TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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ひじょーにせいじてきではいれべるな交渉を任せられたので夜逃げする準備を始めたけれど、どうやら「ガチレズからは逃げられない……!!!」らしい。ううん、決めつけは良くないわよね!逃げよう!

 今のアンブレラに判断能力はない。レントリリー様は気が進まないようだったが、コルキス様がアンブレラを預かると言えば、それはアンブレラの意思と関係なくほぼ決定事項となった。

 判断能力どころか、言葉もおぼつかないから会話すらままならないのだ。レントリリー様が去ってしばらくして目を覚ました彼女だが、どこかぼうっとしているというか、夢を見ているような雰囲気で、「はい」「いいえ」「ありがとう」のような単純な会話ならともかく、具体的な単語が出てこない。

 

 自分を指す言葉すら最初は思いつかないらしかったのだ。

 何か言おうとしたようだが、単語が出ないらしく口をあうあうと動かして、ほとほと困り果ててしまったのか涙目に困り眉を作って自分を指でさす。

 元の人懐っこさが失われた分、拝みたくなってしまうほどの美しさはさらに威を増していて、あらゆる動作が身震いしたくなるほどの艶に彩られている。その上でそんな弱々しい表情を浮かべられてしまうと、心臓が「俺、もうダメかもしんねぇ……」と満足そうに遺言を残す始末。

 

「自分のこと? 『わたし』って言うの。まあ人によるけれど……」

「わたし……。そう、でした。わたしは……、えっと、誰ですか?」

「名前は聞かされてると思うけど、アンブレラって言って……、立場とか含めて具体的になんて説明したらいいのか分からないわね。まあ、私の友達? あ、『友達』って言葉分かる? というか他の言葉もかしら」

「分かりますっ……。聞くと、『思い出した』って、なります」

 

 ふむ。これは一体どういうことだろう、と考える。

 記憶を作る部分が故障してるらしいけど、思い出すってことは、これまでに作った記憶(というか言葉?)は残っていて、それに辿り着けない感じかしら。だからレントリリー様もさっき「迷子」って言葉を使った……いや、あの人の言葉に関してはよく分からないわね。

 言葉を思い出してもらうにはその言葉を伝えればいいけれど、人格を思い出してもらうにはどうすればいいの……?

 素人が考えてもしょうがないんでしょうけど。ひとまず、レントリリー様の書き置きを頼ってから色々考えよう。

 

 それにしても、先程の表情でアイリスさんはノックダウンされてやいないだろうか、病室を鼻血で汚すわけにはいかないけれど、と思ってチラリと隣の様子を伺う。

 後悔した。

 泣き出しそうな顔をしていた。どんなアンブレラのことも可愛い美しいって称えていた彼女がだ。

 その変化した雰囲気か、表情か、あるいは自分を「わたし」と呼んだことか、判別はつかないけれど。アイリスさんの中のアンブレラの姿との差異に、痛ましさに、胸を抉られているのだ。

 

 こんなとき、私は私が嫌になる。

 自分以外どうでもいいんだ。本当に誰かを想える人なら、アイリスさんみたいに、友達が傷付けば自分も傷付く。

 こんな分析。

 

 本当に救えないのは、「描きたい」と思ったことだ。

 

 


 

 

 

 

「アンブレラ様、お休みになりますか?」

「いえ、まだ大丈夫……です……」

「ご無理なさらず、私の膝枕でよければお貸ししますよ」

「そんな、悪いです」

 

 た、助けてェ……(懇願)

 

 四人がけの客車は、それ自体高級なものであることはさておき、王族が使うものとしてはやや狭いような印象を受けた。とは言え、学園都市で使えるサイズかつ揺れとかを無くす機構を積んだらこうなるのかしら。

 2人がけの座席が向き合うように並んだ内装。私とアイリスさんの「畏れ多い」と言う理由で、コルキス様の隣にアンブレラが座っている。アイリスさんは別に気にしなくて良いと思うんだけどね。少なくとも私に王女様の隣は無理です。

 でも、アイリスさんがアンブレラの正面に座った都合上、私の目の前にはコルキス様がいる。助けてェ……(懇願)

 

 聞いてはいたことだがアンブレラはかなり疲れやすくなっているらしく、馬車が動き出してから少しして、既にうつらうつらとしている。

 そんなアンブレラを気にかけて声を掛けるコルキス様だけれど、迷惑はかけられないからと頑張って意識を保とうとしているようだ。

 

 時間が経つにつれて、アンブレラは迷惑や体裁といった社会的な態度も思い出しつつあるらしい。世の中の仕組みを「思い出した」と言うべきか。

 まるで、いつかどこかで観た、人形が人の心を獲得していく演劇のようだった。人形は「一般的な」人としての振る舞いを覚えていく。

 

 アンブレラが一般的な振る舞いをするのだ。笑ってしまうだろう。

 

 ──笑えない。

 あの、どこか抜けていて、頭の中を覗いてみたくような突飛な思考回路をしていた少女が、「普通」に染まっていく。

 結果的に「普通」の人になるのかは分からない。それでも、少なくとも以前とはどこか異なる人格が形成されているような感覚があった。

 

 コルキス様は一体どんなふうに思っているんだろう。

 そう思って前を見る。ちょうどアンブレラが睡魔に負けて窓に体をもたれかけようとしたところで、気が付いたら、コルキス様の手がアンブレラの頭と窓の間に差し込まれていた。……あの、腕動かすところが見えなかったんですが(震え声)

 

 それから、体重をかけるならこちらへどうぞとでも言うかのように、コルキス様はアンブレラの体を逆側、つまりコルキス様自身のほうへ倒させた。

 小柄なアンブレラでは頭がコルキス様の肩の上に乗らないらしく、腕の付け根あたりへ、胸を支えにするように身を預けている。

 絵になる。絵にはなるのだが、なるのだが、あの、ちょっと……。

 

 コルキス様が私の視線に気付く。どんな反応を見せるのかと思えば──ただ、フッと優しく微笑まれた。

 う゛っ……。心臓、お前……止まるのか?

 

 いや、というか、その、やっぱ……。

 あの、もう流石に言葉濁さないけど、というか濁せないけど。

 

 殿下はガチレズであらせられますね?

 

「……っ」

 

 アイリスさんが何か物言いたげに身を起こすが、アンブレラが記憶を失った顛末を思い出してか、すぐにシュンと落ち込んで動きを止めてしまった。

 

 いやっ!!! 乳母……!! 働け……っ!!!

 

 今回貴女なにも悪いことしてないでしょう。というか私が悪いまであるんだから。なんで勝手に力不足で落ち込んだみたいになってるんですか……。

 目の前でお子さんの危険が危なくなってますよ。私は私で頭痛が痛い。

 

 レントリリー様、「アレがあの子をどうしたいか、傍で見極めてほしい」ってそういう意味ですか?

 こういうの見極め方分からないんだけど。これはセーフ? 事に及んでないからセーフ?

 

 非常に性事的……いえ、政治的でハイレベルな交渉を求められることになりそうね。

 その、一介の学生にできる事じゃないので逃げていいですか……?

 


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