ。それなのに()()()()()というのが、アンブレラの異常性を物語る。

 

「……いや、あっちはあっちで、本体じゃねェか」

 

 ボソリと呟く。

 レントリリーはたしかにあの場に立っていたが、あれが本体とは限らないだろう。

 魔法で分身ができるのかとかそういう詳しい話は分からないが、普通は上位存在があんな場にひとりで出向くことはない。……学園都市の人間とかいうフィルターのせいで、()()()と断定しきれなくなってしまうが。

 

 ──まァ、どっちも魔法に関してはバケモンってことだ。

 同時に、どっちも魔法以外については()()()()ところがあるが。

 

学園長(アレ)、思考が読めるとまではいかなくとも、言葉の真偽くらいは視えてんだろ」

 

 あんなのがウチの伏魔殿にいなくてよかった。ハッキリ言ってズルそのものだが、それに頼ってきたためか所々ツメが甘い。

 あれなら言葉遊びでどうとでも転がせるだろう。というか先程がそんな感じだった。(つたな)いなりに、よく分かってもいないこちらの狙いを止めようと奮闘するのが微笑ましくて、その見た目も相まってつい虐めすぎてしまった。

 その結果、虎の尾を踏んだのだ。

 

 「レークシア」に関しては、自分の理解がまだ足りていなかった。

 学園都市の罪は確定している。しかしそれは一側面であって、全てではない。だから(タゲリ)は自分に明かしたのだ。

 未熟な知識を迂闊にも振りかざし、自分の無知を知る。まるで子供のやることだ。今後十年は恥ずかしい記憶として引きずることだろう。

 

 どうして口を滑らせたのだろう。

 それを今一度省みて、はたと気付いた。

 

「……あァ、怒ってたのかもな」

「怒っていた……学園都市の迂闊さを、でしょうか?」

「それもあるが、……いや、恥ずかしいから言わん」

 

 アンブレラはコルキスのものである。

 

 一目見て、何を思うでもなく理解したことだ。

 恋とか愛とか、所有欲やら独占欲。それらに近いけれども、そのどれもがしっくりとこない。

 

 ともあれ、結論として()()()()()()だと思った。

 そして、そうしてしまえるだけの能力を自分は持っていた。だからこうして動いている。

 

 それを傷付けられた。

 そして怒った。それだけだ。

 

 理性が働かなかったことを不思議に思っていたが、単純な話だ。

 理性よりも先のものがあったのだ。

 

「……ふふ、分かってしまったかもしれません」

「なんだよ。オイ、なにニヤけてんだ気持ち悪い」

「滅相もございません、……ふっ、ふ」

「……そうかそうか。可哀想になぁ」

「……え、ええと?」

 

 急に微笑ましいものを見つけたかのような表情を浮かべるヴィオラにイラッとする。

 が、ここで怒りを露わにするというのはあまりにも芸がない。かぶりを振って憐れんだ声を出すと、女騎士は動揺して疑問符を浮かべた。

 

「明日は使い物にならねェだろうからさ、今のうちに労っとけよその喉」

「の、ど……あっ、えっ!?」

 

 こちらの意図に気付いたヴィオラは顔を赤く染める。

 

「お、お許しをっ……!」

「大声出すなって。今からその調子じゃ夜はどうなるんだ」

「ほ、本日からアンブレラ様方をご案内するのですよね……?」

「そうだな。部屋は離しておかないとなァ」

「……ッ」

 

 ニヤけ顔から一転、絶望した表情を浮かべる様子に満足し、アンブレラらを招く準備をすべく屋敷の人員を招集した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。