TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
病室に入ると、眠るアンブレラの隣にその手を祈るように握ってアイリスさんが座っていた。
記憶喪失とはいえ意識不明とかではなかったはずなので、少し動揺する。
「な、何かあったんですか? アンブレラは大丈夫でしょうか、……それに、アイリスさんも」
「あっ、カンナ様……。
普段は寡黙であり、口を開けば淡々と内容を紡ぐアイリスさんが、今はどうにもおぼつかない様子で一言ずつ確認するかのように話す。明らかにまだ大丈夫なようには見えないが、一応は安定しているのだからそっとしておくことにする。
「それで、そちらの方は……」
アイリスさんがレントリリー様を見つめる。そうだ、アイリスさんはさっきまで居なかったし、学園都市のこともそこまで詳しくはないから見覚えがないだろう。
オブダナマの学園長ですと言おうとして、その本人にそっと手で制された。
「紹介には及ばない……。レントリリー、学園都市と呼ばれるこの地で長を務めている」
「学園長様、ですね。私は
「知っているよ。そして、様もいらぬ。斯様な事態を招いたのはすべて私の迂闊さ故だからね」
「……」
カンナが少し意外に思ったのは、アイリスさんがすんなりと「学園長様」と呼んだことだった。
レントリリー様はアンブレラよりも幼く見える。そんな空気ではないとはいえ、幼子が「学園長です」なんて言ったらまず疑いそうなものだ。
誰に対しても
ともすれば、そんな反応すらできないほど精神が参ってしまっているのかもしれない。
自分を責めさせるかのような誘導をレントリリー様がしているけれども、アイリスさんがそこに反応することはなかった。……いや、怒ったりなじったりしないだけで、ただただ目を伏せてアンブレラを見つめるというのも立派な反応か。
口にせずとも伝わってくる。責任とか罰とかはどうでもいいのだ。ただ、アンブレラの無事、回復をのみ祈る。
「……学園長様、と伺い思い出しました。御子様から、『紹介状』を預かったことがあります」
「ふむ、紹介状?」
「学園都市では迎え入れていただけたので、使うことはありませんでしたが……ここでお渡しするのがよいでしょう」
しばらく(か、帰りて〜〜〜〜!!!)と思うような沈黙が続いた後、はたと顔を上げたアイリスさんが手紙のようなものを取り出した。
あまりにも唐突だったので口を開いた瞬間ビクッとしてしまったが、アイリスさんも多少は思考力が戻ってきたのだろう。……いやでも、この人の場合はひたすらアンブレラのことを想ってたら過去の会話を思い出した説の方が有力だな。
「……ふ」
アイリスさんから手紙を渡されたとき、ほんの一瞬だけ、レントリリー様が珍しい表情を浮かべた。
身にまとう慈愛も、カリスマも関係ない、悪友と軽口を叩き合う時のようなそんな表情。
封を開けて取り出した紙には何も書かれていない。
レントリリー様がそれに指を添えて何かなぞるように動かすと、手紙が黄金の炎によって端から燃え始めた!
「もっ、燃え!?」
「案ずるな。こういうものだ」
見えているのかいないのか。あるいは私には見えないものが見えているのか。
相変わらず目を閉じたまま、レントリリー様は燃えてゆく手紙を前にじっと待ち続けた。
灰すら残さず、熱も発さず、文字なき手紙は燃えてゆく。