TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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そもそも貞操とか純情とかは自分自身で守るものであって他人がどうこう手出し口出しするのは違うと思うけれどもそれはそれとして肉食獣の前に兎を放り出したらどうなるか分かるから檻ぐらい用意するべきだと思うの

 こんな状況だからと何故か私までコルキス様の拠点への滞在が許された。

 とはいえ人を住まわすというのはコストもかかるし気分も良くない。たとえ親友だとしても、自分の家に長々と居座られれば一人で落ち着ける時間というものがなくなってしまうから。ほぼ赤の他人である私なら尚更だ。

 申し訳なさそうに私に関しては10日程度が限度だと伝えられれば、むしろそんなに長期間居ていいのかと困惑した。なんでも費用自体は学園都市側が賄ってくれるとのこと。プチ留学気分である。

 

 拠点といっても流石に街の区画をひとつ全部みたいなスケールではない。まあソートエヴィアーカともなればそのくらい許されていても驚きはしないが、実際は大きな商店の建物一つくらいの感じだ。

 ただし塀があって、その周りには道路がある。つまり隣接している家屋がなく、セキュリティやプライバシー的な部分でも安心度が違う。

 

「とはいえ、カンナさんは研究室に入られていましたね。学業など差し障りありませんか? もし必要であれば、馬車も出しますが……」

「あ、はい、一応この間おっきい発表したのでしばらくは休みみたいな感じです」

「そうでしたか。ちなみに、どのようなご研究を?」

「えっと……」

 

 なんというかこの人、本当に人が良い。話の広げ方や切り方が上手いから自然と緊張もほぐれるし、聞き役だけじゃなくてこっちが興味ありそうなことを話したりもしてくれるから会話に疲れない。

 そのうえ顔も良い。返答のたびに恋人にでも向けるような柔らかい表情で微笑んでくるから、私のこと好きなんじゃないのって勘違いしてしまう。アンブレラの美しさは全方位に垂れ流されているけれど、コルキス様はピンポイントにこちらに向けてくる。つまり心臓が死ぬ。

 

 レントリリー様はこんな良い人を疑って監視しろという。それも私みたいな一介の学生にだ。

 あの方が私欲に駆られたことを言うとは思えないけれど、このまま長く関わっていれば疑う気持ちも限界が来る。あ、でもアンブレラの貞操が危なそうな気配はあったからそこは注意ね……。

 記憶喪失の女の子を取って食いやしないでしょうけど……。

 

「カンナさんが帰還されるまでに治療の方針だけでも分かれば良いのですが……。医者もいない、原因もわからない、記録もない。ないものばかり考えてしまうような状況です」

 

 物憂げな表情は演技には見えない。自分に人を見る目があるとは思わないけれど、少なくとも恋愛とかの個人的な感情抜きにコルキス様が何かを企んでいることはないんじゃないかしら。

 

 まったく手がかりがないと言われて思い出したのが、レントリリー様が最後に残していったメモだった。

 クロッキー帳を取り出し、パラパラとページをめくって目当てのものを見つける。

 

 アプトナディティス

 オブダナマ プラネヘタ レイフィ グァラト

 

 1行目、人物の名前らしきものには見覚えがあった。12区の学区長だか副学区長だかをやっている、そこそこ偉い導師の方だったと思う。とはいえ他所の学区の導師についてなんてほとんど知らないようなものだけど。

 2行目は分からない……。でも、オブダナマは学園都市の名前にある通りで、たしか「最初の言葉」で「真名」を意味する。そのままの意味なのかは分かんないけど……。

 

 コルキス様にメモを見せる。私よりももっと詳しく知ってた。どうやら、魔法の詠唱と魔法陣の陣形法則あたりに関連して研究をしている導師様らしい。本当に学園都市に来て数ヶ月ですか……? 他の学区の導師様についても全員知ってそうな怖さがある。そう聞くと流石にないと謙遜されたけれど。

 

 詠唱と陣形というのはつまり、「魔法陣を文字として読めるんじゃない?」ということだ。実際にいくつかの単純な魔法陣については関連性があったらしく、魔法陣だけが知られている魔法からその詠唱や効果を知るだとか、あるいはその逆、みたいな風に利用が見込まれてるだとか。

 もっと専門的なことになると流石に知らないけど、私も魔法陣についてはそこそこ積極的に講義を受けていたので知っている。魔法陣をぐるぐる描くの楽しいからね……。

 

 手がかりが得られて嬉しそうにしていたコルキス様だけれど、私がしみじみと昔取っていた授業を思い出している間やけに静かだった。不思議に思いそちらを見ると、どうやら考え事をしているらしい。

 私の視線に気付くとすぐにまたこちらへと意識を戻した。周辺視野があまりに広い。

 

「コルキス様、何か?」

「アプトナディティス……12区長様は、学区から出ることがないそうです。学区長が集められるときも副長を代理としただとか……」

「ああ……」

 

 礼儀的な話をすれば、そも力を借りたいなら足を運ぶくらいのことはするべきだ。

 そんなのは百も承知で、しかし今回それが問題になるのは、12区までアンブレラを連れて行くわけにはいかないからだ。転送門を使うべきでないのはもちろん、陸路で行くにしたって病人を連れ出すわけには行かないし、よしんばそれを敢行したとして、12区で安全な拠点が用意できていない。

 すでに一つ取り返しのつかないような問題が起きているのに、学びもせずゆるゆる意識で行動するのはちょっと……。

 

 ならアンブレラを連れて行くのは一旦やめにして、誰かを連絡役として、レントリリー様の言葉とアンブレラの状態を伝えに行かせる。何か助言を得る、あるいは実際に連れてきて欲しいということになるだろう。

 

 一番手っ取り早いのはコルキス様が直に足を運ぶことだ。相手も真面目に取り合ってくれるだろうし、今の状況がよく分かっていて、かつ現地でも12区の学区長様と協力して良い解決策を思いつけるかもしれない。

 しかしどうやら、いまこの拠点で警備などをしている人のほとんどは「手伝って」くれているだけらしく、コルキス様自身が全幅の信頼をおけているわけではない。つまり、コルキス様はここにアンブレラを置いたまま離れたくないのだ。側付きのヴィオラさんだけ残るのも無理だ。コルキス様自身、身辺警護が必要な人だから。

 

 私か、アイリスさん。

 今自由に動けて、かつ状況をある程度分かっているのは私たちだけらしい。

 

 今のアイリスさんはあんまり冷静じゃない。レントリリー様も気にしてたけど。

 だからまあ、私が行くべきなんでしょう。

 

 コルキス様に「貴女がアンブレラを襲わないか心配だから離れたくないです」とは言えんしさあ……!

 

「ありがとうございます……。一筆したためておきますので、何か面倒ごとや話が進まないような時はそちらをお使いください」

 

 まあ、どちらにせよタダ飯食らいでいるのは気まずかったし、サクッと行ってサクッと帰って来ればコルキス様もそんな手が早くはないでしょう。アイリスさんもいてくれるだろうし。

 9区を訪ねる前もこんなこと思ってた気がするけどヘーキヘーキ。さあ学区往復タイムアタックはーじまーるよー(ヤケ)

 

 

 

 

 そう思って翌日出発しようとしたら、アイリスさんも着いて行くといって聞かなかった。

 アンブレラの貞操の方が危ない。そう思って(口には出さず)断固拒否したけれど、あんな麗人に「何かをしていないと不安と後悔で胸が痛むんです」って涙目で縋られたら無理だよ誰でも。

 

 アンブレラにとりあえず「貞操を守りなさい」と言い残す。キョトンとしていた可愛い。

 じゃないわよそこの記憶は戻ってくれないの……!?




殿下「誰がアイリスさんに12区のこと教えたんでしょう(すっとぼけ)」

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